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癌で余命宣告された私が時を遡って、美少女を助けたり、仲間と一緒に怪獣と戦ったりするお話 ~ RETROACTIVE 1990  作者: TA-MA41式
1991年に至った私が、パソコンオタク、柔道四段の研修医、傍若無人なチビッ子女子高生とチームを組んで戦うお話
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1991年5月5日 日曜日 05:18

 この場にいてはいけない人、我々が何をしているか絶対に知られてはならない人がいた。

 HUNTERとの戦闘真っ最中にやってきたのは、あろうことかサユリさんの御学友 “菱井里香さん” だったのである。


 「リカっ! どうしたっ? 」


 「アラヤシキさんが、変な白いお化けに! 」


 当然のように、もう一人のご学友 “真島由紀さん” もいらっしゃったようである。


 (もう勘弁してよ! サユリさ~ん! )


 ホテルで同室の二人に気付かれないように抜け出して来てるのか? と、確認した際には、


 『当り前でしょ、あたしを誰だと思ってんのっ! 』


 と、自信満々で応えていたサユリさんだったが、考えてみれば、あんな寝起きの意識朦朧状態で部屋を抜け出して来てるわけなので、友人たちを起こさないように注意深く慎重に行動などしているはずがなかった。

 朝早く抜け出したことなどバレバレだったに違いない。


 (んでもって、これって “部屋を抜け出したまま帰ってこない友だちを心配して探しに来た” とかいうパターンでしょ! )


 そうでもなければ、夜更かしした翌朝の5時台に揃って現れるなんて有り得ない

 どうやって我々が “北海道文学館” にいることを知ったのか?

 たまたま探し当てたのか、それとも後を付けられたのか、


 (いずれにしても、こりゃ説明と後始末が大変だぞ~! )


 だがしかし、


 (ヒシイさんのおかげで助かった! HUNTERの気が反れた! )


 この新型HUNTER、どうやら音が聴こえているらしい。

 今までのHUNTERは、目や鼻や耳も無いのにどうやって獲物を捉えているのか不思議だったのだが、新型はEATERと同じく音に反応するらしい。

 今まで私の逃げ回る音に反応して襲ってきていたようだが、ヒシイさんが上げた悲鳴に意識を取られ、私に背を向けようとしている。


 (新しいターゲットを見付けたってのか? 殺らせねーぞ! )


 HUNTERは明らかにヒシイさんと隣にいるマシマさんをターゲットとして認識し、私を追い込んでくれた突進ジャンプを二人に向けようとしていた。

 掠っただけで私が弾き飛ばされてしまったあんな強烈な一撃を食らったら、華奢な女子高生など交通事故並みの衝撃を受けて、悪くすれば即死である。

 しかし、そうはさせない。

 どんなにパワーアップしていようが、HUNTERの頭の中身は昆虫以下である。

 新しいターゲットが見つかれば、それまで相手にしていたターゲットがいたことなど、スカっと忘れてしまうらしい。

 このチャンスを見逃したりはしない。

 足早にHUNTERの右斜め後ろに移動した私は、目の前にある無防備な背中の向こうに楕円球体の頭を確認するや、その付け根を狙って金属バットを力一杯振り落とした。


 ボギ、ベギッ、ブチッ!


 頸椎を叩き折り、肉を破裂させ、そして力任せに首を引き千切る。

 これまでのHUNTER狩りでは感じたことの無いリアルな感触が金属バットのグリップから伝わって来た。

 思いがけないピンチからの逆転を味わったことにより、私の神経が過敏になっていたのかも知れないが、これにより明らかに旧型とは異なる新型HUNTERの素材感を両手にしっかりと感じ取ることができた。


 (やった! )


 頭を無くせばピタリと動かなるのは新型HUNTERも同様のようである。

 これで私のピンチは去ったが、


 (サユリさんとケンタ! )


 直ぐに応援に駆けつけなければならない。


 「アラヤシキさん! 大丈夫ですか? 怪我してませんか? 」


 「なんなんですか? この白いのは? 化物? 妖怪? 」


 答えてあげたいのは山々だが、今は時間が無い。

 後で、サユリさんに責任を以って説明してもらうことにしよう!


 「サユ、何処にいるんですか? 白いの他にもいるんですか? 」


 その質問にも答えず、


 「二人はここにいて! 」


 と言い残すと、私は脱兎の如く駆け出した。

 目標はサユリさんの持ち場である建物の左側面に開けた通路。

 正面入り口から敷地に入った見学者が、裏手の公園に抜けるために設けられたレンガ舗装された道の途中である。

 そして、大急ぎでけつけた私の目の前で、サユリさんとHUNTERの1対1の死闘が繰り広げられていた。

 正面入り口周辺に比べて幅が狭く、新型HUNTERの跳躍力や突進攻撃には向かなそうな場所だと思っていたのだが、


 (この新型、飛んでるのか? )


 飛行能力を持っていたりはしていないが、そう見えたのは建物の壁面や立ち木を利用して、HUNTERが跳躍を繰り返し、立体殺法でサユリさんを翻弄しているからである。


 (こいつら、絶対に今までヤツより情報量大目に作られてるぞ! )


 素材を変更し、筋力を強化し、新しい戦術をプログラミングしてるのだから、旧型よりもデータが多くなっているのは間違いない。

 つまり、Time transfer device の性能がアップしたということなのだろうか?


 (そうだとしたら、厄介な話だが・・・ )


 それについて考えるのは後。

 今は目の前にある問題解決の方が先である。


 ところで、新型HUNTERは音も聴こえるらしい。

 それは新戦術を実行するために必要とされる新機能なのだと思うが、戦闘時には弱点にも成り得る。


 「この化物ぉ! こっち向けぇ! うらぁりぉりゃりゃりゃーっ! 」


 単純なモノである。

 小柄なサユリさんを、頭上からの立体攻撃で追い詰めていた新型HUNTERが、より大きな音を立てた私にあっさりと気を取られた。


 「化物ーっ! こっちを見なさーいっ! 」


 「えっ? 」


 後ろで甲高い声がした。

 もう覚えてしまったヒシイさんの声である。


 (どうしたらいいのコレ? )


 正面で待ってるように言ったのに、ついてきてしまったのか?

 ヒシイさんの登場に一瞬戸惑っていた私の頭上に新型HUNTERが迫ってきていた。

 動きの素早い新型を相手にする際には、一瞬の油断や躊躇が命取りになる。


 (ヤバっ! )


 咄嗟に振り返って、後ろに立っていたヒシイさんを両手で抱きかかえながらHUNTERの進路から逃がそうとした。


 「えっひゃーっ! 」


 なんか、私の腕の中で変な声がした。

 うっかり女の子の身体のヤバい所を触ったかな? と、余計なことを心配し掛けたが、それを打ち消すほどの迫力ある気合が間近で響いた。


 「チェーッス! 」


 猛然とダッシュで突っ込んできたのはサユリさんだった。

 立体的に襲ってくる新型HUNTERに翻弄され体勢を崩していたサユリさんだったが、それを瞬時に立て直してしまったようで、勢いよくHUNTERと私の間に割り込むと手にした金属バットの一撃で新型HUNTERの右足をぶった切ってしまった。

 相変わらず、凄い運動神経である。

 これで将来は政治家なんぞになってしまうなんて勿体無さ過ぎる。


 「なんなの、こいつ? 今までのHUNTERより硬いわよ! 」


 HUNTERの動きを止めたのは良いが、サユリさんは手がしびれてしまったようで金属バットを取り落してしまった。


 「サユ! 大丈夫?! 」


 「わっ! あちこち怪我してるじゃない! 」


 「え? リカ? ユキ? えーっ?! 」


 そりゃ、驚くだろう。

 絶対に知られちゃならない秘密を知られてしまったのだから当然のことである。

 しかも、これは明らかに自分の不注意によるものだったりする。


 「俺はケンタの加勢と “ナガセユウキ” の救出に向かうんで、後はよろしく! 」


 「あ! ちょ! まっ! 」


 滅多に見ることの無いパニクったサユリさんを御学友に任せ、片足を失ってジタバタしているHUNTERの頭を通りすがりの一撃で叩き潰してから、私はレンガ道を走り抜けて、ケンタが戦っているであろう裏手の公園へと駆け込んだ。

 これで、面倒な状況説明は全てサユリさんに丸投げである。


 「ケンターっ! 」


 そこには1体のHUNTERと向かい合って立つ大男の姿があった。

 跳躍して襲い掛かってくるHUNTERをかわしながら、上手に金属バットを振り回し効果的なダメージを与え続けている。

 流石にケンタである。

 柔道4段の格闘技センスで、まるで闘牛士が牛の突進をかわすように新型HUNTERの攻撃をいなしている。


 「あれ、もう1体いるはずじゃ? 」


 ターゲットを庇いながら2体同時に相手をしているのなら、さぞ苦戦していることだろうと心配したのだが、


 「もう1体は、そこに転がってる。」


 ケンタが指し示す場所には首の無いHUNTERの死骸があった。

 既に1体仕留めて、もう一体も間もなく仕留め終わりそうな勢いのケンタである。

 私やサユリさんが苦労した新型を物ともしないとは、まったく天晴な奴である。


 「ん? 」


 HUNTERは良しとして、“ナガセユウキ” はどうした?

 姿が見えないが何処にいるんだ?


 「ああ、“ナガセユウキ” なら、そこのベンチの陰に転がってる。」


 再びケンタの指し示した方向を見ると石造りのベンチが置かれているが、その陰にはジョギング姿の若者が倒れている。

 一見して、ピクリとも動く様子が無い。


 「え? 転がってるって? まさか、えーっ! 」

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