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癌で余命宣告された私が時を遡って、美少女を助けたり、仲間と一緒に怪獣と戦ったりするお話 ~ RETROACTIVE 1990  作者: TA-MA41式
1990年に時間遡行した私が、初めに巻き込まれた事件と出会いのお話
39/82

1990年11月28日、水曜日 02:20~

 ここにきて気が抜けたせいだろうか、ガーゼでグルグル巻きにしていた左手の傷がジンジンと痛みだしていた。


 今のところ出血は止まっているようだが、さっきから少し動く度に傷口が開いたり閉じたりしているような感じがして気持ちが悪い。

 アキラが丁寧に消毒してくれたし、止血剤もたっぷりと振り掛けていたので、傷が化膿したりする心配は無いと思うのだが、このまま痛みが増し続けたらかなり辛い。


 (アキラを無事に送り届けるのが先だけど、その後で医者に診てもらわなきゃ。)


 既に危険地帯を脱しているのだから、間もなく避難所が見つかることだろう。

 安全圏を目指して八王子方面に進めば、必ず警察や消防の包囲網にぶつかるわけで、そこには付近住民を受け入れている避難所が複数設けられているとのこと、これはテレビの報道から得た情報なので間違いない。

 そして、避難所ならば医者くらい待機しているだろう。

 そこまで辿り着けたなら、昨晩から続く一連の化物騒動のエンディングが迎えられる。


 (もう少しの我慢だからな。)


 そう自分に言い聞かせながら気休めにガーゼの上から傷を摩っていると、左手首の腕時計が目に入った。


 (2時20分ね。)


 私が1990年に遡行してきてから、6時間以上が経過していた。

 その間に、ホワイトシーサーペントにギガマウス、2027年のネットロアで話題になっていた化物たちと遭遇し、正に命懸けの死闘というモノを体験させられた。

 この6時間に起きた出来事を最初から辿ってみると、良くぞ生き延びたモノだと、自分の強運に驚かされる。

 だが、私が1990年に遡行させられた目的、


 (結局、あの未来人の依頼ってヤツは、達成されたんだろうか? )


 その答えを知る術は無い。


 『37年前の君がいる場所には、ある大事な人物がいる。その人物を助けてくれ。それで未来は、もちろん私も救われる。そして、君の人生の大部分が修復される。』


 未来人の言葉に従って、いや、殆ど成り行きではあるが、私はアキラを救った。

 もっとも、私が救ったと言うより、二人で助け合って生き延びたと言う方が正しい状況ではあるが、


 (あの未来人が言っていた、助けるべき人物はアキラだったのか? )


 完全に2027年から切り離されて孤立してしまった今、どんなに求めても、答えを教えてくれる者はいない。

 だから、それが無意味なことだとは分かっていても、せめて納得のいく仮説ぐらいは出したいと無理矢理に考えてしまう。


 (私が失敗していたなら、あの男の存在は消えてしまっているはずだよな。今、こうして私があの未来人を憶えているってことは、成功したと考えて良いんじゃないのか? )


 だが、時間遡行したことによって、私が正常な時間から切り離された存在になってしまったとも考えられる。

 そもそも、私には62歳で癌になって余命宣告を受けるまで辿った人生の記憶も全て残っているが、その中には25歳で化物と戦ったなんて記憶は無い。

 別の時間の記憶を保ったまま、全く新しい人生を歩み始めている。

 どうやら、そんなことができているらしい。

 であれば、私があの男を憶えたままであっても、それは成功の証明にはならない。


 (ってゆーか、私が成功してたなら、あの未来人が消滅する怖れも無くなるんだから、私を1990年に遡行させる必要も無くなるわけだし、2027年であの男と出会ってからの何やらが一切無かったことになるんだよな? そうなるんだよな? )


 考えれば考えるほど頭の中がこんがらがってしまい、到底納得のいく仮説は出せそうにない。

 これが正しくタイムパラドックスというヤツらしい。

 4次元的な出来事を3次元的に解釈しようとしても無駄なようである。


 さらには、もしかしたら今一番気になっている謎がある。


 (アキラと私には、どんな繋がりがあるんだろうか? )


 現在のアキラではない、未来のアキラのイメージが何度も頭を掠めていたことについて。

 見たことが無いはずの成長して大人になったアキラの姿に加えて、まるで彼女とは旧知であったかのような記憶が伴われている。

 おそらく、遥か以前に行われたという某国による過去への干渉により失われた、もう一つの時間を過ごしていた私の記憶の残滓のようなものなのかもしれない。


 (昨晩、もし化物に襲われていなければ、電車は何事も無くJR八王子駅に到着して、私とアキラは互いを認識することも無いまま別れて、二度と会うことも無かったはず。)


 その先にあるのが、私が62歳で余命宣告を受ける人生だとしたら?

 時間遡行したことによって、一度は失われたアキラとの人間関係を取り戻したということにならないか?


 『君の人生の大部分が修復される。』


 あの男は、そんなことを言っていた。

 それに合致する対象、つまり助けるべき人物はアキラだったとするのが、無理の無い考え方ではないだろうか?

 たまたま遡行した先に、「本来ならば知り合うべき人物がいたのですが、その人は何の関係もありませんから!」なんて方が、よほど不自然に思えるのだが、どうだろう?


 (そんな感じで、昨晩に私の人生の一部が修復されたのかもしれないでしょ? )


 知り合うべきだったアキラと知り合わずに生きた私の62年間が、ここで改められたとしたならば、


 (未来人からの依頼は達成できたって考えて良いんじゃね? どうよ? )


 私は未来を救ったのか?

 あの消えかかっていた未来人の消滅を防いだのか?

 そう信じたいのだが、結局、誰も答えてはくれないわけで、この疑問を抱えたまま新しく描き直された人生を歩むしかない。

 それは承知しているのだが、


 (それでも、考えるって! )


 たぶん、再び62歳を迎える2027年まで、考え続けるだろう。

 もしかしたら、それを過ぎて生きていたなら、さらに死ぬまで考え続けるかもしれない。

 何とも腹立たしくて、イラつく話である。


 (くそーっ! やっぱ、あの未来人殴りてぇ! )


 こっちの都合はガン無視し、自分の都合を一方的に押し付けてきて、1990年に飛ばされて、化物と戦わされて、これは本来なら殴って然るべきだろう。

 ところが、

 

 (立体映像じゃ、殴りようが無いじゃないか! )


 それが悔しい。


 (もし、本物のタイムマシンなんかが発明されて、あの未来人が呑気に2027年に訪ねてきてくれたら良いのに。そしたら再会と同時に問答無用でぶん殴ってやるんだけど。)


 その時、あの未来人が消滅せずにいたら、なんで自分が殴られるのか分からずに呆然とするかもしれないが、それを見て大笑いしてやりたい。


 (何とかならないかなぁ、37年後! )


 そしたら生きる意欲が100倍増ぐらいすると思うのだが。


 「アラヤシキさん、ニヤニヤしてる、変なの。」


 おっと、自分の考えに没頭しすぎていたらしい。

 未来人を思い切り殴る快感を想像していたら、口元が緩んでしまっていた。


 「どうしたの? もしかして、女の子と深夜に雨宿りしてるのが嬉しいとか? 」


 今度はアキラがニヤニヤしながら肘で脇腹を突いてきた。


 「何言ってんだか、10年早いってつーの!(10年じゃ足りないって) 」


 外見は25歳でも、中身は62歳である。

 ロリコンでもないのに、孫ほど歳の離れた子ども相手に嬉しがるわけがないだろう。


 「10年経たなくたって、5年ぐらいで大人になると思うんだけどなぁ。」


 「5年経っても未だ17歳だろ。こっちは30歳(精神的には67歳)だぞ。すっかりオッサンだって。」


 「あ、ホントだ。オジサンだ。すごーい! 」


 小6女子の笑いのツボは分からない。

 何が凄いのかさっぱりだが、アキラがコロコロと楽しそうに笑っているのを眺めていると、改めてこの6時間余り、大奮闘した甲斐があったと思う。


 (こんなご褒美って良いもんだな。)


 そんなことをしみじみと考えながら釣られ笑いをしていたら、不意打ちのように


 「痛ぅ! 」


 針で刺されたような鋭い痛みが米神に走った。

 思わず声が出てしまったので、アキラが心配そうに覗き込む。


 「痛いの? 腕? 」


 「いや、腕じゃない。まあ、腕も痛いんだけど、頭痛がちょっとね。」


 そう言って、米神を摩った。


 (また、“先読み”が来たのかよ! )

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