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癌で余命宣告された私が時を遡って、美少女を助けたり、仲間と一緒に怪獣と戦ったりするお話 ~ RETROACTIVE 1990  作者: TA-MA41式
1991年に至った私が、パソコンオタク、柔道四段の研修医、傍若無人なチビッ子女子高生とチームを組んで戦うお話
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1991年2月28日 木曜日 21:20~

 「未来からHUNTERとか化物の類いが転送されてきた瞬間にはね、Time communication device に一度でも掛かったことのある私らが近くにいたら、奴らの意図が頭の中に流れ込んで来るような感じがするんだわ。なんて言うかマジでヤバイ悪意の塊みたいなヤツがね、ブワーッと来るんだよ! ブワーッとね。だから、HUNTER来たって! すぐ分かるから安心しな。」


 サユリさんのアドバイスを聞いて思い出したことがある。

 2027年11月26日、小田急線生田駅のホームで感じた悪寒の正体。


 (身の危険を覚えて逃げ出したほど、強い悪意の塊のように感じたっけ。)


 あれは、そういうことだったのだろう。


 (未だ、時間遡行する前だったけど、その日の朝、大学の研究室でTime communication deviceには触れちまってたらしいからな。)


 触れてなければ、HUNTERなのか他の化物なのかは知らないが、逃げ出すようなこともせず摑まって殺されてしまっていたかもしれないということである。


 (あれは運が良かったんだな。)


 ウンウンと思い出に頷きながら、私は燕のユニフォームの中に金属バットの上半分くらいを押し込んで、傘もささずに絵画館前通りの横に茂る常緑樹の林の中に潜んでいた。


 (もう直ぐ、サトウコウイチって高校生が現れるんだよな。どっちから来るんだろ? )


 せめて、JR信濃町駅方向から来るのか、それとも国立競技場方向からなのか、もしくは銀杏並木を通ってくるのかぐらいは知っておきたかったが、そこまで詳しい情報は未来から送られてきてはいない。


 (絵画館の辺りって指示があるだけ良いのか。)


 但し、辺りというのも決して狭い範囲ではない。

 しかも、絵画館の周辺一帯は常緑樹が其処彼処に茂って林になっているので、見通しも効かないし、


 (3人でカバーするには厳しい広さだなぁ。)


 でも、まあ、この雨降りに林の中に入りたがるモノ好きもいないだろうから、絵画館前通りを見張っていれば多分当たりだろうと思っていた。


 (それにしても寒いわ。)


 傘もささず濡れるがままに任せるには、この時期の雨は冷た過ぎる。

 さっさと仕事を終わらせて、着替えて家に帰りたかった。

 来るならとっとと来やがれと思いながら、何度も腕時計で時間を確認していた。


 (3分前か。ホントに確かな情報なのか? )


 HUNTERが転送されてくるなら、襲撃前の5分以内ということだった。


 (未来人からの情報が正しければ、あと3分以内に現れるはずなんだけど? )


 そう思いながら、もう一度腕時計を嵌めた腕をあげ掛けた時、それが起きた!


 (来た! )


 2027年11月26日、小田急線生田駅のホームで感じたのと同じ。

 全身の毛が逆立ち、鳥肌立つような悪寒が走った。


 ブーン


 尻のポケットに入れていたスマホモドキが振動した。

 一昨日の顔合わせの日、飲み会終わって帰る時、ユージから預かっていたスマホ型ポケットベル(発信機能付き)だが、今回は3人のうちの誰かHUNTERを確認した者が、直ぐに合図の空発信をするよう事前に決めていた。

 其々の持ち場を決めていたので、発信者が分かればHUNTERが現れた位置も分かる。


 (サユリさんのとこだな。)


 あの傍若無人なチビッ子が、どれだけの戦闘力を持っているのか知らないが、所詮は未成年女子なので、私やケンタほどの戦闘力は無いだろう。


 (まずは現場へ急行! )


 私は金属バットをユニフォームから抜き取って、その中ほどを左手で握り締めると大急ぎで、絵画館の左手にある林を突っ切って、サユリさんの持ち場に向かって走り出した。


 この日、天候が悪いせいか、それともタイミングに恵まれたのか、お巡りさんとは一度も遭遇していない。

 お巡りさんどころか、通行人の姿も殆ど見掛けなかった。

 私が林を駆け抜けて、都道414号線に出た時も通行人の姿は全く見られなかった。


 (こういうこともあるのか? )


 そこはJR千駄ヶ谷駅とJR信濃町駅の中間地点で、車の通りはあっても人の通りは多い道ではない。

 だが、一人もいないというのは珍しい。


 (そうか! 化物を人目につかないように転送するには、こういうタイミングを狙うんだな。未来人なら、手間さえ掛ければ調べられるってことか。)


 私が時間遡行した際には、人目を避けるとかは度外視した乱暴な転送が行われていたが、本来は過去に干渉するなら、化物の転送先の状況なども十分に把握し、緻密に計算し実行されて当然なのである。

 但し、人目が無いということは、阻止する側にも都合が良く働いてくれる。


 (いたっ! )


 首都高速4号線と都道414号線に挟まれた緑地帯。

 そこに3人の人影が見える。

 一人は金属バットを抱えた小柄なポニテ少女。

 二人目は高校の制服姿の男子。

 これが、おそらくサトウコウイチであろう。

 そして、三人目はケンタではない。

 ケンタは未だ到着していなかった。

 三人目は女子女子高生。

 もしかしたら、サトウコウイチの彼女か?

 この3人が揃って見つめる先には、白い人型をした化物がいた。


 (あれがHUNTERか。)


 行き過ぎる車を縫うようにして都道414号線を渡り切った私は、そのまま緑地帯に駆け込んだ。


 「お待たせ! 」


 「遅いわ! もっとシャキシャキ走りな! 」


 ヒーローのように颯爽と登場したつもりなのだが、オバチャンの一括で下っ端扱いになってしまった。


 「あれ? 2匹いるんじゃなかったっけ? 」


 「いるんじゃないか? その辺のどっかにもう1匹さ。気を配らないとヤバいよ! 」


 今、相対している1匹に気を取られ過ぎたり、パニックで宛もなく無く逃げ出したら、この緑地帯のどこかに潜んでいるもう1匹にやられるかもしれない、ということらしい。


 「ちょっと! 後ろのアベック! 怖いからってウロウロしないで、そこでじっとしてるんだよ。迂闊に動いたら本気でヤバいんだからね! 」


 じわじわと歩み寄るHUNTERを目の前にしながら、背後に庇った高校生カップルの動きに気を配るのを忘れない辺り、流石サユリさんはリーダー役を務めるだけある。

 チビッ子とは思えないほどの度胸持ちである。

 もっとも、高校生カップルは状況に頭が追い付いていないようで、二人抱き合ってオロオロしてるだけ、腰も抜かしてそうなのでウロウロする心配は無さそうである。

 だが、そのせいでサユリさんはHUNTERと高校生カップルの間を位置取ったままで戦わなければならず、かなり不自由そうに見えた。

 ところが、


 「ミノル! こっちは良いから、あんたはそこら辺の木の陰とかに潜んでいる、もう一匹を見付けてぶっ飛ばしな! 早くしな! さっさと動くんだよ! 」


 しっかりヒーロー役に収まったサユリさんが、体勢の不利など気にすることも無く下っ端役の私に向かって指示を飛ばした。


 「了解! 一人で大丈夫か? 」


 「それ、誰に言ってんだい? 」


 大丈夫なようである。

 それなら、安心して背中を任せて、もう一匹を探すとしよう。


 緑地帯の中には街灯が無い。通りにある街灯から届く灯りでなんとか木々の並びは見えるが、雨降りのせいもあって視界は良くない。

 首都高速4号線を走る車の音も喧しくて、物音を辿ることもできそうにない。

 しかし、今、サユリさんと対している1匹を見れば分かる。

 この暗がりでも、HUNTERの真っ白い身体は、僅かな街灯の光でも林の中に浮かび上がってくるはずだった。

 ところが、


 (いないぞ? どこにもいない! )


 この緑地帯、そんなに広くはない。

 左右を首都高速の乗り降り口に挟まれているので、奥行き20メートルから30メートル、横端50メートルくらいしかない。

 その一帯を駆け足で回ってみたのだが見つけられない。

 このぐらいの広さなら、夜間だとしても25歳の私の視力 “両目2.0” で見渡せるはずで、視界に白い化物がいたら絶対に目につくはずなのに、


 (サユリさんが言ってたとおり、けっこう図体があるから、木の陰に隠れるのは無理だと思うんだが? )


 もしかしたら、ここ以外のところに転送されたのではないか?

 そう思って、ここは一旦、サユリさんの手助けに戻るべきと判断し掛けたのだが、


 グニュ!


 何か柔かいモノを踏んだ?


 (え? )


 その不快な感触の正体を確かめるべく、下を向いた私の視線が自分の足元を捉えた。

 そこに見えたのは黒い土の色ではなかった。

 私の足の下にあったのは、闇に浮かび上がる不気味な白。


 (こいつ! こんなところにっ?! )


 見つからないわけだった。

 地面の中にいたのでは、私の視力 “両目2.0” でも見えるはずが無い。


 (くそ! 油断したっ! )


 それまで、寝転がった姿勢で土に埋まっていたもう1匹のHUNTER。

 その真っ白い身体が、ゆっくりと土を押し退けて起き上がり、戦う姿勢を取ろうとしていた。


 そして、最悪なことに、その指無し手袋のような薄気味の悪い手が、私の右足首をしっかりと捉えていた。

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