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癌で余命宣告された私が時を遡って、美少女を助けたり、仲間と一緒に怪獣と戦ったりするお話 ~ RETROACTIVE 1990  作者: TA-MA41式
1991年に至った私が、パソコンオタク、柔道四段の研修医、傍若無人なチビッ子女子高生とチームを組んで戦うお話
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1991年3月1日 金曜日 10:00~

 「中東の戦争も、ようやっと終わったみたいだねぇ。多国籍軍勝ったねぇ。多国籍軍強かったねぇ。」


 「イラクの陸軍て世界第4位とか言ってませんでしたっけ? それなのに、あっという間でしたもんね。」


 「いやぁ、何にしても日本が巻き込まれなくて良かったですよぉ。」


 「一時、“国連平和協力法案” とか出てたでしょう。廃案になって良かったですよね。」


 「そうそう、日本は世界も認める平和国家だから。冗談じゃないって話だよ。」


 アルバイト先の広告代理店にて、朝刊開いてコーヒー飲みながら交わされる先輩たちの長閑な会話である。

 昨日、多国籍軍によるクウェート解放のための戦闘が終結し、そのニュースが全世界に伝わったので、今朝の日本中で似たような会話が交わされているに違いない。

 その先どうなるかを知っていたら、“世界も認める平和国家” なんて吞気なことを言っていられないと思うが、今はしょうがないだろう。


 (何にしても、大まかな世界の歴史の流れは変わってないんだよな。)


 1990年に遡行してから今に至るまでずっと、全国紙の朝夕刊は毎日欠かさず駅のキオスクで買い、1日掛けて隅々までじっくりと読むようにしていた。

 インターネットが無い1990年代では新聞が最も便利で充実した情報源だし、持ち歩けるという点でテレビよりも新聞の方が便利で良い。

 そして、私が新聞でチェックすべきは、もちろん “歴史の流れ” である。

 今のところ、大きな流れは変わっておらず、私の知っている1990年代が生きている。

 昨年から今年に掛けての湾岸戦争は私の記憶にあるとおりに推移していたし、昨年3月に日本国大蔵省が行った総量規制は明らかにバブル経済崩壊の引き金を引いていた。

 ゴルバチョフのノーベル平和賞、鉄の女サッチャー政権の終わり、東西ドイツの再統一など、目ぼしい出来事も起こるべくして起きていた。

 大きく異なるのは、昨年11月27日に起きた “大規模獣害事件” くらいだが、それによる影響は未だ世の中に表れてはいない。


 ところが、小さく細々とした記事を拾っていくと私の知らない出来事が起きている。

 以下に目立つ事例をあげてみる。


 『1980年代末から続く西アフリカ諸国の内戦には、本来無かったはずのアメリカやEU(この当時はEC)諸国による武力介入が頻繁に行われており、紛争が大規模化している。』


 『1991年以降に勃発するはずの東欧の内戦が数年前に始まっており、崩壊直前のソビエト連邦が旧宗主国のプライドで以ってこれに介入しており、わざわざ体制の寿命を縮めるようなことをしている。』


 『この時期、平和裏に進められていたはずの “中ソ国境協定” が存在せず、連日のようにアムール川、ウスリー川を挟んで両国の国境警備隊による小競り合いが報道されている。』


 『マラッカ海峡で起こる海賊事件が年間200件を超えて大問題になっており、この対策には周辺国のみならず、海峡を通過する船舶の警備として多数の国が軍艦の派遣を余儀なくされている』。


 どれもこれも、湾岸戦争程の規模は無く、世界の注目を1点に集めるほどの重大ニュースではないが、こうした事例が積み重なると、関連した国の力は確実に削がれていく。

 ボクサーのジャブのように小規模のダメージを徐々に蓄積させて国家を弱らせ続けたなら、10年後、20年後、もしくは50年後や100年後かもしれないが、世界のパワーバランスに大きな影響が現れそうである。

 軍隊を派遣する国はもちろんだが、日本も他人ごとではない。

 直接の武力行使には参加していなくとも多額の資金援助を求められたり、紛争によって日系企業が打撃を受けたりすることも多く発生しているようで、これが長く繰り返されたら経済的に疲弊していくことは間違いない。


 (そうやって、某国とやらが覇権を握るに都合の良い歴史にかわっていくってのか? )


 果たして某国にとって、現状は思惑通りに進んでいるのだろうか?


 (いや、そんなことはないだろう。)


 まだまだ思惑通りに行ってないから、HUNTERなんて化物を送って過去にちょっかいを掛けてくるわけだ。


 (そもそも、某国って何処なのよ? 1990年にもある国なの? )


 これは所謂、“禁則事項” というヤツである。

 我々、時間遡行者がそれを知れば、過去が大きく変わってしまうかもしれないとのことで、未来人はユージにも伝えていなかった。

 その某国とやらが未来で散々無茶を仕掛けてくるのなら、いっそ過去の某国を潰してしまえば良いんじゃないかなどと、乱暴なことを考えてはいけないそうなのである。


 (そういうの分からんでもないけど、その代わりにこっちは苦労させられるわけなんだよねぇ。)


 仕事をしながら、つらつらとそんなことを考えていた。


 ところで、DTP(Desktop Publishing)導入のおかげで、仕事の効率は爆上がりしており、他のデザイナーがペーパーセメントとピンセットで頑張っている間に、こっちは倍以上の仕事を短時間でこなせるようになっていた。


 「コンピュータでデザインなんて、仕事の質を低下させるんじゃないのか? 」


 「やはり、アナログの温かみを大切にした方が良いと思うぞ。」


 「パソコンの扱いなんかより、やっぱデザイナーはロットリングで0.1ミリの罫線をキレイに引ける技術を身に付ける方が有意義だと思うな。」


 アナログにしがみ付きたい外野が色々と茶々を挟んで来るが、そんなモノは数年もすれば大人しくなるので気にしない。


 (デジタル最高! )


 1990年に来て早々、37年ぶりのアナログ仕事に頭を抱えていた頃に比べたらストレスは激減していた。

 それに、今やっている案件は過去に一度は経験した内容なので、どこをどうすればクライアントが喜ぶかは何となくだが憶えている。

 だから、仕事はいたって順調で、作業しながら別のことを考える余裕も生まれる。


 (それにしても、ユージのやつ、あの磁石で何をどうしようってんだろ? )


 右手でマウスを握りながら、左手では六本木アマンドの交差点まで出掛けて買って来た “2027年の日本では全店撤退してしまった懐かしのアービーズのローストビーフサンド” を齧りながら、頭の中じゃ仕事以外のことを考えていられる。

 まったく、DTPとは有難いシステムである。


 (HUNTER狩りの仕事をやりやすくするとか何とか言ってたけど、理系の考えることはさっぱり分からんなぁ。)


 美術系の頭では、何を聞かされてもチンプンカンプンなので、そういうことはできる奴に丸投げして、結果だけ受け取っていればそれで良いと思うことにする。


 (しっかし、HUNTERの処分方法には驚いたな。)


 昨夜、九段下マンションに着いてから、ユージの自家用車 “ダットラ” (車買うならこういうの買っとけよ! )にHUNTERの死骸を積み替えて、そのまま3人して夜の東海埠頭公園まで出掛けて行って、人気が無いのを確認したら、そのまま京浜運河の中へドボンである。

 何となく、一体ぐらいは残しておいて調べモノでもするのかと思っていたが、あっさりと捨ててしまった。

 実は、以前の仕事の後には、HUNTER 2体のうち1体だけを残して、ケンタに解剖させていたらしいが、体組織や神経系、脳の構造などは、その時に一通りデータを取ってしまったので、もう必要はないそうである。

 そもそもHUNTERは構造が単純なので、その時に手に入れたデータの量も大したことなかったらしい。


 それならそれは良しとして、気になるのは得体の知れない人工生物なんかを不法投棄したら海を汚すんじゃないかということだが、


 「某国の人工生物ってのは、寿命を全うする以前に活動停止したモノでも、できるだけ証拠を残さないよう早めに自然分解するようにできてるんだよね。もちろん毒性は無いし、一晩も水に漬けておいたらドロドロになるぐらいだよ。だから、海洋汚染にはならないんだわ。俎板橋の辺りからお堀に放り込んでも良いぐらいなんだけどさ、あんな街の中じゃ流石に目立っちゃうし、パトロール中のお巡りさんに見つかったらヤバいでしょ。だから、夜中なら釣り客もそんなにいない東海埠頭に来たわけ。ここなら目立たないし良いんだよね。」


 まあ、ユージが言うからには確かなことなんだろう。

 同じ組成のCARRIERやEATERも仕事を終えたら、海の中であっという間に朽ちてしまうんだとか。


 (まったく、良くできてるよ。始末が簡単なのは良いけどね。)


 過去に存在しない未来のモノを残さないようにしなければならない。

 そういった “禁則事項” には某国も従っているということなのである。

 それならば、私たちも当然従うしかないわけだ。


 (仮に某国の正体を突き止めたとしても、サユリさんに防衛大臣通り越して総理になってもらって、一気に憲法改正して武力でぶっ潰すなんてことは、絶対にできないってことなんだろうね。)


 そういうことなので、地道にHUNTERを狩っていくしかない。

 乗り掛かった舟、今さら降りると言うわけにもいかないし、顔を合わせてから未だ1週間も経ってないが、同じ時間遡行者としての仲間意識から、もうすっかり人間関係的に馴染んでしまっていた。


 (1990年代で、一人ぼっちになるより全然良い。)


 それは確かなことである。

 世間には絶対に明かせない事実を共有する仲間がいるというのは、この先の人生を歩むには強い心の支えになるだろう。


 (でも、この先の私の人生って、本当にどうなるんだろうか? )


 このまま、グラフィックデザイナーを続けていくのか?

 また再び大学教授に辿り着くのか?

 煙草を止めたけど、また癌になったりするのか?


 (結婚とかもするのかな? )


 その件に関しては、アメリカにいる誰かさんと、もう一度出会い直すかどうかに懸かっているような気がするが、今は考えることじゃない。

 てな感じのことをボンヤリと思い巡らしていたら、


 「アラヤシキくん! 部長が読んでるよ! 次回のキャンペーンなんだけど、デザインは君にメイン張ってもらうんだって言ってたぞ。クライアントからのご指名なんだと。」


 先輩からのお声掛けで、人生についての考え事は一時中断。

 まずは目の前の仕事を片付けなきゃ、暮らしが成り立たない。

 慌てて残りのローストビーフサンドを口の中に押し込んで、コーヒーで流し込むと急いで席を立った。

 筆記用具を持ち、席を離れる際にはデータの保存を忘れずに!


 「部長はカンファレンスの3番にクライアントと一緒にいるから。急げよ! 」


 「了解です! 」


 この先で生きていくなら、勝手知ったグラフィックデザイナーをもう一度やるのも悪くないと思う。

 2度目なんだから絶対に成功すると思うし、そもそもデザインとかマスコミとか広告業界とかってヤツ、自分は嫌いじゃないんだってことが最近良く分かってきた。


 (ちょっと疑ってたけどさ、元々、美術系って好きだったんだよな。)

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