マカロン
王女と公爵家子息たちとは思えないお茶の時間のはじまりです。
「うわぁ、このマカロン美味しい!」
まっさきに大好きなチョコレートのマカロンを口にした私は叫んだ。
濃厚なチョコレートがたまらん…。
「喜んでくれてうれしいよ、アデル。でも、その大声は、王女として品がないよ」
「はいはい」
適当に返事をしておく。至福のマカロンを口にすれば、耳障りな声など全くとどかない。
となりのマルクをみれば、ストロベリーのマカロンを手に、もともとタレ目な目が、喜びでさらにさがっている。
夢中で、色々な味に挑戦していたが、おなかも気持ちも満たされたところで、目の前でゆったり紅茶をのんでいるユーリに聞いた。
「ユーリ、このマカロン、どこで買ってきたの?」
「フローリアンだよ」
「え! そこって、できたばっかりで評判になってるお店だよね。売切れたらおわりだから、毎朝、早くから並ばないと買えないって。でも、領地とは全く違う場所にあるはすだけど…」
と、マルクが驚いたように言った。
そう、マルクは甘いもののお店についてかなりの情報通だ。
「へえー、そうなんだ。じゃあ、並んで買ってきてくれたんだね」
しれっと他人事のように言うユーリ。
ちょっと、お土産って言わなかった?
が、ま、どうでもいいか。
ユーリは、婚約者や弟のため、自分で並んで買うようなキャラではないもんね。
とりあえず、
「じゃあ、だれが買ってきてくれたの? あっ、もしかして、女性?」
と、聞いてみた。
「まさか、アデルに他の女性が買ってきたものなんて渡さないよ。頼んでないけど、並んで買ってきてくれる人なんて、他に沢山いるからね」
そう言うと、ユーリは、「もしかして、妬いた?」と艶やかな笑みをうかべた。
いえいえ、他の女性がいれば、簡単に婚約破棄に…と期待しただけです。
ふと、となりを見れば、マカロンを手にしたマルクがかたまっている。
「どうしたの?」
マルクは、悲し気にぼそっとつぶやいた。
「このマカロン、誰かの犠牲の上に、ぼくは食べられてるんだなって。だって、きっと兄様に弱みをにぎられている人のだれかが買ってきたんでしょ。なんだか悲しくなっちゃって…」
確かに!
しかしだ、マカロンに罪はない。
「マルク、美味しく食べてしまうことが、マカロンのために、ひいては、その気の毒な人のためになるのよ! 一緒にたいらげましょう」
かたまっていたマルクもうなずき、二人してまた、マカロンを食べ始めた。
目の前からは、ククッと笑う声に続いて、
「ほーんと、ばか…かわいいよね。かわいくない馬鹿ばっかりでつまんなかったけど、癒されるわ」
と、本性丸出しの言葉が聞こえてきた。
ここに悪魔がいます。みなさん、本当、見た目にだまされてはいけません。
次回もお茶の時間、続きます。ブックマークしてくださった方、そして、はじめて評価をしてくださった方、本当にありがとうございます! とってもうれしいです。