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癌で余命宣告された私が時を遡って、美少女を助けたり、仲間と一緒に怪獣と戦ったりするお話 ~ RETROACTIVE 1990  作者: TA-MA41式
1991年に至った私が、パソコンオタク、柔道四段の研修医、傍若無人なチビッ子女子高生とチームを組んで戦うお話
59/82

1991年2月28日 木曜日 21:00~

 21時少し前に、神宮外苑に近接した駐車場に車を入れた。

 警察に怯えながらギリギリまで路駐していたのは、高額な都心の駐車料金を少しでも節約するためだった。

 会社組織とかじゃないので、基本的に出動時に掛かった経費は割り勘。

 もちろん、未成年のサユリさんからお金を取ることはできないので、私とケンタで折半になる。

 大きな金額ならユージが負担してくれるらしいが、細々とした駐車料金までは流石に格好が悪くて請求できない。


 「さてと、HUNTERの襲撃時間は21:30だから、出動は20分ごろだな。」


 そう言いながら、ケンタが後部シートに纏めて乗せてあった金属バットを、私とサユリさんの分で2本渡してよこした。


 「そんなギリギリで良いのか? もっと早くに見回ってた方が良くないか? 」


 少しでも早めの警戒が必要ではないかと思ったのだが、


 「HUNTERが転送されてくるのは、だいたい襲撃前の5分以内なんだよ。その前に金属バット持って長い時間ウロウロしてたら、警察に掴まっちゃうから、こっちがヤバくなるんだよな。“オー、マイ、バーット” って感じ。ぷぷっ! 」


 「そしたら、21時25分頃にHUNTERを見付けたら、そこにはサトウコウイチもいるってことだよな。サトウコウイチを見付けたらHUNTERに出会えるってことにもなるな。なるほどねぇ。」


 ケンタのセリフの後半は極自然に切り捨てた。

 この男の面白くないオヤジギャグ、おそらく2020年代では多くの患者や病院スタッフに混乱を齎していたことだろう。

 聴こえなかったことにするのが一番の対処法ということである。

 そんなことよりも、大事なことを聞いておかなければならない。


 「出動する前に、少しレクチャー受けときたいんだけど、良いかな? 」


 「ああ、良いよ。聞きたいことがあったら私に言ってごらん! 」


 その偉そうな物言いに慣れさえすれば、妙な脱力系のギャグを挟まないサユリさんの方がレクチャーを受けやすい。


 「それじゃ、聞くんだけどさ。HUNTERってどんなヤツ? 」


 九段下マンションを出掛けに、サユリさんに渡されたA4のコピー用紙が一枚ある。

 そこには、縄文人が洞窟に残したような謎の絵画が描かれていた。

 それを受け取った後は、特に何の説明も無いまま


 「さあ、化物退治に行くよっ! 」


 そんな流れに乗せられて、ここまで来た。

 だが、肝心の情報が欠落している。


 (HUNTERって、どんな姿形をしているんだろ? )


 おそらく、サユリさんの絵がその答えに相当するモノだと思われるが、私のような凡人には彼女の絵は難解過ぎて、そこから情報を得ることはできなかった。

 だが、HUNTERの姿形が分からないと、これから戦うべき相手を探しようが無い。


 「一応、絵はもらってるんだけど、細かいとこが分からなくてさ。例えば大きさとか、あと動き方とか、武器とか、そういうの。」


 貰った絵じゃ、さっぱり分かりません! などとは言えないので、婉曲な情報収集をすることにした。

 ここで追加の絵など描かれては意味が無いので、ササッと口頭でお願いしますと言うのも忘れていない。


 「そうだねぇ。まあ戦う前に “敵を知る” ってのは大事なことだから、簡単に説明してあげようか。」


 ということで、サユリさんから頂いた話。

 私が持っている情報は “真っ白い人型” ということだけなので、殆ど全てが新規の情報だった。

 まずは、HUNTERの身体的特徴だが、身長は2メートルほどで、頭が大きくてスタイルは5頭身ぐらい。

 身長の割に体重は意外に軽くて、20から30キロぐらい。

 胴体や手足など全てが寸胴だが、人間と同じ箇所に関節があるので、普通に歩くことはもちろん、走ることもできる。

 但し足が円いスタンプ状の構造になっているので制動力に乏しく、不安定で転びやすく、姿勢の復元力も弱い。

 次に、最も気になるHUNTERの攻撃手段。

 これが実に単純で、ターゲットを確認したら飛びついて、唯一の武器である怪力で絞め殺すの一択だそうである。

 他には攻撃手段を一切持ち合わせていないので、これを警戒すれば大した化物ではないとのことであった。


 「だから、“白い木偶の棒” って言ったわけさ。」


 「はあ、なるほど。」


 HUNTERの全体像が見えてきた。

 これは確かにEATERに比べたら大した化物じゃないかもしれない。

 だが、そんな程度の能力しかない化物なら、生物兵器として過去に送る意味も無いわけだが、


 「ところが、この白い木偶の棒には厄介なことがあるんだよ。」


 「厄介なこと? 」


 「HUNTERはね、動かずにじっと突っ立ってたら、ただの変な人形にしか見えないんだわ。パッと見なら、大抵の人は出来の悪いマネキンか人型したオブジェやディスプレイだと思うだろうねぇ。

 危険な生き物なんかにゃ全然見えないから、警戒心を抱く人なんかもいないと思うよ。

 例えば、そうだね、渋谷のスクランブル交差点の前にHUNTERを一体置いておくとするじゃないか。そうすれば、興味を持ってジロジロ見てくる人はいるだろうし、邪魔だなって舌打ちしたり蹴り入れたりする人はいるかもしれないよ。

 でも、怖がって逃げたりする人はいないだろうね。殆どの人は知らんぷりして、そのすぐ傍を通り過ぎて行くだろうさ。

 そういうとこが、このHUNTERって奴の厄介なとこなのさ。

 その外見のおかげで人に警戒され難く、人混みに馴染みやすくなってんだよねぇ。」


 その例えは神宮外苑にも当てはまるだろうか?

 サユリさんから聞いた話を基に頭の中で組み立てたHUNTER像を、そのまま想像で銀杏並木の下に立たせてみた。


 (夜道を歩いていたら、銀杏の木の横に真っ白くて頭でっかちの人形が突っ立っていた。さあ、どうする? )


 たぶん、どうもしないだろう。

 無視して通り過ぎようとするだろう。

 自分に危害を及ぼすモノだと認識しないだろうから、怖がって逃げたりはしないし、道を変えたりもしない。

 ちょっとくらい薄気味悪さを覚えたとしても、人形一つで逃げ出すような見っとも無いマネはできないという自制心や羞恥心のようなモノが働いて、敢えて不用意に近づいてしまうだろう。


 (なるほど、そういうことなのね! これは効果的だわ! )


 その性質、正に都会向きな生物兵器、正にHUNTERと言える。

 街の小さな変化に無頓着な人が多く暮らしていて、異質なモノが其処彼処に溢れているから、それが一つくらい増えたところで、大して気に留めようとも思わない。

 渋谷のスクランブルだけじゃない。

 新宿や池袋など混み合う駅の構内や地下道、銀座や秋葉原の人混みの中、観光客であふれる浅草やお台場など。

 HUNTERがポツンと立っていても、誰も見向きもしない。

 そして、見向きもしないのは、見えないのと同じ。

 確かに厄介な化物である。


 (食虫植物やイソギンチャクっぽいかもな。)


 虫が寄ってきたら絡め取る。

 HUNTERというよりもAMBUSHと言った方がピッタリくる。


 「但し、正体知ってる私らから見たらHUNTERなんて木偶の棒さね。バットの一閃で頭を吹っ飛ばせば、それでお終い。ピクリとも動かなくなるよ。身体の作りはビックリするほど脆いからね。

 それに動きを止めたきゃ足でも引っ掛けて転がせば簡単には立ち上がれなくなるんだわ。ジタバタしてけっこう笑えるんだよね。」


 EATERの身体は脆かったが、HUNTERの身体も脆いらしい。

 時間を超えて転送可能な生物兵器とするには、色々な機能を犠牲にしているようだが、身体の脆さも、そう言うことなのだろうか?


 「やあ、勉強になりました! すげぇ分かりやすかった! あざっす! 」


 一応の礼は言っておいた。

 サユリさんが満足気にコロコロと喜んでいる。

 

 (ホントに分かりやすかったから、良いんだけどさ。)


 これらを土壇場で初めて聞かされているのはどうなの? と思うのだが、今さら言っても始まらないので黙っていることにした。


 「HUNTER、EATER、CARRIER、他にもいるの? 」


 できれば、他にはいて欲しくないと思って試しに聞いてみたのだが、残念ながらそうはいかないらしい。


 「ああ、WORMってのがいるよ。」


 サユリさんが答えたら、ケンタが乗っかってきた。


 「それ、俺がこっちきて最初にやっつけた奴だ! ユージやサユリさんと出会う前、先月の初めのことだよ。」


 「WORMって虫か? 」


 虫はあまり得意じゃないので、最も出会いたくない類なのだが。


 「そうだな。あれは虫なんだろうな。やっぱり白くて、大きさは小指の先くらい。それが人間の身体にいつの間にか貼り付いてんのよ。でも、紙屑丸めたゴミみたいにしか見えないから、誰も気付かないし、気づいても親しい人でもなきゃゴミなんて取ってやろうって思わないだろう? そんなして放っといたら、こいつが人間の皮膚に穴を空けて体内に潜り込んじまうらしいんだわ。

 病院の一件じゃ、俺が阻止したから誰もそんな目にあっちゃいないが、後で回収した死骸を調べたら、そういう類の化物だったって分かったんだよな。全くさぁ、虫を無視しちゃいけませんってなっ! ククッ!」


 どうして、この男は真面目な話の最後で腰を折ろうとするのだろうか?

 2020年代、こんな外科部長の下で、笑えないジョークに付き合わされて笑いを強いられる、大学病院のスタッフたちの苦労はいかばかりだろう?

 こういうのもパワハラの一種なんじゃないのか?

これからは、屋外での戦闘シーンが多くなりますが、

何となく頭の中にある90年代の記憶でロケーションを描いてるもので

実際と齟齬があるかもですが、ご容赦下さい。


評価、ブックマークの方も

励みとさせていただきますので

何卒よろしくお願いいたします。


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