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ぱんけーきイズでっど  作者: アラタオワリ
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# 喋れないきれいな子(1)

 「女の子? 男の子? 

きれいな子だこと」

零香がその子を最初に見た時の印象である。

艶のある肩まで届く長い髪は愛情をもって整えられた美しさがあったから、性別など関係なく存在している美を感じさせた。

シー・ウエイブ社が起業当初に間借りしていた事務所兼倉庫の入り口で、喪服のブラックスーツを身にまとった海上太郎の手を握ったその子供は、パソコンに向かっている零香をじっと見つめていた。

彼女は視線を感じて振り向く。交わった瞳は幸せを拒絶するような死んだ魚の目であった。にも拘らず笑っている様子がとても奇妙なのであった。

海上は乱暴に手を引いて更に中へ入ろうとしたが、その子は笑いながらも足を前に踏み出さなかった。その時、親子を追い抜くように夫の源蔵が入って来て喚いた。

「おい、ぼっとしてんなよ。坊ちゃんに挨拶しな。

そうだ、葬式帰りなんだからお清めの塩を皆にまいてくれ。気が利かないよな」

零香は休憩室代わりの簡易キッチンへ行き、塩を取って戻って来ると先に海上親子に撒いた。父親は息子の頭をポンと一度叩き、再度頭に手を乗せると髪の毛をワサワサと乱した。

秀人シュートです。男らしく短髪にすればいいものを。男だか女だか分からん。

挨拶も出来ない。喋れなくてコミュニケーションも取れない。今日、骨になった母親がおもちゃにした成れの果てです。お恥ずかしい」

美しいその子はさらに大げさな笑顔を見せたが、「やめて」と訴えるような哀しい瞳がそこにあった。

「汗臭いのに、死ぬ前に母親がセットしたらしい髪の毛を洗わせないんですよ。

発見されるまで2、3日だから、1週間くらい経つのか。

笑いながら暴れやがって、本当に訳わからん。しらみでも湧けばいいんだ。

まあこんな壊れたポンコツですが・・・・」

咄嗟に男の子の耳をふさぐ零香に対して海上はニヤニヤ笑いながら続けた。

「ハハハハ、そんなことしなくてもこいつは言葉が理解できないのよ。

聴覚の障害なのか、脳がパンクしているのか」

零香は恐る恐る手を放しながら尋ねた。

「病院には行かれましたか」

「源ちゃんに紹介してもらった総合病院に連れて・・・・

行ったみたいよ、死んだ奥さんだけどね」

おどけたように唇を尖らせて、軽く流していた前髪をかき上げながら続けた。

「CTスキャンから聴覚や脳波までいろいろ検査したけど正常と言われたらしいね。心理的なもので特にこれといった治療もないみたいで。何が影響しているのか判らんけど、結局は精神の病ってことで相手にもしてもらえないからお手上げです。ハハハハハ」

「お前のせいだろう」と、その時の零香には言えなかった。


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