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世界で一番、静かな魔法

作者: 佐和多 奏
掲載日:2024/01/23

第一章

 おれは、トランプの1番上のカードを中に戻し、指を鳴らした。

 1番上のカードを表に向ける。

 すると。

 また。

 同じカードが出てくる。

「わあ!お兄ちゃんすごーい!ねえ、もう一回やって!もう一回やって!」

「ちょっと待ってなー」

 カードをシャッフルする。

「このカードが・・・」

 アンビシャスカード。

 世界的に有名なマジック。

 中に入れたカードが、指を鳴らすとなぜか上に戻ってくる。

 誰もが目を疑うような、そんな魔法のような手品が、おれにはできる。

 4人部屋の病棟。

 ここはスマホが使えない。

 許可がなければ外出もできない。

 手品の腕を磨くにはうってつけの環境だと思う。

 あなたなら。

 自殺をしたというニュースを見て、どんなことを思うだろうか。

 かわいそう。 

 つらかったんだな。

 そう、思うだろう。

 でも。

 じゃあ。

 おれみたいに。

「羨ましい。そんな勇気があるなんて。」

 そんな風に思う人が、どれだけいるだろうか。

 その女の子は、眠りについた。

 おれは。

 ナースコールのボタンをつなげるコードで。

 自分の首を、絞めた。


 ここは、どこだろうか。

 青い、空。


 おれは、立ち上がった。

 屋上。

 ビルの屋上。

 何人かの人がいる。

 おれは、走って屋上から飛び降りた。

 地面に着くと同時に、また、同じ屋上に戻された。

「無駄だよ。」

 その、茶髪のメガネの男は言った。

「おれも、あいつも、何度もここから飛び降りた。でも、ここに戻された。」


 あいつ、と言って指をさす先には、黒く長い髪を下した20代くらいの女性が床に座っていた。

「私も、電車から飛び降りたら、ここにいて・・・。」

「おれも・・・」

 マッシュヘアで目にかかるくらいの黒髪の男が、賛同した。

「待って、地面に何か文字が書いてある。」

 ポニーテールで茶髪の女が何かに気づいた。

 おれも、それを読んだ。

「自殺禁止区域」

『ようこそ、自殺禁止区域へ。』

 平坦な屋上にそびえる二つのスピーカーから、ノイズ交じりの声がする。

『これから行われるゲームに「負ければ」、現実世界に戻ることができます。そして。』

 少し、沈黙が入る。

 顔をお互いに見合わせる。

『あなたたちがとてもしたかった、自殺も、可能です。しかし、その場合。』

 ザザ、と雑音が入る。

『二度と、ここに戻ることができません。では、ゲームを始めます。最初のゲームは、「大貧民」。負けるが勝ち。大貧民になったプレイヤーは、見事、現実世界へと戻ることができます。』

 体が宙に浮く。

 みんな、体が宙に浮いた。

 丸テーブルと、五脚の椅子が現れ、おれたちはそこに一人ずつ座らされた。

 カードが出現する。

 そのカードが、宙に浮いて、ばらばらに振り分けられた。


 おれの手札は9枚。

 そして。


 不幸なことに。

 2が。4枚。


 3が。0枚。

 「強い手札」。


 しかし、このゲームは、大富豪ではなく、大貧民が、自殺をすることが可能なゲーム。

 とても。


 弱い手札だ


 おれは。

 いつもそうだった。


 何をするにも。


 負け組で。

 いつも。

 ステータスが低くて。



 ゲームが進行していく。


 今なら。

 おれは。

 できる。


 右の人が上がった。


 時計回りで、おれの番が回ってきた。

 革命を。

 起こして見せる。


 今。

 テーブルには札が1枚もない。


 ここで、決める。


 おれは2を4枚、出した。

 革命。


 これで。

 おれの手札は。


 弱く・・・。

 あれ。


 さっきの、茶髪のメガネが。


 Aを、2枚。そして。ジョーカーを、2枚。


「革命返しいい!!」

 そこで、一言。


「おれ、人生で、初めて。」


 目が、ぎらついている。


「楽しい、って、今、思えてる気がする。」

 

 田子健太郎。

 昔から、目が悪くて。

 茶髪で。

 いじめを受けていた。

 いじめられるのに、理由なんて、何でもいい。

 ただ、そいつらの暴力的欲求が、満たされればそれでいいんだと。

 思っていた。

 おれは、その対象であれば、それでいいと。

 でも。


 今。

 思う。


 おれ。


 このゲームをしてる。


 このゲームをしている、この瞬間が、楽しい。

 この世界が、美しい。

 まだ。



 死にたくない。


 どうすれば、最後の一人に残れる。


 左隣のやつは、さっき2を4枚で革命してきた。

 なら。

 おれと同じように。


「強い手札」

 なはずだ。


 だから。


 そいつは、「最強」。

 おれが、最弱になれば。


 簡単に。


 おれが。


 最後の一人に、なれる。


 ゲーム終了。


 大貧民は、おれに決定した。



 おれは。


 現実世界に戻っても。

 自殺はしないだろう。


 なぜなら。


 この世界の美しさを。


 知ることが、出来たから。

 

第二章

 田子健太郎が負けて現実世界に戻ったことにより、おれたちは第二ゲームへと進んだ。

 『第二ゲームは、鬼ごっこです。最後に鬼だった人が、負けです。』

 鬼ごっこ・・・。

『最初の鬼は、ランダムで決めます。』


 そして、茶髪のポニーテールの女の上に、矢印が浮かび上がった。


『制限時間は3分。では、スタートです。』


 みんなが一斉に。


 茶髪の女のところに、駆け寄った。

「私に、タッチしてほしい!」

「おれにタッチして!お願い!」

「おれに!!」

 

「好きです、付き合ってください。」

「ごめん、おれ、好きな人がいるんだ。」


 私は、南原英子。

 いわゆる、夢見がち乙女ってやつかな。

 いつも、好きな人がいて。

 振られてばっかりで。

 また告白して。

 振られて。


 そんなこんなで。

 私。

 自分が。

 わからなくて。

 自分が。

 自分じゃない、みたいな感じがして。


 誰かのために。

 生きている気がして。


 でも。

 自分が生きているって。

 認めたくて。


 本当に好きな人に、ある日、出会って。


 ずっと連絡取り合って。

 最終的に、振られて。


 自殺、したくなって。


 でも。

 私の、鬼の権利を。


 こんなに、必要とされる。


 私って。


 生きてたんだ。

 そう、初めて。


 今、そう、初めて。


 実感した。


 死にたくない。


 だって。


 こんなに。


 嬉しいことが。

 起こるんだもん。


『3分が経過しました。ゲーム終了です。』


第三章

 南原英子が負けたことで第二ゲームが終わり、第三ゲームへと進んだ。

『第三ゲームは、かくれんぼです。時間内に隠れ切ったら、他全員は負け。時間内に見つかったら、鬼が、負けです。』

 かくれんぼ・・・。

 この。


 隠れる場所がない、ところで。



 かくれんぼ。


 黒髪マッシュの男の上に、矢印が表示された。


『制限時間は3分。10数えたら、探し始めてください。では、スタートです。』

「10、9・・・」


 角谷陽太郎。


 名前に反して。

 陰キャラ。


 そんなふうに。


 ずっと言われ続けてきた。


 でも。


 おれ。


 いま。


 目隠しせずに10秒数えてるのに。


 誰も文句言わないし。


 そして。


 だれも。


 隠れようとしない。



 みんな。



「おれの方を、見ている。」


 おれに、見つけて欲しがってる。


 こんなに、注目を浴びた日なんて、なかった。


 いや、一回だけ、あった。


 あの日。



 児童会に、立候補した日。


 演説の場で。


 一言も話せずに。



 その時間、終わりを告げた。




 それから。


 人が。


 怖くなった。



 でも。


 今は。



 この、ゲームが。




 おれに。


 目立つことの嬉しさを。


 教えてくれた

 

 10!」


 おれは、3分間。

 注目を、ただ、浴び続け、誰の名前も、呼ぶことはなかった。


『ゲーム終了です。』


第四章

 角谷陽太郎が負けたことで、ゲームは次に進んだ。

『次のゲームは、「カード当て」です。』

 おれの手元に、ひと束のトランプが現れた。

『神川努さま。あなたが親です。』

 そして、残った1人。

『伊藤静さま。あなたが、子です。』

 おれたちは、顔を見合わせた。

『親が、1番上のカードを見せます。そして、中に戻します。その後に、子は、1番上のカードを、当てます。そこで当てれば、親は、負けです。外れれば、子の負け。なお、このゲーム。勝者には、消滅していただきます。』


 アンビシャスカード、が、使える。


 これなら。


 静さんを。


 生かせられる。


 おれは。


 いつも。


 こうで。


 部活でも、受験でも、恋愛でも。


 全てにおいて。


 おれは。


 ダメだった。


 なら。今回も。


 おれの手品を使って。


 静さんを。

 勝たせて。

 おれは。

 負けを、認めよう。



『では、ゲームを始めてください。』

 おれは、1番上のカードをめくった。


 ハートの7。


 そして、中に戻した。


 ここで、静さんが当てれば、静さんのクリア。


 当てなければ、おれのクリア。


「静さん、このカード、ハートの7だよ。信じて。」


「ねえ、努くん。」

「なに。」

「もし、タイムマシンがあったら、いつに戻りたい?」

「戻りたい過去なんて、ない。」

「そっか。私はね、あるよ。」

「いつ。」


「努くんが、手品を見せてくれた、あの日。嬉しかったなぁ。私、努くんのおかげで、余命1年だったのに、こんなに、生きることが、できたんだ。私は、このゲームに勝っても、負けても、もう、ダメなの。だから、努くん。



生きて。」




「え・・・?」


『わあ!お兄ちゃんすごーい!』


 あの。


 少女・・・?



「努くん。ありがとう。ハートの12。」


 そう、言った瞬間。


 静さんは、消滅した。



第五章

 おれは、目が覚めた。



 病棟に、いた。



 目の前の、ベッドは無くなっていた。


「ああ、あの子ですか。あの子は、余命宣告になってしまってですね。他の病院に、移ったんですよ。」


 先生がそう言った。


「努さんのうつ病も、いずれは、治りますから。」


 そうして先生はおれに、抗うつ剤と精神安定剤を渡した。


 部屋に戻ると、手紙が置いてあった。


「努くんへ。あの日は、ありがとう。


 私、魔法使いになることを夢見てたから、あの日、魔法みたいな手品を見せてくれて、とても嬉しかったんだよ。


 それで、大きくなってね、タイムマシンを開発して。魔法も使えるようになって。


 私と同じ、努くんと同じうつ病を持つ人たちを集めて、ゲームをして、みんなに、1番は努くんに、命の大切さと、生きる喜び、楽しみを、伝えたかったんだ。


 全部、私がやったことなの。ありがとう。最後に。私がいなくなっても、努くんは、いなくならないでね。静より。」


 ナースコールは、ベットの下に落ちていた。


 おれは、死んでいないことになっていた。


 そっか。


 生きても、いいんだ。


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