意外にあっけなく事件は終わり
第1章「1990年に時間遡行した私が、初めに巻き込まれた事件と出会いの話」
これにて終了です。
ここまで、読んでいただきありがとうございます。
多くの人々を殺傷し、夜の東京都下を震撼させた「大規模害獣事件」は11月28日の正午までに、誰もが唖然とする形で決着した。
午前10時過ぎ、上空で事件現場一帯の監視を行っていた警視庁のヘリから、[害獣A]に全く動きが見られなくなったとの報告を受け、さらには市街地でも動かなくなった大量の[害獣B]が確認され、それまで避難勧告区域の境目でバリケードを守っていた警察と消防が状況調査のため徐々に現場に向かって前進を始めた。
そして、彼らが辿り着いた先で目にしたのは、荒れ果てた日野市街地の惨状と其処彼処に散らばった害獣たちの死骸だった。
以下は日本政府による調査結果。
全長300メートルを超す巨体を持った[害獣A]は、数千トンに及ぶ自重を支えきれずに圧死した模様で、[害獣B]の死亡理由は不明。
[害獣A、B]、共に生物としては異常なほどに不完全な存在であり、生物が生きるために必要な最低限の機能も備わっておらず、どのような環境下にあっても長く生命活動を続けること自体が不可能な生物であった。
特に異常が認められたのは[害獣B]であり、人間を襲って食するにも関わらず、消化器官を持っていなかった。
一方、[害獣A]は全身が巨大な胃袋とでも言うべき存在であり、[害獣B]は食した獲物を[害獣A]の体内に運び入れる役割を果たすためのマジックハンドや触腕のような存在であったらしい。
そして、[害獣B]は獲物を[害獣A]に届ける際、[害獣A]の体内で生成された培養液のようなモノに繰り返し浸ることで、活動に必要な養分を得ていた。
[害獣A、B]共に脳は非常に小さく、普通の生き物ならば捕食活動どころか、身体を動かすこともできるはずが無いほどである。
いやはや、生物学者が頭を抱えてしまうような調査発表だが、これは致し方ない。
希少生物として捕獲や保護を訴えていた環境保護系の諸団体も、さぞ肩を落としていることだろう。
奴らが人工生物であるということは誰も知らないわけで、1990年レベルのテクノロジーを物差しにして測ってみたところで謎が深まるばかりに違いない。
私は生物学については全くの素人だが、誰の指摘を受ける心配も無いので素人の勝手な想像を交えて持論を述べさせていただこう。
アキラが指摘したとおり、ホワイトシーサーペントとギガマウスは共生関係にあったということだが、私には両者が共生しているというよりも、2体で1セットの機能を持つように作られたと考える。
ギガマウスはホワイトシーサーペントの身体の一部、捕獲殺傷機能を持つ無線マニュピレーター、ドローンのようなモノではなかっただろうか。
僅か10数時間という短い間の生命活動を維持する以外には、 [音を立てるモノを捕食し持ち帰る]という定められた単純な活動をこなすだけの能力さえあれば良く、経験を蓄積する必要も無いので、脳が小さくても、その容量が少なくとも何の問題も無い。
それにしても、そんな化物たちを作り上げた某国の設計者には脱帽させられる。
時間への干渉に人工生物を使うなどマンガじみていて決して効率が良い方法とは思わないが、人間はもちろん複雑な兵器や機械類は転送できないし、化学兵器の類いは自らの先祖の生存を危うくするから使えない、そんな事情を解決するには実に都合の良い代物だと思う。
但し、2027年ではネットロアで語られる未確認生物だったホワイトシーサーペントやギガマウスを、1990年では衆目に晒すような使い方をした理由はさっぱり分からない。
その存在が歴史にハッキリと記録されてしまったのだから、今後の運用に支障が出るどころか、対策を練られてしまったら、デカかろうが凶暴だろうか所詮はたかが生き物である。
武力行使に過剰なアレルギー反応を示す1990年の日本だから事態の解決に手間取っただけで、普通の国ならば簡単に退治してしまえるだろう。
そもそもホワイトシーサーペントなど、陸上では身動きできずに自重で圧死するぐらいなのだから、明らかに海での行動に特化した生物兵器であり、遠洋で孤立した船舶を襲うには効果的かもしれないが陸上で人間のターゲットを狙うには大袈裟過ぎて、その存在を明らかにしてしまうという割に合わない代償を支払う意味が分からない。
たった一人の人間を殺害するのが目的ならば狙撃、刺殺、毒殺など小規模な手段がいくらでも考えられるだろうに、まるでクラスター爆弾で目標ごと辺り一面を火の海にするような暴挙である。
(旧式在庫の一掃処分かもしれないな。)
新たな過去への干渉手段が開発されたため、ホワイトシーサーペントやギガマウスといった化物たちを必要としなくなったのかも知れない。
それならば頷ける。
もう必要の無くなった怪物たちを、ターゲットの乗った電車にぶつけて、電車ごとターゲットを始末してしまおうという考えは有り得る。
某国が狙ったターゲットがアキラだったならば、その場に私が時間遡行してきたことで目論見を阻止できたが、その場に私がいなかったならアキラはギガマウスたちの初撃で命を落としていただろう。
あの中央線高雄行きの乗員乗客の中で、生存者が私たち二人だけだったことからしても、それは明らかである。
(そういえばもう一ついたな。“白坊主”とかいうやつ。)
今回は遭遇していないが、2027年で都市伝説になっていたもう一つの化物である。
白いという以外に、ホワイトシーサーペントやギガマウスとの共通点は無いが、人型の化物だったということなので、幾分性能がアップしているのかも知れない。
(そんなモノに出会いたくはないぞ。今回の奴らで、もうお腹一杯だわ。)
私の役目は、これで終わり。
あとはリセットされた人生を過ごすだけ。
そうでなくては困るんだわ!
(あぁーっ? フラグ立てちまった! )
第1章のキャラクターと第2章で登場するキャラクターの紹介作りましたので
後で、そちらもアップします。
番外編もよろしくお願いします。
https://ncode.syosetu.com/n7221gz/




