『青春って、どうやってすればいいの?!』
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「急にいなくなってごめん!」
「心配したけど、事情が事情だし……仕方ないんじゃない?」
「急な用事だったんだ。連絡が遅れて本当にすまなかった」
「理事長がそう言うなら仕方ないですけど、今後はちゃんと連絡してくださいね」
「完全に私の落ち度です。本当に申し訳ないです」
俺は困った末、理事長に連絡して、報告と援助をお願いすることにした。
理事長と俺の家族には昔からの付き合いがある。そのつながりを利用し、「急用で理事長が俺を家族の元へ連れて行く必要があった」という、非常に無理のある言い訳をでっちあげた。理事長がたまたま暇だったのか、「今回だけだぞ」と言いつつ、助けてくれた。
本来、こういうやり方は学園のトップとして好ましくない。自由にやっていると噂の理事長だが、それも今までの信頼あってこそだろう。
ともかく、俺の「大ピンチ」はこうして理事長の機転に救われた。しかも「玲央のこと、沙耶あたりが探し回ってるだろうな」と察して、事情も把握済み。理事長室で少し時間をもらい、ふたりきりで話すことになった。
「で、だ。今回の借りは高くつくぞ~?」
「……ですよね。でも、一応、来た目的の“生徒の不満収集”については、何件か報告できそうです」
「ほう?聞こうじゃないか」
「まず一つ、『勉強ばかりで息が詰まる。もうちょっと気軽に過ごせる場がほしい』って意見がありました」
「……なるほど。学生らしい悩みだな。正直、何のために来てるんだとは言いたくなるが、まあ、そんなもんか」
「ですよね。とはいえ、“砂糖一匙で苦い薬も飲みやすくなる”って言うじゃないですか。何かしら青春っぽいことができる機会があると、全体の空気も良くなるんじゃないかと」
「ふむ……。そういう意味なら、現状でもゼロじゃないとは思うがな……」
理事長は何か考え込んだ様子で、少し悪寒が走った。
「……玲央、考えてみろ」
「だから“玲央”って呼ぶのやめてくださいってば!さっきから気になってたんですけど!」
「あー、悪い悪い。私の中ではずっと“玲央”だったからな。登録もそうなってるし。……ほら、変えといたぞ」
と言って理事長は、目の前で端末の表示名を「朱里」に変更した。
「それと、これは冗談じゃない。朱里、お前は“生徒の不満を集める”だけで、全部私が解決してくれると思ってたかもしれないが……そうはいかんぞ」
「……ですよねぇ」
「そもそも、学園側が何をしたって、生徒の不満なんて尽きないんだ。理想は“生徒主体での解決”だ。我々はそれをサポートする立場。言ってしまえば、“青春”も学生自身が動かなきゃ始まらん」
「じゃあ、私がやるんですか?」
「当たり前だろ。『青春したい』ってだけ言われても困る。『青春したいから、こういうイベントをやりたい』って言ってくれれば、検討して動くさ」
ぐうの音も出なかった。
「ただし、言うなってわけじゃない。何が“青春”かは世代ごとに違うからな。お前自身が思う“青春”を経験できること、それが大事なんだ」
「うーん……」
「せっかく“青春ど真ん中”なんだ。何かしたいことは?」
「明らかにそういうのに触れてこなかったの知ってるでしょ?」
「寧ろしてこなかったからこそ、やってみたいことってあるんじゃないか?」
「言われてみれば……。でも、まずは“普通の学園生活”を送りたい気もします。それだけで精一杯だし。そもそも、この学校で何があって何が無いのか、まだよく分かってないんですよ」
「案を出す前からウジウジ言わなくていい。まずは自由に考えろ」
「部活とか祭りとか……そういうのが“青春”ってイメージはありますけど、心からやりたいかと言われると、うーん……」
「でも、人付き合いはうまくいってるんだろ?」
「意外となんとかなってます。お嬢様校ってもっと壁があると思ってたんですけど、みんな柔らかい感じで接しやすくて。……ただ、勉強が、かなりヤバいです」
「まあな。もともと成績がよかったわけでもないし、今の環境との差は大きいだろう」
「勉強がキツすぎて、それ以外のことに気を抜いてる余裕がないくらいです」
「なら、それが当面の目標だな。“勉強を頑張ること”。他はあとからついてくる。今回の件も、偶然が重なっただけだ。まだ入って日が浅いんだ、焦るな」
「はい。何か良さそうなアイデアが出たり、友達から面白い話を聞いたら報告します」
「頼んだ。他に困ってることは?」
「……あの、前から聞こうと思ってたんですけど」
「なんだ?」
「女子トイレ、使っても大丈夫なんですか? 毎回部屋に戻ってるんですけど、ちょっと面倒で……。着替えも含めて、もう少し楽にできる方法があれば……」
「……難しい問題だな」
「でも、相談しろって言われたんで」
理事長は腕を組み、少し黙って考えた。
「臨機応変、ってところだな。さすがに公に“使っていい”とは言いづらいが、自室を推奨しつつ、どうしてもの場合は仕方ない。女子トイレは個室だから、男子トイレよりも安全と言えば安全だし」
「助かります。着替えについても、もっと便利な場所を用意してもらうのって、難しいですか?」
「うーん……。それも一理あるな。考えておく」
「ありがとうございます」
正直、短い休み時間に部屋に戻るのは厳しい。移動が減るだけで、体力的にだいぶ助かる。
「女装関係で困ったことがあれば、遠慮なく言え。全面的に協力する」
「ありがとうございます。あ、あと一つだけ。たぶん無いと思うんですけど……私が誰かと同室になることって、ありえるんですか?」
「ん? 誰かと同室になりたいのか?」
「いや、望んでるわけじゃなくて……友達に“ひとり部屋が寂しい”って言ってた子がいて。気持ちはわかるから、どうしたもんかと……」
「朱里がその子を助けたいって強く思うなら、それは“女装の自信”次第だな。バレる自信がないなら、やってもいい」
「えっ、いいんですか?」
「バレなきゃ問題ない。今もそうだろ? ただ、リスクは爆増するぞ」
「う……そうですよね」
理事長の柔軟さはありがたいが、逆に怖い。
「まあ、俺が強く望んでるわけでもないし、大丈夫です」
「なら問題ない。よっぽどのことが起きない限り、今のままでいけるだろう」
「ですね」
「じゃ、学園生活、楽しめよ。なんかあれば、また来い」
「ありがとうございます」
礼をして、俺は理事長室をあとにした。
「あれ、沙耶? どうしたの……?」
理事長室を出ると、沙耶がそこに立っていた。
「え? いや、なんとなく……」
「そ、そう……。あ、今日は心配かけてごめんね?」
「ほんとに、どこかで倒れてるんじゃないかって思ったよ。状況が状況だし、仕方ないとは思ったけど」
「うん……。次からはちゃんと連絡するようにするよ」
「……いいよ、別に。こっちが勝手に心配してただけだし。急な呼び出しとか、言いたくても言えないときってあるでしょ?」
「まあ、そうかもしれないけど……」
ここまで心配してくれてたのに、ほんと申し訳ない。
「でも、朝よりだいぶ元気そうだよね?」
「あ、うん。移動中にちょっと寝たから、だいぶ楽になったよ」
本当のことは言えない。だから、嘘でも突き通すしかない。
「そっか。ならよかった」
「……っていうか、中の会話……聞こえてたりしてないよね?」
あれが外まで聞こえてたら、さすがに色々と終わる。
「え? 全然。理事長室の声が外まで漏れてたら、それこそ問題でしょ」
「確かに、それはそうか……」
「そんなに私に聞かれたくない話、してたの?」
「いや、そういうわけじゃないけど……」
いや、まあ……その通りなんだけど。
「理事長と、仲いいの?」
「え、そんな風に見えた?」
「うん、なんかそんな感じ」
「仲がいいってほどじゃないけど……学園に入る前から、ちょっとした知り合いではあるかな」
まあ、ほんのちょっと前だけど。
「へぇー、そういうのって珍しいよね」
「確かに。漫画とかでよくある、“親戚が先生”とか、そんな感じかも?」
「わかるー。あるあるだよね。……そういえば、理事長って学園内では人気あるよ。かっこいい系って感じで」
「え、そうなんだ?」
ちょっと意外。でも、あの雰囲気なら確かにそう見えるかもしれない。
「うん。教職員の人もすごく敬ってるし、生徒にもファンは多いよ」
「沙耶も?」
「いや、さすがにファンとかじゃないけど……普通にかっこいいなーとは思うよ? 特別な感情はないけどね」
「なるほどね。……普段は、どんな感じなんだろ。私の印象だと、ふざけてるっていうか、ちょっとおちゃらけてる感じだったけど」
「え、それは意外。そんな面もあるんだ?」
「あるよ。真面目な感じには見えなかったな……。むしろ、そのギャップが怖いくらい」
「ふふっ、確かに想像できないかも」
ほんとに意外なのはこっちだよ。まさか人気があるとは。
――それにしても、寝てただけのはずなのに、なんだかすごく疲れた。
「んー……帰ろっか」
「うん、帰ろ」
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