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癌で余命宣告された私が時を遡って、美少女を助けたり、仲間と一緒に怪獣と戦ったりするお話 ~ RETROACTIVE 1990  作者: TA-MA41式
1991年に至った私が、パソコンオタク、柔道四段の研修医、傍若無人なチビッ子女子高生とチームを組んで戦うお話
52/82

1991年2月26日 火曜日 15:30~

 「まあ、お互い知らない間柄ってわけじゃないし、ざっくばらんにいこうや。」


 一ノ瀬は、そう言って立ち上がり、オフィスデスクの裏側にあったらしい冷蔵庫から500ミリリットル入りのビール缶を2本持ってきた。

 そのうちの1本を私に差し出して、


 「まだ、外は明るいけど、お互いに気にしない性質だったよねぇ、“先生”。」


 そんなことを言った。

 2000年代に初めて会って以降、一ノ瀬は私のことを “先生” と、呼んでいた。

 私が彼を呼ぶときは “社長” とか “会長” だったはず。

 お互いに何の利害関係も無く、共有する情報も無い、顔を知っているだけの他人だったので、肩書呼びは当り前だったわけだが、日中の会食などではお構いなしに大酒を食らっていた者同士であり、その点は共に印象深く残っていたらしい。


 「こっちで、“先生” は勘弁してくれよ。それと、君付けはいらん。呼び捨てで良い。」


 「それじゃ、俺はユージだ。“会長” とか呼ぶなよ。」


 乾杯の後に一息ついて、早速だが本題に入らせてもらった。

 まずは、お互いの事情を知らなければ、“昔話? ” もできないだろう。


 「ところで、俺が今日ここに来たのは・・・ 」


 「ああ、未来人に行けって言われたんだろ? 」


 いちいち聞くまでもないといった感じで、ユージが私の言葉を遮った。


 「俺は2026年から1988年に来て、以降こっちにいるんだが、ミノルのような奴が来たら面倒見るように未来人から仰せつかっているからね。他にも、何人も訪ねて来てるよ。

 まあ、なんだかんだで、皆がそれなりに楽しく過ごしているみたいだし、一度経験した人生を要領良く生き直すのなんて、そんなに難しいことじゃないから、実際、俺のすることなんて限られてるんだけどねぇ。」


 「そういうものなのか? 」


 随分と軽々しい話になった。

 1990年代で生きていくためのマニュアルっぽくて小難しい話をされたり、禁則事項の説明なんかをされたりとか、もっと重々しい話をされるのかと思っていたので些か肩透かし気味だった。

 だがまあ、実のところ、ユージが言っている通りなのだろう。

 一度経験した人生をやり直すことなど、そんなに難しいことではない。

 私が過ごした1990年代での約3カ月、不便はあっても不自由はないし、かつての後悔を取り戻せたりと、得られたことの方が多かった。

 誰かの助けを得なくても、こっちで楽しく過ごせそうな予感は十分にしている。


 それにしても、私が気張って言おうとしたことを、それが別に何でもないことのようにサラリと受け流してしまうユージだが、彼は3年も前に遡行してきたというし、既にこちらでの生活には慣れっこになってしまっているのだろうって・・・あれ?


 (3年前? 1988年? ちょっと待てよ? )


 なんか、未来人から聞いていた話と違う。


 「えっ、2026年から1988年? それってTime communication device の影響範囲を超えてるんじゃ? 」


 「そうだな。たぶん俺が最長不倒記録なんじゃないか? 俺より前に行った奴の話は聞かないからね。」


 「よく無事でいられたな。あの未来人め、俺には無茶なことはしないとか言っていたのに、けっこう危ないことやってるんじゃないか。とんでもねぇ嘘つきだな。」


 「俺は身体は頑丈だし、メンタルも強いからな。それに、あの未来人のオッサンたちも頑張ってくれたんだろ。っていうか、未来のテクノロジーだって日々アップデートされてるんだろうし、ミノルが送られた時点でのTime communication device の性能よりも、俺が送られた時点での性能の方が上だったってだけじゃないか? 」


 「んー? 」


 ユージが遡行したのは2026年で、私の1年前。

 それで、送られたのは今から3年前の1988年。

 私は2027年から1990年だから、ユージよりも後に時間遡行していることになるけど、私が送られた時よりも、ユージが送られた時のTime communication device の方が性能アップしている?


 (ということは、えーっと? )


 こういうことは3次元的に考えたら、頭がこんがらがってくる。

 紙に書きながら整理すれば分かるだろうが、それは後で暇がある時にでもしよう。

 要は、自分が出発した時間を基準にするんじゃなくて、未来の時間を基準にしなければならないということなのだ。


 「はあ。」


 「何、溜息ついてんだよ。もう1本行くか? 」


 ユージは、返事を聞く前に立ち上がって、追加の缶ビールと摘まみにカルパスの袋を持ってきたので、私は勧められるままに2本目の缶を開けた。

 酒は好きなので有難いが、今日、この場に来るまでには、それなりの覚悟と緊張感を持って来たので、この展開は拍子抜けである。


 「そうだ、摘まみになるか分からんけど、これも開けよう。」


 こんなことになるなんて思いもしなかったので、手土産の用意の無い私は、ディバックに手つかずの歌舞伎揚げが一袋入っていたのを思い出した。

 

 「おお、揚げ煎餅は好物だよ。」

 

 そう言いながら身を乗り出したユージが、歌舞伎揚げの袋と共にディバックの中にあるモノを見付けて、怪訝そうな顔で首を傾げた。


 「なんか物騒なモノが入ってるな。」


 警棒のことである。

 

 「ああ、これな。」


 隠すことも無いので、万が一のための護身具として持って来たのだと説明した。

 なるほどと頷きながら、ユージは暫し真面目な顔になって何事か考えていた。


 「ミノルは、喧嘩強いのか? 腕に自信ありか? 」


 「普通だと思うけど、まあ腕力は子どもの頃から自信あるかな。筋トレは毎日欠かさないようにしてるし。」


 私の答えを聞いて、ユージが何やら一人で納得し、ウンウンと頷いていたのが気になった。

 何か企んでいそうな顔だったので、それを追求しようとしたのだが、


 「ところでさ、ミノルがこっちに来た経緯を聞いておこうか。」


 そう、何を置いても、それを話さなければならなかった。

 飲み始めて、なんとなく置き去りにしてしまいそうになっていた。

 

 「少し長いぞ。」


 そう断わりを入れてから、私は2027年で末期癌での余命宣告を受けたこと、その翌日の11月26日の仕事帰りに未来人の男と出会い、その後に1990年11月27日へ時間遡行させられたこと、そして遡行した先で化物たちと遭遇し、命からがら脱出したことまでを、体験したまま事細かに話してやった。


 「あの “獣害事件” に絡んでたのか! そりゃ、災難だったな。」


 時間遡行してくる者には何らかの任務や依頼事が課せられているらしいが、私のようなケースは初めてだと言って、ユージは驚いていた。


 「下手すりゃ死んでただろ! ミノルが死んだら未来が変わっちまう。それは、あいつらにとっては絶対的なタブーだからな。それなのに、そんな無茶を実行したってのは余程切羽詰まった状況にあったってことだろうな。」


 切羽詰まった状況にあったことは間違いない。

 私は未来人の男の暈しが掛かったような、その存在が消え掛かっているという外見を思い出した。

 

 「結局、俺は自分が受けた依頼が失敗したのか成功したのか分からないんだわ。それを知る方法は無いんだろ? 」


 “助けるべき人物” が、アキラだったのか否か?

 これは3カ月経った今でも、私の頭を四六時中離れない疑問として残っている。

 未来人によって送り込まれた時間遡行者が何人もいるというなら、その答えを知る手掛かりを持つ者はいないだろうか?

 未来人の、あの男が健在かどうか知れれば良いだけなのだが?


 「そりゃ、無理だろうな。」


 ユージは、私の期待をあっさりと切り捨てた。


 「俺たちは、誰が何番目に送られたのかなんて聞かされてないからな、ミノルよりも未来の時系列で後に送られた者がいるのか? それともいないのか? たった、それだけのことでさえ分からんのよ。

 それになぁ、どういう理屈かは知らないが、時間を遡行した者の意識は時間の本流から切り離されて客観的な存在ってヤツになるらしい。

 なんてゆうか、第三者視点で時間を見られるようになるって感じかな。

 例えば、自分が手を掛けて修正した時間の流れと、修正される前の流れを2つとも記憶していられるんだわ。

 だから、ミノルは修正される前の時間で未来人に依頼を受けた事実を記憶しているけど、ミノルが依頼を成し遂げていたのなら、あちらさんにはミノルを時間遡行させる必要も無くなって、そんな事実は存在しないってことになる。

 ミノルがこっちにいるってことも知らないと思うぜ。

 そんなんで、誰かにミノル宛に “依頼の成否” を知らせるための伝言を託すなんて有り得ないだろう。

 で、逆に失敗していたとしたら、Time communication device なんてモノは、この世に存在しない未来になるんだから、仮に問い合わせ手段があったとしても相手がいないってことになる。

 つまるとこ、残念ながらミノルの疑問に答えは見つけられない。」


 ユージの話を一応納得しながら聞いていていたが、どうしても気になる部分がある。


 「Time communication device、あれが存在しない歴史になったなら、ユージや俺、その他の遡行者がこっちに来ることも無くなるんだよな? それなら、今ここに俺たちがいることが成功の証なんじゃ? 」


 これは、かなり理に適った意見だと思うが、どうだろう?

 しかし、この意見もユージには直ちに却下されてしまった。


 「ミノルは “親殺しのパラドクス” って知ってるだろ? 」


 「自分が産まれる以前にタイムスリップして、父母を殺害したら生じる矛盾だろ。自分が産まれないことになるのだから、父母を殺害する者もいなくなってしまう。そしたら、自分が生まれるわけでって、堂々巡りが始まる話だろ。」


 「そうそう。で、昔から “親殺しのパラドクス” の最良の解決方法は無視することだって言われてるのよ。」


 「それは、物語を書く上での作家的な手段だろう? 」


 「それが、俺たちにとってはそうでもないんだ。例えば、ミノルの言う理屈の通りなら俺たちにとってはTime communication device が、親ってことになる。親が無事なら子が生まれるし、親がいなければ子は生まれない。

 その論でいくなら、ミノルは依頼を達成していても、いなくても、時間を遡行するという状況には辿り着かなくなるはずなんだよな。それなのに、実際は時間を修正しようとしたって記憶まで抱えてこっちに来ている。」


 ロジックパズルを非論理的に解くような面倒臭い作業だったが、4次元的な思考に不慣れな私に理解できたのは、


 (既に私の意識は時間の本流から切り離されており、Time communication deviceがどうなろうと、1990年代にいるという事実は独立して存在しているってことかい。)


 そうゆうことである。

 正しくユージの仰るとおり、全くもってお手上げ、ナルホドと頷くしかない。

 結局、私は、この疑問を抱えたまま、1990年代以降を生きていくしかなくなったわけだ。

第2章に入ってから

ブックマークも減り

すっかり過疎ってしまいましたが

いかがなものなんでしょう?


感想とか評価とか聞かせていただけると嬉しいです。


よろしくお願いいたします。


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