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癌で余命宣告された私が時を遡って、美少女を助けたり、仲間と一緒に怪獣と戦ったりするお話 ~ RETROACTIVE 1990  作者: TA-MA41式
1991年に至った私が、パソコンオタク、柔道四段の研修医、傍若無人なチビッ子女子高生とチームを組んで戦うお話
61/82

1991年2月28日 木曜日 21:40~

 事前に聞いてはいたが、HUNTERの力はトンデモなく強かった。

 それ以外に取柄が無いとのことだったが、ターゲットを捕まえて絞め殺すことに特化しているならば、それだけで十分に脅威になる。

 今、私の右足首を握り締めている手力は相当なモノで、思い切り足を振り動かそうとしているのに、まるでコンクリートで固められたようにビクともしない。

 そんな状態だから、HUNTERの手の動きに足と身体の姿勢を合わせていないと、おかしな方向に曲げられて骨ごとポキリとやられてしまいそうだった。


 (こんの、クソ力めっ! )


 上半身を起こしたHUNTERに片方の足を取られているので、せっかく手に持っている金属バットが上手く振れない。

 片足立ちでHUNTERの動きに合わせてバランスを取りながらでは力も入らない。

 倒れそうになる度、金属バットを杖代わりにしなければならないので武器としては全く役に立っていなかった。

 但し、万事休す? と、いうわけでもない。

 

 「てめぇ、いったい何がしたいんだよ! 」


 思わず怒鳴ってしまったが、今、私とHUNTERは、何だか奇妙な体勢を取ったまま膠着状態に陥っていた。

 私は右足を取られてピンチだが、HUNTERの方は私の足を掴んでいるせいで右手が塞がっており、上半身を起こした姿勢のまま、それ以上は立ち上がれずにいる。

 足の構造がスタンプみたいに単純なので、バランスが悪くて転びやすいとか、転がしたら簡単には立ち上がれないとかいう弱点のせいなのかもしれない。

 本当は両手を突きたいのかもしれないが、それができないので、身を捩ったり、反動を付けたりして無理矢理立ち上がろうと頑張っているが、かなり無理な様子である。

 それでも、一度掴んだ私の足を離すつもりはないようで、そのおかげで私は振り回される格好になってしまっていた。


 「離せよ! ごらぁ! 」


 苛立ちまぎれにヤンキー高校生みたいな巻き舌口調で怒鳴ってしまったが、もちろんそんな脅しが通じる相手ではない。

 やけくそになって、金属バットを振り回した。

 何発かはHUNTERの頭や身体に命中したが、踏ん張りが効いていない一撃ではボコボコと鈍い音を立てるだけで効き目はない。

 HUNTERには痛覚が無いらしいので、殴られてる自覚も無いだろう。

 だから、怯ませることもできない。


 (初仕事だってのに、やっちまった! )


 足元の警戒なんて考えもしなかった。

 このままの状態でHUNTERに完全に立ち上がられてしまったら後ろに仰け反って倒れてしまう。

 HUNTERの馬鹿力に掴まれたままでそうなったら、右足首骨折間違い無しである。

 EATERの大群相手に立ち回った経験持ちの私なのに、こんな白坊主に文字通り “足をすくわれる” とは、残念過ぎる。


 「あらら、摑まれちゃったのか。」


 「そうなんだよ、摑まれちゃったんだよ・・・って? おい、ケンタ! 」


 救いの手がやってきた。

 大男が私の後ろで金属バットを肩に担いで立っていた。


 「何とかしてくれよ! とんでもねぇ馬鹿力なんだよ! 」


 「そうなんだよね。こいつらの力ってハンパ無いから。俺も初仕事で腕掴まれたことあってさ。」


 HUNTERに振り回され、右に左にヨタヨタと左足一本で飛び跳ねている私を目の前にしながら、ケンタが何やらウンウンと頷きながら、一人で思い出に浸ろうとしている。


 「そういうの良いから。頼むわ! マジで! 」


 ケンタという男の中身も大分見えてきた。

 基本的に気の良い大男なのだが、誰も笑わず耳を背けるオヤジギャグを平然と連発するところなどを見ても分かるが、かなりの呑気モノで常時マイペースなオトボケキャラである。


 「おお、そうだよな! 」


 忘れ物でもしていたような、思わず「忘れてんじゃねぇよ!」と、ツッコミを入れたくなるような気付き方をしてから、漸く戦闘態勢に入ったケンタが、首をコキコキと鳴らしながらHUNTERの背後に回った。

 そして、金属バットの調子を見るように、軽く1回だけ素振り。


 ブウォシッ!

 

 柔道4段の鍛え抜かれた筋肉で振り切った金属バット右打ちが、空気と雨を同時に切り裂く音がした。


 「うしっ! 」


 と、まるで打球が柵越したイメージを掴んだかのような力強い気合い。


 「ねぇねぇ、今の感じオータニっぽくなかった? 」


 「この時代にオータニはいねぇーよ! 」


 まだ、生まれてもいないだろう。


 (そういうの良いから、ホント、早くしてや! )


 もう、私の片足ケンケンも限界である。

 

 「んじゃ、いっくぞーっ! 」


 掛け声と同時に金属バットを右打ちに構えたケンタ。

 そのまま、HUNTERの頭をスイングで薙ぎ払う・・・モノだとばかり思っていたが?


 「フンス! 」


 鼻息荒く繰り出した金属バットは、「さっきの素振りは何だったの? 」と、問いたくなるほどに力のこもった唐竹割りだった。

 しかも、狙いは頭ではなく、私の右足首を握って離さないHUNTERの右腕の付け根。

 

 ブヂッボキッ!


 骨が折れ肉が千切れる嫌な音。

 確かにHUNTERの身体は脆い。

 いくらケンタが怪力でも、普通の人間の腕を金属バットで切断するのは難しいだろう。

 ところが、HUNTERの右腕は一撃で肩の付け根で完全に千切れてしまっていた。

 おかげで私の右足は、かなり自由になった。

 “かなり” というのは、千切れながらも、HUNTERの右手が私の足を握ったままだったからである。

 ガッチリとロックされているみたいで、簡単には外れそうにない。

 だが、これで骨折の危機は脱した。


 「いや、ちょっと、こっちからだと角度悪くてさ、急遽目標変えたんだわ。」


 スマンスマンと頭を掻くケンタ。

 だが、それはそれでOK。


 「この野郎、今までよくも振り回してくれやがったな! 」


 やられたのだから仕返しをしなければならない。

 右手が千切れても痛がりも動揺もせず、左手1本で突っ張りながら、ジタバタともがきながら立ち上がろうとしているHUNTERの真ん前に金属バットを手にした私が立った。


 (せっかくの初仕事なんだから、一体くらい仕留めなきゃ! )


 そう思いながら金属バットを構える私は左打ちの体勢。


 「うーりゃっ! 」


 私のフルスイングが、HUNTERの大きな頭を横薙ぎにした。


 ブゥオゴッ!


 柔かくも固くも無い中途半端な感触が手に伝わって来た。

 あまり気持ちの良い感触では無かったが、目の前にあったHUNTERの頭を金属バットがジャストミートし、思い切り吹き飛ばしたのが分かった。

 何処まで飛んでいったのかは後で確認しよう。


 「ナイスバッティン! 」


 ケンタが呑気な誉め言葉を掛けながら、拳を合わせに来た。

 それを拳で受けながら、


 「サユリさんの方は? 」


 ケンタに聞いたのだが、


 「俺はパトカーに道塞がれててさ、それを避けて遠回りしたから今来たばっかだぞ。サユリさんは何処よ? 」


 ということは、サユリさんは今も一人で戦闘中ということか?

 それとも、既に決着をつけているのか?

 自信満々な言い方で、「一人で大丈夫」などと言っていたが、“大丈夫” という言葉、は大丈夫じゃなくても口にしなきゃならない言葉だということ、昨年の11月、健気な小6女子と一緒に化物と戦った時に良く分かった。


 「サユリさんはこっちだ! 」


 地面に寝転がっているHUNTERではない、立って戦闘態勢で襲い掛かろうとしているHUNTERを相手にして、腰を抜かして動けない高校生カップルを庇いながらやっつけようなんて、あの小柄なオバチャン少女には厳しそうな気がする。


 (捕まったら洒落になんない力だったからな。)


 そう思い、急いで加勢しに駆けつけようとしたのだが、


 「うわっ! 」


 何か足に絡むものがあって頭からつんのめりそうになった。

 咄嗟にケンタが手を貸してくれたので転ばずに済んだが、右足首にHUNTERの右腕を付けたままだったのを忘れていた。


 「そりゃね、切り取りでもしなきゃ絶対に外れないんだわ。後でノコギリとペンチ持ってきてやるから。それまで我慢な。」


 ケンタはそう言って私を立たせ、後から追い掛けて来るようにと言ってから、一人でサユリさんのところに走っていった。


 (なんか、初仕事、良いところ無いなぁ。)


 遅れても良いから私も後を追わなければならないのだが、走りようがないので多少の速足で歩くしかできない。

 しかも、少し足首には痛みが感じられるし。


 (あーあ、こりゃ軽い捻挫か肉離れってとこか。)


 ヤレヤレである。

 あの怪力で足が捥ぎ取られなかっただけ良かったと思うようにしよう。

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