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ぱんけーきイズでっど  作者: アラタオワリ
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# 推し(2)

リンは妃美香にインナーのカラーリングした髪の毛を触られ、ご機嫌に話の続きを始めた。

「そうそう、石倉さんがね、みんなお昼を過ぎてもレッスンを頑張ったから、ランチをおごってくれるってよ」

妃美香は健気な少女に申し訳なくなって頬を優しく撫でながら、

「どうせいつものように打ち合わせ込みだろ。

当然だね、フン」

悪戯っぽく、口元を歪ませて言った。

「ヒミちゃん、相変わらず意地悪なんね、石倉さんには」

「そんなことはない。フフッ。で、どこへ行くって? 」

「先月、駅の反対側の北口にオープンしたばかりの、【スワンソング・カフェ】に行くってよ。SNSでも話題のスイーツがあるみたい」

「何だと!!!

パンケーキあるかな? 」

テンションを上げた妃美香にビックリして、リンは後ずさりした際に足首をくじきそうになってよろけた。

「気を付けなよ」

妃美香はリンの背中へ腕をまわすと抱き寄せる。

「あ、ありがとう」

リンはいつも自分からはよく妃美香に抱きついたりしているのに、抱き寄せられた瞬間に顔を赤らめた。妃美香は。紅くなったリンの頬を触り優しく語り掛ける。

「リンには話したけど、ウチの好きピ主催のイベントが始まったんだよね。美味しいスイーツを教えてくれっていうのね。

マジか、すごい。パンケーキってか。グッドタイミングなんだが。推しのキャンペーンに貢献できる。運命の強さよ。なあ、リン」

グループ最年少の妹はいつものクソガキ感が脱ぎさられてしおらしかった。

「もう大丈夫。恥ずかしいから、いいよ。」

直ぐに顔を下向きにしながらスッと離れて、先に出口へ向かう。

「ヒミちゃん早く行くよ。メンバーに見られたらうるさいし」

「うん? 何が?

待てよ」

スタジオのエントランスにふたりが現れた時、メンバーのアマネが待ちくたびれたようにアップにしていた髪留めを外して、長い髪の毛を振りほどいて首を振りながら言った。

「遅いよ。石倉マネとマリアは先に行っちゃったよ。何をイチャイチャしているのさ? 」

「アマネちゃん言い方、気を付けて。

ヒミちゃんがはまっている『ノベンバー・ソウル・ランド』が開催する重要イベントについて聞いてたのよ」

「あー、ヒミが興味あるバイオレンスなオープンワールドゲームやな。

物騒でしかないやん」

妃美香はアマネの頬を掴んだ。

「黙りな」

「イタイイタイ」

妃美香は指を離し、きれいな導線でアマネの頬を撫でながら煽り始めた。

「まあ、間違ってはいないけど、ゲームの範疇を超えたエンターテイメントだ。聞く耳を持つ奴ならば、すぐに深さがわかるさ。ひねくれ者な分からず屋でなければな」

リンはちょっとふくれっ面になりながらふたりに割り入った。

「さあ、行こうよ、どっち? 」

アマネは道に出て目指す方向を指さし、妃美香の機嫌を取るかのように歩きながら尋ねた。

「でさ、海外のやつだよね、それ。アマネだって知ってるんだから」

「ああ。日本語完全対応しているだけじゃなくて、オープンワールド内の日本観とか見ると、製作チームに日本人がきっちりと関わっている筈。ウチの直感だけど」

リンは妃美香の腕に抱き付いて聞く。

「ヒミちゃんが言っていた、イベントって何? 」

「そうだそうだ。ふたりも協力してくれ。

今、スイーツイベントが始っているんだ。頼む、知っている最高なスイーツを教えてくれないかな。アマネは地元東京だから知ってるでしょう、いろいろさ」

「いや、東京と言っても端っこだから。地元の何の変哲のない店しか知らない。意外とリーダーの方が詳しいかも」

リンも同意して、

「そうそう、マリアちゃんはお洒落な店が好きだからね。【スワンソング・カフェ】も既に行っていて、パンケーキが神だったらしい」

「おう、そんな気がしたんだよ。

優秀確約だ。でも、いまポーションを作成出来る機材無いからどうしようかな」

「ヒミちゃん、何かそのゲームいろいろ機材いるの? 」

「リンはやらんと思うな。頭使うやつ」

アマネは慰めるようにリンの頭を撫でる。

「オイ。アマネちゃん、どういうことよ?

私そんなに馬鹿じゃないもん」

「どうだか、ああ、あ、あれマリアが戻ってきた」

アマネはリンを交わすようにマリアの方へ視線を逃がした。

「アマネ許さん」

「まあ、怒るなよ、リン。あんたに助けてもらったらウチは嬉しいから一緒にやろう」

「分かった。ヒミちゃんやろうね。

あ、マリアちゃん、わざわざ、こっちに走って戻って来るよ」

「慌てなくていいのに、リーダーは本当いいやつだな」

妃美香はそんな日々の何気ない彼女の行動に感心する。

「あ~みんなごめんよ。【スワンソング・カフェ】は定臨時休業だって。しょうがないから石倉さんがよく行く店になったの伝えようと思って」

息が上がりながらも三人の顔を均等に見ながら話した。

だがすぐに、あからさまに機嫌が悪くなっていく妃美香の表情を察して、視線を合わすため少し首をかしげながら覗き込む。

「ヒミどうしたの?

具合悪い?

大丈夫? 」

ムスっとして何も答えない妃美香の心情をリンが代弁した。

「ヒミちゃん、そのカフェのパンケーキを楽しみにしていたんだよ。あれかな、例のパティシエ失踪事件と菓乃影響かな」

不機嫌マックスの妃美香は低い声で呟いた。

「本当に許さん。パティシエは神だぞ。敬意を持たない奴は死ね」

マリアは僅かに表情を歪めながら妃美香の手を握った。

「もう、物騒なこと言わないの。機嫌を直してね。

大丈夫だよ、石倉さんが先に行っている喫茶店にもあると思うよ」

アマネが少し意地悪に言う。

「ご愁傷様」

妃美香はマリアの手をスッと振りほどいた。

「【純喫茶 第九】じゃんか。昔ながらの固めのホットケーキしか絶対にありませんね」

「え、そうかな。たとえそうだとしても、基本が大事でしょ」

優しくなだめるマリアを後にして、妃美香はひとり先に歩いて行ってしまった。

三人は慌てて追いかけていく。

「え? ヒミちゃんはあまりそんなことじゃあ機嫌悪くしないのに。アマネちゃん知ってる? 」

「ゲームかなんかのミッションがあるみたいなんだけど。リンの方がまだ私よりも詳しいよ」

「ヒミちゃんは今『ノベンバー・ソウル・ランド(NSL)』にはまっているの。

バーチャルワールドで、ゲーム性というより、そこに第二の人生を体感するようになっていくんだって。ネットで調べたら、実生活よりも生きてる感が強くなって危険だっていう否定的な意見の人たちもいるみたい。

でもそんなこと口にしたらダメだよ。ヒミちゃんに説教された経験者からのアドバイスです」

グループの聖母たるマリアは先を歩くヒミに目をやりながら深刻な表情をした。

「え、ヒミちゃん大丈夫かな。お金騙されたりしないかな。外国のって危なくない?

日本の会社が運営している安心安全なアプリの『きもちラボ』の方がいいのに。自分発見をして感情が整えられるし、カフェとかスイーツとかおしゃれデータ満載で役立つのに」

マリアが予想外に心配性を発動させてきたので、リンはこれ以上話すと勘違いして厄介なことになりそうな予感に怖くなってきた。

「わかんない、わかんない。

そういう噂もあるかな~ってことだから。変なこと言ったらリンが怒られるんだから。

あ、ほら、ヒミちゃんが睨んでる」

【純喫茶 第九】の看板の前でヒミが仁王立ちをしてリンを待ち構えている。

「オイ、こら!

リン、なんか余計なこと言っただろ」

「ヒミちゃん誤解だよ。ねえ、みんな~」

助け舟を乞うようにアマネとマリアを見てから、恐る恐る妃美香に視線を戻すも、状況に耐えきれなくなって、喫茶店へ逃げ込んでいく。

「わあああ、言ってない言ってない言ってないよ。

ディスってなんか」

「ディス?

おい待てよ」

妃美香はリンを追いかけて喫茶店に入っていく。


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