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癌で余命宣告された私が時を遡って、美少女を助けたり、仲間と一緒に怪獣と戦ったりするお話 ~ RETROACTIVE 1990  作者: TA-MA41式
1991年に至った私が、パソコンオタク、柔道四段の研修医、傍若無人なチビッ子女子高生とチームを組んで戦うお話
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1991年5月5日 日曜日 05:10

 (来ないぞ? なんで? )

 

 いつもなら、凄まじい悪意を巻き散らして、HUNTERが転送されて来る時刻である。

 サユリさんが言うところの “マジでヤバイ悪意の塊みたいなヤツがブワーッと来るんだよ、ブワーッとね!” って感じで、こちらが臨戦態勢に入るのが毎度のことなのだが、何も起こらない。

 別な場所で配置についているサユリさんやケンタからも合図が無い。

 HUNTERが現れ次第にスマホモドキで発信されるはずだが、未だ何も届かない。。


 (どういうことなんだ? )


 数分後には “ナガセユウキ” がやってくる。

 転送位置を通り過ぎられたらHUNTERたちは襲撃するタイミングを逸することになるのだが、


 (もしかしたら磁石の位置を入れ違えてしまったのが原因で、HUNTERの転送ができなくなったのかも? )


 それならば、こちらとしては何の問題も無い。

 ユージの目論見は外してしまうことになるが、戦わなくても良くなるならば、それに越したことは無い。

 “ナガセユウキ” は爽やかにジョギングを続けられるし、我々は秘密保持のために彼に接触するという面倒な手間を掛けなくても良くなるわけで、今回の仕事はあっさりと無事終了になる。


 (そうはいかんだろう。)


 先ほどから感じている違和感がどんどん肥大しているし、イメージは明確にならないが “先読み” が警告を発している。

 たぶん、HUNTERが同じ時空にいてくれたらハッキリとしたイメージになるのだろうが、今のところ警告としてしか伝わらないので対処のしようが無い。


 (おいおい来ちゃったぞ~。)


 遂に “ナガセユウキ” が姿を現した。

 私が待機する “北海道文学館” 正面入り口に向かって大通公園の中央を爽やかに走り抜けて来る。

 彼我の距離はわずかに1丁、信号待ちを挟んでも3分と掛からずに “北海道文学館” の敷地内へ走り込んで来るに違いない。


 (HUNTER早く来ないと間に合わないぞ! )


 別にHUNTERに来て欲しいというわけではないのだが、いつもと違う展開になるよりは勝手知った展開の方が良い。

 ところが、


(こりゃマジで、新展開だ。 )


 “ナガセユウキ” が、短い信号待ちを終えて横断歩道を渡った。

 そのまま “北海道文学館” の正面入口に向かって来る。

 そして、門柱を通過して敷地内へ駆け込んで、


 「あ、おはようございます! 今日もいい天気ですね! 」


 「え、あ、ああ、おはようございます。」


 と、私と挨拶を交わして、そのまま昨日と同じルートを駆けていった。


 (行っちゃったよ? どうなるんだ? この新展開? )


 走って行った先、建物の左側面で待機しているサユリさんとも挨拶を交わしている声が聴こえてきた。


 (このまま、今日は終了なのか? ホントにそうなのか? )


 そんなことはないというのが “先読み” で分かっているのだが、実際には何も起こらず、朝起きて直ぐに117に電話して秒針までキッチリ合わせておいたSwatchで確認すると予定時間は30秒ほど過ぎてしまっている。


 (こりゃ、サユリさんやケンタと一旦合流したほうが良さそうだな。)


 そして、この後は裏手の公園で一休みする “ナガセユウキ” の傍で見守って、彼が無事に “北海道文学館” を立ち去ってくれたら、HUNTERが現れなかろうが、その後で何が起ころうが、今回の仕事は一応の成功である。


 (持ち場を離れるなら磁石も回収していった方が良いだろうか? )


 昨日から芝生の中に転がしっぱなしになっているフェライト磁石は、朝露に濡れて夜明け前に見た時よりも黒々として見える。


 「どれどれ。」


 後から戻ってくるのも面倒に感じたので拾っていくことにして、私は腰を屈めて磁石に手を伸ばした。

 その時、


 ジュッ! 


 熱したフライパンに水滴を落としたような音がして、磁石の周りに湯気が立った。

 磁石まであと20センチほどという所まで差し出されていた私の指先に熱気がかかった。


「来たっ! 」


 いつもと同じ “悪意の塊” というヤツが襲ってきた。

 その発生源はHUNTERなのか、それともHUNTERの送り主なのか分からないが、何度経験しても鳥肌立つのが抑えられない正しく不快の極致である。

 そして、現れた!

 HUNTERである。


 (すげぇ! 転送されて来る現場、初めて見た! )


 目の前の空間に不規則な歪みが生じ、歪みのほぼ中心に当たる位置にHUNTERを1体転送するに必要な容積を確保するため抉じ開けたかのような黒い闇の亀裂が走り、その亀裂が瞬時に人型を取り、最後にはHUNTERの実態と置き換わる。

 まるでSF映画のVFXを生で観てるような感じだった。


 (後から、イナズマとスパークを合成したらシュワちゃんの映画とそっくりになるかも。)


 映画に比べて現実の時間転送シーンは視覚効果的に若干劣っていたが、それでも目を瞠らせるほどの迫力はあった。

 その光景に暫し見惚れてしまったことで、目の前にHUNTERが現れたのに、私は次に自分が何をすべきか忘れてしまった。

 もちろん、一瞬で思い出すことはできたが、その一瞬の出遅れが私からスマホモドキの送信ボタンを押すタイミングを奪った。


 「え、なんで? 」


 気付けば、私は思い切り横っ飛びして0.5秒前の立ち位置から2メートルほど離れた芝生の上に転がって着地していた。

 スマホモドキを操作するどころか、金属バットを振る余裕も無かった。

 兎に角、全力で逃げたのだ。

 殆ど身体が勝手に動いたような感じだったので、何が起きたのか直ぐには頭で理解できなかったが、間もなく状況が見えた。

 “先読み” が発していた警告はこれだったのだ。

 HUNTERが転送されてきて同じ時空に揃ったことで、漸くイメージが形になった。


 (こいつ! 早いぞ! )


 いつものノロマでバランスの悪くて、倒れたら立ち上がれないような木偶の棒ではない。

 転送されてきて直ぐに目の前に立っていた私を敵と判断し、凄まじい勢いで突進してきたのだ。

 そして、私にかわされても以前のように態勢を崩して転ぶようなこともなく、両手を地面に突っ張って身体を安定させると、相撲の立ち合いに似た姿勢を取り、芝生から立ち上がって金属バットを構えようとした私に向かって再び突進してきた。


 「くっ! 」


 これも間一髪で避けられたが、


 (なんて脚力だよ! 助走無しで4メートル以上飛んでるぞ! )


 立ち幅跳びの世界記録は3メートル台後半だったはず。

 それを、あの木偶の棒の白坊主と同じ格好をした不細工な化物が、軽々と超す跳躍を繰り返している。


 (いつものヤツと全然違う! HUNTERの改良型、HUNTERⅡって感じか! )


 スピードが段違いという時点で、既にHUNTERとは別物であり、同じ対処方法では太刀打ちのしようが無い。


 (だが、見た目一緒なら身体構造の脆さは変わってないだろ! 一撃入れられたら形勢逆転だ! )


 しかし、跳躍から着地、方向転換して再び跳躍、この間隔が短すぎるのだ。

 こちらが突進を避け、金属バットを構え直そうとしているうちに次の突進が襲ってくる。

 一撃を当てるどころか、体勢を整えることもできずに芝生の上を無様に転がりながら逃げ回っているのが現状では精一杯になってしまっていた。


 (まずいぞ! サユリさんやケンタのとこも同じヤツが来てるんなら、超大ピンチ! )


 最近、HUNTER退治に慣れてしまって、すっかり敵を甘く見てしまっていたのは3人に共通して言える油断。

 いつもと同じに要領良く対処すれば、たかがHUNTER×4体など、北海道観光のついでに片付けられると最初から舐めて掛かっていた。

 そこに、こんな意表を突いた強力なヤツが4体も転送されてきたら、下手をすれば殺られるのはこちらである。

 しかも、


 (ここに1体、サユリさんとこに1体、ケンタのとこに2体って、完全にこっちの戦力分散させられてんじゃん! 今回の転送位置ってそういうこと? もしかして罠? )


 従来のHUNTERなら身を隠しての待ち伏せが主たる戦術だったのに、今回は転送位置の全てが開けていたことに違和感を抱いていたが、これほど俊敏に動くHUNTERを使うならナルホドである。

 狩りの方法が、豹や鰐のような待ち伏せスタイルから、ライオンやチーターのような積極的なスタイルに切り替わりって、それに見合った新しいフォーメーションが用いられ、転送のタイミングもこれまでとは全違っていた。


 (くそーっ! 何とかこいつをぶっ倒して、サユリさんやケンタと合流しなきゃ! )


 しかし、明らかに戦闘力は敵の方が上。

 合流したいからと言って、こちらの思うとおりにはさせてもらえない。


 (このままじゃジリ貧だ! )


 HUNTERの突進の一撃がどれほどのモノか、そのスピードを見れば食らってみるまでも無く威力は察せられる。

 しかし、このまま避けて逃げ回っているだけでは、HUNTERにはリミッターなど付いていないのだから、先に息切れするのは私である。

 何度目かの突進を交わしながら、逃げ腰に振ったバットに手応えはあったが、踏ん張りが効いていないので大したダメージを与えられてはいない。


 (これじゃダメだ! 一撃食らうのは覚悟して、一瞬だけ足を止めて突進してくるヤツの頭をぶん殴るしかないだろ! )


 そう決心し、芝生から立ち上がりながらHUNTERの動きを目で追い、次の跳躍に入る瞬間を待った。

 その間1秒も無かっただろう。

 気が付いたらHUNTERの真っ白な頭部が目の前に迫っていた。

 私は逃げずに足を止め、僅かに上体を捻って突進の直撃を避けながら力一杯金属バットを振った。


 ボシュッン!


 まるで丸めた体育用マットレスを殴ったような重々しい感触は、明らかに今までのHUNTERを殴った時と違っていた。


 (速度だけじゃない! 重量も別物だ! )


 そのせいでバットは確実にHUNTERの頭部を捉えていたが、致命傷にはなっていない。

 よって、金属バットを食らわせながらも突進の勢いは止められず、何とか直撃は避けたもののバットを振り切った後の左肩がHUNTERに接触してしまい、芝生の上に大きく弾き飛ばされ転倒してしまった。


 (しまった! 今、足を止めたら殺られる! )


 しかし、意外に弾き飛ばされたダメージが大きかったようで左手が動いてくれない。

 頭も揺さぶられたようで、軽い眩暈が生じており足が縺れる。

 止めたくはないのだが、私の動きは完全に止まってしまっていた。

 そんなタイミングで米神がキリリと痛んだ!


 (なんで、今頃 “先読み” かよ! )


 敗北や死のイメージが過るのを覚悟したのだが、それが全然違っていた!


 (まさか! んな馬鹿な! )


 意外どころの話ではない、とんでもないイメージが見えたことに困惑していた私の耳に聞き覚えのある声で悲鳴が飛び込んできた。


 「キャーッ! アラヤシキさん! 逃げてーっ! 」

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