泣き、笑う
今回も、引き続き、ロイドの師匠がでています。
さっきまで、完全に気配を消していたマルクが、急に、きらきらした目で師匠をみはじめた。
なるほど、あまいもの好きで、仲間意識がでたのね。
さりげなく、さっき買ったお菓子をさしだしている。
「おっ、これ好きなんだ。ありがとうな。…って、あんた、だれ?」
「アデル王女様の婚約者の弟で、ロンバルト公爵家次男のマルクです」
「長い! おぼえられねえ。マル坊でいいな。甘いものが好きなやつに、悪いやつはいない。マル坊、よろしくな」
師匠の言葉に、マルクはうれしそうにうなずいた。
マルティーはダメで、マル坊はいいの? 釈然としないわね。
まあ、でも、マルクったら、今日一番の笑顔!
マルクを救ってくれてありがとう、師匠!
「さっきの続きだが、結局、土産の菓子…いや、熱意に負けて、ロイ坊も、そこらへんのガキと一緒に、鍛えはじめたってわけ。おれ、武術全般を教えてたんだよ」
「けんかもですけどね」
ロイドがさらりとつけたした。
「まあ、あの時は、けんかっぱやいガキが多かったから、けんかにもルールがあるってことを教えてただけだ。その教えのおかげで、おまえも、けんかふっかけられても、困らなかっただろう?」
「そこまで、ふっかけられてませんから」
しれっと答えるロイドに、フフっと師匠は笑った。
「よく言うよ。ロイ坊は、最初は、見るからに、よわよわしい貴族の子どもだったろう? そりゃあ、他のガキから、きつくあたられてな。さんざん、けんかもふっかけられてただろうよ。が、こいつは、ちっともへこたれない。だれよりも先にきて、だれよりも遅くまで練習する。あっという間に、一目置かれるようになって、だれよりも強くなったってわけ。しかも、今や、王太子の専属護衛騎士。ここらへんのガキのヒーローだ」
「さすが、ロイド!!」
思わず、うれしくなって、さけんでしまう。
「それで、俺は聞いたわけよ。なんで、そんなにがんばるんだって。気になるだろう?」
私はうんうんとうなずいた。
デュラン王子も未知の生きもの、ロイドの生態には興味があるらしく、耳をそばだてている。
マルクは、お菓子を食べながら、師匠の話を聞いている。
「なんでも、王太子の乳兄弟のロイ坊が、王宮の庭で王太子を待っていた時、蛇がでて、ロイ坊は怖くて動けなくなってしまった。助けをよぼうにも、蛇がとびかかってきそうで、声がでない。木の陰で隠れてふるえていたら、あらわれたのが、小さな女の子だ」
ん? それ、なーんか記憶があるような?
「その小さい女の子は、ふるえるロイドの手を無理矢理ひっぱって、一緒に逃げようとしてくれたんだって。自分も、がたがたふるえてるのに、蛇にむかって、こないでー!って、さけびながら」
あ、やっぱり、それ私だよね?
指を自分にむけて、思わずロイドの方を見ると、恥ずかしそうに、目をふせ、うなずいた。
悔しいけど、かわいいわ。私より乙女ね、ロイドさん…。
「そう、それが、お姫さんだよ。ロイ坊は、助けてくれた小さな女の子を、これからはぼくが守りたい。だから、強くなりたいんだって話してくれたんだ」
え、そうなの?! あ、ダメだわ! こういうのに弱いの、私。
感動してしまうじゃない、と思った瞬間、どわーっと滝のように涙がでてきた。
「え、アデル? 泣いてるの? しかも、そこまで泣く?!」
デュラン王子が私の顔をみて、おどろいた声をあげる。
そして、肩がふるえはじめた。
「ククッ、ごめん…。でも、いくらなんでも泣きすぎでしょ?」
師匠は、一瞬あっけにとられていたが、ふきだした。
「いや、…ほんと、おもしろいねえ、お姫さん」
ふたりとも、なに笑ってるの! ここは、泣くとこでしょ! 号泣エピソードじゃない!
「師匠、アデル様を泣かせるのはやめてください」
ロイドが、すかさず、ハンカチをとりだし、私の涙をぬぐいながら注意する。
もう、ロイドが乳母に見えてきた。
「いやいや、この話で泣ける要素なんてないぞ? お姫さん、おもしろすぎるだろうよ」
師匠は、すっかり笑いがとまらなくなっている。
「ほら、アデル。これ、食べたら。泣くとつかれるでしょ」
今度は、マルクがお菓子をさしだしてくれた。
さすが、親友。いただくわ。パクッ、おいしい!
ブッ…。
また、師匠がふきだした。
しかも、「ほんとに、王女か…」と言いながら、笑ってる。
失礼ね! そのつぶやき、聞こえてますよ。
そして、やっと笑いがとまったデュラン王子が、
「やっかいな守りがいるけど、余計に手にいれたくなったよ。がんばりがいがあるね」
と、ほほえみかけてきた。
すみれ色の瞳が、すごい色気を放っている。
即座に、私と、デュラン王子の目線の間に、なにかおちてきた。
え、手? 目の前に手がみえる。
と思ったら、ロイドが手刀で、私たちの目線の間をさえぎるように即席の壁をつくっていた。
ブフォッ。
師匠が、またふきだした。
「ロイ坊、その手刀の使い方、斬新だな…ブブッ」
師匠の笑いがとまらないわ…。
今日は2回目の投稿です。ロイドの役目は町の案内ではなかったっけ?というくらい、ロイド自身のアピールになってしまってます。今後もお気楽な話が続く予定ですが、よろしくお願いいたします。そして、読んでくださってる方、本当にありがとうございます!




