いつの間に
馬車の中、続きます。
窓の外を見ると、町をぬけ、田園風景になった。
馬車の揺れと、ずーっと続く同じような景色。
…ガクッ
おっと、眠りかけてたわ。
「昨日眠ってないんでしょ。寝てなよ」
ユーリが優しく声をかけてくる。
よくわからないけれど、アンとユーリもわかりあえたようだし、じゃあ、眠っちゃおうかなと、思ったあたりから、記憶がない。
はっと、目が覚めた。
ここはどこ? …あ、馬車の中ね。天井が見える。
で、顔を横に向け、むかいの席を見ると、アンがすわったまま居眠りをしてる。
アンも私の準備につきあってくれて、寝不足だったろうしね。
…ん? でも、なんか、おかしくない?
アンって、私の横に座ってたよね。なんで、向かい側の席にいるのかしら?
そして、私の頭の下の感触が変よね?
と、思ったら、
「目がさめた、アデル?」
と、美しい顔が、のぞきこんできた。
「ひゃっ!」
思わず、びっくりして、奇声をあげてしまった。
「なになに、どうなってるの?」
と、のぞきこんでる顔に聞く。
「気持ちよさそうに眠ってたよ。ぼくのひざまくらで」
と、色気もれまくりで微笑んできた。
…ええと、情報を整理してよいですか?
今、私、ねころがってますね。
そして、上から、のぞきこんでくる、至近距離の魔王。
頭の下の感触は、クッションにしては固い。
…じゃあ、ほんとに、私、ユーリのひざまくらで眠ってたのー?!
がばっと飛び起きた。
「おはよ、アデル」
耳のそばで、甘ったるい顔でユーリがささやく。
一気に、顔に熱が集中した。
そんな私を楽しそうな顔で、ユーリが見ている。
「ぎゃー!」
思わず叫んでしまった。恥ずかしさで、死ねる…。
アンもとっくに起きていて、目があった。
「アン、アン、ちょっと、私とユーリの間の15センチはどうなったの?! ルイ兄様の命令でしょ? 止めなかったの?!」
と、パニック状態の私は、恥ずかしさの八つ当たりをアンにぶつける。
アンは、
「すみません! それは、…無効となりました」
と、なぜだかユーリを見る。
へ? 無効? ちょっと、文の意味がわからないんだけど?
私もユーリを見る。すると、ユーリは、
「アデルが眠ってる間にね、その15センチを交換したんだ」
と、フフッと笑った。
ん? ますます文の意味がわからないんだけど。
が、わからないまま聞いてみる。
「なにと交換したの?」
「なんだろうね? なんだと思う?」
と、ユーリが小首をかしげた。魔王だけど、小悪魔的な魅力も放出してるわ。
…じゃなくて、アン!
アンの方をみる。目が泳ぎまくっている。
「アン、何と交換したの?」
私が催促すると、ぽつりと言った。
「ムーラン様のチケットです。すみません…。でも、取れないチケットなんです!」
ムーランとは、非常に人気のある男性歌手だ。
そして、アンは筋金入りの熱狂的なファン。
ああ、私の15センチはムーランに負けたのね。
「それなら、仕方がないわ。アンのムーランさんは、私のリッカ先生みたいな存在だものね。私でも同じことをすると思うわ。許す!」
「アデル様! ありがとうございます!」
ククッと笑い声が。ユーリだ。
「ほんと、アデルは、おもしろいね」
私は、ユーリをキッとにらんだ。
許すまじは、ユーリのほうだ。
アンの唯一の弱みにつけこみ、しかも、入手困難なチケットと交換など、さすが魔王。
あなどれない。ぬけめない。ほんと、油断ならないわ!
そろそろ、馬車もおりたいなあと思っています。読んでくださっている方、本当にありがとうございます!




