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カチコミ聖女が最前線  作者: 入谷慶
一部一章 災害大国アロホルブ
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2.魔法災害

 街の門に着くと、そこにはいかめしい顔をした門兵が立っていた。ヤノシュは彼に近付くと、世間話でもするかのような雰囲気で話しかける。

 

「よう、お疲れ」

「ヤノシュお前、朝まで巡回じゃなかったか? サボろうってんなら叩き出すぞ」

 

 ヤノシュに挨拶された門兵は険しい表情でそう返した。

 

「誤解だって。森を出た辺りで人を見つけたんだよ。困ってるから色々面倒見てやろうと思って連れて帰ってきた」

「なんだ、そうか。」


 門兵は納得したように頷くと、鞠達の姿を観察する。そして怪訝な顔で矢継ぎ早に問いかけた。

 

「若い女性がこんな軽装で何を? そっちの男たちはどういう関係だ? まさかとは思うが人攫いじゃないだろうな」

「違う違う、この嬢ちゃんの護衛だ。家出したこの子に付いてきんたがその直後に災害に巻き込まれちまったみたいでな」

「……まあ、筋は通るか」

 

 門兵は、ヤノシュの返答に少し考え込むが、鞠達に滞在許可証を渡しながら忠告する。

 

「失くすなよ。街の外から来た人間はそれがないと職探しはもちろん宿を取ることすらできんからな。」


 門を通過した直後、晴翔はヤノシュ達へ疑問を投げかけた。

 

「許可証があれば職につけるっぽいことは分かったんすけど、今日の明日で仕事ってあるんすか?」

「一番手っ取り早いのは冒険者だ。こだわりがあんなら無理強いはしねえけどな。ただ、冒険者以外だと俺とルディクは門外漢になっちまうし、俺としては冒険者をオススメするぜ」


 鞠達はヤノシュに勧められるまま、当面の間は冒険者として生活することを決めた。夜間はギルドでの手続きができないので明日まで待つ必要があるとルディクが説明する。

 

「とりあえず明日はギルドに行くからなんとかなるとして、今日はどうする?」

 

 無一文の鞠達が今日の宿について相談しているのをヤノシュが聞きつけ、会話に加わった。

 

「クルティスという奴がやってる宿屋があるんだが、俺は多少顔が利くから相談してやるよ」


 クルティスが営む宿屋へ着くと、ヤノシュは店主に声をかけた。

 

「クルティス。この三人、俺が巡回中に見つけたんだが着の身着のまま路頭に迷っちまっててよ。明日から俺が冒険者として鍛える予定だから一晩泊めてやってくれねえか」


 ヤノシュの話を聞いたクルティスは、ため息を吐きながらも了承する。

 

「本当に呆れたお人よしだよあんたは。ヤノシュの頼みなら仕方ねえ、一晩でも二晩でも泊まって行きな」


 店主に礼を言う鞠達へ向けてヤノシュが声をかけた。

 

「あんたら腹減ってねえか? すぐそばの酒場が開いてるからメシ奢ってやるよ」

「いいんですか?」

「困った時はお互い様ってな。まあ、悪いと思うんなら気が向いた時に3倍にして返してくれりゃいいさ」

「何から何までありがとうございます」

 

 鞠が深く頭を下げて礼を言い、顕孝と晴翔がそれに倣うと、ヤノシュは珍しく照れたような表情を浮かべて頬を掻いた。

 

  酒場には多くの冒険者が集まっていた。壁には魔物の牙や皮、輝く魔石などが、冒険者の功績を誇るかのように掲げられている。そこかしこのテーブルから魔物や冒険についての話題が聞こえ、しばしば笑い声が響く。

 ルディクが店員に注文を伝えしばらくすると、鞠達に温かいスープやパンが提供された。ヤノシュの前には大きなジョッキが置かれており、その中には並々と酒が注がれている。

 

「今更ではあるが言わせてくれ。三人とも、アロホルブへようこそ」


 ジョッキを掲げたヤノシュに促されて皆で乾杯する。


「まずは腹ごしらえだな。遠慮なく食べてくれ」

 

 すぐに酒を飲み始めたヤノシュの言葉に従い、鞠達も目の前の食事に手をつけた。


「この街は王都からは遠いが森と迷宮、鉱山に囲まれるような位置にあるから冒険者にとっちゃ便利な場所なんだよ。仕事がいくらでもある」

「魔石ってそこの壁に飾ってある石?」


 鞠が好奇心を抑えきれない様子で尋ねるとヤノシュが答えた。


「そうだ。魔石は魔力を含む特殊な資源でな、魔石の方は魔力を使い切ったら終わりだが、魔力自体は日の光みたいなもんで利用しても消えてなくなるわけじゃねえんだ」

「再生可能エネルギーだ……!」

「すげー、魔法使い放題じゃないっすか」


 鞠と晴翔が興奮したように声を上げるのを見ながらヤノシュが続ける。

 

「いいことばかりじゃねえけどな。魔力ってのは不思議なもんでうまく使わねえとバランスがおかしくなるんだよ。たとえば鉱山の魔石を採掘せず放置したり、急に膨大な魔力を使ったりすると魔力が乱れて魔法災害が起こっちまう」

「その魔法災害っていうのはなんだ?」

 

 顕孝の問いにルディクが答える。

 

「自然界で魔力による異常現象が頻発することだ。一番多いのは魔物の凶暴化や大量発生、天災。珍しいものとして時空魔法の災害がある。時の流れが異常な場所ができたり、巻き込まれた人間が失踪する」

 

 彼が語った内容に鞠達はハッとして顔を見合わせ、顕孝が納得したように呟いた。

 

「つまり俺達が突然森に放り出されたのは……」

「ああ、魔法災害に巻き込まれた可能性が高い」

「でもあんたらはかなり運がいいぜ。時空の魔法災害で生き残ったやつなんてまずいねえからな。良くて行方不明のまま死亡扱いだ」

「時空魔法は他国と共同で調査や研究が行われているが未知の部分があまりに多い。迷宮調査中の事故も数えきれないほど起こっている」

「そうなんだ。じゃあ時空魔法を使って帰るのは難しいね」

 

 ヤノシュとルディクの話を聞いた鞠が残念そうな声を出して肩を落とす。

 

「別に魔法にこだわる必要はねえだろ。マリはどの辺出身なんだ?」

「えっと、ユーラシア大陸の東の方にある島」

「聞いたことねえな。エシャムール大陸から遠いのか?」

「わかんない。まずエシャムール大陸のことを今知った」

「なんてこった。こりゃ冒険者になったら地理から教えてやんねえとだな」

「お手数おかけします」

 

 鞠が申し訳なさそうに言うが、ヤノシュは至って気さくに返事をする。

 

「気にするこたねえよ。俺は後進の育成が趣味だからな」

「後進の育成が趣味」

 

 不思議そうに言葉を反復する鞠にヤノシュが声を上げて笑う。


「ああ。昔は王都で軍の教官をやってたんだが、いかんせん歳くうと書類仕事だ、お偉いさんとの会議だのが増えちまってな。肩肘張らずに教官をしたくて冒険者に鞍替えしたんだ」

「筋金入りっすね。面倒見がいいのも納得っす」

 

 ヤノシュが昔を懐かしむようにそう言うと、晴翔が感心したように声を上げ、顕孝もこれまでの出来事を振り返って合点がいったように頷いた。

 

「門兵や宿屋の店主と親しそうだったのもこの街で冒険者の教官をしてるからか」

「そう言うことだ。今いる冒険者に新米はいねえからな、あんたらが来てくれて嬉しいぜ」

 

 ヤノシュは満面の笑みでそう言うと、ジョッキの酒を飲み干しテーブルに置いた。

まり……主人公

顕孝あきたか……鞠の護衛

晴翔はると……鞠の護衛

ヤノシュ……元軍人。冒険者兼教官。後進の育成が趣味

ルディク……冒険者。寡黙だが親切

クルティス……宿屋の店主

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