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癌で余命宣告された私が時を遡って、美少女を助けたり、仲間と一緒に怪獣と戦ったりするお話 ~ RETROACTIVE 1990  作者: TA-MA41式
1991年に至った私が、パソコンオタク、柔道四段の研修医、傍若無人なチビッ子女子高生とチームを組んで戦うお話
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1991年4月26日 金曜日 18:00

 「ホッカイドウって、あの日本の北にあるやつ? 」


 「え、ラーメン屋? おごり? その店、おいしいの? 」


 「ホッカイドウって言ったら! カニだよ! 毛ガニ! 」


 「何、物産展行くんか? 」


 「HOKKAIDO行くならパスポート取らなきゃ! 」


 「青函連絡船乗りたい! 青函連絡船! 」


 「ジンギスカンも良いねぇ! 焼きトウモロコシだって涎モンだよ! 」


 「そんな名前の居酒屋が池袋にあるけど? 」


 「それなら新宿にもあるぞ。」


 「あれ? ホッカイドウとサッポロって違うんだっけ? 」


 「あんた! 何を馬鹿なこと言ってんだい? ホッカイドウはサッポロにあるに決まってんじゃないか! 」


 ユージが齎した提案が、ゴールデンウィークに何の予定も無く、心が乾ききっていた2人のジイサンと1人のバアサンに一時の恐慌を齎していた。

 どうやってゴールデンウィークの暇を解消しようかと思い、暗くなっていたところに、降って湧いたような旅行話である。

 しかも、日本国内にあって海外旅行と張り合える南北の貴重な横綱 “沖縄と北海道”、そのうちの北の横綱が登場したのだから恐慌も止む無しというところ。

 私の62年間の人生でも、北海道行きなんて仕事で3回、会社の慰安旅行で1回、計4回しかないのだから、テンション上がるに決まっている。


 「うるせーな、お前ら落ち着けよっ! 」


 「「「 押忍! 」」」


 ユージが発した一言で恐慌状態は一時的に収まった。


 「言っとくけどなぁ、仕事で行くんだからな! 出張なんだよ! 出張! HUNTER狩りなんだよ! HUNTER狩りぃ! 」


 だから、遊び気分じゃなくて気を引き締めて掛かるようにとのお言葉なのだが、“北海道” という単語が発するインパクトの前では、仕事など些細なオマケにしかならない。

 3人揃って立ち上がり、ユージに良い笑顔を向けながらウンウン頷いているが、たぶん、とても “馬鹿っぽい絵” に見えたことだろう。


 「まったく、こいつら・・・」


 ユージは眉間を摘みながら大きな溜息を吐きつつ、キーボードのENTERキーをポンと一つ叩いた。

 数秒の後、スチールラックに置かれたドットインパクト式プリンターが動き出して、毎度のことだが、未来から届いた指示書きを印字し始めた。

 そして、いつもならば印字終わった頃にユージが立って用紙を取りに行くのだが、今回はギコギコ言っているうちにプリンターの前では既に目を輝かせた3人が並んでいて、排紙待ちの体勢に入っている。


 「おっし! 取りぃ! 」


 「あ、サユリさん! 引っぱったら破けちゃうって! 」


 「やかましい! こういうのは早いモノ勝ちって決まってんじゃないか! 」


 「こらこら、そんなプリンプリンしてたーらだめでしょう! 」


 「まだ、印字途中なんだから! 引っぱらないでよ! 」


 「こんなの出たとこまでで切り離しちまえば良いんだよ! 」


 「プリンターのお礼はプリンだー! 」


 再び始まった3人の恐慌状態。

 お年寄りが集まってゲートボールなど勝ち負けを争うスポーツをしていたら、熱くなって喧嘩になって怪我人が出てしまったなんて事件があるらしいが、こういう落ち着きの無いメンバーで、こういう状況下でやっている時に起こり得ることなんだろう。

 歳取ると人間激しやすくなるようで、この3人、外見は若返っても精神年齢がジジババなので押さえが効かなくなっている。


 「うっせーから、落ち着けって言ってんだろ! 」


 再びユージの一喝が入った。


 「「「 押忍! 」」」


 この場で唯一冷静なはずの者、しかも北海道旅行の企画立案者兼スポンサーである者の一言で、再び場は静まった。


 「それ、こっちちょうだい。」


 次にユージは、3人の争いの種であるプリント用紙を、こっちに寄こせとサユリさんを手招きした。

 この時ばかりはサユリさんも、ユージをこれ以上怒らせないようにと、印字が終わったドットインパクト式プリンターにぶら下がった連続用紙をミシン目に沿ってキレイに切り取り、


 「はい! 」


 と、言って大人しく差し出した。


 「ん。」


 と、鼻で返事をしたユージが受け取った用紙は、今し方の奪い合いで半分以上クシャクシャ、所々破けていた。


 「こんの~ジジババどもめ! 」


 「ごめん! 」


 こういう時は、真っ先に謝っておいた方が良いだろうと私が頭を下げたら、続いてサユリさんも素直に頭を下げた。


 「ごめん! ちょっとはしゃぎ過ぎたわ。」


 そして、ケンタも、


 「ごめんな謝意って感じ。ぷぷっ!」


 ゴツッ!


 ケンタの左外腿にサユリさんの膝が入った。

 激痛に蹲るケンタだが、こんな時にダジャレを言う奴が悪い。

 ユージも知らんぷりして、プリント用紙のシワ伸ばしをしている。


 「さて、これから説明を始めるから、お前ら突っ立ってないで座れ! 」


 なんか、今度はユージの態度が、いつもと違って横柄な気がする。

 何事も穏便に済ませたがり、サユリさんの我儘にも笑って耐えている、いつものユージではない。


 (なんたって、エサと金を握ってるからなぁ。)


 やっぱり、ここは持ち上げて大人しく従う感じで威張らせとく方が良いに決まってる。

 何と言っても北海道旅行なのだ。

 同じことを考えていたのか、サユリさんが一早く3人掛けに座り、


 「何グズグズしてんだい! 」


 と言って、左腿を引き摺りながら立ち上がったケンタを自分の隣に引き摺り上げた。

 そして私は、ソファに戻ったらユージに背中を向けてしまうので、普段は部屋の隅に寄せてあるオットマンを引っ張り出して3人掛けの隣に置き、それに腰掛けた。


 「準備完了。早速お話の方をどーぞ。」


 私が丁寧に促すと、ユージは、


 「まったく、しょーがねぇな」


 と、呟きながら手にしたプリント用紙をカッコつけて振りながら説明を始めた。


 「よし、良いか? 子どもじゃないんだから、良い歳したジイサンとバアサンが北海道ぐらいで、はしゃいでるなんて見苦しいから、ここからは落ち着いて聞くんだぞ。」


 大きめの身振り手振り付きで左右にウロウロしながら話しているのは、ハッキリ言って全然似てないのだが “ジョブス” のモノマネをしてるつもりらしい。

 なんでも、“ジョブス” をリスペクトしているというユージは、2010年以降で一緒に仕事をしていた時でも時々こういうことをしていた。

 まあ、気分良く話しているんだから放っておくとしよう。


 「さて、君ら3人にはゴールデンウィーク後半の3日間、札幌市に滞在してHUNTER狩りをしてもらいたい。HUNTERが転送されて来るのは5月5日の日曜だが、可能なら5月3日金曜の夜に札幌へ移動し、翌4日から動いてもらいたい。」


 ジョブスというより、“スパイ大作戦”か“チャーリーズエンジェル”のイントロみたいである。


 「前々日入りするってこと? (そのほうが全然嬉しいけれど)なんでまた? 」


 「これだよ。」


 ユージは尻のポケットから、例の “磁石円盤” を取り出した。

 取り出し方が、新製品発表の時の“ジョブス” っぽくしようとしているのが見え見えで、ついつい吹き出しそうになった。


 「わかるだろ? 」


 (わからんわ。)


 ユージが、カッコつけて磁石を放って寄こした。

 それをキャッチしたのはサユリさん。


 「あんた、そんな勿体付けてないでさ、チャチャッと手短に話しておくれよ! あと、ジョブスのモノマネなんか止めな! 右や左にウロウロしてると動物園の猿みたいだよ。」


 (ああ、言っちゃったよ。)


 オバチャンが大人しくしていられるのは3分が限界だったか。

 ユージの額に “怒りマーク” が見えたような気がする。

 これは何とかしないとマズい!


 「そ、そうか! えっと、札幌で磁石の謎を解こうって言うんだな! 」


 ユージが怒る前に話題を進めてしまおうと思い、まあそんなもんじゃないかと、適当に、それっぽい言葉を投げ掛けてみただけなのだが、


 「それだよ! さすがミノル! 」


 褒められてしまった。

 話の途中で磁石を引っ張り出したんだから、誰が見たって “謎を解こうとしてる” に違いないのに、ユージも何を言っているんだか。

 無事に話が逸れず、前に進んだので良しとしよう。


 「君らにやって欲しいのは、前々日に札幌入りして、HUNTERの転送現場を事前に調査して、こいつと同じモノを見付けてもらうこと。

 俺の推測では、こいつは必ずHUNTERの転送前、現場に表れる。HUNTERはこいつを目印にして転送されると踏んでるんだ。

 だから、これを事前に見つけることができたら、転送を阻止したり、こちらでコントロールできるかもしれないんだよ! 凄いだろ!

 但し、こいつが現れるタイミングが分からない。転送の1秒前かもしれないし、1時間前、1日前かもしれない。だから、早めに現場に行って確かめてもらいたいのさ! 」


 以上、ユージがドヤ顔で今回の仕事の要約を終えた。


 ところで、話を聞き終わっての感想だが、


 (なんか “微妙” な感じ。)


 である。

 現場が何処なのかにもよるが、あんな小さな磁石、簡単に見つけられるものだろうか?


 (まさか、札幌まで出掛けて行ってゴミ探しで終わったりしないだろうな? )


 という心配が、当然のように3人の頭を過っていた。

 言うまでもないことだが、仕事なんかよりも、観光の時間が削られないかとの心配である。

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