『ひまり先輩と秘密のデートなのです』
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久々の更新で申し訳ありません!
今回は乃愛視点での物語となっておりますので、ご注意ください!
お姉さまが寝てしまいました。
それにしても、今日は本当に楽しかったです。いつもと全然違う日。こんな毎日が続けばいいのに──なんて、叶いそうにない希望を抱いてしまう。
駄目だ、駄目だ……。今日みたいな日が、何度も許されるわけじゃない。明日になれば家に帰って、また勉強づくしの日々が始まる。
いっそのこと、家という籠から出られたらいいのに。飼われている鳥も、きっと同じような気持ちでいるんでしょうね。
……それにしても。お姉さまと一緒にいられるだけで、私は幸せなんです。
別に、私がどう思われていようと構わない。ただ隣にいて、お姉さまを見ているだけで、元気になれる。
沙耶先輩とひまり先輩も、悪い印象ではありません。……お姉さまに好意を持っているのは気に入りませんけど。
だってお姉さまは魅力的ですから、致し方なし。
でも寂しいな。このまま寝たくない。眠ってしまったら、幸せな時間が一瞬で終わってしまう気がして。
少し散歩にでも行こうかな……。上手く部屋に戻れるか不安ですけど。
もしお姉さまの部屋に住めたら、毎日顔を見られて、毎日お世話して、毎日お話して……想像するだけで幸せ。
けれど、お姉さまからは嫌われていないけど、壁を感じる時があります。誰に対しても一線を引いて接しているのが分かる。
だから、私が「一緒に住みたい」と言っても、きっと迷惑なんです。……お姉さまは一人部屋で、寂しくないのでしょうか。
それを聞くことすら叶わない。私はただの「可愛いお姉さまが大好きな後輩」でしかないのだから。
お姉さまの寝顔を見つめながらソファから立ち上がった、その時。
「おい後輩、どこか行くのか?」
「そのつもりですよ、先輩」
この短い期間だけで、私はこの人を分かるようになっていました。生意気で我儘で、自分のしたいようにしか生きてない人。誰のことも気にせず、我が道を行くような姿に、腹が立つ。
──だから、そう。私はきっと、この人に嫉妬しているんだ。
「散歩か?」
「はい」
お姉さまに話す時のように明るい口調ではなく、普段より少し暗めに声を出す。
「我もついていこう! 何せ先輩だからな!」
「えー……来なくていいですよ」
「そう言うなそう言うな。確かに嬉しくて恥ずかしいんだろうが、気にすることはない!」
全くの的外れ。……でも、この図々しさ、少し羨ましい。
「しょうがないですね。いいですよ。帰り道、不安でしたから」
「はははは! そんな事気にしていたのか! 別に帰れなかったら、自由に歩き回ればいいではないか!」
清々しいほど能天気。
「そうですか。じゃあ、ひまり先輩は一生帰ってこなくて大丈夫ですね。私がお姉さまの傍に居続けますから」
「なに~?! 一緒にいるんだから片方だけ帰れるわけないだろう! 帰れない時はお互い様だ!」
「せめて寮までの道くらいは覚えてくださいよ……。ほんと頼りないですね」
「まあな!」
どこに威張れる要素があるのでしょう。
仕方ないので、ひまり先輩と散歩することになってしまった。……仕方ないので。
「はあ……」
どうして私は、馬鹿そうなひまり先輩と散歩しているのでしょうか。
出来ればお姉さまが良かったですし、次点で沙耶先輩が良かった。それなのにどうして。
ひまり先輩は、正直言って一番合わなさそうです。真逆の人間って感じ。
もっとお淑やかで、慎ましく、女性らしい……お姉さまみたいな人が一番好きなんです。
なのに、どうしてお姉さまとひまり先輩が仲良くしているのか、不思議。
「ひまり先輩、何か話してくださいよ」
「んー? そうだな~。お前、朱里の前で随分猫被ってんな~」
……本当に分かってない。
「被ってないです。あれがお姉さまの前での一番自然な形なんです。特別意識してるわけじゃありません」
「なんだと~?! つまり我に対しては見下してるってことか?!」
「今頃気づいたんですか。本当におバカですね」
「なんでだよ~?!」
「そういうところです。なんで逆に分からないんですか」
「分かるはずないだろ~?! だって我は凄いんだから!」
……やっぱり馬鹿。
「まあ、気にしないでください。すぐ慣れますよ」
「ま、そうだな」
あまりにも適当な人。
ひまり先輩が隣にいるのに、不思議と静かな空間。冷たい風の音が耳に残る。
ゆっくりと歩く足音も、はっきり聞こえてきた。
「先輩って、どうしてそんな風に生きられるんですか?」
「は? どういう意味?」
ひまり先輩が、少し本気で苛立った気配を見せる。今までの冗談混じりとは違う、鋭さがあった。
「別に馬鹿にしてるわけじゃなく、質問そのままです。……私は正直、ひまり先輩が羨ましいんですよ」
「そ、そうか! まあ、我を敬うのは致し方ない! なぜなら天才だからな!」
「そうかもしれませんね」
馬鹿だけど、実際そう思ってしまう。私は完全に敗北者だ。
高坂乃愛という人間は、天音ひまりという人間より劣っている。
憎い。羨ましい。……もしかしたら、私はひまり先輩みたいになりたいのかもしれない。
「おー? 急に素直だな! ま、そんな暗い顔せず元気出せよ!」
「はい」
俯きながら、足をゆっくり進める。ひまり先輩に合わせず、一人思考に沈む。
……不思議。ひまり先輩といると、少し落ち着く。真逆で、複雑な感情を抱いているのに。
どうしてだろう。もしかしたら私は、ひまり先輩を下に見て安心しているだけなのかもしれない。……とんだ大馬鹿者ですね。
「先輩って、悩みとか困り事あるんですか? 全くなさそうに見えるんですけど」
「んー? 流石にあるなー」
「それって、なんです?」
「……バレるかもしれないけど、他の人には言うなよ? 後輩との秘密だからな。守れるか?」
「えっ、そんな難しい話なんですか? だったら断った方が安全かも……面倒事に巻き込まれたくないし」
「おいおい! そこは“守れます”だろう! いや、今のとこはそう答えるとこだろ?!」
「そうなんですか? ちゃんと言ってくださいよ。先輩らしくない」
「どんな風に見てんだよ、我のこと」
──我儘で、とてもおバカな先輩です。
「それで、その秘密ってなんですか?」
「……我は、寂しい。とても孤独を感じている。沙耶や朱里といないと心細い。いや、二人がいても心の底ではまだ信じ切れてない。独りは嫌なんだ」
今までと全然違う雰囲気。……ひまり先輩の芯に、初めて触れた気がした。
「だから朱里先輩や沙耶先輩のところに来るんですか?」
「それだけじゃないが、大体そうだな。明日から一緒に居られる保証はないし、気づいたら友達じゃなくなるかもしれない。だから、一緒にいられる時は一緒にいようと思ったんだ」
「いいですね、それ」
「だろ?」
先輩はにやりと、最高の笑顔を見せた。
「先輩」
「ん?」
「秘密を言わせるだけじゃ不公平なので、私も言います。ただし、さっきみたいに一度でも断るそぶりを見せたら、絶対に言いません」
「おいおい……生意気な後輩だな。いいよ、聞かせてみろ」
「……私って、親の言うことをただひたすら守ってきた人間なんです。勉強も習い事も、全部将来のために。遊ぶ暇もなく、考えすらしなかった。だから今、皆と過ごす時間がとても楽しい。生きてきて一番幸せな瞬間だと思えるくらい。でも……親から引かれたレールを外れる勇気がなくて。だから、正直ひまり先輩が羨ましかったんです。我儘で、したいことをしているようで」
「んー……長くて伝わらなかったけど、大体わかった。理解した」
──やっぱりこの先輩は馬鹿だ。
「生きたいように生きろよ。後悔したって何も戻らない。自分で選んで、自分で責任を負わなきゃ何も得られない。他人に任せた人生なんてやめちまえ。自分の人生の主役は、自分なんだから」
「はは……。いいですね。それでも、分からないんです。歩く先が見えないなんて、どうすればいいのか」
「気にしすぎだな。まあ、今までの環境を考えれば仕方ないんだろうが」
「どうすれば私は一歩進めると思いますか?」
「なるようになるさ。何も考えずに歩き出せばいい。その後に上手くやればいい」
「……簡単に言いますね」
「簡単だからな」
──私も先輩みたいに自由に生きてみたい。自分の足で歩いてみたい。
「先輩、相談があるんですが」
「なんだ?」
「一緒の部屋に住んでいいですか? ルームメイトってやつになりたいんです」
「お前が?」
「はい。先輩も寂しがってましたし」
少し長めの沈黙が流れた後、先輩は答えてくれた。
「……いいぞ。ただし、急にいなくなったりはするなよ」
「出来るだけ努力します」
先輩みたいに生きてみたい。だから先輩の傍で学びたい。
家族なんて、気合で説得してみせる。──私は、今までの私じゃない!
「先輩にお願いがあるんですが」
「ん?」
「親の説得が難しい時は、助けてくれますか?」
「ルームメイトになるんだったら、当たり前だろ?」
「流石です、先輩。ありがとうございます。……勇気をもらえました。明日、親に相談してみます。何とかして、先輩の部屋に住めるように」
「おう。待ってるぞ」
頑張ろう。生きたいように生きるんだ。
「で、帰り道どこでしたっけ?」
「ん-!分からん!」
その後はしばらく談笑しながら、夜の道を歩いた。
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