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癌で余命宣告された私が時を遡って、美少女を助けたり、仲間と一緒に怪獣と戦ったりするお話 ~ RETROACTIVE 1990  作者: TA-MA41式
1991年に至った私が、パソコンオタク、柔道四段の研修医、傍若無人なチビッ子女子高生とチームを組んで戦うお話
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1991年5月5日 日曜日 04:00

 2日連続の早起き。

 未だ朝にはとどかず、夜が続いている暗い時刻に起き出した。

 もちろん、昨夜は早寝である。

 ケンタと話し合ってススキノ行きは断念、もしくは翌日に延期。


 (ゴールデンウィークだってのに、札幌まで来ていて、それで良いのか? )


 とは何度も自問自答したのだが、やはり仕事が控えているのに前夜に遊びまわるのは憚られた。

 私が参加するHUNTER狩りは今回で4度目だが、回を重ねるに連れて慣れが生じていて、緊張感が薄れてきているのを自覚している。

 EATERやCARRIERとやり合った時に比べて、HUNTER相手だと命の危険を感じるほどの目にあっていないということもあるが、これから先もずっとそうだとは限らない。

 相手が何であれ命のやり取りをしていることを忘れないようにすべきだと思う。

 だから、ケンタとも話し合って、自分を戒める意味も込めて、昼に札幌市内見物をしたのだから今夜は大人しく飯を食うだけにして休もうということになった。

 但し、サユリさんは、


 「あたしには付き合いってモンがあんのよ。お嬢たちの面倒見なきゃなんないんだからさ。まさか、あんたたちと約束があるからあたしだけ別行動なんて言えるわけないし、そんなこと言ったら変な目で見られちまうからねっ。」


 てなことを言いながら、昨日は朝から “小樽日帰り観光バスツアー” に出掛けて行ったのにも関わらず、夜はホテルの近所にあるカラオケに出掛けて行って遅くまで遊んでいたそうである。


 (お嬢さまも夜のカラオケ行くんだ? )


 親元離れての旅行なら、お嬢さまでも羽目を外したいということなのだろう。

 そう言えば、昨日はカラオケに出発する前にエントランスで私をネタにしてヒシイさんと随分な盛り上がりを見せてくれていたのを思い出した。

 後から、もう一人の御学友であるマシマさんまで合流し、目の前に私がいるにも拘わらず、三人で「もう告っちゃえばぁ」とか「そんなのムリだよぉ」とか「こんなののドコがいいのぉ」とか「リカってカワイイからもったいないよぉ」とか、実に楽しそうで、元気いっぱいの様子であった。


 (そんなん見せられたから、もう遊びに行く気力も無くなったってのあるわ。)


 そして、一夜明けて今日。


 「サユリさん、起きてる? 」


 「んぉきぃてぇうぅ。」


 またもやサユリさんは夜更かし明けという感じ。


 「ユキやぁリカがぁ、早起きできないようにぃ、早く寝かさないよぉにしてんだから、こっちもたぁいへんなのよぉ。」


 本気で遊んでいるようにしか見えないのだが。


 「ちゃんと、二人に気付かれないように抜け出して来てんだろうね? 」


 「当り前でしょ、あたぁしを誰だと思ってんのっ! 」


 別に誰でも良いが、夜更かしは同室の友人2人に気付かれないように部屋を抜け出すための作戦だと言い張っているので、そういうことにしておこう。


 「なんだい? それともぉ~あんた朝っぱらからリカに会いたいのかい? 」


 どうしてそうなる?

 何ニヤニヤしてんだ、このチビっ子は?

 女子高生の色恋妄想話のネタにするのは止めて欲しい。

 だが、止めたって止まるモノじゃないのは分かってるので、とりあえず常にスルーを心掛けて、いずれサユリさんが飽きるのを待つことにしよう。


 「未だ襲撃時刻まで1時間以上もあるから、それまでには目も覚めるさ。」


 ケンタはそう言って、“北海道文学館” 近くにある24時間パーキングに留めっぱなしにしているアトレーを取りに出掛けて行った。


 「んじゃ、ウチらは直で現場に向かうよ。ホラ、行くぞ。」


 「んお、おう。」


 ホテルから “北海道文学館” までは、徒歩なら15分ほど。

 但し、ジョギングスタイルでノロノロ歩いてるのも変なので、ブツブツと文句を言うサユリさんを急かして無理矢理走らせたので、到着までに5分も掛からなかった。

 間もなくケンタの運転するアトレーもやって来たので、道具(もちろん金属バットの類い)の用意をして、念のため昨日の朝に元の場所に戻しておいた磁石の確認をした。


 「4個全部あった。」


 「場所は入れ違ってるだろうけどね。」


 その点について、やはり気になるところではあるが、今さらどうしようもない。


 「とにかく、HUNTERが送られてきたら即座にぶっ飛ばす。あたしらがすることと言ったらそれしかないんだからね! そういうことで良いね! 」


 いつの間にか、東の空が薄ぼんやりと明るくなってきたが、HUNTERが現れるまでには40分以上もある。


 「明るくなってきたし、ウォーミングアップしようぜ! 」


 今の我々がすべきことは、何かと思い悩むことじゃなくて出動態勢を万全にしておくことである。

 ちなみに今回使用する金属バットは札幌のスポーツ用品店で購入したのだが、ついでにグローブと軟球を買っておいた。

 それらを抱えて、ケンタに誘われるまま “北海道文学館” 裏手の公園に移動して、暇潰しと準備運動、それと眠気覚ましを兼ねて3人で軽くキャッチボールをすることにした。

 1991年は公共の広場でキャッチボールしても怒られなかったかどうか?

 自信は無かったが、誰かに注意されたら止めれば良いと思った。


 「絶対に球逸らすんじゃないよ! 外したら道路に出ちゃうんだからね! 」


 こういう時も、仕切り役はサユリさんだったりする。


 「おおー! 」


 「まかせんしゃい! 」


 「誰のモノマネよ、それ? 」


 私も含めて3人共に身体を動かすのがは大好きな性質なので、夜明けのキャッチボールはけっこう楽しかったりするし、金属バット抱えてる良いカムフラージュになる。


 「サユリさん、良い球投げんね! 」


 「おうよ! あたしを只のJKだと思ってたら間違いだっての! 」


 只のJKだとは最初から思ってないのだが、キャッチボールに関して言えばフォームはしっかりしてるし、小柄で華奢に見えるにも拘わらずビシビシと真っ直ぐな早い球を放ってくる。


 「うおぉぉー! なんて良い球なんじゃい! 」


 「ケンタ、そのモノマネ、しっくりくるわ! 」


 「オレは今、モーレツにカンドーしているぅ! 」


 「あんた、それバンじゃないわ! ヒューマでしょ! 」


 とか何とか言ってるうちに、時間は過ぎて5時になった。

 身体も十分に温まったし、サユリさんの目も覚めて、そろそろ迎撃態勢に入るべきタイミングである。

 “ナガセユウキ” が、“北海道文学館” の門を潜るのは、昨日と同じタイミングなら5時15分少し前。

 HUNTERの転送がいつもと同じなら、その5分前には姿を現すはずだが、


 「配置につくよ! ミノルは正面の門柱、ケンタはこのまま公園内で待機、あたしは建物の左側面に付くよ。HUNTERが転送されてきたら、直ぐにスマホモドキで知らせること! 良いね! 」


 「「了解! 」」


 こちらの体勢は磁石の配置どおり。

 ちなみに磁石は正面入り口右側の門柱の陰に一つ。

 裏手の公園内に二つ。

 建物の左側面通路に一つ。

 それが転送位置と同じであるならば、“ナガセユウキ” が敷地内に入ったら前後を挟み撃ちにできるような配置にはなっている。

 ジョギング中、もしくは一休みしてるとこに、出来の悪い着ぐるみか空気人形にしか見えないHUNTERがやってきて、その間抜けな容貌に騙され無警戒で、


 「何これ? 」


 とか言っていたら、忽ちその馬鹿力に掴まってしまうだろう。

 だが、ユージの説が当たってさえいれば、こちらは転送位置でHUNTERを待ち構えているわけなので、すんなり退治ができるはず。

 つまり、最短なら “ナガセユウキ” が敷地に入って来る5分前には事は終わっているかもしれない。


 (なんか、それじゃ簡単すぎないか? )


 私は門柱の傍に立ち、芝生の中にチラ見えしている磁石から目を離さないようにしながら、事が起こるのを待っていたが、


 (今までのHUNTERなら、物陰に隠れてたり、ボケーッと突っ立ったままでいて、ターゲットが傍に来たら襲い掛かるって感じだったよな? )


 どうも、先ほどから嫌な感じが抜けない。

 HUNTERはいつもなら2体。

 まずは1体目が襲い掛かり、それでターゲットを捕まえられなければ、2体目が逃げ道に隠れて襲うというのが、やり口だった。

 だから、これまで2体目は地面に埋まっていたり、木の上にいたりと、おそらく未来人によるターゲットの行動予測に従って、定められた場所に転送され待機していたものと思われる。

 今回もその手で来るならば、磁石の配置に違和感がある。


 (2体目がいないんだよ。)


 磁石の位置を信用するならば、4体全てのHUNTERが “ナガセユウキ” のジョギングルート上に配置されることになる。

 つまり、全てが1体目の役割であり、2体目の役割がいないのだ。

 “ナガセユウキ”が、門柱を過ぎて敷地に入ったら1体目が襲う。

 逃げられたなら、建物側面通路にいる2体目が襲う?


 (いやいや、そりゃ無理だわ。)


 磁石の位置を見る限り、HUNTERの姿は4か所とも剥き出し、丸見えである。

 HUNTERの間抜けな容貌に騙されるのは最初の1回だけ。

 1体目に襲われて、こいつはヤバイと思ったら、わざわざ2体目のHUNTERが丸見えで待つルートなんかに飛び込むわけがない。

 いつものジョギングルートを進んでも、前方にHUNTERの姿が見えたなら、敷地の外に逃げ出すこともできるし、反対側の通路に逃げ込むこともできる。

 それを追い掛けられるような速度をHUNTERは持っていない。

 そうしたら、残りの3体は待ち惚けである。


 (こんなんが、未来人の予測した “ナガセユウキ” の襲撃計画なのか? )


 もしそうだとしたら、“ナガセユウキ”がパニクってしまって、無我夢中状態になっている場合しか考えられないのだが、


 (これって、なんか、いつもと違う展開になるんじゃないか? )

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