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ぱんけーきイズでっど  作者: アラタオワリ
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第4章    DAY LOVE CROSS # バイバイ麻衣

 麻衣は家に入ると真っ直ぐに自分の部屋へ飛び込んでドアを強く閉めた。

【メイプル・ビーズ】の初のワンマンライブ1日目の興奮は冷めない。ドアにもたれ掛かったままで動けなかった。

頭の中で今日の出来事が走馬灯のごとく倍速でパレードしていた。特にライブ後の特典会でのチェキ撮影の際に、ヒミと話した時間が嬉しいループを繰り返している。


― 「パンケーキすごくおいしかったよ。

それ以上に、あの味はウチにとってすごく大切な記憶と重なる。そして、なぜか君の香りがそこにある気がして。ごめんね、もう一回聞くけどいいかな。

あなたは菓乃じゃない? 」 ―


昨日と違って今の麻衣は、この「菓乃」という音が、微かに香るパンケーキの匂いとヒミの身体の匂いが絡み合った、思い出せない空白にしまわれているように感じていた。。

― 菓乃ちゃん菓乃ちゃん ―

「お母さんに、その記号で私は呼ばれていた・・・・と、思う・・・・」

「麻衣ちゃん麻衣ちゃん」

記憶と同じ声に我に返った。

母が先に帰っていることにも気付かなかったようだ。

確かにあった自分が繋がりたい欲求、未知ではない確かな感触の恐怖に、麻衣は追い詰められた怯えた動物の捨て身の一撃の勢いで部屋を飛び出して母親に問い詰めた。

「私は誰、誰なの、誰? 」

何か隠し事が合って嘘をついた者が見せる特有の汗ばんだ苦笑いをして棒立ちになっていた母が沈黙をおいて、ゆっくり口を開き始めた。。

「カ・・・・

否、ま、麻衣・・・・に決まっているじゃない。何を言っているのよ」

直感的に母親の噓を確信した。

「その声で、菓乃ちゃんって、お母さんは私を呼んでいたのよ。

ああ、急に聞こえてきた。菓乃って呼ぶお母さんの声が頭の中で響く・・・・

何でなの? 」

「何を言ってるの?

あなたは菓乃じゃない・・・・麻衣ちゃんでしょ・・・・

・・・・

ご、ごめん・・・・

・・・・何か思い出したの? 」

麻衣は記憶をたどりながら話していく。

「分からないけど、何か少し闇が晴れていく感じ。

仲良し三人組の子供たちが見えて、時折、光に照らされて顔が揺らぎながら浮かぶ・・・・

そこにいるうちの一人は私だと思う・・・・」

小さなため息で覚悟を決めたのか、母親は娘に向き合った。

「あのね・・・・話さなければいけないことがお母さんには有る。

ヒっ」

インターフォンの呼び出し音が鳴り、母はビクっとしたが直ぐに応じた。

「はい、どなたでしょうか・・・・」

「お母さん? 」

長い沈黙にただならぬ気配を感じた娘はゆっくりと近づいてモニターを見た。

ウルフっぽい黒髪ショートボブの女性がそこにいた。猫の目のような瞳がジッとカメラを見据え、無反応を楽しむように左の口角をゆがませている。

「ねえ、誰? 」

娘の問いかけには答えずに、紗耶は震える手で応答ボタンを押す。

「開けます」

画面の女性は口元だけ少し動かしてニヤリとして、そのままジッとこちらを見据えている。

「菓乃はここにいて」

瞳孔の開いた眼で凝視する麻衣は動けないままそこにいた。

「菓乃? 」

麻衣の頭蓋骨の中では、玄関で静かに会話がなされている波動が強く足音をあげながら暴れている。静寂が大笑いで麻衣を剝くように

― 「菓乃ちゃん菓乃ちゃん菓乃ちゃん

お母さんが今言ったよ

カノカノカノカノカノカノカノカノカノカノ」 ―

化け物の音頭が響く。

四つの足音が地響きを立て玄関から向かって来た。

「お母さん、私は誰なの・・・・」

母が真っ白な顔で口をモゴモゴさせて

「麻衣・・・・」という音が聞こえたけどすぐに母の背後から気配もないまま突然現れた女が言った。

「ごめんね、菓乃ちゃん」

ドンと脳天を重く抑つけられた麻衣は抵抗して女の手を掴む。肌が薄くなめらか過ぎるせいかマネキン人形のような無機質さを感じた。

「体温が感じられない。人間じゃない? 」

動かなくなった娘を心配する母親は乱暴な手際でヘッドセットを押し込む女に慌てて問う。

「れ、零香さん、娘が怖がってます。痛いんじゃありませんか、危険なことはないですか」

何を言われても何の躊躇もなく装着動作を続けながら、

「脳神経内のストッパーを外すだけだから大丈夫よ。うちの子供には毎日施術しているから慣れたものよ。

まあ、だから多少痛くて暴れても気にしない人間になっちゃってますけどね」

そして、フフッッと笑って、仕上げかのように再度、グイっと首を掴んで押し込む。

案の定、少女は呻いた。

「痛い」

「え~? 可愛いな。チュウしちゃおうっと、ふふ」

「あ・・・・」

頬に感触を感じたと同時に足元から白い大地が捲れあがって巻き取られる如くに麻衣の意識は消滅する。戻った目の前にはショートボブの女性。目元の印象を覚えていた。記憶にあるその人物と雰囲気がかなりかけ離れている気がした。

少女の唇をつんつんしながらその女性が尋ねた。

「あんたは誰? 

言ってみ、誰ちゃん? 」

「・・・・鈴野

・・・・菓乃です」

「はい正解。

おかえりー、フフフ。

おひさね」


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