『一難去って又一難なお泊り会が始まっちゃう?!』
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「で、なんで君たちまで付いてきてるんだい?」
「えー?そりゃ暇だったからでしょ!」
「私は、朱里が急に体調崩したりしないか心配だったから」
「……それはごめん」
放課後。周囲の様子を観察するついでに買い出しへと出かけた俺に、沙耶とひまりが当然のように同行していた。
ちょっと自由に動きづらくなってしまったのは申し訳ないけど、まあ、それも含めて仕方ない。
それに、誰かと一緒の方が楽しい気もするし――。
とりあえずは、冷蔵庫に入れておける物や保存の利く食品を中心に見て回っていると――
「ねえ、二人ってさ……あ、あれ?」
「どしたの?」
「急に止まったら危ないよ?」
「ん……? お姉さま!? お姉さまじゃないですかっ!!」
「乃愛? こ、こんにちは? こんばんは……?」
「どっちでもいいですっ! お姉さまに会えて嬉しいです~っ!」
声をかけたと思った瞬間、乃愛は勢いよく抱きついてきた。
「ちょっと……近すぎない?」
「え~? お姉さまと私の距離は、これでもまだ遠いくらいですよ! もっと近づければいいのに~」
いやいや、もう完全に密着してるんですけど。
まさか肉体すら蛇足だと思ってるのか?この子は。
……そんなことより、この距離感で接されると、色々とマズい。冷静を装わねば。
「帰る途中だった?」
「はいっ! でも、道に迷ってしまいました~!」
「そ、そう……。大丈夫か?」
「私が迷子になってたのは、お姉さまに会うためだったんですよ! だから全然問題ないんですっ!」
「そ、そか……。乃愛の毎日が心配だな」
「お姉さまが私のこと心配してくれるんですね?! 嬉しいですぅ~!」
「おい、こら! 我々がいないかのように会話するでない! しかも、近づきすぎだ!」
「ほんとそう。朱里も迷惑がってるから」
「えっ、どなたですか……? それに、お姉さまは迷惑なんて感じてませんよね?! ねっ?」
「……迷惑ってわけじゃないけど、ちょっと近いかなとは思ってる」
「ほら~! 迷惑じゃないって! 近いのは慣れれば気になりませんっ!」
「そういう問題なのか……?」
「そういう問題です!」
なんだこの温度差。俺の知り合い同士が勝手に火花を散らし始めてる……。
まあ、仲良くしてくれるならありがたいけど……。
「あー、三人とも。とりあえず、自己紹介しよう? 皆、俺の――私の友達だからさ」
「……先輩がそう言うなら、しょうがないですね。高坂乃愛です。先輩の可愛い後輩ですっ!」
「私は東雲沙耶。朱里と同級生で、転校前からの知り合い。……忘れないでね?」
「むむっ……それは手強いですね……」
沙耶、微妙に張り合ってる……。
まあ確かに、知り合ったのは入学前とはいえ、ほんの短い時間だけだったんだけど。
「我は天音ひまり。……平伏すがよい!」
「これは無視して良さそうですね~」
「なっ、なんだと!? 我を愚弄する気か! ふふふ、聞いて驚け。我は沙耶と一晩、同じ部屋で過ごしている!」
「なんですと!? それは聞き捨てなりませんっ! 本当なんですか、お姉さまっ!?」
「……うん、本当だね」
「下に見てましたが、なかなかやりますね……」
「なぜ下に見ているんだっ!? おかしいだろう、先輩なのに!」
「まあまあ。ちなみに、私は一度朱里に“彼氏”になってもらってるし、親公認で結婚を前提に――」
「はあああっ!? それはおかしいだろ!」
「待ってください、ひまり先輩。なんか……その後の言葉の感じ的に、正式な交際ではなかったっぽいですよね?」
そこだけ妙に冷静なんだよ、乃愛……。
「確かに! それに“先輩”呼び。中々見る目あるな、乃愛後輩……ククク、そこまで必死にアピールしたいとは……!」
「っ~! うるさいなっ! 事実なんだから! 嘘じゃないし!」
「まあまあ、落ち着いて……」
「「「朱里(先輩)は黙ってて!!」」」
「……はい、すみません」
なぜか俺のことを巡って戦が始まり、俺の発言は完全に無効化された。
そしてそのまま、しばらくの間、三人でわちゃわちゃと揉めていた――。
わーきゃー騒ぎ合ってから、しばらく経った頃――。
「ところで、乃愛は帰らなくて大丈夫なの?」
「大丈夫ですよ~! 特に用事があるわけでもないですし!」
「なら、一緒に買い物ついてくる?」
「え~?! いいんですか、せんぱ~い!」
「えー……ついてくるの~?」
「ふん……」
「二人もいいって言ってるし、私も乃愛と話せるのは嬉しいから、いいよ」
「先輩、大好きです~っ! ついて行きますっ!」
三人ともさっきまで揉めていたのが嘘みたいに、なんやかんや楽しそうに笑い合っていた。
「思ったんだけどさ、朱里って……人と仲良くなるの早すぎない?」
「えっ、そうなんですか?! 先輩、どういうことですか!?」
「いや、むしろ私が聞きたいんだけど。たぶん私っていうより、みんなが仲良くしてくれるだけなんじゃないかな? ひまりだって、勝手に部屋来たりしてさ」
「寂しかろうと思ってな! それに~……そうだな。不思議と落ち着くというか、そーいう魅力があるんだよ、朱里には」
「それは分かるかも」
「確かにっ!」
「……そうなんだ?」
そうやって言ってもらえるのは、やっぱり嬉しい。
「ひまり以外の二人は、ほんとに偶然出会ったって感じだよね。沙耶も乃愛も。沙耶は同じクラスだったから結果的に知り合ったけど、最初はほんと偶然だったし」
「そうだね。急に逃げられて、お礼も言えずにどうしようかと思ってたよ」
自分がお礼を言われる立場だなんて思えなくて、怖くて逃げることしかできなかった。
……ほんと情けないな、俺。
「ほんと、ごめんね? 自分でもびっくりしちゃって、頭が真っ白になってさ」
「うん。いいよ。今こうして話せてるわけだし」
「私と先輩の出会いも良かったですよねっ! 朝の通学路、雨の中を歩いてた私に、優しく傘を差し出してくれて……そのまま仲良く登校!」
「道に不慣れだって分かった時は、さすがに驚いたけど……でもまたこうして会えて、ほんとよかった」
「ですよね~っ!」
「わ、我は……」
「ひまりは沙耶の友達として、極めて普通に出会ったよね」
「そうだ! 一番シンプルで、一番良い出会いだろう!」
「いいんじゃない? 私はロマンティックな出会いでときめいたけど」
「私も朱里の意外な一面が見れて、悪くなかったと思うよ」
「朱里~っ! 二人がいじめてくる~! 我ともロマンティックな出会いをしたかった~!」
「……いや、過去は変えられないでしょ……」
なぜそんなことで本気になってるのか、正直よくわからないけど――
ひまりのちょっと寂しそうな顔を見たら、黙ってはいられなかった。
「ひまり、また好きな時に部屋おいでよ。それで、許してくれる?」
「な……先輩……?」
「ちょっと、それはおかしくない?!」
「朱里は優しいなあっ! 行く行く! 毎日行くぞ!」
「それは流石に来すぎでは……?」
「ずるいずるい~! 先輩っ、私も行きたいです! 泊めてください!」
「そんなこと言ったら、私だって……!」
「しょうがないな、二人とも。まるで子供みたいだぞ。せっかくだし、皆で朱里の部屋に泊まろうよ!」
「いや、さすがに来すぎ……」
「決定ですっ! 今夜から泊まります!」
「私もルームメイトに連絡しとくね」
「ならこのまま、今晩に必要な物買いに行こ!」
「お~っ!」
……なんでこうなった。
ひまり一人ぐらいならまあいいかと思っていたら、まさかの全員。
どうやら、今夜も俺には試練が待っているらしい――。
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