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癌で余命宣告された私が時を遡って、美少女を助けたり、仲間と一緒に怪獣と戦ったりするお話 ~ RETROACTIVE 1990  作者: TA-MA41式
1991年に至った私が、パソコンオタク、柔道四段の研修医、傍若無人なチビッ子女子高生とチームを組んで戦うお話
64/82

1991年2月28日 木曜日 22:00~

 「なんか、暖房の効き悪くね? 」


 「そうでもないって。薄っぺらなキャンバストップで、しかも隙間空いてるから風通し最高なんだわ。」


 「なんか、風邪ひきそうなんだけど。」


 「俺も。」


 荷物満載の360㏄ “てんとうむし” に乗る大柄な男二人。

 現場の後片付けを終えて、ユージが待っているはずの九段下マンションに戻るべく、適当に裏道を抜け、現在は市ヶ谷近辺を走行中である。


 「で、話を戻すけどさ、これって自然物じゃないし、何処にでも落っこちていて良いような代物でもなさそうなんだよ。」


 「そんなん見れば分かるって。もっと突っ込んだ話は無いの? 」


 私が拾った金属製の円盤、人の手が加わらない限り、金属がほぼ真円形に成形されるはずがないので、人工物であることは間違いない。

 機械的な部品ではないし、人工物の一部というわけでもなさそうだが、そこら辺の道端に落ちているゴミの類いとも思えない。

 そんなモノが、前回のHUNTER退治の現場にも落ちていたというならば、


 「これ、HUNTER絡みでほぼ間違い無しってことで良いんじゃね? 」


 助手席に座るケンタが、円盤を摩ったり裏返したり、ペンライトで照らしながら刻印を読もうとしている。


 「ここに何が書かれてるか分かれば手掛かりになるかもなんだけど。」


 刻印らしき指触りを感じたのは円盤の外周側面。

 1センチほどの幅に文字らしきものが並んでいると思ったのだが、


 「うーん、殆ど潰れてて読めないわ。表面が焼け崩れたみたいになってんだよな。」


 「焼けてるって? 」


 「だな、元は表面がサラサラしてただろうに、今はけっこうボコボコ。」


 触ってみろとケンタが差し出した円盤を、私は運転しながら空いている左手で受け取って、その手触りを改めて確かめてみた。

 拾って直ぐの時は汚れていたし、雨に濡れていたので気付かなかったが、乾いた表面を触ってみると確かに不規則な凹凸を感じる。


 「それとな、これ、たぶんさぁ・・・ 」


 ケンタが後部シートに置いてあった工具箱に手を伸ばして蓋を開けた。


 「えっと、釘ないかな? 釘ぃ? 」


 後ろ手に工具箱の中を掻きまわしてから、小釘を1本取り出し、私から円盤を受け取ると、それに小釘を近づけたり離したりしながら何かを確認している。


 「やっぱり、ホンの微かだけど、これって磁気あるわ。」


 「え? 磁石なのか? 」


 そう言えば、そんな感じの手触りだった。

 金属というよりもセラミックっぽい気もする。


 「磁石っていうか元磁石って感じ。今は磁石だった痕跡が残ってるって程度の磁力だな。」


 小釘を近付けると微妙に引っ張られるような感じはするが、円盤にくっつくほどの磁力は無いと言う。


 「前の現場で拾ったのも同じくて、微量の磁気が残ってたんだけどな、ユージが気になるっていうんで知り合いの工場で調べてもらったんだ。そしたら、こいつは酸化鉄を主原料にして、微量のコバルトやニッケル、マンガンなんかを混ぜて焼き固めたモノらしいんだわ。」


 「それってフェライトだろ? スピーカーとか、モーターで使ってる磁石? 」


 「そうそう。で、それが磁気を失ってるってことは、さて、どういうことでしょうか? 」


 こんなところで、理科の問題が出てきた。

 理科は得意じゃないが、そのくらいは私でも知っている。


 「磁石から磁力が無くなるなら、キュリー点(磁力を完全に失う温度)に近い高温で焼かれたか、衝撃を加えられたか、どちらかしかないだろう。」


 テレビのバラエティ番組でやってたのを見たことがある。

 私は、その手の番組で雑学を蓄えるのが、わりと昔から好きだったりする。


 「だよね。でも、それがどういうことなのかは分かんないから、そこから先はユージにお任せしてるんだよ。」


 「ふーん。」


 ところで、その磁石はHUNTERが現れる場所に落ちているのか?

 それとも、HUNTERが現れた場所に落ちているのか?

 後か先かは、けっこう重要だと思うのだが、どちらなのだろう?


 「HUNTERの落とし物ってわけじゃないと思うな。あいつらの何処見ても、こんな部品が付くとこ見当たらないし、あいつらの所持品ってことも無いと思う。」


 「確かに、HUNTERの身体の何処かにポケットでも付いてるんなら兎も角、持ち物ってことは無いだろう。」


 それならば、この磁石はHUNTERが現れる場所に、HUNTERよりも先行して置かれているという可能性は考えられないだろうか?

 その役割が何かは分からないが・・・例えば目印とか?


 「ユージは、その可能性を考えているっぽいぞ。」


 「へぇ、それってどんな? 」


 「アンカーボルトって知ってるか? 」


 「聞いたことあるけど、知らん。」


 「鉄骨とかをコンクリの基礎に固定するためのボルトで、船が錨を下ろしたみたいにガッチリ固定されるからアンカー(Anchor)ボルト。」


 「やっぱ、知らんわ。」


 「ユージが、こっち来る前に未来人から聞いた話だそうだが、Time communication device で過去と交信する際には、彼らが “アンカー” って呼称する何かを先に相手に撃ち込んで、交信ラインを固定するそうなんだわ。そうしないと、お互いの位置関係がズレてしまうらしんだよ。」


 だから、Time transfer device も、アンカーみたいな仕掛けを必要としてるんじゃないかというのがユージの推測ということだった。


 「ん~まあ、そうだろうねぇ。」


 考えてみれば、時間を超えて過去や未来の人間と交信したり、物質を送ったりするのに位置情報は最も大切に違いない。

 人間は地球上に静止していても、地球自体は時速約1700キロメートルで自転しているし、時速10万8000キロメートルで公転している。太陽系も天の川銀河の中心を軸として回転しているし、天の川銀河も宇宙空間を移動している。

 よって、数秒前に私が立っていた位置は、今は数千キロ離れた宇宙空間ということになる。

 そんな猛スピードで移動するような位置関係にある相手と話をしたり、荷物を送ろうとするなら、確かに錨を撃ち込むくらいはしなきゃならないだろう。


 「んで、この磁石が、そのアンカー? 」


 「ユージは確信してるっぽい。そんで、転送されてくるHUNTERの数分だけ落ちてるはずだって言ってる。」


 そう言えば後片付けの最中にも、そんなことをケンタが言っていたので一応辺り一帯を探してみたのだが、見つけられなかった。

 流石に今日はコンディションが悪過ぎた。


 「夜じゃなきゃ、雨降りじゃなきゃ、探しようもあったんだけどな。」


 「だよなぁ、残念ながら磁石探しは次回に持ち越しだ。」


 それにしても、この仕事はHUNTER狩りの戦闘が主体と思っていたが、謎解きや未来人との駆け引きもあるようで、けっこう頭を使うことも多いらしい。

 まあ、もっぱら頭を使う役目はユージにお任せのようだが。


 「でも、ユージも大変だよ。頑張って頭を使って答えを見つけても誰かが正解を教えてくれるわけじゃないからね。地道にコツコツと情報を集めて積み上げていくしかないわけだしさ。」


 常の事だが、未来に対する疑問には誰も答えを返してくれないという壁にぶつかってしまうわけだ。

 推測して、確信ができたら、それを自力で証明していくしかないということである。

 そして、このチームの中で、その任に主として携わっているのがユージということ。

 戦闘には参加しないけれど、チームの中枢であり頭脳としての役割を果たしている。


 「ユージは随分と熱心に取り組んでるよ。俺たちの仕事に役立つんじゃないかって色々やってくれてるし、だから磁石についてもそのうちに何か分かったりするんじゃないかな? そのためにも、俺たちは戦闘だけじゃなくて情報収集にも力を入れないといかんのよ。できるだけユージの手助けになるように、細かい報告ができるようにってね。」


 「現場で気になるモノを見つけたら必ず回収! ってのもその一環ってわけだ。」


 「そういうこと。こんなゴミみたいなモノでも回収しなきゃダメなんだよ! ゴミを捨てたらごみんなさいしてもダメだからねって、ぷぷっ! 」


 「・・・ 」


 漸く、左手に靖国神社の塀が見えてきた。

 もう数分で九段下マンションに着く。


 (さーて、初の仕事、順調というわけにはいかなかったけど、もう直ぐ終わりだな。)


 ユージに報告して、満載したゴミを片付けてスッキリしたら、さっさと帰ってビール呑んで風呂に入って嫌なことは忘れて寝よう。


 「もう直ぐ靖国神社過ぎるから、荷物下ろす準備しといて。」


 「おお、佐渡オッケーさ! 運転、お疲れサマンサ! 」


 「・・・ 」


 そうだ、嫌なことと、ついでに鬱陶しいことも全部忘れてしまおう。


 (あ、嫌なことと言えば? さっき、サラリと何か不快な事実を耳にしたような気がするんだけど? )


 過去と交信する際には、彼らが “アンカー” と呼称する何かを先に相手に撃ち込んで、交信ラインを固定するとか言っていなかったか?


 「おい、ちょっと、ケンタ! 」


 「なんだい? 」


 「過去と交信する時に、“撃ち込むアンカー” って何? 」


 「印付けるみたいなモノじゃないの? 」


 「まさか、磁石みたいなモノを? 」


 「いやいや、Time communication deviceに、物質転送はできないだろ。」


 「それじゃ何? 」


 「分かんないけど、それ考えない方が良いよ。俺も考えないようにしてるし。」


 そんなこと言われて「ハイそうですか」で、済ませて良い話とは思えないのだが?

 物質を送れないなら、頭の中に電波的な信号的なモノを送りつけたのではないか?

 あの未来人の男は、必要があればマインドコントロールもすると言っていたし、脳の中に印を付けるようなことだってしても不思議はない。

 そういうことをされた場合、怖いのは後遺症や副作用である。

 精神的に異常をきたしたり破綻したりするのは死ぬよりも怖い。

 “アンカー” なんて物騒なモノの存在を知りながら、ケンタや皆は怖くないのだろうか? 


 「ケンタは何で考えないようにしてるんだ? 何で考えない方が良いんだよ? 」


 そう聞いたら、ケンタは苦笑いしながら答えた。


 「医者の直感ってヤツ? かな。」


 「ウゲッ、マジか! 」


 ホント、勘弁して欲しい。

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