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癌で余命宣告された私が時を遡って、美少女を助けたり、仲間と一緒に怪獣と戦ったりするお話 ~ RETROACTIVE 1990  作者: TA-MA41式
1991年に至った私が、パソコンオタク、柔道四段の研修医、傍若無人なチビッ子女子高生とチームを組んで戦うお話
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1991年2月26日 火曜日 17:00~

 軽い失望感に襲われていた私は、


 「ユージ、すまんが煙草1本もらえるか? 」


 3カ月ぶりに一服して気晴らししたくなった。


 「ああ、マイセンだけど良いか? タバコ買い忘れたのか? 」


 ユージが放り投げて寄こした箱から1本抜いて投げ返した。


 「いや、こっち来てから禁煙してるんだ。」


 昨年の11月28日、アキラと共に逃げ込んだ早朝の避難所で、ポケットに入っていた煙草を捨ててから3カ月間、煙草は1本も吸っていなかった。


 「へぇ? 確かヘビースモーカーだったよな? 何? 癌の宣告が響いてるわけ? 」


 「そういうわけじゃないんだけど、あっちにいた時も、殆ど吸えていなかったし、いい機会かなと思ってね。」


 「そんなんで、今、禁煙破りしたら勿体ないんじゃない? 」


 「1本吸ったって常習に戻ったりはしないよ。まあ、今は、ちょっとな。」


 気分が沈んでいる時には、煙草が良い気分転換になったりするものである。

 今日は、これ一本吸ったら浮上しようと決めて火を点けた。


 「ふぃーっ! 」


 久々のニコチンが身に染みる。

 チラチラと視界に星が飛んでいる。

 たぶん、今立ち上がったらフラフラになるだろう。

 でも、アルコール+ニコチンの作用で気持ちは良い。


 「まあ、そう落ち込むなよ。時間遡行したことで良いこともあったろ? 」


 ユージが慰めるように言った。


 「良いことって? 」


 人生をもう一度やり直せるってことを言っているのか?


 「そうじゃないよ。こっちに来て何か変化は無いか? 俺たちは “GIFT” って呼んでるけど、便利な能力が身に着いただろ? 」


 「あ!」


 “先読み” のことか?


 「そういうこと。長距離の遡行で身に着く能力らしい。未来人たちは知らなかったみたいなんで、10年以内の短期間遡行じゃ現れないらしいな。まあ、一種の後遺症なんだろうけど、かなり便利な能力であることだけは間違いない。」


 それについては同意。

 化物相手の立ち回りには随分役立ってくれたし、今後の日常生活に置いても便利さを発揮してくれるだろう。


 「こういう能力も、俺たちが時間の本流から切り離されて、第三者視点を手に入れたって証拠の一つになるんだろうけどな。」


 もはや、落ち込んだり悩んだりしていても意味が無いのは承知している。

 現状を受け入れ、3年ほど先輩に当たるユージの励ましに応えて再発進するべきだろう。

 そう決めたら、少し気分が晴れた。

 もちろん、アルコールのおかげもあったに違いない。

 いつの間にか、私とユージは5本づつの500ミリリットル入りビール缶を空けていて、テーブルの上には焼酎のボトルと何杯目か忘れたが飲みかけの液体が入ったグラス2つ乗っていた。


 「しっかし、ミノル、かなりイケるねぇ! 」


 「そんなん知ってただろ! お互いにさぁ! 」


 そんなことを言い合いながら、二人して高笑いした。

 どれだけ呑んでも決して崩れないのが私の自慢だし、ユージも酒豪だということは知っていたが、呑めば気分が良くなって、気持ちが大きくなるのはどうしようもない。


 「ようし! せっかくだから、お仲間を紹介してやろう! 」


 ユージが、尻ポケットからスマホを取り出した。


 (え? 何故にスマホ?! )


 驚いて素面に戻った私にお構いなく、ユージはスマホの画面上を指で叩いて、おそらくメール的なメッセージを打っていた。


 「んで、一斉送信っと! まあ、一斉つっても二人だけどなぁ! 」


 スマホを隣の椅子の上に放り出して、ケタケタと笑うユージに、


 「ちょっと待て! なんで1991年にスマホがある? 」


 この時代にそんなモノがあれば、正しくオーパーツである。

 21世紀初頭に世界を変えたテクノロジーが、僅か20年ほどだが先行して登場したなら歴史破壊、文明破壊にも繋がるトンデモナイ時間改変に繋がる。

 それを、このITベンチャーのCEOはやってしまったというのか?

 そんな洒落にならないことをしてしまったというのか?

 っていうか、私も欲しい!


 「え? 何言ってんの? これはポケベルだぞ。」


 ユージは誤魔化そうとしているのか?


 「何言ってる! さっきの指捌きは数字を打ってるようには見えなかったぞ! ってかポケベルで発信機能あるなんて聞いたことないぞ。文字打ってただろ! 文字! 」


 詰め寄る私に、ユージは、


 「うん。」


 と、あっさり認めた。


 「でも、ポケベルだし。なんてゆうか魔改造ってヤツ? そういうのしてあるだけ。」


 「魔改造? 」


 「数字だけじゃ使い辛いからな、16ビットパソコンの一部機能と合体させて、ポケベル回線に割り込んで発信機能付きで使えるようにしてある感じ。スマホっぽく見えたのは、たぶん大きさだけだろ? 流石にポケベルの大きさに詰め込むのは無理なんでね。」


 ユージは、さも簡単で些細なことであるかのように語っているが、


 「それって、この時代じゃ明らかにオーバーテクノロジー? それに回線に割り込むって、犯罪だよな? だよな? 」


 「それはそうなんだけど、こういうの無いと色々不便なんだよねぇ。」


 ユージには、全く悪びれるところはない。

 それどころか、


 「この時代のテクノロジーじゃ、絶対にバレないようにしてあるから全然平気! 」


 などと、平然とした顔で笑っている。


 「ホントは、携帯電話を作りたかったんだけど、この時代じゃ携帯電話は一般的な普及品になってないから、人前で使ったら目立つんだよな。その点、ポケベルなら画面を見られない限り大丈夫だろ。」


 一般的なポケベルには発信機能は無いし、文字を打ってるように見えたら変じゃないだろうか?

 それに、大きさ6インチもあるポケベルなんて見たことが無い。


 「細かいこと言うなよ。ミノルにも帰る前に一台渡しとくからさっ。」


 (え? 本当に? それならOKかも? )


 と、喜び掛けたが、


 「そんなんで、誰とどんなやり取りすんだよ? 」


 ユージ以外に相手がいない。

 ユージ専用なら、そんなモノ無くても普通のポケベルや固定電話で問題無いだろう。


 「いやぁ、そういうわけでもないんだわ。それについては、ちょっと説明をするから待っててよ。」


 ユージは、「よっこらせ」と掛け声付きで立ち上がり、多少バランスを崩しながらオフィスデスクに戻った。

 そして、パソコンを操作すると室内を一周するスチールラックの何処かに収納されているプリンターの一台にデータを送信したらしい。

 間もなく、何処からともなく懐かしいドットインパクト式プリンターの印字音が聴こえてきた。


 「まあ、これを読んでみなよ! 」


 ユージは、オフィスデスクの左手下段に収納してあったプリンターから、用紙を1枚引き千切って持って来た。


 「何? 」


 受け取った様子に記されていたのは、英字だった。

 極めて簡潔に書かれた短文である。


 Code: Hunter

 Number: 2

 February 28, 1991, 21:30

 Kasumigaokamachi, Shinjuku-ku, Tokyo


 Target of attack:

 Koichi Sato

 17 years old

 Ministry of Foreign Affairs of Japan

 Administrative Vice-Minister


 ユージに促されるまま目を通してみたが、コード、数、日付、住所など、簡潔過ぎて良く分からない。

 サトウコウイチという人物が何モノかの襲撃対象とされているらしいとは分かったのだが、


 (あれ? このサトウコウイチって、17歳なんだよな? )


 17歳と言ったら、普通に考えて高校生2年か3年生ぐらい。

 それなのに、


 「Ministry of Foreign Affairs of Japan 日本国外務省の、Administrative Vice-Minister事務次官だって? 」


 そんな馬鹿な!

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