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ぱんけーきイズでっど  作者: アラタオワリ
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第二章    DAY:LOVE ZERO  #KZ-1

「身体を自由に動かすことも出来なくなって、パンケーキをベッドの横に置いてもらう。

そんな朝をあとどれくらい繰り返すのかな。

どっちかな。回復できるのか、それとも・・・・口から食事が摂れなくなって・・・・中二病の微熱のせいだろうか。

あーあ、日本に戻って来たばかりなんだから、朝っぱら疲れることを考えるのはよそう」

蜂谷風はちやかぜは高層ホテルの最上階から景色を眺めたくなって、上半身を起こして伸びらしい形を僅かにしながら覗く。

「東京って常になんか工事やってんだな。

うっ、ううう、また、痒いや」

彼と量子コンピューターを繋ぐ非接触型の脳インプラント・ヘッドセットを少しずらす。

最近は非接触型ではあるが、以前は毎日首に針状の器具を射していた。そのせいで、首にある唇をすぼめたようなプクリとした穴の痕が時折疼きもした。

― 外においでよ、みんな待っているよ ―

地上で蠢く人々の点が少しずつ塊となり、大きな羽を広げてグイっと少年の前まで上昇し、彼の波長が旨そうな獲物であるかのように執拗に旋回している気がした。

「これは微熱じゃないな。脳が煮えちゃったみたいだ。

アッハッハッハ。

僕は餌になっちゃったんだな。役立たずの重さに這いずるしかない地球の下級有機生命体なんだ。故に死の向こうに明日を見てしまったという僕はこの無様で重たい餌になった肉体が可愛い。だから、自殺行為はクソだと今なら思えるから、食われるもんか

千切れた魂を置き去りにしてでも戻るのもおつな遊びと言えるからさ」

「おーい、こら、また朝っぱらから支離滅裂なお経でも唱えとるんか」

「うっ、びっくりさせないでよ。母さん、おはよう」

「フウちゃんよ、年寄りが物思いに耽ったみたいにして、時差ボケ? 」

「もとから時差を気にするような規則正しい生活をしていないし。ネガティブな美学に興味を持つお年頃なのさ」

「待って、ネガティブな美学って何よ」

一瞬で機嫌を損ねたことに息子はビクッと体をさせて謝った。

「ごめんよ」

零香・ファスビンターは息子の気遣いを素直に受けたが、口調には哀しき怒りが香っていた。

「ふん、まあいいわ。そんな姿の息子に言われたくないセリフってあるのよ。

若さって、死に対して不遜過ぎるから嫌い」

「僕はお母さんより答えを持ってしまっただけ」

「くっ。確かに。

あなたが命を削って新世界を具現化させている『ノベンバー・ソウル・ランド』に私は何も出来ていない。大切な息子の身体に大きな負担をかけているのに、科学者の傲慢さで未来永劫の人間の存在を守る使命感を信じて眺めてきた。

でも、あんたの弱っちい姿を見ると母性には敵わないって思っちゃう。あなたが望むサイバーワールドが未完成になっても私だけのあなたを取るわ。

・・・・6対4でね」

「うん?

微妙~だし、人類の敵~」

波形が急激に不安定になる。

「あら、そう。ずっと、多くの本当に善良な人間が私たちを嫌悪して、理解する気持ちもなく排除されてきた側だから、めちゃ優しいじゃない。

あいつら、善人面してるけど、我慢もせずうんち垂れ流してばらまくド変態よ」

息子は吹き出した。悲しくなって謝った。

「げ、下品。だけど、ハハハそうだよね。間違いではないね」

「あー、もう何よ。

私に優しくない世間は大嫌いだけど、その割にはしっかりと誠意ある大きな器を差し出しているつもりよ。ほらあんた、こんなに下衆レベルな波形の乱れ方しちゃって。

何がKZよ。

へなちょこの分際でイキッちゃってさ。神になろうとしている人間はこんな情緒の凹み方しないって」

「凹んじゃいねえし。それに、何度も言うけど神じゃない。そういうのじゃなくて、自然と距離を取って自らを律してくれるための存在。

偉くないやつ。もういいや、うるさいんだよ。

それよりも、昨日リリースした日本限定のスイーツキャンペーンも反響が凄いよ」

前向きな姿を目の前にして零香はニヤリとしながら、ひねくれた優しさで返す。

「よかったね。でも、身体をいじめるような根の詰め方はすんなよ。

パンクキッズ、楽しんでやんな」

「あ? まあ、いいけど、うん。

なんか、ワクワクするんだ」

「よかった。そうだ、朝食なんだけど」

「日本のコンビニは最高だよ。スイーツも旨いし。高数値も出ただろ」

「まあね、でも二日続けてだとかわいそうかなって思って、今日こそは私が作ってあげようとしたけど、バタバタしていて準備が間に合わなかったんだ」

「準備している姿なんかあったかな」

「うっせえ。モーニングサービスでパンケーキを頼んだから感謝しろ」

「なんだよ、早く言ってよ」

「あ、それショック、それダメ」

ルームサービスを知らせるドアのベルが鳴った。

「ひっでぇ。育て方間違ったか。頭が良くて、優しい子ではあるけど、女の子の気持ちがわからないのは男の子特有?

否、童貞の性かしら」

― ピンポーン ―

再度ベルが鳴った。

「聞こえとるわ。はああ。ハーイ、今行きますよ。お姉さんは今傷ついているんですから、無粋なピンポンはやめて」

扉を開けると同時に礼儀をわきまえた態度に変り、失礼ないようにコンシェルジュに声を掛けた。

「佐藤さんおはよう。中はいろいろ取り込んでいるから、ここ迄で結構ですいいですよ」

「風さまの好みにあいますように生地をシェフが用意をさせていただきますので、食べ終わりましたらご意見をいただきたいと言っております」

「わあ、それは素敵。フウも喜ぶわ、ありがとう」

「あ、お名前を、間違えたでしょうか。申し訳ございません」

「あ、否。カゼで間違いないですよ。ただ、元の旦那以外はカゼって呼ばずにフウなの」

「申し訳ございません」

「イヒヒヒ、あ、御免なさい。気にしないでね」

扉が閉まると少しかがんで、皿に被せているクロッシュをちょっと浮かせて匂いを嗅いだ。

「もう既に旨い。

ねえ、先にCODE解析してポーションを作成するわ」

「ならば、そのまま『NSL』と同時に魂の共有補完してしまおうよ」

「欲しがりなガキね」

サイバー内のワイルドな髪形とは違ったマッシュヘアを軽くなでるつもりが、可愛すぎてワシャワシャしてくる母親を全力でかわそうともがく息子の日常がそこにある。

「やめて、嫌だ。もう、そういうことするから心が疲れて数値が悪くなるんだ」

「失礼ね」

明るい表情の裏側で母親の心は揺れる。愛すべき我が子がさらさら消えていくことを裏付ける数値がモニターにあった。ルームサービスが来たときにベルが鳴らされた瞬間、息子の指を強くつねった時も無反応であった。

零香は深呼吸をして震えを鎮め、気合を入れてクロッシュを可愛い息子の前で持ち上げた。

「匂いから高級だ。力強い助っ人になりそうだ」

「フウちゃん、悪いけどじゃあちょっと測定分だけ頂くわね」

零香は施術のカートの下をのぞいて計量具を探す。

その隙に少年は流れる寸前の鼻血をティッシュで拭い隠した。

「肉体と魂どちらも流れ出している・・・・時間がない。今日は取り敢えずこの一流ホテルのパンケーキのCODEが効いてくれるかな」

零香は弾力値、水分値、小数点以下の材料成分を瞬時に明らかにする機器を使って、カットしたパンケーキの測定分析を始めた。

「もう食べていいかな。感動はより最高な状態でこそだから」

「冷めてしまう前にどうぞ。このメイプルシロップも最高級らしいわ。数滴もらうね」

分析を待ちながら零香は我ながら大したものだと思った。

「最初に、パンケーキを分析しプログラムを生み出してから、改良に改良を重ねてよくここまで進化させたわね」

息子の美味しそうな顔が10歳の頃の天使のフウちゃんと重なった。

「あの、誕生日会のフウちゃんは生意気じゃなくて、本当に・・・・うふふ。

思い出すわ」

息子のパンケーキを頬張る顔が、すべての始まりの時にフラッシュバックさせる。


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