『一日目の夜に女の子と同室で寝ちゃうのって幸せなのでしょうか?』
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「クククク……暇だったので来てやったぞ!」
胸を張って偉そうに立っているちんちくりんが一人、目の前に現れた。
「どうしたの?」
特に会う約束もしていないし、理由も見当たらない。とりあえずそう聞き返す。
「だ・か・ら、遊びに来てやったのだ!」
いや、ただ遊びに来るだけで、寮の部屋に急に来るものなのか?
どうにも嫌な予感しかしなかったので、ドアをそっと閉める。
「おいっ!?なんで閉めた!?開けろー!開けてよー!」
渋々、ドアに手を掛ける。
「で、ひまり。何の用?」
とてつもなく気だるそうな声でそう言ってやった。
「いやいや、なんでそんなに面倒くさそうなの?!ひどくない?」
「元気だね……。今の私には、その元気、残ってないよ」
「なにっ!?もしかして沙耶となんかあったのか!?まー、あいつも悪いやつじゃないけど、ちょっと変わってるしな!」
「ひまりに言われたくない。それに別に何かあったってわけでも……あるような、ないような。単純に、転校してきたばかりで環境に疲れてるだけ」
「なるほどな〜。そりゃ大変そうだ」
その返事は、とてつもなく関心なさそうだった。
「で?そんな中、わざわざ夜に部屋まで何しに来たの?」
「いや〜、転校して間もないし暇してんじゃないかなって。しかも部屋、一人って聞いたし。寂しがってるかなー、なんて」
生意気な口調のわりに、少しは心配してくれていたのかもしれない。
「正直、ずっと疲れてて……。考える余裕もなかった。体力的ってより、精神的にって感じ」
「そ、そっか……。じゃあ、我は帰ったほうがいいか?」
そこで急にしょんぼりされると、こっちが悪者みたいじゃんか。
「……いや、いていいよ。来てくれてありがとう。せっかくだし、話でもして暇つぶしてよ。誰かと喋ってた方が楽になりそうだし」
「だよなーっ!我もそう思って来たのだ!」
「……でさ、純粋な疑問なんだけど、ひまりのルームメイトって一人にして大丈夫なの?」
「それがな〜、我の部屋も一人なんだよな〜」
「そうなんだ?」
この学校、部屋が余ってるなら一人部屋もありって方針なのかもな。他の学校ならなるべく二人部屋にすると思ってたけど、違ったか。
「はは〜ん。分かった」
「な、何がっ?」
「聞く前から動揺してるじゃん。もう答え言ってるようなもんでしょ」
「な、何のことかな〜?」
慌てて誤魔化そうとしてる様子が妙に可愛いので、それ以上は追及しないでおいた。
「ちょっと急なんだけどさ、結婚願望とかある?」
「え、唐突だな……。うーん、あるっちゃあるかな。好きな人と結婚して、子供産んで、幸せな家庭を〜って、やっぱ理想っしょ?」
「まあね……」
それが叶うなら、確かに「ある」って言えるかもしれない。
でも実際のところ、理想通りの結婚なんてゼロに近い確率だと思ってる。
結局、どこまで妥協できるか。
その妥協が理想に近ければまだしも、そうじゃなければきっと後悔する。
愛しきれるのか。不安になる。
そして、そんな自分が嫌だ。
「実家でさ、ペットとか飼ってた?」
「うん、犬と猫の二匹。サチとルナって名前だった」
「その子たち、好きだった?」
「そりゃもちろん!」
「そっか。……いいね。ひまりは、きっと幸せな人生を送れそう。いい奥さんになれそうだよ」
「お、おいおい〜!急に褒めても何も出ないぞ〜?もしかして……昼間の続きか?」
「昼間の続き?」
「我を朱里が狙ってるんじゃないかってやつ!朱里は料理もうまいし、可愛いけど、女だからな!残念ながら我にはその気はないぞ、諦めてくれ!」
「変なこと言わないでよ。狙ってないし、私も同性にその気はないし」
――俺が言ってるのは、男相手ってことなんだけど。口が裂けても言えない。
「ほんと〜か〜?怪しいぞ〜」
「はぁ……ほんとにひまりは、バカだよね」
「なんだとっ!?」
うるさい口を両頬で挟んで黙らせてやる。
「こっちは否定してるのに、そんなにしつこいってことは……実はひまりが私を狙ってるんじゃないの?」
「ふぁなせへーっ!」
「正直に言ってみなよ?」
「あ、あわわわ……!」
軽く押し倒してから、すぐに引き返す。
「なんてね。ひまりがしつこいから、ちょっとからかっただけ」
「……」
「黙んないでよ。まるで私がいじめてるみたいじゃん」
いや、実際いじめてるか……これは。
「我はその気はなかったけど……朱里みたいにカッコいい人なら、満更でもないかもな……ははっ」
「……そんなことより、ご飯食べない?お腹空いちゃった」
「くっ……!ここでも我を愚弄するのか!?我の渾身の一撃を無視とは……!だが、確かにお腹は空いた!」
「弁当と、買い置きしてる総菜があるから、二人分はなんとかなるでしょ。適当に食べていいよ」
「せっかくだから手料理がよかったな〜」
「弁当でも美味しいでしょ。正直、私は自炊と買ったものの差って、そこまで感じないんだよね」
「それはな、自炊できる人間の特権的な台詞だ!人の手料理には、あったかみってやつがあるんだぞ!分からんとは、薄情者め!」
「……確かに、そうかもね」
そう言われても、反論する気になれない。いや、できないのか。
「いやいや、そこは否定してよ!ほんと美味しいんだから、自信持って!」
「……気持ちはありがたく受け取っておくよ」
「変わり者め〜。そんな奴には、この唐揚げは譲らん!」
「あ、それ……私の唐揚げ……!それ目当てでこれ買ったのに……」
「ざまぁみろ!悔しかったら自分で作ることだな!」
何の意味もない、くだらないやり取り。
でも今は――このどうでもいい会話が、やけに楽しく感じていた。
*******
「で、いつまでいるつもり……?」
夕飯を食べ終えたあたりで帰ると思っていたので、特に何も言わなかった。だが、そうはならなかった。
「え? どうせなら泊まってこうかなって」
それは非常に、色々な意味で良くないのだが。いや、本当に色々な意味で。
「帰る気は?」
「ない!」
「な、なんで……?」
「そりゃあ、朱里がひとりじゃ寂しかろうと思って、だな」
「……」
たぶん、自分のためでもあるのだろうけど。こうやって心配してくれるのは素直に嬉しい。
その好意を無下にするか、受け入れるか。悩ましい。
常識的に考えれば、帰ってもらうのが正解だ。
色々リスクもあるし、向こうは知らなくても俺は男なわけで。
でも、拒むのも忍びない。うまくやれば、これはこれで……一石二鳥?
そんな思考を巡らせていたとき――
「ひまりって、朝弱い?」
「ああ、とても。朝はこの世の敵だ」
「なら、いいか……」
「逆に?! 普通、朝が強いならしょうがないなって流れじゃないのか?」
「ひまりが言ってた通り、私は変わり者だから」
「さっきのことを根に持っておるな……」
朝が苦手なら、こっちが先に起きて準備する余裕ができる。上手くやればリスクはだいぶ下がるはず。
ウィッグをつけたまま寝ないといけないのは難点だが、寝てる間に多少ズレてもバレにくいかもしれない。
「ベッドも二つあるし、問題ないか」
「そうそう! 悪いけど、先にシャワー借りるね!」
どれだけマイペースなんだ、ひまり。
自分の部屋のシャワーを使えばいいのに、と思っていたら――目の前に痴女が現れた。
「な、なんで裸っ?! ここで脱がなくてもいいでしょ?!」
ひまりは、なぜか全裸で支度を始めていた。
いや、見たくないとか言いつつ、普通に見ちゃってるんだけど……。
「えー? 女同士なんだし、別にいいでしょ? その気もないし。……いや、ある方がむしろ良い方向に働くのかな?」
言っている意味も分からないし、展開についていけない。
確かに、今の自分の状況だと余計に敏感になるのは仕方ない。
同性でも、見られるのが平気な人とそうじゃない人がいるわけで。
ここで変に動揺する方が、逆に怪しまれる気もするし――
どうすればいいんだ、これ。
「……ひまりが気にしないなら、それはそれでいいや。先に言っておくけど、私のは見ないで。絶対に。見ようとした瞬間、普通に殴るから」
「えー? なんでそんなに恥ずかしがってんの? 細身に見えて実はぽっちゃりとか? 気にしないけどなー」
「うるさい。その発言で友人関係、全部終了だから。それは絶対守って」
「はいはい、分かりました。我も嫌がってることを無理にする趣味はない。なんか事情がありそうだし、それに免じて約束しよう」
……とりあえず一安心。
「じゃあ、ごゆっくり」
「言われなくても。のんびりしてくるねー」
そう言って、風呂場に入っていった。
「ていうか、私がまだ入ってないのに……一番風呂取られた……」
にしても、今日は色々あった。
偶然いい友人を得られたのは嬉しい。でも、そのぶん罪悪感もある。
どっと疲れた一日だった。
「タオル忘れてた! そこにあるやつ取ってー!」
シャワーを浴びたひまりの姿は、さっきの裸の時よりもなぜか色っぽく見えてしまって――
相手は俺を信頼してくれてる、女子だ。
……勘違いするな。変な気を起こすな、俺。
「これね……忘れないでよ」
「ごめんごめん! ついうっかり!」
――溜息が出る。
こっちは思春期真っ盛りの男なんだ。何も感じない方がおかしいだろ。
「どうやって発散すればいいんだ……」
こんな調子で、これからの生活、本当に大丈夫か?
自分の理性に期待するしかない。俺は……知らないフリをする。
「ふんふふーん。我、この部屋に住むことにしちゃおうかな〜?」
浴室から恐ろしいセリフが聞こえてきた。
「今のも……聞かなかったことにしよう……」
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