隠してるもの
間があいて、すみません。イーリン王女の続きです。
顔をあげた、イーリンさん。
目の下で、厚めにきりそろえた前髪はずっしりと重く、ちょっとの風でも、なびかなさそうな安定感だ。
「イーリンさん。顔をみせてくれてありがとう。目は見たくないから隠してるの?」
イーリンさんは、
「うん。でも、それだけじゃないの…」
と、声がくもった。
「あ、無理して言わなくてもいいよ」
と、私は急いで言った。が、イーリンさんは、首を横にふった。
「アデルちゃんなら、言っても大丈夫だってわかるから。…言いたい」
そう言ってくれるイーリンさんの気持ちが嬉しい。
よし、なんでも言って!
「アデルちゃん、私の家族を見て、何か思わなかった? 王であるお父様、王太子のランサム兄様、デュラン兄様、そして、ランディ兄様」
「そうね…。王様は、最初の印象とちがって、気さくで陽気な方でしょ。王太子様は、優しそう。デュラン王子は、見た目甘いけど、あなどれないわよね。ランディ王子は、…こじらせてる感じかな?」
フフッと、イーリンさんが笑った。
「あ、ごめん。失礼だった?」
私が、思わず謝る。
すると、イーリンさんは、首を横に振って、
「ううん。アデルちゃんと話してると、すごく楽になる。気にしてることが、どうでもいいんだな、って思えてきたわ」
と、微笑んだ。
そして、おもむろに、長い前髪を真ん中でわって、両側に流した。
すっきりと、きれいな形の目があらわれる。
まっすぐに私を見て、
「私の目、どう思う?」
と、イーリンさんが聞いてきた。
「瞳の色がすごくきれい! 淡い茶色で、透明感があって、光の加減では、金色っぽくも見えるわね。私の大好きな琥珀みたいな色。素敵よね!」
と、思ったままを言った。
イーリンさんは息をのんだあと、目をぱっちりと見開いて、かたまった。
え? 突然どうしたのかしら? 目の前で手をひらひらさせてみる。
完全に固まってるわね。
「イーリンさん?! 大丈夫?」
思わず、私が大きな声をだしたので、部屋の入口で離れて控えていた執事のルパートさんが飛んできた。
「どうしました?」
「なんか、イーリンさんが動かなくなって…」
茫然としたままのイーリンさんを見たルパートさんが、驚いたように、
「イーリン様が、目を見せてる…」
とつぶやいた。
え、そこ?! いやいや、今は、固まってるほうが問題でしょ?!
しかも、ルパートさんまでが、イーリンさんを見たまま、驚きすぎて固まってる。
「ちょっと、二人とも! しっかりして!」
そう言って、私はパンッと手をたたいた。とりあえず、気付けには、大きな音よ!
はっとしたように、二人が動き出す。
「急に、どうしたの? 大丈夫なの、イーリンさん?」
私が聞くと、
「ええ、ごめんなさい。驚きすぎて、思考がとまってしまったわ。ルパート、大丈夫だから」
「承知しました。私も驚きすぎてしまいました。失礼しました。アデル王女様」
ルパートさんはそう言うと、また、部屋のドア付近に戻っていった。
「何に、そこまで驚いたの? イーリンさんの目の印象を話しただけで、何も驚くようなこと言ってないよね?」
私の言葉に、イーリンさんが首を横にふった。
「すごく驚いたわ。私の目をそんな風に褒めてもらったの、初めてだったから」
「…えええ?! そんなに素敵な色の瞳なのに?」
こっちが驚いてしまった。
すると、イーリンさんは、寂しそうに言った。
「この国の王族の瞳は、モリスの瞳って言われてるの。モリスって知ってる?」
「さっき、デュラン王子から説明してもらったわ。お料理にでてた、魔法の花が語源のモリスのことね」
イーリンさんは、うなずいて、更に話をつづけた。
「私の母のように、嫁いできた人はもちろん別だけれど、その子どもたちは、不思議と、皆、あの色の瞳になるの。なのに、私だけ違う色で生まれてきた…。小さい頃から、散々、言われてきたわ。モリスに選ばれなかった、かわいそうな王女だって」
「はあああ?!」
あ、ごめんなさい。つい大きい声がでてしまったわ!
「なーんで、花に選ばれなきゃいけないの? 変な言いがかりよね! イーリンさんの琥珀色の瞳、本当にきれいで、似合ってるもの!」
ふと、ピーンときた。
「もしや、さっきの晩餐会で、ユーリに話しかけてきた令嬢も?!」
イーリンさんは、うなずいた。
「筆頭公爵のジェフアーソン家は、王家に引けを取らないくらい力を持ってるの。その令嬢のミラは一人娘で、私と同じ17歳。すごく気が強くて。小さい頃から、散々馬鹿にされてきた。モリスじゃない瞳だなんて、王族とはいえないわ、とか。でも、それだけじゃなくて、ミラの言葉は悪意が強くて、絶対見ないように下をむいていても、その雰囲気だけで震えてしまうの。いつまでたっても、全然慣れなくて、情けないんだけど…」
と、悲し気に目をふせた。
「ちっとも情けなくなんてないよ、イーリンさん。そんなことに慣れちゃダメ! ちゃんと、体が拒否反応を起こして、イーリンさんを守ってるんだよ」
イーリンさんは、また驚いたように私を見た。
そして、
「ありがとう、アデルちゃん」
そう言うと、琥珀色の瞳から、涙があふれでた。
こんな優しいイーリンさんに、なんてことを!
私、猛烈に頭にきたわ! 久々に、体の底から、燃えたぎってる! 許せん!
5日ぶりに投稿しました。不定期更新ですみません…。読みづらい点も多いと思いますが、読んでくださってるかた、ありがとうございます。そして、ブックマーク、評価、いいねをくださったかた、励みにさせていただいてます。本当にありがとうございます!




