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癌で余命宣告された私が時を遡って、美少女を助けたり、仲間と一緒に怪獣と戦ったりするお話 ~ RETROACTIVE 1990  作者: TA-MA41式
1990年に時間遡行した私が、初めに巻き込まれた事件と出会いのお話
36/82

1990年11月28日、水曜日 01:30~

 (こっちはどうなってんだ? )


 テレビ報道をチェックすることにした。


 それにしても、電気が問題無く使えているのは有難い。

 ギガマウスたちに街のインフラを破壊する知恵が無かったおかげで、照明器具やテレビが普通に使えている。

 もし電気が使えず、外部の情報も遮断された真っ暗な地下室に籠らなければならなくなっていたら、私もアキラも精神的にやられてしまっていたに違いない。

 ゴーストだらけのテレビでも、外部情報を知ることができる唯一のツールとしてたいへん心強く、役立ってくれている。


 で、その点けっぱなしのテレビのブラウン管だが、今も報道映像が継続して映っているが音声は無い。


 (もう、レポーターのコメントは無くなっているか。)


 映っているのは日野駅周辺を上空から映した音の無い高感度カメラによるライブ映像。

 おそらく、台風の深夜報道と同じで、一定の間隔を空けて報道番組を挟んでいるのだろう。


 (このビルの周辺が映ってくれたら助かるんだが。)


 映像は市街地の状況をゆっくりと移動しながら捉えているので、日野駅にほど近いこのビルの周辺も待っていれば映るかもしれない。

 ビルの周辺にいるギガマウスの数を知ることができたなら、作戦の役に立つのだが、


 (お! ココに来るだろ! やった! )


 映像が日野駅前から甲州街道を多摩川方面にゆっくりと移動している。

 このビルは甲州街道に面しているのだから映るはず。


 (おし! ここだ! )


 時間にして5秒程度だが、カメラはビルの上空を通過してくれた。

 周囲の状況を大まかに捉えるには、何とか足りた5秒間である。


 (やっぱり、いるわ。)


 獲物の数が減ったためか、市街地全体で言えば、私たちが逃げ回っていた時に比べてギガマウスの数もかなり減っていた。

 しかし、このビルの周辺は、表のドアの前で大騒ぎをしている一団がいるので、その音に釣られてかなりの数が集結していた。

 正確な数は掴めないが、BARの表の入口に通じる階段周りでは沢山のギガマウスが集まっていて、解像度の低いブラウン管のテレビ映像では白い塊になって見えた。

 そのかわり裏口側には全くいないようで少し安心したが、上空からの映像で見て、表口と裏口の階段位置は非常に近いということが改めて分かった。

 このビルは角地に立っているが、裏口は甲州街道に面しており、表口が住宅地に向かう路地に面している。


 (その間10メートルとちょっと。近いな。)


 表の騒ぎが裏に伝わるぐらいなんだから当然なのだが、自転車を担いで階段を上っている最中にも感づかれそうなほどの距離である。

 私が2台担いで一気に登り切れたら良いのだが、両手に1台づつ持っては狭い階段を通れないので、やはり1台はアキラに任すしかない。

 無策のまま、勢いだけで裏口から逃げ出すのは、かなりの無理がありそうだった。


 (やはり、決断するしかないか。)


 少しでもタイミングがズレたら命に関わるようなトンデモ作戦!

 それを敢えて決行しなければならないようである。


 (映画なんかじゃ良くあるシーンなんだけど、そんなのをマジで実体験することになるとはなぁ。ホント、これクライマックスだわ。)


 正直言って結果がどうなるかは、さっぱりわからない。


 その作戦、先ほど私とアキラが二人掛かりで “シュワちゃんやスタローンの映画” で見た知識を基にして思いついたのだが、その発案段階からして実に怪しい。

 そもそも、映画は作り話なわけで、表現も誇張されているわけで、それを実行すること自体が非現実的で無理スジなような気がする。

 それをやってしまおうと言うのだから、正に命懸けのクライマックスである。


 (他に良案も浮かばないし、腹括るとするか。)


 気合を入れて準備に取り掛かろうとした時、山の天辺に乗せたアンプが2台、床に転がり落ちて大きな音を立てた。

 他の備品もグラグラしており、上部が僅かに覗いている木製ドアも枠から外れてしまっているようで激しく前後している。

 だが、トンデモ作戦を実行すると決めたからには、もう積み直す手間を掛ける必要も無くなった。


 (さっさと、やるべきことをやるさ。)


 私は、カウンターの裏側にあったLPガス容器のうち、予備の方を引っ張り出し、そのバルブを捻って全開にした。

 シュッと音がして、生ゴミっぽい匂いと共にLPガスが放出され始めた。

 さらにカウンターの中でコンロと繋がっている方のガス容器はオレンジ色のホースを外し、同じようにバルブを全開にした。


 (さて、お次はっと! )


 カウンターの端に置かれていた古めの業務用電子レンジ。

 どういうわけか、山に積まずに置きっぱなしになっていたのだが、積まないでおいて良かった。


 (なんたって、こいつが引き金になるんだからな。)


 私は業務用電子レンジを抱えて、カウンター裏側の床に直置きした。

 そして、その中にスプーンやらフォークやら丸めたアルミホイルやら、手近にあった金属製品を適当に放り込んでから蓋を閉じた。

 そして、レンジの電源コードをコンセントから外して、オーディオ機器用に使われていた延長コードに繋ぎ直し、日曜大工の道具箱の中で見つけたビニールテープで繋ぎの部分をグルグル巻きにして簡単には外れないように固定した。

 あとは、電子レンジのダイヤル式タイマーを一杯に回して、延長電源コードの端を物置の扉の向こうへ持っていけば、


 (ようし! これで準備完了。)


 そうこうしている間に、山は半分ほど崩れており、大きく開いたドアの隙間からギガマウスたちの姿が見えるほどになっていた。

 

 (アキラの方は? )


 物置を覗いたら、アキラは既に作業を終えていて、裏口のドアを開けて二人分の自転車を外に運ぶところまで進めていた。


 「やはり、例の作戦決行するしかないよ。こっちの準備は終わったし、覚悟を決めよう。」


 そう声を掛けると、アキラは、


 「はい。分かりました。」


 と、軽く言って、それ以上は何も聞かず、自転車を運ぶ作業に戻った。

 アキラは私が改めて声を掛けるまでもなく、既に覚悟を決めていたようである。


 (まったく、頼もしいヤツだよ。)

 

 思わず感心してしまう。


 世の中の小6女子全てがアキラのように、勇気や決断力、状況判断力、加えて感情を制御しようとする強い意志を持っているわけじゃない。

 大人たちの中でも、極限状態に置かれたらパニックに陥って、周囲の迷惑も顧みずに感情を爆発させてしまう者は少なくないだろう。

 それなのにアキラは、思春期序盤の年頃にして、既に大人顔負けというよりも老成した自己制御力を身に付けようとしている。

 私の子どもの頃となど、恥ずかしくて比較する気にもならなかった。

 おそらく同世代の子どもの中では、かなり珍しい、変わり者の部類に入るだろう。

 会話をしていたら、頭の良さなどもヒシヒシと伝わってくるが、


 (頭の良さって、精神年齢にも比例するもんなんだろうね。)


 世の中で所謂天才とか評される人物の子どもの頃は、こんな感じだったのかもしれない。

 2027年では私も一応教育者などやってきていたので、多少なりとも子どもの可能性を見る目は養われていると思うが、そんな私の目から見てアキラは、このまま大人になれば何に携わっていても大物になりそうな予感がする。

 

 (それじゃ、アキラの将来のためにも、こっちは最後の仕上げに取り掛かるとしますか。)


 店舗の扉を開けると、LPガスの生ゴミっぽい匂いが溢れてきた。


 山は殆ど崩れてしまっていて、ちょうどドアが内側に大きく傾き、ギガマウスたちが先を争って大挙して侵入を開始しようとする寸前だった。

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