怒ってるそうです
ゆるゆるの作戦は、やはり、ぐだぐだです。
「アデルは、ほんと、うそがつけないよね。まあ、聞くまでもなく、マルクとは何もないことはわかってたけどね。俺の目って節穴じゃないし」
まあ、ばれてますよね。なら、聞かないでよね。
「マルクのことはどうでもいいんだけど。ねえ、アデル。俺、ものすごく腹が立ってるんだ」
え、なに、死刑宣告!?
ふるえる私に、ユーリがのりだしてくる。
「勝手に婚約をやめようとしたこと。俺って、自分の知らないところで、自分のことを決められるの嫌いなの」
ええ、ええ。そうでしょうとも。すみません、私が悪いんです。
「それにね、さっきアデル言ったでしょ。お互い好きでもない政略結婚って」
「だって、それはそうだよね。決められた結婚だし」
ここはしっかり反論。私、間違ったことは言ってないぞ!
「違うよ。俺が決めたんだよ」
「はああ?」
「初めてあった時、アデルを気に入ったから、婚約者になれるよう根回ししたの」
え、初耳なんですが?! しかも、根回しって、怖い…。
「初めてあったとき、私、5歳だったよね」
「そうだね。ばかかわいくて、退屈しないなあって思ったんだよね」
ええっと、それ、褒められてませんよね。
「でも、それは、好きってことじゃないから、やっぱり婚約はやめたほうがいいんじゃない…」
最後のほうは声は小さくなったが、私は頑張って主張した。
「あのねえ、アデル。なんで、俺の気持ちをアデルがきめるの? アデルでも許さないよ」
ゴーッと冷気がただよいはじめる。もともと多量に魔力を持っているユーリ。
ふだん、使うことはないから、コントロールしているのだけれど、ちょっと、もれはじめてますよ…。
ほんと、怖いんですが。
「まあ、でも、アデルの気持ちはよくわかった。好きでもないし、結婚もしたくないってことね。今まで、大切にしてきたけど、まったく、俺の愛が伝わらなかったってことだね」
え、大切? 俺の愛?
気がつけば、美しすぎるお顔が目の前に。
近い! 近いよっ!
「でも、残念。一度、ねらった獲物は逃がさないんだ。手放してあげないよ、アデル。覚悟しておいて」
そう言うと、ぺろりと私のほっぺたをなめた。
「…ぎゃああ!」
とびあがって、さけんだ。
「なんてことするのよ! 私は獲物じゃないのよ! 食べても、おいしくないんだからね」
私はなめられたほっぺたを手でおさえて、とびのいた。
敵に背中は見せられないから、すぐさま、壁にはりつく。
「うん、たしかに。今は、まだおいしくないかもね。もうちょっと待たないと」
そう言うと、ユーリは意味深にほほえんだ。
その妖艶さが、怖い。ここに名女優がいます! …って、そんなこと思ってる場合じゃないわ。
やっぱり、私、食べられるってことよね?!
だから、あんなにおいしいお菓子でおびきよせ、太らせてるんだわ!
前世で読んだ、ヘンゼルとグレーテルの魔女みたいに。
結婚どころか、命の危機がせまってたなんて、びっくりだ。
私はユーリをにらみつけて宣言した。
「絶対、結婚しないから!」
「うん、絶対逃がさないよ。やっぱり、アデルは、おもしろいねえ」
そう言うと、ユーリは、楽しそうにわらった。
なぜだかわからないが、魔王のご機嫌はすっかりなおっているようだ。
ユーリの腹黒さ、これから、どんどん増していきたい!と思ってます。