彼方にて
「対象者と同一時間平面上に、“ハンター” を確認しました。」
「数は? 」
「1体だけですが距離は至近、これは拙い! 」
それまで、淡々とプロジェクトを次の段階へ進めていた部下二人だが、“ハンター” とかいうモノが確認された途端に顔色が変わった。
「ハンターの現在位置は? 」
「対象者の自宅! 先回りして待ち伏せしているようです! 」
慌てる部下たちを見かねたリーダーが、ヤレヤレといった風な感じで仕事に割って入ってきた。
「何を慌てている? 敵の介入は想定の範囲だろう。君たちが動き始めて早々に、このプロジェクトはキャッチされていたに違いないんだからな。」
だから、今更慌てるなと部下たちに言い聞かせつつ、テキパキと支持を出し始めた。
「対象者の誘導は可能だな。できるだけ自宅から遠く、人目のつかないところへ連れて行くんだ。誘導に必要なプログラムは私のファイルケースから適当なモノを送っておく。」
それまで傍観者的な立ち位置にいたリーダーがサポートに入ってくれたことで部下二人の表情は忽ち一変した。
やはり、ピンチに陥った時に助け船を出す恩師の存在は、どんなに大人になったとしても心強く感じるモノなのだろう。
「ハンターの足止めは私に任せたまえ。君たちは対象者の誘導先をセッティングしておくように。」
心強いリーダーの指示に従って、部下二人は早速作業に取り掛かった。
しかし、リーダーが何をしようとしているのか、そちらも気に掛かる。
「あの、ハンターの足止めなんてできるんですか? 私たちがハンターの行動に干渉しようにも奴らの脳には予め設定されたプログラム以上の情報を受け入れる余地などありませんから、プログラムの変更やキャンセルも不可能なはずですが? 」
アメリカ人男性の疑問にリーダーは、取り掛かった作業の手を止めないまま、
「ハンターに命令を出そうってわけじゃない。奴の貧弱な小脳を弄って、一時的な運動障害にしてしまうだけだよ。」
と、いとも簡単なことであるかのように答えた。
しかし、それが高度な知識と技術に加えて、繊細さも求められる作業であることを部下二人は理解している。
何よりも、彼らのプロジェクトに於いて毎度悩みの種であるハンターに対して、そんな発想にはなかなか至らない。
「そんなこと、考えてもみませんでした。」
そう言って感心する部下二人に、
「机上でのシミュレーションとは異なり、実戦に於いては臨機応変な対応、柔軟な姿勢、発想の転換が常に求められるものだよ。」
そう窘めてやった。
「但し、長い時間の足止めにはならんからな。セッティングの方を急いでくれ! 」