俺をハーレムに組み込むな!!!!〜モテモテハーレムの勇者様が平凡ゴリラの俺に惚れているとか冗談だろ?〜
俺の名はアレク。異世界から召喚された勇者様――勇者ユウリと共に旅する冒険者だ。ド田舎の小さな村の出身で、召喚されたてのユウリが行き倒れてたのを助けて以来、ずっと一緒に行動している。
一応、パーティーの盾役だが、ぶっちゃけなんで俺みたいな地味で平凡でゴリラ顔にゴリラ体型のパッとしない男が、あいつらの仲間でいさせてもらえているのかはよくわからない。
あいつは俺より少しだけ年下で、剣術も魔法もこっちの世界に来てから覚えたってのに抜群に上手い天才だ。しかもイケメンで、俺みたいな冴えない男にも優しい。この辺じゃ珍しい黒髪黒目も、引き締まった細マッチョ体型も、冒険者としての才能も、なによりその心優しい性格が、人を惹きつけ魅了してやまない。当然女の子からは超モテモテ、ハーレムものの娯楽小説の主人公みたいな男だった。
旅の仲間は俺らの他にあと三人。三人ともめっちゃ美人で可愛い女の子で、揃いも揃ってユウリに惚れている。
一人目は魔法使いのリリアちゃん。可愛らしい顔と勝ち気で生意気な性格、背は低いが何気におっぱいがデカい、ツインテ金髪碧眼の小悪魔系ロリだ。
二人目は神官のクラリスさん。おっとりした美人のお姉さんだ。優しそうな垂れ目と空色の長い髪と、神官服に隠された爆乳は『エッチなお姉さん』って雰囲気である。
そして三人目、女戦士のレオノーラちゃん。褐色肌のワイルドな見た目と豪快な性格をした姉御肌のオレっ娘。鍛えられた筋肉、夕焼けみたいなオレンジ色のショートヘア、そしてバインバインのデカパイが健康的なエロスって感じだ。
ああ……あの爆乳ハーレムにモテモテだなんて、ユウリの奴め……男として羨ましすぎるよなあ……!
俺は、一応ユウリ自身に頼まれてパーティーに留まってるわけだけど……はぁ。目の前でイケメンがパーティーメンバーの女の子たちにチヤホヤされまくってるのを見るのは、正直、ちょっと精神的に疲れるものがある。
でもユウリめっちゃイイヤツなんだよな……。イイヤツすぎるし完璧すぎて嫉妬する気も起きねえんだよな……。俺と比較して、俺自身のあまりのモテなさに虚しくなるだけで。
「なあ、アレク? どうしたんだよ、僕の顔なんかじっと見て……」
今だって、つい考え事しちまってた俺に気付いて声をかけてくれた。めちゃめちゃ良い奴だよなほんと。
「っ、わ、わるい! ボーッとしてたぜ」
「疲れてるんじゃないか? 盾役のおまえは、僕らより負担激しいもんな……。無理せず休んでくれよ」
ユウリの優しい言葉に、仲間の女子トリオからキツ〜い視線が刺さってくる。言わずともわかるぜ、可愛子ちゃんたち。多分、ツンデレロリのリリアちゃんあたりは『なんで私のユウリくんと冴えないゴリラ男が仲良くしてんのよ〜っ! ちょっとアレク! その場所変わりなさいよ!!』とか思ってるんだろ。うん。俺もそう思う。
……ってことで俺は、やんわりと話の流れを変えることにした。
「サンキューな、ユウリ! でも平気だぜ。丈夫な俺なんかより、可愛いお嬢ちゃんたちを心配してやれよ」
「……そんなの関係ないだろ。僕たちはプロの冒険者だぜ、女性だからって理由で特別扱いするのは、逆に失礼なんじゃないか?」
ああもう、またこういうことをサラっと言っちまうんだよなあ。心までイケメン、ってやつか?
女子トリオも嬉しげに頷いているので、どうやらこの対応は正解らしい。……う〜ん、こういうのわかんないからモテねえのかな、俺。
「やっぱりユウリはわかってるわっ! 古臭〜いゴリラ野郎のアレクとは大違いね!」
「ぐふぅ……! り、リリアちゃん、冗談でももうちょい手加減してくれねーかな!?」
リリアちゃんの追撃に涙目の俺をスルーして、女子たちはユウリに群がり始める。
「そ、それよりっ、ユウリ? あんたこそ怪我とかしてないでしょうね? あんたってば、勇者だからって張り切りすぎなのよ!」
「そうですよ、ユウリ様。お困り事がありましたら、どうかわたくしに教えてください。治療術しか出来ない我が身でも、ユウリ様のお役に立ちたいのです」
「おっと、抜け駆けは無しだぜ、二人とも! なあユウリ、オレだって戦闘なら負けてねーよな!! いつでも頼ってくれて構わねえんだぜ♡」
「だ、大丈夫だって! みんな心配性だよなあ。あ、いや、気持ちは嬉しいけどさ! あははは……」
ユウリは困ったように――男の俺から見ても可愛いなと思える顔で――笑っている。その姿を見た女子三人は、すかさず、同時にため息をついていた。
「……ほんと、無自覚で罪作りよね。天然タラシなんだから……」
「ふふ、そこがユウリ様の素敵なところですからね」
「それにはオレも同意だな! ったく、とんだ男に惚れちまったもんだぜ……」
恋のライバルになるはずの三人だけど、肝心のユウリが朴念仁すぎるせいで妙に仲がいいというか、結託しているというか……。なんとかしてアイツに異性を意識させるために共謀してるみたいな状況らしい。
マジでこのラブコメハーレムパーティーになんで俺が含まれてるんだ!? あれか、主人公の友人枠的な……あるいは比較対象的な……駄目だこれ自分で考えてて悲しくなってきた。
「あのさ……アレク?」
「へっ!? な、なんだよ、妙な顔して?」
思わず考え込んでしまった俺に、ユウリが声をかけてきた。
「ごめん、急に呼びかけたりして。その、おまえと二人きりで話したいことがあってさ……。このあと、宿に戻ってからって、予定あるか……?」
「いや別に、特に予定はねえ……けど……?」
なんだなんだ、この神妙な雰囲気は!? ……まさかあれか、今巷で流行ってるパーティー追放か!? さすがにこの鈍感朴念仁もハーレムパーティーで俺が浮いてることに気づいたのか……!?
だとしたら仕事なくなるからめっちゃ困るような……ストレスは減るからありがたいような? でも別に、ユウリのことは普通に良い友達で仲間だと思ってるしなー。見捨てられたら悲しいな。いやでもこの心までイケメン勇者が追放とかするわけねえか? ないよな?
……じゃあ、なんの用事なんだろ。
考えてみても答えは出ない。俺たちは、宿へと戻る道を歩いていった。
*
「それで? 話ってのは……?」
宿に戻り、言われた通りの時間にユウリの個室へと向かう。
部屋に着くなり、俺はユウリに問いかけた。こういうのは隠しててもスッキリしない、単刀直入に聞くに限るぜ!
「ああ……えっと、その。とりあえず座ってくれよ、ほら、ベッドとかでいいから」
「お、おう……?」
いつになくぎこちない態度に、なにか嫌な話なのかと不安になる。そわそわとしながら腰を下ろせば、ユウリは、いつになく真剣な顔で口を開いた。
「えーっと……、ちょっとした質問っていうか、アンケート……なんだけどな。アレクは僕のこと、どう思ってるんだ?」
「え……?」
いきなりそんな質問をされて、正直戸惑った。ユウリをどう思っているかなんて、考えたこともなかったからだ。
改めて考えてみると――こいつが異世界に来てからずっと一緒だったし、初めて会ったときは頼りないモヤシ野郎だと思ったけど、今は違う。戦闘ではめちゃくちゃ強いし、気遣いもできるし、いつも前向きで明るくて。俺にとっては大事な仲間の一人で。
そう考えると、自然と答えが出た。
「そうだな……あんま、上手く言えねーけど。仲間っつーか、戦友っつーか……うん、相棒的な? 一番大事な友達だと思ってるぜ。……なんか、恥ずかしいなこういうの!」
「い、一番の……!? へ……へへっ、そっかあ……!」
「おい、なんだよ変な顔して。なんか文句あんのか?」
「あっわいや、なんでもない!! ありがとう、今のを聞いて勇気が出たよ」
「なんなんだよ一体……」
ユウリは満足した様子で、ふぅ、と小さく息を吐いた。
「あの……これから僕が言うことは、もしかしたら、おまえを傷つけてしまうかもしれない。でも、信じられないかもしれないけど、僕もおまえと同じように、おまえのことを大事な仲間だと思ってる。その気持ちは絶対変わらない」
「な、なんの話だよ、急にマジな顔して……」
ただならぬ雰囲気に呑まれそうになる。もしやまさか、本当に……パーティー追放とかだったりしないよな?
一抹の不安が過ぎった瞬間、奴は、大真面目な顔をして言いやがった。
「……あのな、僕は……おまえのことが好きなんだ!! 恋人になってほしいと思ってる!! こんなの急に言われたって、困るだけだってわかってる。でも、それでも好きだ……!」
「……へぇええッッ!!?」
――唐突に告げられた言葉に、思考が追いつかない。え、今、好きって言ったか? なんて?
あのユウリが……俺のことが好き!? いやいや待て待て、落ち着け俺! これはアレか、そういうドッキリ的なやつか!? そうだよな、きっとそうに決まって――。
「……返事は、してくれなくても構わない。嫌なら嫌だって言ってくれていいし、その、僕を嫌いになっても仕方ないと思うし。これ以上、黙ってるのは狡いと思って……これ以上嘘をつけなくて。その、身勝手でごめん……」
どう考えてもガチのやつだこれーっ!?
どどどどうすんだよっ、告白されたのなんて初めてなのに、相手があのユウリで? 男で? いったい何をどうしたら……。
「いやっ、その、あの……嫌じゃねえ! こんな程度でおまえのこと嫌いになるわけねーだろ!?」
「っ!? 本当かっ、アレク!?」
「あ、ま、待って。でもあの俺、知っての通りボインの女の子が好きで……だから、おまえのことそういう目で見れるかどうかは……」
うわーっ、思わず何言ってんだ、俺!! こんな返し失礼すぎるだろ!?
しかし、言っちまったもんは取り消せないし。目の前ではユウリが、めちゃめちゃ嬉しそうに目を輝かせているのが見える。
「っ……!! わ、わかった! つまり、一切脈無しじゃないって……少しは可能性があると思ってもいいってことだよな!?」
「えっ!? そ、そうなる……のか、これ……!?」
わかんねえ……モテない=年齢の俺にはわかんねえよう。あとユウリ、おまえそんな欲望ギラギラみたいな顔できたんだな。朴念仁じゃなくて女の子に興味なかっただけかぁ……はは……だからってなんで俺ぇ!?
パニクってる俺にお構いなしに、ユウリは覚悟ガンギマリな顔でこちらに微笑む。
「……わかった。僕、今日から本気でおまえをオトしに行くから。覚悟してくれよな!!」
「はぁ゛!? えっ、えぇええッ!??」
今なんと言いやがりましたかこのイケメン野郎。俺を……オトす……?
「や……やめろ、待て!! 俺までチートハーレムの一員にしようってことか!?」
「ハーレム……? 僕は今も昔もおまえ一筋だぜっ、他の人なんて目に入らねえよ! 安心してくれ、アレク!!」
「待って心の準備ってやつがさあ!!」
よく考えたらとんでもないぞこれ……、こんなのバレたら、絶対女性陣に袋叩きだ。俺が彼女たちの立場ならそうする。俺みたいな冴えないゴリラ男が泥棒猫だなんて信じたくないもん。
「ごめん……でも、好きだ。好きなんだ。愛してるんだよ、アレク!!」
「ッ〜〜!! お、おまっ、なんてことを……なんて顔で言うんだよぉ……!」
うっかり心の中の乙女がトキメきそうになったじゃねえか。くそう……、こ、これからどうしたら……!?
*
……で。それから、どうなったかと言うと。
「ユウリ! アンタの剣、今日もイカしてたぜ♡ それでこそオレが認めた男だ!」
「ユウリ様、治療は必要ですか? よろしければ……その、わたくしの膝枕などいかがでしょう……?」
「ちょっとクラリス! なに抜け駆けしてるのよ!? ……い、いやっ、私は別に、羨ましいなんて思ってもないんだけど……!」
「ん? 僕はそこまで疲れてないぜ。皆こそ大丈夫か?」
今は、森でのモンスター討伐依頼を終えて宿に向かっている真っ最中。相変わらずモテモテのユウリだが、一切それに気づかないのは今まで通り。なのだが……。
「それより、アレク。今日もおまえはカッコよかったな♡ 強い上にそんなにカッコよくて綺麗で、どれだけ僕を惚れさせたら気が済むんだ?」
「どわぁああ!? なっ、なんで俺なんかを口説いてんだよおまえはぁあ!?」
「おまえが好きだからに決まってるだろ!!」
「だとしても他のヤツの前でやるか普通!?」
みんなおまえに惚れてるのに!? どんな嫌がらせだよ!! さっきから三人の視線が痛いぜ……。
「はは、そう照れるなって。いつものことだろ? 僕は、おまえを口説き落とすまでやめないつもりだぜ」
「こんなとこに男気出してんじゃねえよ……!!」
――そう、いつものことなのである。告白のあの日からずっと、隙あらば俺に甘い言葉を囁いてきやがるんだこの男は!!
ああもう……イケメンってズルい。なんか後光が差してる気がするもん。キラキラしたエフェクト纏ってる気がするもん。
でも俺は女の子が好きなんだっ、ムチムチおっぱいのボインちゃんが好きなんだ!! いくらユウリとはいえ、男は恋愛対象外……のはずなのに、なんでドキドキしちまってんだ俺は!!
「くっ……! 勝ったと思わないでよねっ、アレク!! ユウリと……け、けっこん……するのは私なんだから!!」
「わたくしは……二番目でも三番目でも四番目でも、いえ、何番目でも構いません。ユウリ様のお側に侍るのが許されるなら……」
「がっはっは!! オレも同意見だが……アレクはまだユウリの求愛に応えてねえんだろ? なら、第一夫人の座は渡せねーな!!」
いやもう女子トリオもなんで適応してんの。なんで適応した上でライバル認定してんだよ。おかしいだろ。俺までユウリを狙うハーレムの一員みたいな雰囲気になるじゃねえか!! むしろ狙われてる側なんですが!?
「三人とも、悪いけど……僕はアレク以外と恋人になるつもりはないんだ!! そもそもゲイ――男性しか恋愛対象にならないし」
ユウリは、しれっと女子トリオからの求愛を断った。あとついでにしれっと同性愛者だと告白してた。いやいくら振るにしてもその言い方は酷くねえ!?
――なんて、俺がツッコむより早く。ユウリの言葉に、三人の表情が露骨に変化する。
「……う、嘘っ!? ゲイって……まさか、異世界から来る勇者はだいたい女好きだって噂は嘘だったの……!?」
「ユウリ様は……男性が、恋愛対象……? そんな、では、今までのわたくしたちの努力は無駄だったのですか……!?」
「おいおいおい……なんてこったい。オレたち、とんだ道化じゃねーかよ……!!」
いやまあ、ショックだよなあ。好きな男に恋愛対象外って言われたら。なんと言っていいのかわからずオロオロしていると、不意に、三人の体が発光し始める。……なにこれ!?
「……ふ、ふふ。ふふふ!! ならばもう形振り構っていられないわ! ……否、いられないな!!」
「わたくしも……懺悔の時が来た、ということですね。申し訳ありません、ユウリ様。我々は……」
「今まで見せてた姿は、アンタを口説くための仮の姿だったってわけさ! よく見とけ、本当のオレたちは……」
光が収まると、そこにいたのは――俺と同じくらいに厳つくてゴツくてムキムキの男、×3。
一人は、魔法使い風のローブを身に着けた、コワモテのおっさん。オールバックに撫でつけた髪と、ギロリとした鋭い瞳の色は、信じたくないがリリアちゃんと同じ綺麗な金髪碧眼だ。
もう一人は、神官服を身に着けた優しそうなオッサン。筋肉で服がはちきれそうになっている。パッツンに切りそろえた、腰まで届く長髪は……どことなくクラリスさんの面影がある、ような? っていうか新聞とかで見たことある顔な気がするのは気のせいだよな、気のせいであってくれ!!
そして最後の一人は――人間ですらなかった。見上げるほどデカい獅子獣人。レオノーラちゃんが着ていた、戦士向けの装備を身に着けているし、あとタテガミの色が彼女の髪色と同じオレンジ色だ。……嘘だろまさか。
「え、これ、何起きてんの……? ユウリ……?」
「み、みんな……!? これは、どういうことなんだ……!?」
困惑する俺とユウリに、三人のムキムキは頭を下げる。
「見ての通り、実は私達三人も男なんだ。私の本当の名はリリアではない……我が名はゴルドー。異界の勇者、ユウリ。おまえに近づくため……理想の美少女に変身していたバ美肉おじさんだ……!」
「バ美肉おじさんって……あの……、伝説の『バーチャル美少女受肉魔法』の使い手の……!?」
びっくりして思わず解説みたいなことを口走ってしまった。『バーチャル美少女受肉魔法』は、ユウリよりも前にこの地に召喚された異世界人が生み出した大魔法で、理想の美少女に変身することができるという凄まじいものだ。この魔法を生み出した異世界人に倣って、『バーチャル美少女受肉魔法』を習得した者は『バ美肉おじさん』の称号で讃えられる。尋常じゃない努力と魔力量を必要とする魔法で、この世界で知らないやつはいない。
っていうかゴルドーって厳つい名前だなあ!? 可憐なリリアちゃんの要素一欠片もねえなあ……!? これがバ美肉ってことなのか……!?
「そんな……、じゃあ、クラリスさんとレオノーラさんも、まさか……?」
ユウリの問いに、二人は重々しく頷いてみせる。
「ええ……、わたくしは教会で大神官をしておりました、クラウスと申します。教会に訪れたユウリ様に一目で惹かれてしまい……身分を隠すため、女性として旅に同行を願ったのです……」
「だ、大神官様!? 本物の!?」
やっぱりかよ……! こっちはなんか見覚えあると思ったら、新聞で見かけた、教会の幹部クラスの偉い人じゃねえか!?
「騙しちまって悪かったな。オレはレオパルド。見ての通りの獣人さ! 他所の国から来た流れモンなんだが、この国じゃ、オレみてえなのは生きにくくてよ。人間のメスのフリしてたほうが都合良かったモンでな!! あ、でも、ユウリに惚れたのは本当だぜ。オレを番にしてほしいと思ってる!」
「あんたに至っては情報渋滞しすぎだろ……!?」
レオノーラちゃん、もとい、レオパルドさんは、厳つい獅子の顔をぐわっと歪めて豪快に笑う。なんだこれ。なんだよこれ……!?
彼女もとい彼らに言い寄られてた当事者のユウリは、俺以上に衝撃なんだろうなと、ちらりと隣を見れば。
顔を真っ赤にしながら鼻血を垂らしているユウリがいた。
「そっ、そそ、そんな……! つまり今まで僕は、こんなカッコいいガチムチ雄っぱいハーレム状態だったってことか……!?」
「お、おまえ……っ! なに見惚れてんだよ!? 俺しか見ないとか言ったの嘘だったのか!?」
別にユウリに気があるわけでもないのに、ちょっと悔しくなってつい、嫉妬っぽいことを言ってしまった。
「ッ! ち、違うんだっ、アレク!! 僕が好きなのはアレクだけで、今のはそう、ちょっと動揺しただけというか……!」
慌てふためくユウリに、チャンスだと思ったのか。リリアちゃん改めゴルドーさんが、わざとらしくにじりよってくる。
「ふん、そんなこと言って、本当はこのおっぱいに興味津々なんでしょっ? ……間違えた、私の肉体に興味があるのだろう、坊主?」
「そ、そんなっ♡ 駄目だって、僕にはアレクという心に決めた人がいるのにぃ……♡」
美声のバリトンボイスでのツンデレロリ口調はインパクト絶大なわけだが、言い直した方も、男の色気的なオーラが凄まじい。だからって流されてんじゃねえよ、ユウリのやつ……!
「ふふ……構いませんよ、ユウリ様。どうぞ、わたくしの胸で甘えてください。わたくしの肉体はすべて、ユウリ様に捧げたものですので……♡」
「えっ♡ あ、いや、そんな誤解を招くような言い方しても流されねえってば……!!」
男になってもクラリスさん……じゃなくてクラウスさんの包容力は変わらないが、外見年齢が上がったからか、前よりもさらに甘やかしオーラがすごいな。優しいお父さんみたいな。だからって鼻の下伸ばすのはどうかと思うぞユウリ。
「ガハハ!! なんだよ、男ってわかった途端にスケベな顔しやがって……しょうがねえヤツだなあ♡ オレの体も触っていいぜ! オレをユウリのメスにしてくれや♡」
「っっ……! ち、ちがっ、そんな……エッチなのは駄目だって!! 僕はアレク一筋なんだっつーの……!」
レオノーラ……じゃなくてレオパルドさんも、あんま変わらねえなあ……。前より露骨になった気はするけど。あと獣人だから絵面がパワフルだけど。
おいユウリ、ところでなんで俺一筋とか言いながら鼻血垂らしてレオパルドさんに近寄ってんだ??
「ユウリ、おまえ……っ、ムキムキの男ならなんでもいいのかよ!?」
「ち、ちがうっ、誤解だアレク……! その、あの、今まで男にモテた試しがないからどうしたらいいかわかんなくて……!」
「……やっぱり俺以外でもいいんじゃねーか。くそっ、ときめいて損した!!」
思わずついてしまった悪態に、ユウリは、驚いたように目を輝かせる。
「アレク、今、なんて? 僕に……ときめいてくれたのか……?」
「……あっ」
しまった、と思ったときには手遅れだった。ユウリはグイグイと俺に迫りながら、聞いてくる。
「それってもしかして……僕のこと、とうとう好きになってくれたのか……!?」
「ち、ちがっ……、そういう意味じゃねえよ!? ただ、あの、あんなこと言っといて他のやつにデレデレしてたのがムカついたっていうか……!」
うう……これ、言えば言うほど墓穴掘ってねえか!? でもなんか、嬉しそうなユウリの顔を見ると、否定するにしきれないというか……。俺、もしかしてユウリのこと、好きなのか……?
妙にドキドキしちまって、顔が熱くなる。ユウリの顔が近づいてくる。このままじゃキスしちまう、逃げるなら今だって思うのに、魔法にかかっちまったみたいに動けなくて。
――気づけば、唇と唇が重なっていた。
「ッ……!!」
触れ合ったのはほんの数秒だってのに、心臓がバクバク鳴って止まらない。ファーストキスは思ってたよりもずっと簡素で、別に唇もそんなに柔らかくなくてカサついてたけど、それでもどうしようもないくらいに鼓動が早まってる。
「っ、アレク、好きだ……!!」
「おまえ……っ、お、俺のファーストキス……!」
「ご、ごめん、つい! 感極まっちゃって……。でも、受け入れてくれたってことはおまえも、その……少しはそのつもりってことだろ?」
「い、いや……それは、その……まだよくわかんねえっつーか……」
ゴニョゴニョと言葉を濁していたが――ふと、視線を感じて振り向くと、女子トリオ改めバ美肉おじさんトリオが嫉妬を隠そうともせずにこっちを見ていた。
「き、キスくらいで調子に乗るんじゃないぞ、ゴリラ小僧! ファーストキスくらい貴様にくれてやろう、だが、ユウリの貞操は私のモノだ……!」
「アレク様はたしかに素敵な若者です。しかし……わたくしも、ユウリ様をお慕いする気持ちでは負けておりませんからね……!」
「ヒューッ! 唇とはいえ初めてを奪っちまうなんて、やるじゃねえか、ユウリ! そうこなくっちゃあ張り合いも無いぜ。ま、おまえさんの童貞はオレがいただくけどな♡」
「三人とも好き勝手言いやがって……! つーか女子だったときより過激化してねえ!?」
思わずツッコんでしまったが、三人は全然気にする様子もない。
「ふん、以前は理想のヒロインを演じていたからな。だが……ユウリは今の私のほうが好きだろう?」
「だ……っ、駄目だって、ゴルドーさん!! そんな誘惑しないでくれよ!? やっとアレクといい雰囲気になれたのに……!」
「ユウリ様……、わたくしは、アレク様とユウリ様の恋路を応援いたしますよ。……その上で、妾としてでも構いませんので、わたくしをお側に置いていただきたいのです」
「クラウスさん……! そ、そんなこと急に言われても困るし、っていうか、アレクが納得しなきゃ浮気に変わりはないし……!」
「口ではそう言ってても、アンタの体は素直だぜ? そんなとこをこんなにして……仕方ねえ野郎だ♡ オレがちょっくら可愛がってやろうか?」
「か、からかうなよッ、レオパルドさん!! 僕の初めては――ファーストキスも初デートも童貞も結婚も、全部アレクに捧げるって決めてるんだから……!」
グイグイ言い寄る三人の構図は前と同じはずなのに、ユウリのやつが前よりずっと相手を意識してどぎまぎしてるせいか、それとも絵面が男だらけのマッスルカーニバルだからか、ただでさえひどかった疲労度がどっと上がっているような気がする……。
仲間とはいえモブ感覚で眺めてただけの昔と違って、今、完全に俺が巻き込まれてるせいですかね。間違いなくそうだわ馬鹿野郎。
ああ――今日も変わらず、胃が痛い。
「やめろおまえらッ! 痴情のもつれに巻き込むな!! 俺をラブコメハーレムに組み込むなぁあ……!!」
渾身のツッコミさえも、恋に暴走する四人の前ではほぼ無力だ。
――俺の名はアレク。勇者一行の盾役で、地味で平凡なゴリラ顔にゴリラ体型のモテない男で、ムチムチボインな女の子が好きだったはずなのに何故か男しかいないハーレムの主たる勇者に惚れられている、パーティー随一の苦労人である……。