彼方にて
「音声データによる対象者との Contact は成功です。」
アメリカ人男性の報告に、リーダー格の日本人男性は少し首を傾げた。
「移動する波動を跨いだせいか、送信情報に乱れが生じていたようだが? 」
「十分に許容範囲です。次は出力を1.5倍で調整します。」
タブレットPCの数値を確認しながらアメリカ人男性は澱みなく述べたが、リーダーが抱く不安は払拭されていないようである。
「出力を上げ過ぎると対象者への負担も増す。精神に異常をきたしたり、後遺障害を残すようではまずい。私は君たちの意見に全面的に同意したわけではないが、対象者の安全を第一に考えるならばということで本案のみ許可したのだ。それを忘れてもらっちゃ困るぞ。」
そこにロシア人女性が口を挟む。
「私たちを信じて下さい。本案は絶対に成功させなければなりません。そして、対象者の安全は、そのまま先生の存在を維持するための絶対条件です。対象者が先生にとって大事な人であるということも承知していますし、絶対に危険の無いよう万全な対応をします。」
これに返答はしなかったが、リーダーは低く唸るような声を発した後、彼の手の中にあるタブレットPC覗き込みながら黙り込んだ。
リーダーの真意はどうあれ、無言が肯定を意味するということは、長年の付き合いで分かっている部下二人だった。
彼らはリーダーの気が変わらないように少しのミスでも犯さないように配慮しながら、大急ぎでプロジェクトを次の段階へと進める準備を始めた。
「次は双方向でメッセージを送ります。先生に直接話していただくことになりますから、よろしくお願いいたします。」