『勇気の時、いざ参らん!なのです』
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今回も乃愛視点での物語となっておりますので、ご注意ください!
よしっ……言うぞ。今から言うんだ。逃げない……!
夕食時、親に「寮生活をしたい」と相談する直前。
心臓がドクドク鳴っているのが、自分でもはっきり分かる。
苦しい。息が浅くなる。
この緊張から早く解放されたくて、私は意を決して口を開いた。
「あ、あの……お母さま。相談があるんですが」
「あら、どうしたの? 何かお口に合わなかった?」
いつも通り優しい声。心配してくれてるのが分かる。
それが、逆に胸を締めつける。
悪いことを言おうとしているわけじゃないのに、罪悪感が喉につかえる。
「そうではなくて……。緋桜女学園の寮に入りたいって考えてるのですが……」
声が震えないように、ぎゅっと膝の上で手を握る。
お母さまの目線がゆっくりこちらに向けられて、緊張感がさらに増す。
「それは、どうして?家で気に入らないことでもあったの?」
「い、いえっ!そういうわけじゃなくて……」
違う。全然違う。
でも、どう言えば伝わるんだろう。
家に不満があるように聞こえたら嫌だし、言葉を選ばなきゃ。
「変わりたいと思ったからです」
それが、今の私に出せる精一杯の言葉だった。
自分でも足りないと分かってるけど、もうこれ以上取り繕えない。
「何かきっかけがあったの?」
「やっぱり……駄目ですか?」
「そういうわけでもないのよ。ただ、少し驚いただけ」
うう……。反応が良くない。
駄目なのかな……。
お姉さま、ひまり先輩……。どうか、私に勇気をください。
「急な話だったから、何かあったのかなって思っただけよ」
「……そうですね。きっかけは、ありました」
息を整えて、思い切って続ける。
「学園の方で仲良くしてくださってる先輩達がいて……」
「あら、こないだ泊まったって言ってた方達のことかしら?」
「そうです」
やばい……これ、完全に“お泊まりでテンション上がっただけ”って思われる流れでは?!
ど、どうしよう……。
「それが大きなきっかけではあるんですが……!その人たちを見て、私も変わりたいって思ったんです。今まではお父さまやお母さまに頼ってばかりでした。でも、それだけじゃ自分自身が成長できない気がして。だから、寮生活を通して自立していきたいんです。そして今までしてもらったことのありがたさを、もっと実感したいって思いました」
事実、本当にそう思ってる。
それでも自分で言ってて、なんか面接みたいなセリフだなと内心ツッコむ。
「お世話をするのは子供なんだから当然よ。気にしなくていいの」
お母さまは少し笑って言った。けれど、その笑顔はどこか寂しそうだった。
「私も考えてみるわ。それに……お父さんが帰ってきたら話してみてもいいかしら?」
「もちろんです。勝手に決めるつもりはありませんし」
「そうね。分かりました」
「はい……」
その後の会話は、正直あまり覚えていない。
話しかけるまでは明るい景色だったのに今は暗い。まるで真っ暗な道。それは夜中に散歩しているからなんだけど。
はあぁ……やっぱり駄目だったのかな。
言いたいことは言えたのに、手応えがまるでない。
むしろ想像してた展開通り。
──ははっ、駄目元だったしね。
そう言い聞かせると、ほんの少しだけ肩の力が抜けた。
お姉さま……私、やっぱり弱いです。
どんな顔で会えばいいのか分からない。
お姉さまは何も知らないのに、私は勝手にこんなことで悩んでる。
早く会いたいな。
いや、今は落ち込んでる場合じゃない。
くよくよしてても仕方ない。
……でも、今さら何ができる? ああもう、どうしよう。
「明日、ひまり先輩に相談しよ……」
そうつぶやいて、夜空を見上げた。
*
「ひまり先輩~!」
「うおっ、どうした、急に」
「相談に乗ってください゛い゛ぃ~……!」
「分かった分かった。落ち着けって。で? 何か進展あったのか? そもそも親に言えなくて困ってるとか?」
「い、言えたんですけど……」
昨日の出来事をざっくり話すと、ひまり先輩は腕を組んだ。
「なるほどな……。んー、正直お前の母親の性格とか知らんし、なんとも言えねーな」
「そんなこと言わないでくださいよ~!私だって知ってても分かんないですもん!」
「確かにな。とはいえ、結局は親の返事次第だろ」
「そうなんですけど……でも、もし“駄目”って言われたらどうしたら……」
情けなくうろたえる私に、ひまり先輩は小さくため息をついた。
「まあ普通に考えて諦めるしかないわな」
「えぇ~~!? なんか軽くないですか!? 私がいないと困るの先輩もですよね?! 先輩も私に来てほしいですよね?!」
「……」
ひまり先輩は気まずそうに視線を逸らす。
「そうは言ってもなー。簡単な話じゃねぇし。そりゃ力になってやりたいけどな」
「何か方法ないんですか~?!」
「んー……」
ひまり先輩は顎に手を当て、数秒考え込む。
「よし、決めた。我が今日お前の家に行って、親御さんを説得して見せよう」
「え」
「何固まってんだよ」
「い、いや……上手くいく未来が全く見えないんですが……」
なんか、先輩と私の親って相性悪そう。
お姉さまみたいな人だったら説得できそうなのに……。
「まー見てろって!」
「は、はぁ……」
──先輩に相談したことで、さらに状況が読めなくなってきた。
どうなっちゃうんだろう、私……。
「私がまず親と話すので、そのあとで来てください」
家の前で私はひまり先輩に言った。
「最初からいたほうがよくね?」
「いきなり出てきたら驚かせちゃいます。ここは私の言うこと聞いてくださいよ」
「しょうがねーなぁ」
「じゃあ、ちょっと行ってきます……」
とはいえ、何をどう説明すればいいのか全然考えてなかった。
「あら、おかえりなさい、乃愛」
「は、はい。ただいまです」
「帰ってきたか」
「お父さま……珍しいですね。この時間にお家にいるなんて」
「たまたま早く帰れたんだ」
──いや、絶対“たまたま”じゃない。
「あの、話があるんですが」
「なんだ?」
「お母さまから聞いてるかもしれませんが、寮に入りたいです」
「そのことか」
「はい」
足が震える。逃げ出したい。ひまり先輩、助けて。
「それなんだが……一応、私からも直接理由を聞いておきたい」
「自分の力で頑張りたいんです。勿論寮生活をしたとしても、それはお父さまとお母さまのおかげなのですが。今まではずっと守られてばかりで……でも、これからはちゃんと、自分の足で歩きたい。変わりたいって思いました」
「いや、どちらかと言うと厳しくしすぎたかもとは思ってたのだが……。……そうか。変わりたい、か」
「はい」
手のひらが汗でじっとりと濡れる。
空気が、ぴたりと止まったように感じた。
「──あのっ!入ってもいいですかっ!」
勢いよくドアが開く。
三人の視線が一斉にそちらへ向いた。
そこに立っていたのは、もちろん――ひまり先輩。
「ひ、ひまり先輩!?」
「ごめんなさい!外で待ってるつもりだったんですけど、じっとしてられなくて!」
バタバタと両手を振って、一礼。
緊張と勢いの入り混じった笑顔がまぶしい。
「乃愛さんが“変わりたい”って言ってるの、本気なんです!この子、ずっと周りのことばっかり考えてて、自分のこと後回しにしてきたから。でも今の乃愛ちゃんは違います。自分で選んで動こうとしてるだから、私、隣で支えたいんです!」
その熱量に、両親は思わず目を丸くする。
そして少しの沈黙のあと、お母さまが微笑んだ。
「なるほどね……あなたが“ひまりちゃん”ね」
「は、はいっ!」
「元気ね。──乃愛、いい友達ができたのね」
お父さまも腕を組み、どこか照れくさそうに笑う。
「まったく……びっくりしたな。でも、そんな風に言ってもらえるなら反対する理由なんてないさ。もともと反対するつもりもなかったんだよ」
「えっ!? そうだったんですか、お父さま!?」
「ええ。私も乃愛がそう言うなら尊重したいと思っていたの」
「そ、そうだったんですか……?」
「なんだよ……乃愛の思い過ごしか。最初から我いらなかったな」
「うう……」
「ひまりさん、乃愛のこと、これからもよろしくお願いしますね」
親二人がひまり先輩に頭を下げる。なんだか、すっごく気まずい。
「い、いえいえ!私の方こそ普段から助けてもらってますので!」
──先輩、自分のこと“私”って言えるんだ……。
胸の奥で、緊張がすっと解けていく。
「……ありがとう、ひまり先輩」
「へへ、我慢できなくて、合図前に来ちまった」
「正直どうやって合図出すか分かんなかったんで」
二人で顔を見合わせ、思わず笑い合った。
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で乃愛視点は一旦終わり朱里に戻ります!




