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癌で余命宣告された私が時を遡って、美少女を助けたり、仲間と一緒に怪獣と戦ったりするお話 ~ RETROACTIVE 1990  作者: TA-MA41式
1991年に至った私が、パソコンオタク、柔道四段の研修医、傍若無人なチビッ子女子高生とチームを組んで戦うお話
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1991年4月26日 金曜日 17:30

いつもより遅い投稿になってしまいました。

失礼しました。

 本日、東京都心の空は終日の曇り。

 日中の気温は25度近くあったと思うが、明日からゴールデンウィークが始まるというのに今一つスッキリしない空模様である。


 そう言えば、今日は広島県呉市にある海上自衛隊基地から、“ショー・ザ・フラッグ” の掛け声に乗せられた掃海部隊が、湾岸戦争がひと段落したばかりのペルシャ湾に向けて出港する日だったはず。

 戦後日本の世論が大きく変わり始める最初の日なのだが、大方の日本人は、そんなことには興味も関心も無く、今晩辺りからゴールデンウィーク恒例の国民大移動が始まるわけだが、ここ九段下マンション204号室は、世の中のどんな動きとも無関係にまったりとした時間が流れていた。


 時間遡行者たちにとって、歴史は既知であり驚くことなど無い。

 憶えているとおりの流れが見えているなら、その内容がどうであれ、放置しておくに限る。

 知らないことが起きたならば慌てるが、そうでなければ全て結果が見えているので何の問題も無い。

 もちろん、お天気については色々と厄介だが、九段下マンション204号室では、表が暑かろうと寒かろうと、機械だらけの空間を強制冷却し、湿度を一定に保つため、常に窓は締め切って外気を遮断しており、エアコンは常時フルパワーだったりするので、室内にいるのならば大して気にする必要も無い。

 そんな世間とは隔絶された別世界の中で寛いでいるのは、若い男3人と小学生みたいな女子高校生が1人。

 なんとも奇妙な取り合わせである。


 「あんたたち、ゴールデンウィークだってのに、どっか行かないのかい? 海とか、山とか、温泉とか、そういうの無いのかい? 」


 一人で3人掛けを占領して、ポップキャンディを咥えながら、だらしなく寝そべって美容室なんかでよく見掛けるオバチャン向け女性週刊誌を読んでいたサユリさんが、唐突に話題を切り出した。


 「別に~。」


 とは、向かいのソファに座っている私の返事。

 海は未だ寒いし、山は虫が苦手なので行きたくないし、ゴールデンウィークの温泉なんて混みこみに決まってるし、実家は江東区東陽町だから帰省先があるわけでもないし、春先は学業優先ってことになってるけど、連休の中日までお休みになって連続10連休中の大学に行くのもかったるいので、アルバイトでも入れようかと思っていたぐらいだった。


 「かぁーっ! 勿体ないねぇ。せっかくの2度目の青春なのに、そんなんで良いのかい? 」


 高校生のサユリさんならともかく、25歳の私じゃ青春は既に終わっていると思うのだが?

 いちいち否定するのも面倒なので、生返事しながら歌舞伎揚げの袋片手に、本日発売のマンガ週刊誌を読み続けていた。


 「ケンタ! あんたはどうなの? 」


 返事がない。

 私の隣のソファに座っているケンタは、ゲームボーイでテトリスに夢中である。


 「無視すんじゃないよ! こっち向きな! 」


 サユリさんが、女性週刊誌をケンタに投げつけた。

 可哀そうに、全ステージクリアしてスペースシャトルが出てくるまで頑張るんだとか言っていたのに、邪魔されて敢え無くゲームオーバーである。


 「ひどいよ、サユリさん! 」


 「人の話を聞かないのが悪いんだよっ! で、どうなのさ? ゴールデンウィークは何か予定あるのかい? 」


 ケンタはゴニョゴニョと口の中で不平を呟きながら、


 「病院から4、5、6日ならインターンは休み取って良いって言われてるけど、それ以外は出勤だから全然ゴールデンウィークって感じじゃないよ。病院ってのは、カレンダーどおりには休めないんだよ。」


 そう言うと、再びスペースシャトルを見るまで頑張る体勢に入った。


 「はぁ、つまんない奴ばっかだねぇ。んじゃ、ユージっ! 」


 今度は、オフィスデスクの向こうで只管キーボードを叩いているユージに声を掛けようとしたのだが、


 「ああ、あんたは良いわ。どうせいつだってパソコンにしがみついてんでしょうよね。パソコンがあれば幸せなんだよね。聞いた私がバカだったよ。ちぇっ、このパソコンオタクが! 」


 我々4人の頭脳中枢でありエンジニア的な役割を果たしてくれているユージに対して、あんまりな言い方。

 よせば良いのに思わず口を出してしまった。


 「そんなこと言ったらユージが可哀そうじゃん。ユージがパソコンにしがみついてくれてるおかげで、うちら動けてんだしさぁ。」


 ユージが何も言い返さないので、代わりに言ってやった。

 隣でケンタが何度も頷いている。


 それにしても、今日はサユリさんの様子が変である。

 1時間ほど前にふらりとやってきてから、何度も溜息吐いているし、苛々してるっぽいし、時々今のようにして絡んでくる。

 元々が気まぐれオバチャンなので、いつも変と言えば変なのだが、もしかして弱っているのだろうか?

 そうだとしたら、たまにはキッチリと反撃させてもらった方が良いかもしれない。


 「俺らのことなんかよりも、サユリさんはどうなのさ? 」


 返事がない。

 せっかくなので、少し嫌味を混ぜてみよう。

 元が62歳のジジイなので嫌味は得意である。


 「なんてったってお金持ちのお嬢さまなんだから、外国の有名避暑地とか、凄いとこに別荘持ってそうだし良いよね、そういうとこ行けるなんて羨ましいよね。我々庶民も一度で良いから豪華でハイソな休日ってやつ送ってみたいよねぇ。」


 やはり返事がない。

 もう少し良いかな?


 「貧乏な一般庶民は、大人しく都内に引き籠ってテレビ観てるのが精一杯なんだから、あんまり虐めないで欲しいよなぁ。」


 無反応である。

 この無反応こそ異変だということに気付くべきだった。


 「どうせゴールデンウィークだってさぁ、家族揃って凄いとこ行くんでしょ・・・っ!? 」


 調子に乗ってペラペラ動いていた私の口に急ブレーキが掛かった。

 話の途中で歯軋りっぽい音が聴こえたような気がしたのである。

 その瞬間、室内の重力というか圧力が1.5倍くらいに増した気がした。

 なんか、隣には口を半開きにしたまま、右手の人差し指を立てたポーズで固まってるケンタがいる。


 (こいつ、私に便乗して “おやじギャグ” 言おうとした瞬間、事態を察してフリーズしやがったな。)


 男二人を同時にフリーズさせる異変とは何か?

 それまでダラリと寝そべっていたサユリさんが、いつの間にか起き上がっていた。

 そして、床几に腰掛けて戦に臨む戦国武将みたいな格好で豪快に足を開き、3人掛けソファの真ん中にドッカと腰を下ろしている。

 そういう座り方するのなら、お願いだから見苦しいので短いスカート履くのは止めて下さいと、いつも心の中で思っているのだが、今はそういう些末なことを気にしている場合ではないようだった。


 (やっべ! いつの間にか狂犬の目! )


 両手を膝に置き、軽く斜め下を向いた姿勢から見上げる鋭い三白眼が、私とケンタに向けて凄まじい眼圧を発していた。

 このまま軍配持たせたら、川中島で上杉謙信の斬り込みを待つ武田信玄みたいな感じになるだろう。

 流石、未来の防衛相!

 正しく、柄が悪くて、口が悪くて、一国の大臣としては品性に欠けるという評判だった次期首相候補から放たれる眼圧である。

 これは速やかに撤退するしかない。


 (えーと、何処まで話を巻き戻せば許してくれるかな? )


 ユージを弁護したこと?

 お嬢さまを厭味ったらしくからかったこと?

 軽い気持ちで発した言葉の、どこら辺から逆鱗に触れていたのでしょうか?

 答えは見つからず、全身に気持ちの悪い汗がじんわりと滲んできた。


 (嫌だなぁ。)


 サユリさんはチビッ子だし、腕力なんて体格に比例してるはずだし、いつも彼女の何を怖がっているのか良く分からないのだけれど、私とケンタと、たぶんユージも、3人の共通認識が一つある。

 兎に角、サユリさんは圧が凄いということ。

 眼圧だけじゃない。

 言葉一つ、溜息一つ、テーブルを叩く音一つ、床を踏み鳴らす足音一つ、どれを取っても、強弱や硬軟を自在に変えながら圧を絡めてくる。

 さらには、何も言わない後ろ姿、背中から発せられる圧というのもあったりする。

 これらが一旦放たれると、男3人は蛇の前の蛙状態で、忽ち竦み上がってしまうのだ。

 私だって、2027年じゃ大学生をビビらせるぐらいの圧を放つこともあったのだが、サユリさんとじゃモノが違い過ぎて、比較にもならない。

 見た目はチビッ子でも、中身は当選7回のベテラン代議士、海千山千の防衛大臣である。


 (気迫合戦じゃ、絶対に適いませんって! )


 今から怒鳴られるのか? 嫌味の100倍返しか? それとも猛烈な説教か? 何が来るのかドキドキしながら待っていた。

 隣のケンタは、立てた人差し指の位置が少しづつ下に移動し、口が徐々に閉じられていた。

 こいつなりに “自分は無関係” を装って、逃げの体勢に入ろうとしているらしい。

 そんなんでサユリさんをごまかせると思っているのなら馬鹿な奴である。


 (でも、何も言って来ないな? )


 睨んで、圧を発するだけある。

 やはり、今日のサユリさんは何かが変である。


 (あ、もしかして! )


 せっかくのゴールデンウィークなのに、サユリさんも何も予定がなくて、それで色々と絡んでくるのは、


 (遊んで欲しいのか? )


 1990年代に遡行して、17歳に若返って最初のゴールデンウィークなのに、何もすることが無くて、2度目の青春を謳歌したいのに都内に引き籠らざるを得ない辛さを味わっているとか?

 考えてみれば、明日から前半の3連休が始まるというのに、予備校にも行かずに夕方から、こんな殺風景で小汚い九段下マンションの一室でダラダラと時間を潰しているのだから察してやるべきだったかもしれない。


 (さて・・・ )


 何となく事情は察せられたが、この膠着状態を脱するにはどうしたら良いだろう?

 サユリさんの無言の眼圧が発せられている限り、男二人はフリーズ状態である。

 どうにかして現状を打開する良い方法は無いだろうか?

 こういう時にこそ “先読み” が見えて欲しいのだが、現れる気配も無い。

 そんな風に頭を悩ませていたら、救いの神からお言葉が下った。


 「暇ならさ、連休後半で北海道行ってきてくれないかな? こっちで予算出すから札幌までさ。」


 それまでキーボードを叩いていたユージがCRTの陰から顔を出して言った。


 「「「 ほっ、ほっかいどお?! 」」」

次の舞台は東京から離れ、北海道札幌市になります!

色々新キャラが登場しますけど、感想やアドバイスなどいただけたら嬉しいです。

もちろん、評価、ブックマークもよろしくお願いいたします。

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