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癌で余命宣告された私が時を遡って、美少女を助けたり、仲間と一緒に怪獣と戦ったりするお話 ~ RETROACTIVE 1990  作者: TA-MA41式
1991年に至った私が、パソコンオタク、柔道四段の研修医、傍若無人なチビッ子女子高生とチームを組んで戦うお話
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1991年5月5日 日曜日 05:25

 「な、なんで転がってんの? ってか、まさか死んでんの? 」


 新型HUNTERの突進を食らってしまったとか?

 今回の仕事はユージから色々な指示を受けていたが、メインは未来の経団連会長 “ナガセユウキ” の命を守ることである。

 もしかして、


 (失敗? )


 その二文字が頭を掠め、冷や汗が出てきた。

 経団連会長を失うことになったら、どのような未来が待ち受けているのか?

 某国にどんな都合の良い結果になるというのか?


 「ああ、それ別に死んじゃいないから。」


 ケンタから、わりと緊張感のない答えが返って来た。


 「戦うのに邪魔だから、ちょっと寝ててもらっただけ~よっと! 」


 新型HUNTERの突進をかわしながら、そんなことを言っている。


 「死んでないのか? 」


 生きているのならと、少しはホッとしたが、


 「寝ててもらったって、どういうこと? 」


 「目の前にHUNTERが現れた途端、この爽やか野郎、ビックリしてパニクって、怖がって、俺にまとわりついてくるんで、戦うのに邪魔だったから締め落しておいたんだわ。」


 なんて乱暴なことを軽々しく口にする奴だろうと呆れてしまった。

 “ナガセユウキ” はHUNTERではなくケンタに気絶させられてしまっているらしい。


 「そんなことよりも、こいつ攻撃目標をミノルに変えたっぽい。」


 「え? おーっと! 」


 私とケンタの会話を聞きつけた新型HUNTERにとって、低音ハスキーなケンタの声よりも、たぶん私の声の方が耳に留まりやすかったのかも知れない。

 既にケンタの攻撃を食らって身体の彼方此方がボコボコに変形しているにも関わらず、全く怯むことなく攻撃の矛先を私に向けようとしている。

 普通の生き物なら、既に行動不能に陥っているほどのダメージを負っているはずだが、痛覚の無いHUNTERは動ける限り戦い続けて自分の役割を果たそうとする。

 人工生物とはいえ、その姿は天晴というか健気に感じないでもないが、


 「容赦する気は無いっ! 」


 突進してきた新型HUNTERを、その正面に立って待ち構えた私の金属バットによるフルスイングが捉えた。


 「くぅーっ! 硬ぇ! 」


 固いだけじゃなく、重さも新型HUNTERは旧型の倍近くはありそうだった。

 それを受け止めたおかげで、先ほど痛めた左肩にズシリと響いただけではなく、全身にビリビリくるほどのダメージを食った。


 「良し! お見事っ! 」


 立っていられずに膝を突いた私に向かってケンタの掛け声が飛んできた。

 私の一撃により新型HUNTERの頭部は破裂し、完全に動きを止めて地面に横たわっている。


 「じょ、状況終了、か? 」


 「だな。」


 差し出されたケンタの手に引き上げられるようにして立ち上がり、近くの石造りベンチに腰掛けた。

 2メートルほど離れた向かいに置かれたベンチの陰には、“ナガセユウキ” のジョギングシューズを履いた足が見えたが、今はこっちのダメージ回復が先なので、正直言って心配してやるほどの余裕は無い。

 死んでないのなら、どうでも良かった。

 締め落した本人であるケンタに面倒を見てもらうとしよう。


 「飲めるか? 」


 ケンタが道具入れのバックの中からスポーツドリンクを取り出して私に寄こした。

 そんなモノが入っていたのか、準備の良い男である。


 「スマン、栓抜いて! 」


 左肩が痛くて力が入らないのだ。


 「とりあえず湿布するか? 持ってきてるぞ? 」


 ケンタは意外に気配り、気遣いの男だったりする。

 万が一のことまで考えて、湿布薬まで持ってきているとは感心する。

 だが、こういう時には本当に有難い。


 「ここ、地面が土だから、こいつら川まで運ばなくても穴掘って埋めた方が早そうだな。ミニスコップ持ってきといて良かったわ。」


 そう言って、ケンタは移植ベラとスコップの中間ぐらいの大きさの道具をバックから取り出した。


 「へ? 」


 この男、用意が良いのは分かるが、なぜ、そんなモノを持ち歩いている?

 スポーツドリンクや湿布薬は分かるが、こいつの頭の中では、どんな脈絡で穴を掘る道具が必要になる予定だったのだろうか?

 呆気に取られている私を置き去りにして、ケンタは人が滅多に歩かないであろう園内の縁に生えた木々の隙間を選び、小型のスコップを使って穴を掘り始めた。

 新型HUNTERを相手に一戦を終えたばかりなのに、何事も無かったかのように作業に入っている。

 さすが柔道4段、並みの体力ではない。


 「ところで、サユリさんの方は大丈夫なのか? ミノルがこっちに来たってことは大丈夫なんだろうけど。」


 そう言えば、ひと段落したようで、実は全然していなかったのだ。。


 「サユリさんは掠り傷程度だったから大丈夫っちゃ大丈夫なんだけど、今頃は別件でヤバイことになってるかもしれないけどね。」


 ジャージの上を脱ぎ、ケンタに渡された湿布薬をTシャツの襟もとから手を差し込んで左肩に貼り付けながら、この後でかなり面倒臭いことが起こりそうでウンザリしていた。


 「ヒシイさんとマシマさんにバレてんのさ。」


 「バレてるって? 何が? 」


 「これのことだよ。」


 湿布を貼り終わってTシャツの襟を直しながら、公園内に転がるHUNTERの死骸、ベンチの陰に転がる “ナガセユウキ”、それら全部を右手で指してみせた。


 「ああ、そりゃかなりヤバいな。」


 「こっちを片付けたら、俺らも行った方が良いと思うぞ。」


 「だな。」


 湿布のおかげで左肩の痛みが幾分和らいだし、呼吸も正常に戻ったので、


 「俺も手伝うわ。スコップはもう一丁無いのか? 」


 と、声掛けした。

 まったく25歳の若さと体力と復元力は有難い。

 62歳なら2、3日も寝込むところである。


 「道具はこれしかないから、ミノルは他の死骸持って来てや。」


 「ああ、そっか、って・・・ 」


 先に倒した2体を取りに行くということは、おそらくJK3人組みで絶賛拗れ中の現場を通ることになる。


 「うひゃ~、めんどくせぇ! 」


 しかし、人通りが少ないうちに後片付けをしとかないと、もっと面倒臭い事態になる。


 「んじゃ、行ってくるわ。よいこらぁせっと! 」


 渋々立ち上がって、せっせと穴掘りを続けるケンタに、


 「あっと言う間に随分デカい穴掘ったけど、間違って未来の経団連会長まで埋めるなよ。」


 「おお、気をつけるわ。」


 既にHUNTER2体分なら埋められそうなほどの穴を掘り終えていたケンタに冗談を言ったつもりなのだが、


 (こいつ、一緒に埋めちまいそうな勢いで怖いわ。)


 過去(未来なんだけど)にどんな経緯があるのか知らないが、ケンタは財界に良いイメージを持っていないらしい。

 そのことについては、いずれどんな事情があるのか聞いてやることにして、ついでに爽やか好男子にも良いイメージを持っていないようである。(その点は私も同意)

戦うのに邪魔だからと締め落して、ベンチの横に転がしておくとか、けっこう雑に扱って平然としている。

 この後に起こして、キツーく口留めするという段取りを踏まなければならない。

 「ジョギング中に大通公園で化物に襲われました」たなどという戯言を誰も信じないと思うので、気を失わせたまま放置しておくという手も考えられるが、下手に警察を呼んできて彼方此方調べられたら、何か厄介なモノを見つけられるかもしれないし、我々の顔を見られているので後々のことを考えたら、口留めはしておかなければ安心できない。


 「今回は口留め3人分かい。色々、しゃーねーなぁ。」


 そんなことを考えながら、“北海道文学館” の正面に向かって歩き出したのだが、その途中に落ちている例の磁石に目が留まった。


 「ああ、これも拾っとくか。」


 何気なく腰を屈めて磁石に手を出したら、


 「うあっつ! 熱っついわ! 」


 思い切り指先を火傷した。


 「当り前じゃん。キュリー温度450度だぞ。」


 色々あって、肝心なことが頭から抜けていた。

 ケンタが何を馬鹿なことやってるんだと言って笑っていた。

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