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癌で余命宣告された私が時を遡って、美少女を助けたり、仲間と一緒に怪獣と戦ったりするお話 ~ RETROACTIVE 1990  作者: TA-MA41式
1991年に至った私が、パソコンオタク、柔道四段の研修医、傍若無人なチビッ子女子高生とチームを組んで戦うお話
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1991年2月28日 木曜日 20:30~

 2月末日、晩冬の神宮外苑。

 日中の気温は幾分上向いてきたような気もするが、朝夕は10度を下回り、夜になれば上着やコートが必要なほどに冷え込む毎日が続いている。

 だから、有名な銀杏並木は坊主のままだし、もちろん観桜の名所もまだまだ先の話。


 「しかも、今日は雨だし。」


 昨日までは晴れ日が続いていたのに、今日は昼前後から冷たい雨が降り始め、そのまま止む気配がない。

 天気予報によると、明日いっぱいは降り続くらしい。


 「こんな夜に外苑をウロツク高校生がいるもんかな? 」


 「ウロツキはしないだろ。通り抜けるだけだろ。」


 「・・・ 」


 「ミノルは雨男なのか?」


 「雨男はケンタだろ?」


 「・・・ 」


 「それにしても、雨ん中、外で仕事は辛いな。」


 「濡れるの嫌だよな。」


 「・・・ 」


 国会議事堂と間違えるお馬鹿な方が未だに多いらしい神宮外苑のランドマークである絵画館のドームを左手にして、JR信濃町駅方面へと行き過ぎていく傘をさした人の流れを眺めながら路上駐車している1台の可愛らしい真っ赤な軽乗用車。

 1991年よりもさらに30年以上も昔の、高度経済成長時代の日本を代表する排気量360CCのコンパクトレトロカー。

 その運転席には窮屈そうに身体を折り曲げて座る若い男が1人。

 後部シートには身体を横向きにして無理矢理押し込まれたような姿勢で、それでも頭がキャンバストップにメリ込まざるを得ないほどの大男が1人。

 テントウムシと呼ばれて可愛らしさが売りのレトロカーには、明らかに不似合いな2人である。

 そして、こんな男たちとは対照的に、助手席にゆったりと足を組んで座っているのは、テントウムシとセットのフィギュアにでもしたらマニア受けそうにも見える小柄で可愛らしいポニテの少女。

 さて、何と言ったら良いのか?

 この3人の組み合わせ、実にアンバランス、不細工と言っても良い。

 お巡りさんが通りすがったら思わず職質したくなる謎の3人組である。


 「せまいわ。」


 後部シートから呻き声が聴こえる。


 「しょーがないだろ。運転席だってなぁ、殆ど体育座り状態だよ! なんでこんな車買ってんだ! 」


 「化物退治に使うから、チェイスするかもだし、新車は止めて中古にしようってユージが言ってたんだけどさ。」


 「中古でも四駆で、頑丈で、でかくて広いヤツとかあんじゃん! 」


 「いや、俺だって、そういうのにしようって言ったんだけど、スポンサーのユージが日和ってさ、可愛いの良いねってなっちまったんだよ! 」


 狭い車内でグダグダと続く男2人の愚痴のこぼし合いに、先ほどからイライラしつつ膝を揺すっていたポニテ少女が遂にキレた。


 「やかましい! いい加減にしな! あんたたち、このサユリさんセレクトが気に入らないって言うのかい! 赤くてチャーミングで素敵じゃないか! 」


 その容姿に似合わない小気味良いほどの江戸っ子オバチャン少女、未来の日本国防衛大臣 “藤村ふじむら 小百合さゆり” 氏、現在は花の女子高生17歳であった。


 「いや、気に入らないとかじゃなくて、もっと機能性を重視すべきだったんじゃないかと思ってね。」


 サユリさんの剣幕にオドオドしながら発言した大男、未来は某有名国立大学病院の医師、なんでも外科部長になるらしいが、今は初期研修を終えたばかりの医者の卵 “藤樫とがし 健太けんた” 氏、27歳である。


 「あんたが言ってたランクルとかじゃ、デカくて目立って、私らがしなきゃなんない隠密行動には使えないって言っただろ! 目立たないように地味にってんなら、軽乗用車の中古が一番だろ! 」


 「目立つかどうかで言えば、この車ってレトロカーだし、人気車だから結構目立つと思うんだけど。」


 どうせ、サユリさんに一蹴されると分かっていながらも口を出してしまう。


 「ミノル! 黙んなさい! 」


 「はい。」


 そんな私は、阿頼耶識あらやしき みのる、当年とって25歳、美術大学の大学院生、兼グラフィックデザイナー。

 未来に地位や名誉を獲得する2人に比べたら、吹けば飛ぶような美術大学の教授だった男である。


 私たち3人は共に2020年代から時間遡行してきた者同士。

 もう一人の仲間であるユージは3年前の1988年に遡行してきたらしいが、ここにいる3人は、この半年以内に遡行してきた者たちである。

 サユリさんは昨年の9月、ケンタは今年の1月、私はその中間の11月、其々の理由を抱えて1990年代初頭の日本にやってきた。

 そして、今は未来との窓口を務めるユージから得た情報を基に、過去を改変しようとする未来にある某国の陰謀を阻止するために戦うユニットを結成したわけである。


 (そういう風に言えば、正義の味方っぽくて格好良いんだけどさ。)

 

 女子高校生(小学生にしか見えないが)、研修医、大学院生のトリオなんて全然強そうじゃない。

 ヒーローっぽい特殊能力なんて持ち合わせていないし、3人共に長距離遡行のGIFT(ユージはそう呼んでいるが時間遡行の後遺症のようなモノ)として “先読み” の能力は備えているが、これは戦闘の足しになるようなモノではない。


 「戦闘なんて、そんな大したもんじゃないわよ! 」


 と、サユリさんは言っている。

 これから相手にするHUNTERとかいうヤツは、私が時間遡行して最初に戦う羽目になったギガマウス、コードネーム:EATERに比べたら全然大したこと無いんだそうである。


 (ホントかよ? )


 これについては、既に戦闘を経験しているケンタも同意見なので、まあ信用しても良いだろう。


 「あんた、あの馬鹿でかいCARRIERとも戦ったってゆーじゃない! HUNTERなんて小物、片手で捻っちゃいなさい! 」


 ホワイトシーサーペント、コードネーム:CARRIERとは戦ってないんだが、サユリさんは勝手に、私が全長300メートル、体重4000トンの化物と戦ったことにしてしまっている。


 (あんなモノとどうやって戦うんだよ。)


 殴ろうが蹴ろうがダメージなんて与えられなさそうだし、うっかり近くに寄った時に寝返りでも打たれたら、ブチッと潰されてお終いである。


 (まあ、ギガマウスの集団に追い回されるよりは、大したこと無さそうなんだけどな。)


 あの恐怖と緊張感を散々味あわされてしまっているので、大概のことには動じない精神力は身に付けたと思う。

 でも、


 「あの、質問なんだけど。」


 「なんだい、ミノル? 」


 「この、プロ野球のユニフォーム、それも上だけって意味なかったんじゃ? 」


 そうなのである。

 今、3人が身に付けているのは、プロ野球球団のユニフォーム。

 サユリさんはYGのヤツ、ケンタは鯨のヤツ、私は燕のヤツである。

 但し、上だけである。

 ケンタは仕事帰りなので、下はスーツのスラックスにビジネスシューズ。

 サユリさんはデニムのミニスカートにバスケットシューズ。

 そして、私はコットンパンツにスニーカーという感じだった。

 このプロ野球ユニフォーム、サユリさんの提案なのだが、別にファッションとか、ジョークで着ているわけではない。

 実は、サユリさんなりの理由がある。


 「あんたたち、神宮外苑の中を金属バット持ってウロツクんでしょ。普通、そんなことしたら、忽ちお巡りさんに職質されて警察に連れていかれちゃうわよ! だから、金属バット持ってても不思議じゃない格好しようってんじゃないの。ユニフォーム着てたら、お巡りさんだって、ああ野球選手かって思ってスルーしてくれるじゃない! 」


 この論には、皆が唖然とした。


 (こいつ、ホントに東大現役合格して政治家、大臣まっしぐらな秀才なのか? )


 という言葉は、その場にいた私、ケンタ、ユージ、3人共に頭を過っただろう。

 確かに夜中に、 “対HUNTER用の武器” 金属バットを持って外苑の中をウロツイテいたら、警察に掴まりそうではあるが、その解決策が上だけユニフォームなんてどうなの?

 ここで、誰かが勇気を出して、


 「そんな馬鹿な! 」


 と、止めるべきだったのだが、今日の夕方、九段マンションに集合した時点で、既にユニフォームを手にしてドヤ顔を決めていたサユリさんに口出ししようとは誰もしなかった。

 ユージなどは、“何もしないこと” 縛りがあり、自分は実働部隊に加わらないので、全く他人事のような顔をして、


 「せっかく、サユリさんが用意してくれたんだから着ていきなよ。」


 などと、軽く言っていた。

 おそらく、車の購入に際しても、そのノリだったのだろう。


 (なんて奴だ! )


 それにしてもこの姿、どう見ても野球選手じゃなくて、外野席に屯ってるファンの格好である。

 バットよりもメガホンの方が合っていると思う。

 そもそも、選手にしても応援団にしても、2月の東京都内ではプロ野球のオープン戦も始まっていない。

 だいたい、雨降りに上だけユニフォーム着て野球やろうとしてたら、それだけで不審者である。

 

 (もう、考えるのは止めにして、さっさと片付けて帰ろう。)


 本当なら、これからHUNTERとかいう化物相手の戦闘が始まるのだから、特に初仕事になる私など緊張でブルブル震えが来ていても不思議はない。

 ところが、このサユリさんが齎した一件により、そういった緊張感は消し飛んでしまっていた。

 恐怖感や不安感も何処へやらである。

 何事も初めての場合はプレッシャーで固くなり、失敗する例は多いというが、そうした心配は無さそうである。


 (もしかしたら、サユリさん、それを狙った? )


 このユニフォームの件、狙ってやったとしたら、なかなかのリーダーシップというべきだが、


 (いや、それは無いわ。)


 助手席で、ポップキャンディを左右から2本同時に口に突っ込んで、


 「ふぁんふぁもふう? (あんたも食う?) 」


 とか言ってるオバチャンに、そんな意図は微塵も感じられない。

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