契約
やっと、結婚阻止するための作戦がスタートです。
ということで、善は急げ。
結婚阻止作戦を実行することにした。
向かった先は、マルクのところ。
「ねえ、マルク。モリリオン先生の限定本って、欲しい?」
「限定50部の、あのまぼろしの本!! 欲しいにきまってるよ!」
私は厳かに袋に包まれた本をマルクの前にさしだす。
「手に入りました」
「えええーっ!! どうやって?!」
「そりゃあ、王女のコネを使いまくりました! が、さすがモリリオン先生。それでは手に入らず、私の宝物の1冊、リッカ先生のこれまた幻の絶版本と交換してくれる人を見つけて、やっと手に入ったの」
そこで、マルクが首をかしげた。
「えっと、アデルは、モリリオン先生より、リッカ先生のファンだよね。なんで?」
ここで、私はずりっとマルクに近寄った。
さあ、勝負だ。
「この本をマルクにあげるかわりに、お願いがあるの」
マルクは、目は本を見たまま、逆にずりっと後ろにさがる。
「…お願いって、なに?」
「わたしと婚約してください」
「…」
「ねえ、聞こえた? わたしと婚約してください。ほら、この本あげるから」
「はあ?! いやいや、おかしいよね。なに、その変な婚約の申し込み。それに婚約してるよね」
「わたしは了承してない。ユーリと結婚したくないもん。だって、ユーリの怖さ、わかるでしょ」
マルクは即座にうなずいた。あの美貌の裏に隠された本性を二人ともよ~く知っている。
「結婚したら、こんな好きに本をよんで、だらだらできると思う? ユーリに管理されるにきまってる。しかも、ユーリ基準でふりまわされるんだよ。怖すぎる」
「まあ、確かに。アデルには気の毒だけど、兄様は気分で人を操るし、特にアデルをおもしろがってるから、そうなるだろうね…」
私はマルクの意見にうんうんと力強くうなずく。
「だから、マルクと結婚するの。ほら、同じ公爵家だから、相手がかわっても、他の人ほど波風たたなくない?」
「それは違うと思うけど…」
「そりゃ、どっちかが好きだったりしたらもめるだろうけど、私たちは、完璧な政略でしょ。私と婚約解消しても、ユーリは選び放題。年頃の女性たちも大喜び。そして、ユーリのひまつぶしのためのターゲットも他にうつる。うん、いいことずくめじゃない」
マルクは納得いかない顔をして、首をひねっているが、私は、かまわず、話をつづける。
「ほら、幸い、マルクも婚約者はいないし。だから、私とマルクが、結婚したいってことにしたら、穏便に、婚約を解消できていいかなって」
「えっ、じゃあ、ぼくとアデルが結婚することになるの!?」
「なに、そのちょっと嫌そうな顔、失礼なんですけど」
私が怒った顔をすると、優しいマルクはあわててつけたした。
「いや、もちろん、友達としては好きだけど。うーん、結婚とかは考えたこともないから、…どうなんだろうって…」
「あっ、大丈夫。わたしも同じ気持ちだから。でも、心配ご無用。マルクに好きな人があらわれたら、解消するし、そうならなくても、ユーリが他の人と婚約したら解消するから」
「じゃあ、そうなった後、アデルは、どうするの?」
私はフフフッと笑っていった。
「最終的には、シンガロ国に行こうと思う。だって、ここより、物語本も多いし、なにより、私の尊敬するリッカ先生もいらっしゃるしね! そうなったら、どんどん翻訳して、マルクに送るわね」
「っていうか、じゃあ、ぼくにだけじゃなく、それを仕事にしてもいいよね」
「なるほど! マルクはこっちで売ってもらって、ふたりで出版社でもする?」
マルクの目が輝きはじめた。本好きふたりの夢はひろがっていく。
「じゃあ、モリリオン先生の本もどんどん読めるね」
「あったりまえよ! リッカ先生とモリリオン先生は最優先よ!」
「いいね、それ。ぼくも、そんな仕事がしたい」
「そのために、まずは、私と結婚したいと芝居をうってもらわないといけないわ」
マルクは覚悟をきめて、うなずいた。
「わかった! ぼく、アデルと結婚したいって言う!」
「では、これをどうぞ」
そう言って、わたしはモリリオン先生の限定本をマルクに手渡した。
やった、契約成立だ!
わきの甘い、本好きふたりは夢見がち。そんな二人のアバウトすぎる作戦が続きます。




