食べないの?
またもや、ドラゴン保護センターに戻りました。
モリスを急いで持ち帰った私たち。
出迎えてくれたアンドレさんに連れられて、ドラゴンの部屋まで戻る。
うずくまるドラゴンと、離れたところから見守るブリジットさん。
「ドラゴンの様子はどうですか?」
私が聞くと、
「あれから、全く動きません」
ブリジットさんが心配そうな顔をした。
アンドレさんが、私たちが採ってきたモリスのつまった袋をできる限り近くまで持っていき、地面の上にモリスをだして、すぐに離れた。
息をのんで様子をうかがう。
その時、ドラゴンがギーッという声で鳴いた。
「あ、今の鳴き声、モリスの花が見えたわ!」
イーリンさんが、すぐさま見えたものを教えてくれた。
ドラゴンは首だけをあげて、匂いをかぐように、鼻を動かしている。
ドキドキしながら見ていたが、待っても待ってもドラゴンはモリスを食べに動くことはない。
そして、また、ギーッと鳴いた。
体の奥底から振り絞るような声。聞いている方が悲しい気持ちになるような声だ。
「また、モリスの花のイメージが見えたわ!」
と、イーリンさんが言う。
モリスが食べたいのに、食べられないのかしら?
「あのドラゴンは、なんで、モリスを食べに動かないんでしょうか?」
と、ブリジットさんに尋ねる。
「傷ついているドラゴンは、警戒心がとても強くなります。食べたいんでしょうが、私たちの持ってきたモリスが信用しきれないのかもしれません」
「もう少し近くにモリスを動かしてみます」
と、アンドレさん。
「いえ、上司として、それは許可できないわ。あのドラゴンはもともと用心深いから、あれ以上近づくのは危険よ。力が弱ってるとはいえ、近づきすぎると、残った力をふりしぼって、火を吐くかもしれないし…」
と、ブリジットさん、アンドレさんを止めた。
でも、ドラゴンは明らかに弱ってきている。早くモリスを食べさせたい!
こうなったら、
「私が行きます!」
と、思わず手をあげた。
「とんでもない! アデル王女様には、尚更、そんなことはさせられません!」
ブリジットさんが、驚いた顔で、あわてて言う。
「そうだよ、アディー。危ないことはやめて」
と、デュラン王子も同調する。
「大丈夫ですよ、ブリジットさん、デュラン王子! 正確に言うと、私と、火消し達人のユーリが行きますから!」
私はそう言うと、隣にいたユーリの腕をとった。
「…ちょっとアデル、急に何言ってるの? しかも、火消し達人って、なにそれ。変なんだけど……」
ユーリが、あきれたように言った。
「だって、ユーリが一緒に来てくれたら、火を吐かれても絶対に消してくれるでしょ? 私、信頼してるもの。だから、お願い! 私と一緒に来て!」
腕にぶらさがるようにして、ユーリを見上げて必死に頼み込む。
ユーリの青い瞳が揺れた。
「…ずるいな、アデル。どこでそんなお願いの仕方、覚えたの? 断れないでしょ」
「ちびドラゴンなみに、あざといですね…」
ジリムさんが、ぼそっとつぶやいたが、気にしない。
「やったー! ありがと、ユーリ」
「こら、ユーリさんから離れろ!」
猛然と、ランディ王子が近づいてきた。
ん? 離れろとは?
嬉しさでうかれてたけど、そういえば、私って、なにを持ってるのかしら?
改めて自分を見ると、…えっ?!
ユーリの腕を自分の胸にかかえるようにして、がっしりと抱きしめていた…。
私ってば、なんてことを! 恥ずかしい!
あわてて、離れようとしたら、全身をふわりと包み込まれるように、優しく抱きすくめられた。
そして、耳元から声がふきこまれる。
「アデルのほうから、積極的にきてくれるなんて嬉しいよ」
とろけるように甘い声が耳に響く。
一気に顔が熱くなり、胸のアラームが鳴り始めた。
ぞくぞくがとまらない…!
さすが、魔王。ドラゴンよりも危険よね!
更新する時間が取れず、間があいてしまい、すみません! 不定期な更新で読みづらいと思いますが、読んでくださっている方、ありがとうございます! ブックマーク、評価、いいねをくださったかた、励みになります。ありがとうございます!




