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癌で余命宣告された私が時を遡って、美少女を助けたり、仲間と一緒に怪獣と戦ったりするお話 ~ RETROACTIVE 1990  作者: TA-MA41式
1991年に至った私が、パソコンオタク、柔道四段の研修医、傍若無人なチビッ子女子高生とチームを組んで戦うお話
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1991年5月4日 土曜日 19:40

 「サユリさんって凄いなぁって、いつも感心してるんです。」


 ヒシイさんのコメントである。

 私もそう思う。

 但し、“凄い” の意味は全然違うと思う。


 「私たちの高校は小中高一貫の女子高で、私たち3人は小学校からの同級生なんです。だから、私なんか男性のお友だちはいませんし、父や兄以外の男性と知り合ったり、お話したりする機会なんて全く無かったんです。先生も女性ばかりですし。」


 男女共学公立校の経験しかない私にとって、小中高一貫のお嬢さま学校など全く未知の世界である。

 中学生ぐらいの頃なら、テレビドラマやアニメの影響なんかで、語尾に「~ですわ」とか「~なさって」とか「~ってよ」とか付けたりする、テニスの上手な縦ロールのお姉さまみたいな話し方する清楚で純粋なお嬢さまが沢山いる、“天使の花園みたいなところ”というステレオタイプなイメージを持っていたが、そんな男子は私に限ったことではなかっただろう。

 そのくらい未知の世界だったということなのである。

 しかし、高校生ぐらいになると、友だちの友だちの友だちくらいの距離感で漏れ伝わってくる様々な内情により、どうやらそういう特殊な世界ではないということが分かってきた。

 お嬢さまも普通の高校生であり、清楚な子もいれば下ネタ好きもいたりするし、天使もいれば悪魔もいる。(悪魔は身近にもひとりいるのだが)

 但し、男子のいない環境に6+3+3=12年間もいれば、男性慣れしていないというのはあるだろう。


 「そうなんですよね。でも、サユリさんって、アラヤシキさんやトガシさんのような年上の男性とお友だちじゃないですか。男性と普通にお話しできるだけでも凄いなって思うのに、年上の方たちだなんてとっても羨ましいです。だから、いったい皆さんはどこでお知り合いになったのかなぁって気になっちゃって・・・ 」


 そんなことを言いつつも、今のヒシイさんは十分普通に話せているような気がするのだが?

 JK相手にテンパってた私なんかより全然マシだと思うのだが?


 「そんなこと無いです! 見て下さいこれ! 」


 ヒシイさんが、いきなり私の目の前に両掌を突き付けた。


 (あら~こりゃたいへんだわ。)


 両掌には手汗がビッショリである。

普通に話してるように見えていて、実は緊張度が半端じゃないらしい。


 「あの、ハンカチ持ってる? 」


 「はい、持ってます。」


 携帯していたポーチから、カエルのキャラが並ぶファンシーなハンカチを取り出して、恥ずかしそうにしながら手汗を拭いた。

 そして、


 「すみません。お見苦しいモノをお見せしちゃいまして。」


 そう言って、ペコリと頭を下げた。


 「いえいえ、それほどでもありません。」


 何と言って受けるべきか咄嗟に考えたが、これしか言葉が出てこなかった。

 JKに手汗をアピールされるなんて想定外なので、どうコメントして良いか分からない。

 とりあえず、こちらも頭を下げといた。


 「私、アラヤシキさんとお話ししたくて、勇気出したんですけど、もうなんか、凄く緊張しちゃって、普通こんなことしないですよね。」


 「うーん、友だち同士でなら、けっこうやるかもですね。“ホラ見ろよ、手汗凄いわ~!” とか。だから、全然気にしないで良いですよ。」


 まあ、この程度のフォローで勘弁してもらおう。

 ヒシイさんが少し安心したような顔を見せたのでOKである。


 「あ、で、サユリさんなんですけど。」


 手汗を拭き終わったら直ぐに話題が元に戻った。

 ハンカチをポーチに戻さず、そのまま膝の上に置いたのは、まだまだ緊張と手汗が続きそうだからに違いない。

 緊張しながらも頑張って会話を続けようとする姿勢は良しとする。

 おかげで、こちらは聞き役でいれば良くなったので、気持ちがたいへん楽になった。

 やはり緊張を解くには緊張している人を見ているのが一番である。


 「サユリさんって、勉強も運動も優秀だし、誰にでも明るく優しく接するし、性格が柔かいからボランティアみたいな学外活動でも、すごく評判良いんですよ。」


 それは、どこのサユリさんだろう?

 私の知らない人である。


 「それにとってもカワイイから、男性にモテるんだろうなって、みんな言ってます。」


 カワイイかどうかは人ぞれぞれ、どうやら私とは物差しが違うようなのでノーコメントでスルーしよう。


 「それに、竹下通り歩いてたら、何度かモデル事務所にスカウトされたことがあるって聞いてますし、凄いなぁって。」


 スカウトされたってのは、以前本人から自慢話として聞かされた。

 一応、私も業界人の端くれなので言わせてもらうが(本人には絶対言わないけど)、モデルにも色々あるから、キッズ系ファッションのモデルじゃないだろうかと密かに思っていたりする。


 「で、一番気になってるのは・・・ 」


 ここで、言葉が途切れた。

 またもや手汗が溢れてきたのか再びハンカチで拭き始めた。

 心なしかヒシイさんの動き方がギクシャクしているような気がする。

 たいへん申し訳ないのだが、そういう彼女の様子を見てると、こちらは返ってリラックスできるので有難い。


 「えと、そのですね。」


 「何が気になってるんですか? 」


 話しやすいように笑顔を作り声音を優しくするぐらいの余裕が生まれてたりもする。

 大人な感じで、少し気分が良い。


 「あの、怒らないで聞いて下さいね。それと、私が言ったってサユリさんには内緒にして下さいね。」


 「そんな、怒るわけないじゃないですか。いったい何の話ですか? 」


 サユリさんの話題で、何故私が怒らなければならない?

 サユリさん絡みで本人に内緒にしなければならないような面白ネタがいただけるなら、ケンタと吞むときの肴にできるので、お礼を言わなければならないぐらいだと思う。


 「あの、あ、アラヤシキさんとフジムラサユリさんは恋人同士だったりするんでしょうか? お付き合いとかされてるんでしょうか? 」


 「へ? 」


 何か、とても悍ましい言葉を聞いたような気がする。

 私とサユリさんがなんだって?


 (#X$%&X?XW@Z~!!! )


 悪寒と眩暈と嘔吐感、ついでに身体の彼方此方に痒みも生じてきた。


 (何を言ってるんだ、このお嬢さまは?! )


 どこをどう見たら、私とサユリさんが、そんな関係に見えると言うのか?

 これはあれだ! 男女が一緒に歩いていると、全部恋人同士に見えるというヤツだ。

 普通、そんなのは中学生くらいまでの話で、高校生にもなれば、そんな思考からは脱しているはずなのだが、男慣れしていないお嬢さま学校では高3になっても、そんな風に考える者もいるのか?


 (例えそうだとしても、よりにもよってゲテモノ中のゲテモノ! サユリさんと恋人同士とか、お願いだから勘弁して! 俺には、オバチャン趣味もロリコン趣味もどちらもありません! )


 この会話、不気味な誤解というか、お嬢さまの妄想をさっさと解いて、早めに切り上げた方が良い。

 そうでなければ、せっかくの札幌の夜なのに悪夢でうなされてしまう。


 「アラヤシキさん、なんか顔色悪いです。大丈夫ですか? 」


 そうなる原因を作っていながら、全く気付かないヒシイさんが心配そうに私の顔を覗き込んできた。

 お前が悪いんだよ! と言ってやりたかったが、大人としてそれはできない。


 「大丈夫ですよ。ちょっと疲れてんのかな。お腹減ったのかも。」


 引き攣りながら、愛想笑いを返してやった。


 「アラヤシキさん、ちょっと顔怖くなってません? 」


 「いえいえ、そんなことありませんよ。」


 たぶん、怖くなっているだろうが、憤っているのだから当たり前である。

 

 「サユリさんと恋人とか、そんなんじゃありませんからね。そんなの有り得ませんから、間違えないで下さい。ぜーったいにっ! 」


 「は、は、はい! 」


 シオリさんが少し怯えたような声で返事をした。

 悍ましい暴言を吐いたのだから、そのくらいは罰としてアリだと思う。


 「でも・・・ 」


 (何? まだ、その話題で食い下がろうというんかい? この素ボケお嬢さまは? )


 「良かった! 」


 (・・・なんで? )


 ヒシイさんが、とんでもなく良い笑顔をしていた。


 「私、アラヤシキさんのこと、良く知りたいです。お友だちにしてもらえませんか? 」


 (何を言ってるんだろうか、このお嬢さまは? )


 意味がわからない?

 言い終わって赤面してるし?

 サユリさんと恋人同士疑惑はキッチリ否定したから、たぶん大丈夫だと思うのだが、それに続く発言の意味するトコは?


 (なんか、これって告られる前兆じゃない? 高校生相手なんてヤバいでしょ! 犯罪でしょ! しかも、サユリさんの御学友ですよ! )


 こんなことがサユリさんにバレたら、逆鱗に触れるか、面白がって弄り倒されるか、どちらかの破目に陥ってしまう。


 「あっ、いたいた~! リカ~! 」


 背後からゾッとする声の主が接近して来るのが分かった。


 「あれ、アラヤシキさんと一緒だったんだ~ 」


 ヒシイさんの隣に引っ付くように座りながら相変わらずの猫かぶりJKモードである。


 「うん、お話に付き合ってもらってたの。」


 「へぇ~良かったじゃない。楽しかった? 」


 「うん、とっても。」


 「あれぇ、リカ~なんか顔赤くない? 」


 暫し二人はキャーとかエーとか変な声を交えながら、肘でつつき合ったり、叩く振りをしたりと、私の目の前で騒がしい会話をしていたが、その途中でサユリさんが私を振り返って、スゴク楽しそうな悪魔の笑みを投げ掛けてきた。


 (ああ、こりゃ弄られまくる方の破目、確実だわ。)

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