『屋上でお昼寝、まさかの再会』
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「ね、眠すぎる……」
結局、昨夜はひまりがずっと部屋で騒いでいたせいで、ほとんど眠れなかった。
「大丈夫? それとも、昨日のことで疲れすぎちゃった?」
本音を言えば、それもあるかもしれない。でも、今の俺にとっては、睡眠不足の方が深刻だった。
「昨日ね……」
沙耶に、ひまりのせいで寝られなかったことを話すと――
「……!?」
慰めの言葉が返ってくると思いきや、沙耶は眉間にしわを寄せた。
「だ、大丈夫……? 顔、怒ってない?」
「え? ああ、ごめんごめん。ちょっと殺意が湧いた人物がいたから。朱里は気にしないで」
「……分かった」
それ以上触れるのが怖くて、そっとしておくことにした。
「でも、それならちゃんと休んだ方がいいよ。授業中に倒れられても困るし」
「いや、さすがにそこまでじゃないと思う。心配してくれてありがと」
「朱里がそう言うならいいけど……無理はしないでね?」
優しく微笑む沙耶の顔が、やけに可愛く見えた。
……自分の不純さに呆れるしかない。まだ心が完全に“女子”になりきれてない。課題は山積みだ。
「ありがとう」
そう言って、俺たちは並んで廊下を歩いていった。
********
「だ、ダメだ……眠すぎる……」
授業中、何度も意識が飛びかけたが、なんとか二時間目までは耐え抜いた。
でも、限界は明らかだった。このまま座ってたら、確実に次の授業で寝落ちる。
……どこかで、少しだけ寝よう。
保健室、という選択肢も浮かんだが、眠いだけで寝かせてくれるのか不安だった。だったら、人目のつかない場所でこっそり……。
フラフラと歩きながらたどり着いたのは、屋上だった。
初めて来たけど、悪くない場所だ。学校の屋上って、ちょっと憧れるよな。
そう思いながら、塔屋の裏手に回り、こっそりと身体を横たえた。
********
「ふぁ……ん……? ここって……どこだっけ……?」
「屋上だよー」
聞き慣れないけど、どこか安心感のある声。
「そういえば……眠すぎてここに来たんだった……今って何時?」
「午後三時。もうすぐ授業終わる頃かなー」
「……まじか」
昼前に寝たから……四時間くらいサボってる……。
目をこすって視界をクリアにしながら、空を見上げる。いい天気だ。すこしずつ頭が冴えてくる。
「それにしても、いい景色だ」
「でしょー」
「……ん?」
「どしたの?」
……何か、大きなことを見落としている。
起きたときには当たり前のように隣にいたけど、それ自体が変だ。
「……だ、誰……?!」
思わず頭に手をやって、ウィッグがズレていないかを確認しつつ、声の主に視線を向けた。
「私だよー、柚希。覚えてない?」
そこにいたのは――先日ゲーセンで出会ったあの少女だった。
「柚希!? な、なんでこんなところに……ってか、同じ学校だったの?!」
「みたいだねー。私もビックリしたよー」
彼女は相変わらずマイペースな笑顔だった。
でも――あの言い方、反応。もしかして、俺の正体に気づいてる?
いや、今のところはそれらしい素振りはない。
ウィッグもズレてないし、ぱっと見でバレるような要素も無いはず……。
「汗かいてるよ? 大丈夫?」
「あ、ご、ごめん……ありがとう……。汚しちゃって……」
「平気平気!体調悪いの?」
「いや……寝たおかげで、だいぶ楽になった」
「そっか。ちなみに、さっきの質問の答えだけど……昼休みにいつもの場所に来たら、朱里が寝てたから、それだけ」
「昼休みに……!?」
「うん。ずーっといたよ」
……マズい。3時間以上、無防備に寝てたってことか。
「それにしても、すっごい爆睡してたよ? 全然起きる気配なかったし」
「そ、そうだったんだ……」
「うんうん。でも安心して。イタズラとかしてないから!」
思わず自分の体を確かめる。
「ちょっとー! 信頼してよー! 本当に何にもしてないんだから!」
「ごめんごめん……起きたばかりでちょっと混乱してた」
「確かにねー。で、結局どれくらい寝てたの?」
「二時間目終わってからだから、五時間くらい……?」
「うわー、すご。そんなに眠かったんだ?」
「うん。転校初日で疲れてたのと、昨日もあんまり寝れなくて……」
「そっかそっか。で、これからどうするの?授業、あとちょっとで終わるよ?」
「えー……どうしようかな……」
「特に用事ないなら、さぼっちゃえば? どうせ行ってもすぐ終わるしさ」
冷静に考えれば、戻るのが正しい。……でも、柚希の言葉がやけに甘く響いた。
「見たことないなーって思ってたけど、転校生だったんだねー」
「え? ああ、そうなんだよね。家の都合で、急に転校することになってさ」
「大変だねー。どう? この学校は」
「いいんじゃないかな? よくある感想かもだけど、良い所のお嬢様学校って雰囲気あるし」
「そーなんだ?」
「そうは思わないの?」
「うーん、あんまり」
「えっ、どうして?」
予想外の返答に、思わず声が低くなる。
「別にこの学校に限ったことじゃないんだけど、正直、こういう生活がずっと続くんだなーって思うと……しょーもないなって。特にこの学校は、それを象徴してる感じがしてさ」
「ま、まあ……言いたいことは何となくわかるけど」
確かに、この学校に通ってるってことは、多くの生徒が将来エリートになることを見据えてるってことだろう。
俺なんかは「すごいなー」としか思わないけど、その道を歩んできた人や、歩まされてきた人にとっては、いろいろ感じるところがあるのかもしれない。
「ごめんね、転校してきたばかりの人に、こんな話しちゃって」
「え? 全然いいよ? 人の話を聞くの、けっこう好きだし」
というか、こういう愚痴の積み重ねが、学園を知るきっかけにもなるわけで。一応、理事長に報告しておいた方がいい案件かもしれない。
「変わってるね。結局、隣の芝生が青く見えるってやつかもね」
「人間なんて、そんなもんじゃないかな。私にだって、当然そういうことあるし。だから、そういう言葉が生まれたんだと思うよ」
「確かにね~。せっかくの再会なのに、なんか重い話してごめん。どうせだったら、もっと楽しい話のほうがよかったかな」
「私はほんとにどっちでもいいけど。話したいことなら、暗い話でも。ただ、そればっかりだとちょっと疲れるかもしれないけど」
「朱里は優しいなー。モテるでしょ? 今まで恋人とかいっぱいいたんじゃない?」
「いない。ゼロ。ゼロゼロゼロゼロ」
「わ、ごめんごめん! そんな怖い顔しないで~。本当にそうは見えなかったんだけどな~。顔も性格もいいのに、それでもできないもんなんだねー」
両頬を鷲掴みにしてひっぱたきたい衝動に駆られたが、なんとか抑えた。
「モテなくて悪かったね! あー、きっとこのまま誰にも好かれず、恋人もできずに過ごしていくんだ……。柚希が言ってた“しょーもない生活”って、まさにこれのことだったんだね……私が悪かった……」
「いや、それは違うような……違わないような……。朱里と出会ってきた人たちが見る目なかっただけだと思うけどな」
「慰めの言葉、ありがとう。その言葉を糧に、これからも頑張って生きていくよ」
「いやいや、本心なんだけどな~。自分の良いところって、自分じゃ気づきにくいし、仕方ないよ」
「……余計辛くなるから、大丈夫だよ」
自分自身の価値なんて、とっくに理解してるつもりだ。柚希は俺を過大評価している。出会ったばかりだから、仕方ないとはいえ。
「え~? 信じてよ~! 私、見る目だけはあると思ってんだけどな~」
「しつこい」
「そっちでしょ~? なんでそんなに認めたがらないの?」
「実績がない人間が評価されてても、私はその人が結果を出すまでは信じられない」
「要するに、一度でも恋人ができれば解決ってこと?」
「解決ってほどじゃないけど……うん。その恋人との関係次第かな。うまくいけば良い経験になるし、そうじゃなければ悪い記憶になると思う」
「贅沢な悩みなこっちゃねー」
「まあね」
それができれば、誰も苦労しない。みんなそうならないように努力してる。でも結果は人それぞれだ。
俺は結局、クジを引くのが怖いだけなのかもしれない。引きたいのに、引けない。
「そんな臆病な君に、チャンスをあげようか?」
「チャンスって?」
「朱里の発言を整理すると、付き合いたい気持ちはゼロじゃない。恋人がいないことで自分を低く見てる。でも、実績ができれば、少しは自信になる――そう考えてる」
「まあ……そうかも」
「じゃあ、“お試し恋愛”っていうのは、どう?」
「れ、れ、れ、恋愛って好きな人同士がするものじゃないの……!?」
「今の朱里じゃ、たとえ好きな人が現れて、その人が好意を向けてくれても、踏み出せないでしょ? 恋愛って、勇気がいるものだよ?」
まっすぐ刺さる言葉だった。
話しながら無意識に避けていたけど、もしかして――柚希、俺の正体に気づいてる……?
でも、そうだとしたら、こんな風に普通に話せるものだろうか?
「でも! 相手がいなければどうしようもないでしょ!?」
「うん。だから、私が相手になってあげようかなって」
「えっ?!」
「お試しだし。私は朱里に好印象を持ってるし、ちゃんと良い関係を築けるよう努力するよ? そんなに悪い条件じゃないと思うけどな」
「いやいやいや! 私たち、女同士でしょ?! そこが問題じゃない!?」
「恋愛や人を好きになるのに、性別ってそこまで大事? しかも“お試し”なんだよ? 男性を好きって人が、全ての男性を好きなわけじゃないように、女性を好きになることも、たまたまってあると思うんだけどな」
「いやいやいや……」
「そんなに私、魅力ないかな?」
「え?」
「もっと気軽にOKしてくれるかと思ってたのに、そこまで拒否されると、さすがに傷つくよ……」
焦っていた自分の言葉ばかりが浮かんできて、ふと冷静に柚希の顔を見ると、ほんの少しだけ寂しそうな表情だった。
「違う! 柚希に魅力がないなんて、そんなこと言ってないよ?! 私なんかじゃ釣り合わないくらい可愛いと思ってるし!」
「でも、私と付き合う価値はないってことでしょ? 私は朱里にそれだけの価値を見てるんだけどな」
これは劣勢だ。今この会話を誰かに聞かれてたら、間違いなく俺が悪者にされるだろう。
「そ、そんなことないけど~! ものすごく魅力的な提案だとは思ってるんだけど!!」
本当はフェアな状況でなら、受け入れたい。でも、柚希は誤解している。俺のこと、色んな意味で分かっていない。
女装している今の自分が、恨めしい。もしそうじゃなかったら、こんなやり取りにはならなかったのに。
「じゃあ、なにが不満なの? 嫌になったら別れればいいだけじゃん? お試しなんだし、“合わなかったねー”で済む話だよ?」
なにか、もっともらしい理由を考えなきゃ。
「確かに“お試し”って言葉は魅力的だけど……付き合うって形を取る以上、関係が壊れる可能性もあるわけじゃん? 私は柚希と仲良くなっていきたい。だから、もっと仲良くなってからがいいなって思うんだ」
「はーあ……振られちゃったな……。振られると、人間ってこんな気持ちになるんだね」
「ち、違う違う! というか、保留! 保留だよ!」
「ふふ、冗談だよ。『仲良くなっていきたい』って言葉に免じて、許してあげる。つまり、私を好きになれば解決ってことだよね? じゃあ、乗った!」
本当にそうなるのか――と思っていると、チャイムが鳴った。
「っと、今日はここまでだね~。優柔不断な朱里に、一つだけアドバイス」
「な、なに?」
「君のことを探してる人たちがいるかもしれないから、謝る言葉ぐらいは用意しときなよ~。私はお迎えがあるから、じゃーね~」
「あっ……さようなら……」
確かに、大袈裟ではないのかも。沙耶は午前中に俺のことを心配してくれてたし、担任も知っていれば怒ってるかもしれない。私生活への干渉がどの程度かは分からないけど、今回の行動は、さすがに良くなかった。
「ど、どうすれば~……」
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