『男性が女装している時に男装する行為に名前って付いてるんですか?』
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「さすがに結構食べたね……」
「もうお腹いっぱいです……」
「死にそう……」
「そう……? 私はもう少しいけるけどな」
沙耶は意外と大食いらしい。
あれからお好み焼きの残りを食べ、新たにホットケーキやお菓子まで平らげていた。
正直、残りは数日に分けて食べようと思っていたのだが、そんな予定はどこへやら。
まあ、いいか。それだけ楽しかった証拠だ。
確かに、みんなでワイワイご飯を作って食べるだけで、青春の一ページのような気持ちになった。
楽しかったし、またやりたいとも思う。
だけど、楽しい時間を過ごすたびに、どこかで罪悪感に駆られてしまう。
普通に過ごしているだけなのに、それが罪だと感じてしまうのだ。
自分はこれくらいで罪悪 逆に言えば、それは喜ばしい事でもある。逆に言えば、それは喜ばしい事でもある。普通の感性を持てている証拠だから。
罪悪感を感じて、生を感じる。なんとも皮肉な話だ。
きっと今考えてもどうしようもないことだろう。
来るべき時、自分の何かが問われる時が来たら、自分らしい決断ができるように、頑張ろうと思った。
「そういえばさ、寝る場所どうする? ベッドに無理やり四人で入るか、私がソファか床に寝て、もう一人もそっちに回る感じになると思うんだけど」
本音を言えば、三人にはベッドで寝てほしい。
「お姉さまはベッドじゃなきゃ駄目じゃないでしょうか?!」
慌てた顔で乃愛が提案してくる。
「だよね? さすがに朱里の部屋だし気が引けるよ……」
沙耶も同意だ。
「我はどっちでもいいな」
ひまりは扱いやすくて助かる。
「逆に言えば皆はお客さんなわけでしょ? 流石にお客様を床で寝かせるのは嫌かなー……」
「そう言われると朱里からしたらそうなのかもしれないけど……」
「じゃあ、私がお姉さまと一緒にソファで寝ます! それでいいんじゃないでしょうか?!」
ソファで二人――まあ、無難な線だ。
「えー……まあ、しょうがないのかな……?」
沙耶は真面目な性格だから、申し訳なさそうにしている。
「わーい、ベッドだ!」
ひまりは嬉しそうだ。これなら問題も起きなさそうで安心できる。
「まー、まだ寝るには早いし、後で気分が変わったら変えればいいんじゃない?」
ひまりにしてはまともな意見だ。
「確かに。そうしよっか。今のは暫定ってことで」
「はいなのです!」
「りょーかい」
これでひとまず安心か。
「皆はこういうお泊まりとか、よくするの?」
かくいう俺は一度もしたことがないし、友達もいなかった。周りとの差を上手く埋めるため、情報を引き出して合わせる必要がある。
「私は初めてですっ!」
「私もしたことないかも」
「我もないな~」
案外、皆も未経験らしい。これは俺にとってプラスなのかマイナスなのか……。経験者がいた方が場が回しやすそうな気もする。
「なんかしたいこととかある?」
「私はお姉さまと一緒ならなんでもいいですよ! 定番で言えば恋バナとかですかね? 女子会ですし! ちなみにお姉さま一筋です!」
「確かによく聞くよね。私はそんな浮いた話ないけど……強いて言うなら朱里ぐらい」
「そういうのって普通、男じゃないのか? 我はいないけどな」
ひまりが珍しくまともなことを言う。
「朱里は好きな人とかいないの?」
「えー……引っ越してきたばかりで、そんな余裕なかったかな……」
「そっか……」
沙耶は少し残念そうに、髪を指でくるくるといじった。
「それもそうですよね! 変な男についてっちゃ駄目ですよ!」
「行かないよ……」
「誰も男と縁がないんだな~。意外。一人ぐらいいるもんかと思ってたぞ」
「私は正直興味ないですね~。惹かれる人に出会ったことがありません」
俺を除く皆は可愛いしモテそうなのに、不思議だ。
「我もないな~。いい男いたら紹介して欲しい。我のお眼鏡にかなうかは分からんが!」
「私も早く見つけないとな。親うるさいし」
沙耶の彼氏の話は今のところ誤魔化せているが、それも長くは続かないだろう。
彼氏ができるのは嬉しいはずなのに、素直にそう思えない自分もいる。ただの友達のはずなのに。
「そうなると沙耶が一番早く彼氏できるかもね」
「だな~」
「まー、そう上手くいくといいんだけど。正直面倒でしかない。偶然好きになった人と結ばれたいのに、目的と手段が逆になってる感じがして、あまり良い気はしないかな」
「親なんて無視しとけばいいんじゃないですか? 先輩の生きたいように生きましょうよ!」
「そーできればいいんだけどね。正直、面倒なことにならないよう祈ってる」
「面倒なことって?」
「そりゃ、親が勝手に相手を決めてお見合いとか……。正直、嫌すぎる」
人生を共にする相手を、強制的に選ばれるのは俺だって嫌だ。特に女性なら尚更だろう。
「私もさすがにそれは勘弁ですねー」
「我はそれも面白そうだけどな~。相手次第かもしれんが。あとは断れるかどうかとか? 強制ならさすがにな~」
「そうなりかねないのよね。はぁ……」
少し重い空気が流れる。
「まあまあ。しばらくは大丈夫そうだし、何かあったら手伝うから呼んでよ」
「ありがとう朱里。本当、迷惑ばっかでごめんね」
「いやいや、こっちも助かってるしお互い様だよ」
「彼氏役で男装してもらったんだっけ? 朱里もよくやるよな~。それで成功させるんだから!」
「結構偶然だった気がするけど……」
本来なら素の自分でいられるから気が楽なはずなのに、何故か重く感じる。
「え~! 私もお姉さまの男装姿見てみたいです!」
「確かに我も見たいな~! バレなかったんだから似合ってたんだろ?」
「丸で本物みたいに似合ってたね。正直、見抜ける人いないんじゃない? こんな可愛いのに、不思議と違和感がなかった」
逆に女装姿がバレない方が不思議なくらいだ。
「偶然だよ偶然。バレなかったのは運が良かっただけだし、短時間だったのも大きい。長時間あのままだったら、不自然な箇所が見つかったと思う」
「そうは思わなかったけどな。あの姿で一日過ごしてみたら分かるよ。誰も絶対に気づかない」
「そんなになのか?!」
「見てみたいです!」
「えー……」
せっかく重い空気が消えかけているのに、また変な方向に行きそうだ。
リスクはほとんどないが、何度もやっていると女装姿に違和感を覚えられたり、問題が起きる可能性が高まる。
「やってあげたら? 一度見せれば落ち着くでしょ。じゃないとずっと騒がれるかもよ」
沙耶は他人事のように言う。
「そうですそうです! 見たいです!」
「だな~!」
やるしかないらしい……。
「はぁ……分かった。一度だけね。もうしないし、他の人にも言わないこと。それを守ってくれるなら、一度だけやる」
「分かりましたなのです!」
「しょうがないな~」
なんでひまりは上から目線なんだよ……。
仕方なく脱衣所で着替え、化粧なども落としていく。
「ほら、似合ってるでしょ?」
「本物の男性みたいですっ!」
「普通に男じゃん……。これはバレるわけないなー」
「たはは……特に面白味もないでしょ」
自分の素の姿なのに恥ずかしい。
女装の時のほうがよっぽど安心できるなんて、馬鹿げている。
つい数日前までは女装に怯えていたのに、今は男装のほうが不安なんだから。
「私は似合ってると思うし、全然いいよ。頻繁にやってくれても大丈夫なくらい」
「ですよね~?!ほんとにかっこいいです!お姉さまステキ……!」
正直、望愛がなぜここまで懐いてくれているのか謎だ。
「てかさー、私たち好きな男性がいなかったわけじゃん?ここは朱里に協力してもらって、仮想彼氏とのデート体験とかどう?こんな展開、なかなかないよ?中身は女性でも、見た目はまんま男性なんだし」
「ひまり、たまには良いこと言うじゃん。私も賛成」
「いやいやいや! 一度だけって言ったでしょ!」
「お姉さま……駄目ですか?」
「そんな上目遣いで可愛く言われても……駄目なものは駄目」
約束したのに、まるで俺が悪者みたいだ。
「朱里はケチだな~」
「ひまりに言われるとムカつくんですけど」
「なんでだよ~?!」
「朱里はそんなに男装嫌なの?」
沙耶に難しい質問をされた。
正直に言うわけにもいかない。
「できればしたくはないかも……」
「そう……」
沙耶は残念そうに少し俯いた。
沙耶も望愛も、なぜ俺にそんな期待をしてしまうのだろう。
本来、俺は異質で必要のない存在なのに。
自意識過剰なのかもしれないが、このやり取りだって友達同士では普通の会話だ。
それをいちいち期待と捉えてしまうのは可笑しいのかもしれない。
「じゃあさ、せっかくだし今のうちにできることやるべきじゃない?今日はもう男装しちゃったんだし、わざわざ戻る必要ないよ」
「先輩、名案ですね! 見直しました!」
「そうだろそうだろ!」
「見直すってことは元々ダメだと思われてたってことなんだけど……」
ひまりは過去を気にしないらしい。俺も真似しよう。
「確かに、これからやる気がないなら、この機会を無駄にするのはもったいないよね。じゃあ今から朱里には男性みたいに振る舞ってもらおう」
「えええ……」
「ですよね! 男性バージョンのお姉さまと接してみたいです!」
「ここまで来たならやっちゃえよ!」
「……」
なんだろう、このやるせない気持ち……。
深呼吸して、普通に話してみる。
とはいえ、女装時もそれほど女性っぽく喋っているわけでもない。
軽く意識して少し整えている程度だ。
「はぁ……。これで言い訳?」
男性の声で、話し方もそれっぽくしてみた。通常通り話すのは変な話だけど。
「そんな感じなんだね。前に見た時とは違うのは当然だよね」
沙耶は母親と同席した時の違いに驚いている。
家族に会うから、少し行儀良く硬い感じになるのは当然だ。
「おー、雰囲気あるな!」
「かっこいいです!」
この二人はもう何でもいいだろう……。
「ま、どうせなら何か話でもするか?と言っても今更かもしれないけど」
「そ、そうだね? 部屋でできることなんて限られているし……」
「そうだな~。じゃあさ、朱里がこの三人から誰か一人選ぶとしたら誰?」
「ちょっと先輩……それは私か沙耶先輩だと思うのですが、お姉さまに気を遣わせすぎじゃないですか?」
「おかしいだろ! 我を選ぶ可能性だってあるだろ!」
「ないない。それに誰も選ばない。そんな仮想の話したって意味ないじゃん」
「男性時の朱里はちょっと冷たくて、それも良い感じだな!」
「ですね!」
もう何も言うまい……。
こうして、なぜか女子校に男性がいることも不思議でない状況が生まれたのだった。
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