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女装で女子校に通ってたらモテすぎてヤバい!  作者: 宮原


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19/22

『嫉妬と独占欲は抱きしめとけばオッケーらしい?』

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「ひまり先輩、聞いてくださいよ~!」

「なんだなんだ、また愚痴か~?」

「はい、そうですよ~!親がいちいちうるさくて~!」

「そりゃそうだろ。お前が悪いんじゃないか」

「なんで庇ってくれないんですか~?!こないだ助けてくれるって言ってたじゃないですか~!」

「それはそれ、これはこれだ。完全に自分のせいだろ。心配されてるだけいいじゃないか」

「え~?そんなもんですか~?」

「そんなもんだろ」


 なんだか最近、ひまりと乃愛が前よりも仲良くなった気がする。

 もちろん、二人が仲良くするのはいいことだ。友達同士が打ち解けるのは、一般的に見ればとても喜ばしいこと。

 ――一般的には、だ。


 いや、本心では嬉しい。けれど、どこか少しだけ寂しさを覚えてしまう。

 二人が仲良くなるなら、できれば俺を挟んで仲良くなってくれるほうが理想的というか、嬉しいというか……。

 たぶん、それは独占欲のようなものも混ざっているし、勝手に二人だけで話して何か起きたりしたら嫌だ、なんていう複雑な気持ちもある。


 結果的に仲良くしてくれているなら、それでいいのだけれど。

 正直、ひまりはどうでもいい。

 ただ、あんなに俺にべったりだった乃愛が、他の誰かに気を許しているのを見るのが――少しだけ嫌だった。


 そんな自分が大人げなくて、惨めで、ため息が出た。

 まあ、俺と二人の関係が変わったわけでもないし、どうにもならないことなんだけど。

 そんなことを考えながら廊下を歩いていると――


「どしたの、朱里?」

「……え?柚希?」

「いや、偶然見かけたら暗い顔してたからさ。何か嫌なことでもあったん?」


 柚希は優しい。ほんと、俺も見習わなきゃなと思う。

 自分のことばかり考えてる場合じゃない。柚希みたいに、人に気を配れるようになりたい。


「ちょっと自分に嫌気がさしてさ……。ごめんね、迷惑かけて。大丈夫だから」

「ほんと……?」

「うん。大丈夫大丈夫。時間が解決してくれると思うから」

「そう? 何かあったら相談してね。力になるよ」

「ありがとう」


 柚希の優しさが、胸に染みた。

 罪悪感でいっぱいだ。

 誰にも迷惑をかけたいわけじゃない。ただ、少し一人になって頭を冷やしたかった。


 そんな思いから、屋上に足を運んだ。

 ふう、と息を吐き、一人で空の音を聞きながら黄昏れる。

 自己嫌悪に陥った後、こうやってひとり時間を過ごすのも悪くないな、なんて思っていた。


「やほ」

「あれ、柚希だ。さっきぶり」

「さっきぶり~」


 特に何を言うでもなく、柚希は俺の隣にひょいと座った。


「元気になった?」

「んー、さっきよりはマシかも。柚希に会えたおかげかな」

「あはは。まだなんにもしてないでしょ~?」

「いや、会って心配してくれたのが嬉しかったんだ。頑張らないとな~って」

「そう? 何にもしてないけど、少しでも気が紛れたならよかったね」


 俺は「うん」と頷き、もう一度空を見上げた。

 偶然また会えるなんて。

 いや、もしかして偶然じゃない? さっき心配してくれてたし、探してくれたのかもしれない。

 ……そんなはずないと思いつつ、都合よく考えてしまう自分がいる。


「そういえば、こないだの話考えてくれた?」

「こないだの話って……?」

「え~?忘れたの~?!朱里の人でなし!お試し恋愛の話だよ~!」

「あー、そういえば……。でもあんまり現実味なくてさ……」


 正直、付き合うとかそういう話をされても、自分ごととして想像ができない。

 理由はいくつかあるけれど、結局“そういう自分”を思い描けないんだ。


「そっかー。残念だけど、それならしょうがないね。朱里にその気がなかったら、私も虚しいだけだし」

「ごめん……」

「いいよいいよ。まあ、気が変わったらいつでも言ってね」

「わかった……。その時は相談させてもらう」


 柚希が善意で言ってくれているのに、曖昧な答えしか返せない自分が嫌になる。


「ていうか、ついでに聞くけど今日なんかあったの?暗い顔してたけど」

「え……ま、まあ」

「私の誘い断ったんだから、それぐらい教えてよ~!力になれるかもしれないし!」

「う、う~ん……」


 恥ずかしい話だけど、断る理由もなくて、自己嫌悪の理由を話した。


「あはは!そんなことで落ち込んでたの~?まったく、朱里ってば可愛いんだから!」

「笑わないでよ~!引いたでしょ? 自分でも“私ってこんなんだったんだ~”って驚いてるのに」

「笑っちゃったかもだけど、悪い意味じゃないよ。人間そんなもんじゃない? 誰だってそう思う時あるよ~」

「え、そうなの?」

「うんうん。そんなに気にすることかな~?って感じ」

「柚希もそういうのある?」

「シチュエーションは違うけど、気持ちはわかるな~」

「そ、そうなんだ」


 こんな小さいことでうじうじしてるのは自分だけかと思ってたけど、そうでもないらしい。


「まあ、気にしないのは難しいと思うけどさ。そういうことは誰にでも起こるって意識するのは大事だと思う。“誰でもあるから悩むな”なんて言うのは無理だけどね」

「確かに……。私だけかと思ってた」

「でしょ~? 悩むのも成長の糧になるし、辛いけど悪いことじゃないよ」

「柚希って……意外と賢い?」

「え、今までバカだと思ってたの~?!ショック~!」

「いやいや、そういう意味じゃなくて……」


 みんな、いろいろ考えて生きてるんだなあ、としみじみ思った。


「まあまあ、何はともあれ、辛かったね~。よしよし」

 柚希は子どもをあやすように、俺の頭をポンポンと撫でた。

 びっくりしたけど、不思議と嫌じゃなかった。


「柚希って見た目チャラそうなのに、意外とお母さんみあるね」

「たまに言われる~。普通のこと言ってるだけなんだけどな~。実際はけっこう子どもっぽいし」

「え~、そう?」

「朱里にも話したけど、私、悩んだり“こうなれたらいいな~”って思うこと多いし、自分で子どもだなって思うもん。人には偉そうなこと言うくせにね」

「ははは。よしよし」


 お返しに、俺も柚希の頭を撫でた。

「へへへ……頭撫でられるのって案外気持ちいいね。安心する」

「ね」

「はーあ。朱里が構ってくれるから、悪いことしたくなっちゃうな~。悩んでると、朱里が励ましてくれるし」

「いや、どっちかというと私が励ましてもらってる側じゃない? それに、悪いことしなくても構うけど」

「そうかな~?」

「するする。だから悪いことしちゃダメだよ」


 柚希は「はーい」と言って、俺の肩に寄りかかった。


「私も人のこと言えないけど、朱里が気にしてることって、そんなに悩まなくていいと思うな。たぶんその子も、朱里と仲良くしたいからこそ、朱里の周りの人とも関わってるんだよ。迷惑かけたくないし、朱里が大事だから。今は分からないことがあるだけで、時間が経てば“あれ、悩むほどでもなかったな~”って思えるよ。朱里が思ってるより、みんな朱里のこと好きなんだから」

「な、長い……」

「も~、いいこと言ったんだからちゃんと聞いてよ~! まあ要するに、考えすぎないこと!」

「そうかな?」

「そうだよ。そうにしか見えないし、私もそう思ってる」

「ありがとう……」

「どういたしまして」


 柚希はおどけたように笑ってみせた。


「その子、抱きしめてあげなよ。こーやって!」

 柚希は俺の体をぎゅーっと抱きしめ、背中をポンポンと叩いた。

 ――女の子って、どうしてこんなに距離が近いんだろう。戸惑うばかりだ。


「朱里がその子を抱きしめたら、きっと抱きしめ返してくれるよ。それで安心できると思う。

 ほら、行った行った!」

 笑顔で手を振りながら、柚希は俺を見送ってくれた。



*




「乃愛、ちょっといい?」

「お姉さま?!どうしたんですか? もちろん構いませんよっ!」


 声をかけると、乃愛は嬉しそうに駆け寄ってきた。

 確かに、彼女の態度からは明らかに好意が感じられる。

 乃愛を見て不安になる理由なんて、本当はどこにもなかった。


 柚希の言葉もあるし、乃愛はもともとスキンシップ多めだ。今日ぐらい俺からしても怪しまれないだろう。

 ――もちろん、本当は俺は男だから気が乗らないけれど、今回は許してほしい。


「ごめん、ちょっとそのままじっとしててくれる?」

「は、はい……?」


 乃愛が戸惑う間もなく、そっと肩に手を回して抱きしめた。

「……っえ。え……?!」


 驚いた様子で固まっていた。

 柚希が言ってた話と違ったけど、これはこれで安心できた。


「ありがとう」

 ……女の子抱きしめて“ありがとう”って、どこの変態だ。

「は、はい? ど、どういたしましてです?」

「私がしたいことはしたし、逆に乃愛が私にしてほしいこととかない?」

「え、えーと……? ど、どうでしょうか……?」

「もしかして、何もない?」


 意外と俺にしてほしいことってないのか? それとも慢心?


「お姉さまにしてほしいことはたくさんあって……ありすぎて、一つ一つ言うときりがないです」

「その中でも、何かひとつあったりしない?」

「してほしいこと、というより……お姉さまに話したいことがあります! 私、頑張りました!」

「話? 頑張った?」

「お姉さま、驚かないでくださいよ~?」


 乃愛が頑張って俺を驚かせることって、一体……?


「なんと私、寮に入ることになりました! これでお姉さまといつでも会えますし、お世話できますよ!」

「え、寮って……緋桜女学園の寮に?」

「そうです! 親を説得するの、頑張りました! 褒めてください!」

「が、頑張ったね?」


 流れがつかめず、とりあえず頭を撫でた。

「えへへ、嬉しいです! ただ……残念ながら、ひまり先輩と同室なんです」

「そ、そうなんだ……?」


 最近の二人の距離感は、そういう事情だったのか。

 駄目だ、また胸が少し痛くなる。

 でも――驚かせようとしてくれた気持ちは、きっと本物だ。


「頑張ってお姉さまのお世話するので、待っててください!」

「わ、わかった……?」

 乃愛って、どちらかというと“される側”だと思ってたけどな。


「ごめん。もう一度だけ抱きしめてもいい?」

「は、はい! お姉さま、今日は大胆ですね! さっきは驚きましたが、今回は大丈夫ですよ!」


 そっと抱きしめると、今度は乃愛も抱きしめ返してくれた。

 ――なるほど。確かに返されると安心感が増す。

 乃愛が大切に思ってくれているのは間違いない。その気持ちを大切にすればいいんだ。


「いつから入れるの?」

「来週になりそうです!」

「そっか。じゃあ、その時は歓迎パーティーでもしよっか」

「本当ですかっ?!嬉しいです!」

「みんなにも声かけとくね」

「はいっ!」


 寂しさの中にも確かな絆を感じて、少しだけ成長できた気がした。

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