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癌で余命宣告された私が時を遡って、美少女を助けたり、仲間と一緒に怪獣と戦ったりするお話 ~ RETROACTIVE 1990  作者: TA-MA41式
1991年に至った私が、パソコンオタク、柔道四段の研修医、傍若無人なチビッ子女子高生とチームを組んで戦うお話
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1991年5月4日 土曜日 19:30

 結局、見つけた磁石は敷地内に置き去りにしたままで、“北海道文学館” を後にした。


 磁石を拾った4か所の位置は憶えているが、どの磁石がどの位置にあったかのチェックはしていなかったし、どれも同じ色形で見分けもつかないので、元通りの位置には戻せていないと思う。


 「磁石の場所は絶対にシャッフルされちゃったよね。」


 「まあ、元に戻すなんて考えてなかったし。」


 「ユージが最初っから言ってれば良かったんだよ。拾ってきてからの指示だもんな。」


 「ホントに! 」


 敵が我々の行動に対処するために4体のHUNTERを使って何かを仕掛けようとしてるならば、其々のHUNTERには与えられた役割とかフォーメーション的なモノがあるかもしれない。

 磁石と転送位置がイコールなら、磁石をシャッフルしてしまったので、敵の “お手並み拝見” というわけにはいかなくなってしまったのではないだろうか?


 「そんなの、今更言ってみたとこで始まんないだろ。とりあえず、磁石があるところにHUNTERが来るっていうユージの説が正しいかどうか、あたしらの目で見て確認できれば、それだけで今回は十分収穫ってことで良いんじゃないか。」


 それが、今回の第1目的なので、後から乗っかってきた目的までいっぺんに達成しようと欲張らなくても良いじゃないかとサユリさんは割り切ったらしい。


 「そもそも、位置が変わったくらいでダメになるフォーメーションなんて、見てもしょうがないだろう。とにかく、あたしらはHUNTERを見付けたら全部ぶっ飛ばすことだけ考えてりゃそれで良いんだよ。」


 「まあ、究極のところはそうなんだけど。」


 どんなフォーメーションで来ようが最終的にやることは一緒なのだが、何となく作戦が大雑把なような気がしていた。


 (本当に、そんなんで良いのかいな? 」


 今までは2体で転送されてきたHUNTERが、今回は4体。

 これまで3対2で対処してきたのに、今回は3対4と敵の方が数で勝っている。

 ここに落とし穴は無いだろうか?


 「2匹が4匹でも、所詮相手はいつもの木偶棒なんだから、こっちが負けるわけないじゃないか! 」


 それは私も思っている。

 積極的に獲物を求めて襲ってくるEATERとは違い、待ち伏せ型のHUNTERが相手なら、余程のことが無い限り格闘戦で負けは有り得ない。

 だから、私もサユリさんと一緒で、過剰に警戒したり身構える必要は全く感じていないのだが、何となく嫌なフラグが立っているような気がしてスッキリしなかった。


 (これが油断に繋がったりして・・・ )


 そんなモヤモヤも、ホテルに戻って朝食を取り、温泉大浴場で朝風呂を満喫し、


 「今日の昼間は特にすることも無いので自由行動! 」


 と、決まった頃にはすっかり忘れてしまっていた。


 もちろん、私とケンタはJK3人組みとは完全別行動。

 せっかくレンタカーがあるんだから使わなきゃ損だということで、ケンタが借り受けてきたアトレーの助手席に座ってガイドブックを開いた頃には、頭の中は観光客モードに切り替わっていた。

 そして、時計台、北海道庁赤レンガ庁舎、藻岩山、大倉山、羊ヶ丘展望台、札幌市内の名所リレーに丸1日を費やして、


 「さて、晩飯はどうしようか? 」


 そんな時間になった。


 1日の観光を終えて一旦ホテルに戻った私とケンタは、風呂に入って着替えた後に再びロビーで合流し、20時過ぎに食事へ出掛けるという段取りにしていた。

 懸案になっていた “ススキノ探訪” は、検討中。


 (やっぱり、北海道ならジンギスカンかな? それとも寿司? 海鮮丼? )


 ということで、今の私はホテルのエントランスに置かれたソファの一つに踏ん反り返って、コーヒー飲みながら、ガイドブックとホテルに置いてあったチラシを交互に見て、ケンタがやって来る前に晩飯のイメージトレーニング中だった。


 「お肉好きならジンギスカンですけど、海鮮丼もすごく美味しかったですよ。」


 唐突に背後からアドバイスが掛かった。

 振り返ると、そこにはミニワンピース丈のピンク色パーカーを着た可愛らしい若い娘が1人。


 「あ、えっと・・・ 」


 「菱井です。菱井里香。」


 「ああ、ごめん! まだ、名前覚えきれてなくて。」


 サユリさんの御学友の一人、“ヒシイさん” だった。


 (もう一人は “マシマさん” だったっけ。)


 サユリさん以外のJKたちとは、東京~札幌間の移動が一緒だったというだけで殆ど別行動だし、会話らしい会話も無かったので、未だ名前と顔が一致していなかった。


 「いえいえ、今覚えてもらえたからOKです。」


 そう言ってニッコリと微笑んだ “ヒシイさん” は、ちょっと小走りな風で私の正面に回り込み、ローテーブルを挟んで向かい側のソファにチョコンと腰掛けた。


 「あ、お邪魔じゃなかったですか? 」


 それは「座る前に言うセリフだろう」って感じだが、若者の気遣いとかマナーなんて、こんなモノである。


 「ぜんぜん大丈夫だよ。」


 と、返事をしてあげたら嬉しそうにしていた。

 まあ、一応の断わりを入れるだけ2027年の教え子たちより礼儀正しいと言って良い。

 美大の教え子たちときたら、先生の前でも当り前のようにソファでだらしなく寛いでいたし、研究室の扉をノックすることさえ忘れる馬鹿者が多かった。

 それに比べれば、挨拶の順番を間違えるぐらいはお嬢さまの愛嬌のうちである。

 ところで、


 (さて、この状況はどう処理したら良いんだろうか? )


 私の真ん前で屈託の無い笑顔を向けるヒシイさん。

 このまま、知らんぷりしてガイドブックやチラシと睨めっこしてるのもどうかと思うので、会話などしなければならないのではないだろうか?


 (ってことは、もしかしたらピンチかも? )


 サユリさんのようなパチモンではない。

 相手はホンモノのJK、しかもお嬢さまというプレミア付きである。

 いつもソファに座ったらミニスカ履いてパンツ丸出しのサユリさんとは大違いで、ミニワンピース丈のパーカーの下に短パンを履いているのか、いないのかさえも分からないほど、キチンと膝を閉じて行儀良く座っている。(当り前だが・・・ )

 そんなお嬢さまJKと何を話せばいい?

 小樽はどうだった? とか聞けばいいのだろうか?

 それとも、晩御飯食べた? とか聞くのだろうか?

 どちらも一問一答で終わりそうな気がする。

 ヒシイさんから話題を振ってくれたら助かるのだが、なんか向こうもモジモジしていて、自分から会話に誘おうとする様子は無い。

 それでも席を立たずにいるのは、どうやら何かしら話をしたいからだというのは、鈍い私にもじんわりと伝わってくる

 ヒシイさんが、“話し掛けられるの待ち” の姿勢でいるのは明らかなので、ここで失望させたり恥をかかせるようなことはしてはいけないとは思っている。

 こういう時に年長者はどう対応すべきなのか?


 (はぁ・・・ )


 そんなような感じで内心頭を抱えている私の周りでは、いつの間にか妙な空気が漂っていたりする。

 ゴールデンウィーク中ということもあって、人の出入りが多いホテルのロビーの中にいて、私たちが座るソファを中心とした半径10メートル以内を掠める男性客の9割方がヒシイさんをチラ見しながら通り過ぎていくのである。

 20代から30代くらいまでの男性客、中には明らかに40代以上のオッサンまで、彼女に視線を送っていた。

 その一部には、ヒシイさんを見た後で私に憎々し気な視線を送って寄こす者までいる。

 私が一緒でなければ、即ナンパの態勢に入ろうとするような男がウロウロしていた。


 (なんだろ? 確かにヒシイさんはカワイイと思うし、昨今のテレビで観るアイドルにも引けを取らない美少女らしいってのは私にも分かるけど、所詮は高校生だし、化粧っ気のない子どもだし、そんなに注目するほどなのか? )


 馬鹿な奴らめと心の中で吐き捨てた。

 実年齢62歳の私にとっては、高校生なんて孫みたいなモノである。

 カワイかろうがカワイくなかろうが、感性がジジイな私にとって半世紀近くも年下の娘を女性として見るのは難しい。


 (ぶっちゃけ、成人してない女性なんて、小中高の区別だってつかんわ! )


 そして、見た目以上に困難なのはコミュニケーションだったりする。

 普通に話せるのは、2027年の職場でウロウロしていた大学生がギリだったりする。

 それ未満については、何を話すべきなのかさっぱり分からない。


 (アキラの時も最初は困ったし。)


 彼女は特別である。

 小6女子を相手に趣味の話で盛り上がれたなんてのは奇跡に近いことだと思う。

 そんなアキラとだって、最初はぎこちなかったのだ。


 (それなのにJKと差し向かいだよ。どうすんだこれ? )


 果たしてジェネレーションウォールを乗り越えるための足掛かりは何処にあるのか?


 (いかん! 思考が空転しているわ。)


 そんな感じでグズグズしていたら、


 「えーと、あの、その、アラヤシキさんに聞いてみたいことがあるんですけど。いいですか? 」


 ヒシイさんが先に口を開いてしまった。

 待っていても私がなかなか話を切り出さないので焦れたのだろう。

 これは大人としての敗北である。

 しかも、


 「アラヤシキさんって、サユじゃなくってフジムラさんとは、どういうお知り合い何ですか? 」


 

 すごく普通で、すごく自然な話題。

 ああ、そんなんで良いんですよね。

 その手がありましたっけ。


 (そうだよ。こういう時は共通の友人をネタにすれば良いのさ。)


 それなら、前年齢共通ですよね。

 たいへん勉強になりました。

 ジェネレーションウォールを乗り越えるには? とか馬鹿なこと考えてたのは、良いカッコしようと見栄はってただけなのかもしれません。


 でも、普通は62歳のジジイが女子高生と差し向かいになったら、誰でもこうなるって!

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