師匠あらわる
市場、まだ続きます。
また、市場を歩きはじめると、道具が売っているお店のエリアに入った。
と、そこで、お店からでてきた男性が、私たちを見るなり、
「あれ、ロイ坊じゃないか?」
と、声をかけてきた。
小柄で中年の男性だ。
ロイボウ? 目線を追うと…あ、ロイドのこと?!
「ご無沙汰しております。師匠」
そう言うと、ロイドは、きっちりとお辞儀をした。
「あいかわらず、くそ真面目なやつだな、おい」
口が悪い。ロイドとは真逆のタイプみたいね。なんの師匠かしら?
と、その師匠と目があった。
「お、そちらのきれいなお嬢さんは?」
口は悪いけど、いい人ね。
「こちらは、わたしのおつかえする主、アデル王女様です」
いやいや、あなたの主はルイ兄様でしょ。王太子専属護衛騎士さん。
師匠は、びっくりしたように目を見開いた。
「これは、失礼。王女様だったとは。俺はそういうのに、うといもんでな」
「いえ、お気になさらず」
私はにっこりほほえんだ。
すると、師匠はにやりと笑って、ロイドを見た。
「なるほど。このかたが、おまえのお姫さんか…。念願かなって、おそばにいるんだな」
「念願かなうって?」
私は思わず、聞き返した。
「だまっててください、師匠」
ロイドが珍しく、あせった様子で言った。
見ると、顔が赤くなってる!
え、なんか、かわいい。ほんと、ずるいな、きらきら星人は。
こうなったら、意地でも聞いてやる!
「教えてください、師匠!!」
おっと、前のめりになってしまった。
なんの師匠かもしらないけれど…。
師匠がブフォッと、ふきだした。
「…なんというか、おもしろいお姫さんだな」
あら、なにかでてましたか?
「そう、そこが素敵なところなんですよ」
すかさず口をはさんだのは、デュラン王子だ。
「これまた、えらい男前さんだが、お姫さんの噂の婚約者かい?」
「まったく違いますよ。こちらはブルージュ国の第二王子殿下です」
すぐさま、そして、きっぱりと、ロイドが訂正する。
「まあ、ほんとに婚約者になってしまうかもしれないけどね」
と、デュラン王子が、師匠に笑いかけながら言った。
お願いだから、魔王から魔王への変更はやめて。
「ありえません。…しかし、今の婚約者は、いずれアデル王女様にふさわしい、すばらしい方に変わるでしょうが」
ロイド…、ユーリが聞いたら、凍らされるわよ。
ほら、マルクを見て。急いで、耳をふさいでるわ。
聞かなかったことにするつもりね。
わかるわ、聞いてしまったら同罪、みたいなこと、言いそうだものね、あの魔王は。
怖いわね…。
「なんか、お姫さんもいろいろ大変そうだな」
師匠が、気の毒そうな目で私を見た。
そう、その通り。いろいろ大変なんです。魔王とか、魔王とか…。
しかし、服装からして師匠は町の人。しかも、かなりお気楽な恰好だ。
貴族のロイドとどうやって知りあったのかしら?
「ロイドとは、いつからお知り合いなんですか?」
と、聞いてみる。
「確か、今のお姫さんよりも、もうちっと小さい頃だったかなあ。そうそう、ちょうど、この市場の近くで、俺が、あらくれどもに説教してた時に通りかかってな」
「いえ、説教ではなく、全員のしてましたよ。師匠」
ロイドが冷静に訂正する。
「言ってもきかん奴らだったからなあ。おとなしくさせて、その後、説教したんだったかな? まあ、とにかく、そこへ、ロイ坊がとびだしてきて、弟子にしてくださいって頼んできたのは驚いたよ」
「では、そのくらいで師匠。さようなら」
と、いきなり、話をぶちぎりにして、私を連れて立ち去ろうとするロイド。
こらこら、話はここからでしょ!
あわてるロイドに興味をひかれた様子のデュラン王子が、
「で、そのあとはどうなったんですか?」
と、師匠に続きを促した。
「断ったよ。いかにも、貴族のなまっちろくて、ひょろっとしたガキだし、めんどうだなって。が、こいつは本当にしつこかった。毎日、毎日、やってくるんだ」
「それで、師匠はロイドの熱意にうたれて、弟子にしたわけね」
なんか、良い話じゃない! 感動しちゃうわ!
「いえ、私の持っていく、手土産のお菓子につられたんですよね、師匠」
と、これまた冷静にロイドが訂正をいれる。
「ははは、まあな。おれは甘いもんには目がなくてなあ…」
つまり、食べ物につられたのね。感動をかえして、師匠!
ロイドのお話が思ってたより、どんどん長くなってしまっています。そして、マルク、出番がないですがいます…。気がつけば、初めての投稿から、昨日で30話。ブックマーク、いいね、評価をしてくださった方々、ありがとうございます。読んでくださってる方々がいることがわかって、励みになります。ありがとうございます!