かくれんぼ村 7
人間──宮彩アサカをトンネルへ案内した鬼狐は、ホフクが待っている隠れ家へ向かった。
隠れ家へ戻るとホフクの姿は無かった。
隠れ家の中は拝殿の中と同様に荒らされていた。
ホフクは連れて行かれたんだろう。
アサカに別行動している──と思わせて、こっそりとアサカの後を付けていた女──ヒマリに。
ホフクは小柄で抵抗する力も強くないから、女でも簡単にホフクを連れて行けるたのだろう。
ホフクが連れて行かれた場所は、陰陽師──案内人のヴァニタの所しかない。
鬼狐はツアーガイドに扮した陰陽師の居るであろう場所へ向かった。
「 ホフクを返せ 」
「 可笑しな事を言う。
ホフク君を誘拐しておいて、『 返せ 』だと?
ホフク君は人間だよ。
化け物のお前とは違う 」
「 オイラは化け物じゃねぇ!
オイラは隠れ鬼だ 」
「 そうだ、君は鬼だよ。
鬼はね、化け物なんだよ!
ヒマリ君、ホフク君を安全な場所へ避難させてくれ 」
「 はい、ヴァニタ様 」
「 ホフク! 」
「 キッコ──!! 」
ホフクはヒマリに抱き抱えられながら、鬼狐と陰陽師から離れて行く。
「 ──嫌だよ、離してよ、僕はキッコと居たいんだ! 」
「 可哀想に……鬼に洗脳されてるなんて…許せないわ! 」
「 洗脳なんてされてないよぉ!
キッコは友達なんだ!
僕を守ってくれる友達なんだ! 」
「 ホフク君!
確りしなさい!
正気に戻って!
鬼は化け物なのよ!
化け物とは友達になれないの!!
ホフク君はあれの餌なのよ!
一緒に居たら、食べられるのよ!! 」
「 キッコは僕を食べたりしないよぉ! 」
ヒマリに抱き抱えられているホフクは、少しでも反抗する為にジタバタと動いてヒマリの動きを鈍くしているようだ。
「 ──ホフク! 」
「 さぁ、化け物よ、覚悟してもらおう。
化け物は化け物らしく、人間様に大人しく退治されるんだ! 」
「 …………お前等は何で変わらねぇんだ?
オイラ達は変われたのに……。
何で変わろうとしねぇんだ… 」
「 我々人間が変わる必要などない!!
化け物は我等陰陽師によって排除されるのみ!!
それ以外の結末などない!! 」
「 …………お前等は何時も…時代が変わっても…… オイラ達を怒らせる…。
何度オイラ達を怒らせれば気が済むんだ…… 」
「 化け物を──、お前等を──、根絶やしにする迄だ!! 」
「 ……お前等が……四魂を壊して…お社様を怒らせたお前等が──、祟りを起こした。
呪いを動かしたお前等こそが化け物だ!! 」
「 黙れ、鬼めっ!!
何が、四魂だ!
何が、お社様だ!
そんな者は存在しない!! 」
「 オイラはホフクを助ける。
ホフクを取り戻す。
友達を、お前等の好きにはさせねぇ! 」
鬼狐は対峙する陰陽師に宣戦布告をする。
頑なにモノノケを悪と決め付け排除しようとする人間とは、何処までも平行線で理解し合えないのだと鬼狐は悟った。
過去に悪意に満ちた人間達から虐げられていた自分を、鬼狐一族を命懸けで守り、助けてくれた人間が居た。
鬼だからとか、化け物だからとか、そんな理由で差別なんかしないで本気で助けてくれた。
人間なのに──、人間に住み処を追われ、鬼狩りに遭い、絶滅しかけていた鬼狐一族を守ってくれた人間が居た。
同じ人間──陰陽師に真っ向から逆らって、立ち向かって、鬼狐一族を守り、悪い人間達に見付からない新しい住み処を用意してくれた。
命を一族を救われたから──、だから、人間を襲わないって決めて、人間と関わらないように決めて、ひっそりと生き続けて来たのに……。
「 オイラの代で、御先祖様達が受けた恩を仇で返す事になるなんて──。
…………すまねぇ……シジメノマオロ… 」
鬼狐はフラフラと徘徊している実体化した亡霊を集めると、「 陰陽師を殺せ! 」と命じる。
鬼狐に命令された亡霊は血塗れの刀や斤,槍,クワ等を構えて陰陽師へ襲い掛かる。
まるで意思を持った屍のように容赦なく陰陽師を追い詰める。
陰陽師は式神を呼び出し、亡霊の相手をさせるが、数が多過ぎるのと呪いの力が強過ぎる所為で、陰陽師の式神だけでは対応が追い付かない。
ホフクを抱き抱えて逃げるヒマリも亡霊に囲まれていた。
逃げ場は何処にもなく、どんなに叫んでも誰も助けに来てくれない。
「 ホフクは返してもらうぞ 」
「 ヒィィィッッッ!!!!
来ないでよっ!!
人殺しっ!!
化け物っ!!
よくも…よくも……皆を殺したわね…!! 」
「 オイラは何もしてねぇ。
何かしたのは、お前等…人間の方だ。
拝殿の鍵を壊して、拝殿へ土足で上がり込んで、勝手放題に拝殿の中を荒らして、四魂を床に叩き付けて壊した!!
罰当たりな事をして、お社様を怒らせたのは人間の方だ!!
オイラが人間を許しても、お社様の怒りは治まらねぇし、お前等を許さねぇ。
お社様は罰当たりな事をして、四魂を粗末に扱った人間を絶対許さねぇ。
お社様の祟りを起こしたのは、人間のお前等だ!!
お前等は…お社様に呪われた。
オイラが手を下す迄もねぇ。
お前等人間は、お社様の祟りと呪いで死ぬんだかんな! 」
「 ヒィィィィィッッ!!
いやぁ……いやぁ……いやぁぁぁぁッッッ!!!! 」
呪いの力に負けてしまった陰陽師は亡霊に囲まれると、顔も形も分からないぐらいにメタメタのギタギタに惨殺された。
鬼狐が見逃した宮彩アサカ以外の26名のツアー参加者も宿泊施設を管理していた陰陽師達も全員、1人残らず始末するように鬼狐は亡霊に命令した。
「 ホフク、大丈夫か? 」
「 キッコぉ……。
怖かったよぉ…… 」
「 悪い陰陽師は、お社様が罰を与えてくださった。
もう、大丈夫だぞ 」
「 うん……。
キッコ…助けてくれて有り難う… 」
「 また “ かくれんぼ ” するべ 」
「 うん…… 」