1990年11月28日、水曜日 00:15~
拙作にもかかわらず
ここまで読んでくださってるみなさん!
本当にありがとうございます。
GWも終わり毎日投稿は難しくなりますので
今後は[ 火曜日 / 木曜日 / 日曜日 ]のお昼か夕方
週3回投稿ペースでまいります。
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日は変わったが、事態が収拾に向かっている様子は無く、テレビで観る限り当分は解決の目途も立たない様子である。
武力を用いて化物たちを駆除できないなら、本件の解決は絶対に有り得ない。
その逆に、武力を用いたら直ぐに解決するとも言える。
(それができない時代だったんだろうねぇ。)
自衛隊に市街地で武力行使なんかさせたら、ただでも野党が勢いづいているこの時期、政権が吹っ飛ぶだろう。
相手が害獣や災害であっても、大多数の国民の意識の中で自衛隊と戦争が同義語のように扱われている時代であるから間違いなく批判が殺到するに違いない。
(仮に出動したとしても、これより少し前の時代、確か北海道沿岸で漁場を荒らしていたトド対策だったっけ、戦闘機まで繰り出したにも関わらず威嚇射撃しか許されなかったっていう話だし、辛い時代だったんだな。)
しかし、私たちが置かれている現状は、政治の都合に合わせてノンビリ構えていられなくなってきている。
このままでは、武力行使反対だの希少動物保護だの意識高い系イデオロギーの人柱になってしまう。
(この穴倉が、あとどれだけ持ち堪えてくれるか? )
積み重なった家具と備品で築いた山の向こうでは、今もギガマウスたちの体当たりは続いており、不快な鳴き声も薄っすらと聴こえている。
ギガマウスたちは母艦であるホワイトシーサーペントから長時間離れていられないようなので、いずれ引き上げるのではないかと甘い期待をしていたが、その数が半端ではないので一部が引き上げても別の一団が入れ替わっているようで、ドアの向こうにいる数が減った様子は無い。
それに、引っ切り無しにドアやシャッターに体当たりを繰り返して、近所に響き渡るほどの馬鹿でかい音を立てっぱなしなので、どんどん新手を呼び込んでいるような気配もする。
(もうドアもシャッターも限界だろう。)
これだけ長い時間、衝撃が続いていては、蝶番は緩々になってしまっているだろうし、たぶんロックも壊れてしまっているだろう。
家具や備品の重みで何とかギガマウスたちの侵入を防いでいる状態が、いつまでも続くとは思えない。
アキラの前では決して弱気な態度や不安を口にしないように気をつけていたが、どうしても溜息ぐらいは出てしまう。
(こんな状態で、アキラは強いな。)
私たちが置かれている現状は、同年代の子どもならば、パニックを起こしたり泣いたりしても当然と言って良い過酷さである。
それなのにアキラは、一度だけ私のシャツを涙と鼻水だらけにしたが、その後は取り乱すことも無く、只管に冷静であろうと努めている。
「ちょっと冷えてきたな。寒くないか? 大丈夫か? 」
そう言って、山に積まずにおいた唯一の家具、3人掛けソファに並んで座っているアキラの肩に手を乗せたら、小刻みな震えが伝わってきた。
寒いのかも知れない。
怖いのかも知れない。
だが、そのどちらも口に出さず。
「大丈夫です。」
と、応えた。
でも、やはり離れているのは心細いらしく、肩に乗った私の手を握り、その華奢な身体を私の懐に潜り込ませるようにして身を寄せてきた。
「やっぱり、ちょっと寒いんで、ギュってしてもらえませんか? 」
「へ? 」
これまでのアキラにしては、少し甘え声だったので戸惑ったが、言われるとおりに肩を抱き寄せてやった。
「暖かいです。」
アキラは満足げに笑いながら、
「男の人に抱きしめられるって、こんな感じだったんですね。」
などと、ませたことを言うので、
「何を言ってんだか。10年早いわ。(ホントは10年どころの話じゃないが)」
笑いながら返してやった。
(最初は苦手な子ども相手なんて、どうなることかと心配したけど、案ずるより産むが易しってやつだわ。もうすっかり仲良し。)
それにしても、今はとんでもなく緊迫した状況だというのに、先ほどのオタクネタも含めてアキラとの会話は面白いし、何となく癒される。
こんな状況じゃなければ、ずっと二人で話していたい気分だった。
(私が普通に家庭を持っていたなら、アキラくらいの歳の孫がいても不思議はないんだよなぁ。)
ふと大学に、孫自慢の激しい同僚がいたことを思い出した。
彼は、歳が離れているというだけで、孫が何をしていても可愛く見えるとか、どんな悪戯をしても許せるとか、四六時中傍に置いておきたいとか、そんなどうでも良い話を、誰も聞いていないのに一人で延々語れるような迷惑な奴だったが、
(世の中のおじいちゃんと孫って、たいてい仲良しだって聞くからさ、私とアキラもそんな感じで意思の疎通が進んだのかもねぇ、ん? ん? って、あれ? )
自分で持ち出してきた例えなのに、何か強い違和感を覚えた。
どうしてだか、“おじいちゃんと孫” という組み合わせは無いだろうと思った。
(それじゃ、どんな組み合わせならあるっていうんだ? 孫みたいってんじゃなきゃ、私はアキラをどう見ているっていうんだよ? 相手は子どもなんだぞ? )
子どもだから、時々生意気なことを言ったりするのも可愛らしく思えるし、
強がって無理をしている様子なんかも健気で愛おしくて、
思わず一緒にいて支えてやりたくなるような、
(ああ、アキラってば、こんな子供の頃からそういう奴だったんだな。)
そんなところ、この先、何歳になっても変わらないんだよな。
(か弱いとか思われるのが嫌で、いつも生意気なこと言って、周囲に気をつかって、無理して強がってばっかいて。)
そこが気に入ってたんだけどね。
(そういうの、この頃からぜんぜん変わってないなん、って、え? あれ? なんで? )
ちょっと待て!
今、私は何を考えていた?
何が見えていた?
アキラとは今日初めて出会ったはずなのに、まるで旧知の間柄のような気がしていた。
ホンの数秒前に、その根拠になるようなボンヤリとしたイメージが頭を掠めたような気がする。
だが、それは、まるで目覚めて直ぐに忘れてしまった夢のように、ほの淡い切なさのような感じを残して消えてしまった。
(どういうこと? )
もしかして、私の変えられてしまう以前の人生の記憶なのか?
では、以前の人生ではアキラと私は知り合い同士だったのだろうか?
「アキラ、アキラと俺は初対面だよな? 」
念のため聞いてみたのだが、
「そうですけど? それが、どうしたんですか? 」
ポカンとされてしまった。
今、進行している時間の流れの中では、全くの初対面らしい。
それでは、「変わる前はどうだったのか? 」なんて探りようも無いので考えても無駄なのだが、唐突に難しい顔をして考え込んだ私を不思議そうに見上げているアキラの顔をじっと見ていたら、再びモヤモヤとしたイメージが蘇ってくるような気がした。
(も少ししたら思い出せそうな気がするんだけど。)
どういう仕組みかは分からないが、既に消えてしまった別時間の記憶の残留物が私の脳内にあるような気がする。
それらを全て引き出して知識として活用できるのなら、この時代での私の歩き方にも大きく役立つに違いない。
これは頑張る価値があるぞと思って、全神経を集中しようとした時、両方の米神の奥がキリリと痛んだ。
そして、イメージが浮かんだ。
だが、見えたのはアキラのイメージではない。
(これはヤバイ! )
私が見たのは積み重ねた家具や備品が崩れ落ちて、ドアが破られるイメージだった。
それは、おそらく数分後には現実になるイメージだと確信できた。
(これって、マジ予知なのか? )
時間遡行による後遺症、予知能力というには貧弱だが、少し先の未来が見える能力。
“先読み”とでも言うべきか?
これまでに見えた幾つかのイメージは回避可能であったので、警告として十分に役立っており、意外に便利な能力だと思っている。
もちろん、今回もキチンと対策すれば回避は可能だと思う。
だから、躊躇している時間が無いことも分かった。
別の時間の記憶を探るのは後回しにしよう。
今は至急ドア回りの補強に取り掛からなければならない。
そろそろ、始まりの物語については、終盤の展開に入ります。