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癌で余命宣告された私が時を遡って、美少女を助けたり、仲間と一緒に怪獣と戦ったりするお話 ~ RETROACTIVE 1990  作者: TA-MA41式
1990年に時間遡行した私が、初めに巻き込まれた事件と出会いのお話
32/82

1990年11月27日、火曜日 23:55~

 「アラヤシキさんは美大生なんですよね。良いなぁ、同じ趣味の仲間が沢山いそうですものね。」


 先ほど、正面入り口のドアを塞ぎ終わって、アキラが泣き止んだあたりで、軽く25歳当時を思い出しながら自己紹介の個人情報を追加しといたのだが、どうやら世間では美大生はオタクが多いというステレオタイプなイメージがあるようだ。

 いるにはいるが、それほど多くは無いと思うのだが、積極的に人間関係を構築しようとしなかった私には、あまり関係が無い話である。

 まあ、アキラは単純に話題が合う同好の友人たちで溢れるキャンパスを思い描いて憧れているのだろうから、水を差すつもりはない。


 「大学院に通いながらデザイナーってのもカッコ良いですよね。」


 「そう? 普通だと思うけど。」


 仕事でカッコ良いとか考えたことも無かった。

 それにアルバイトだし。


 「美術とか音楽とかスポーツとかって、好きなモノを仕事にしてるって感じじゃないですか。そういう仕事と好きなモノが一致する道に進める人って、極一部の人だけだと思います。普通は仕事は仕事、趣味は趣味って感じで二つの生き方が並行するじゃないですか。それはそれで良いんですけど、一本の太い道を歩いてる人って、プロって感じで憧れます。だから、カッコ良いんです。」


 「はぁ、なるほど。」


 理路整然とした説明に、思わず感心して頷いてしまった。

 でも、62年の生涯で初めて言われたから、アキラ以外の世の中の人は、そんなことをちっとも思っていないのかも知れない。

 もっとも、本来の好きなモノが美術であったかどうかについては、過去に干渉を受けた結果そうなったのかも知れず、あまり自信が無くなってしまってはいる。


 「アキラは若いんだからさ、これからどんな生き方でも挑戦できるじゃないか。理科好きなのって、やっぱ趣味の影響強いんだろ? それにアメリカに行ったらエンタープライズやヴォイジャーやディーエスナインの本場だぞ! そこで理系のプロになれば、マジモンの世界に携われるかもしれないじゃん。うらやましいぞ! 」

 

 アメリカという単語の響きに、アキラがビクッとなったのに気づいた


 (行きたくないのかな? )


 「行きたくないとかじゃないです。行ってみたい気もするんです。でも、最低5年は帰ってこれないって言うし、ちょっと怖いような気もしてて。」


 それは当り前のことだろう。

 小学生が、転校で生活環境や交友環境を一新しなければならないなんて大事件である。

 しかも、行き先が海外とは不安にならない方がおかしい。


 「父親の仕事の関係なんで、もう行くのは決まってるんですけど、アメリカなんて行くべきなんでしょうか? 行ったら良いことあるんでしょうか? お父さんやお母さんに会えないのは辛いけど、おじいちゃん家に置いてもらうとかして日本に残った方が良いんじゃないかって思ったりもするんです。」


 アキラの気持ちは良く分かる。

 私は30歳を過ぎてからだが、2年半ほどイタリアのミラノに滞在していたことがある。

 向こうの最先端デザインを始めとする文化の研究ということで、仕事も絡んだ長期滞在だった。(果たして、その記憶どおりの人生になるのか分からなくなったが)

 既に大人だったし、海外生活に興味もあったが、行く前は随分と気が重かった。

 だが、これは言える。


 「アメリカ、行くべきだな。いった方が良い。」


 少し強めに言い切ってしまったので、アキラが驚いている。

 ここは当り障りなく、自分の気の済むようにした方が良いとか言うべきだったかもしれないが、若者の視野は広い方が良いというのは、多少建て前も入っているが2027年では、大学生を相手に強く語っている自論である。

 それに、私自身の人生がどうだったのかは一先ず置いといて、大人が若者に送るメッセージの基本は、いつの時代でも「少年よ大志を抱け」である。


 「俺も行くと決まってから、ずっと不安だったし、怖かったし、言葉の問題もあるから、行ったきり、ずっと一人ぼっちになるんじゃないかと思って何度も足踏みしたもんだよ。」


 「そうなんですね。それって何歳ごろですか? 」


 うっかり「30歳過ぎてから」何て言ったら辻褄が合わなくなるので、ここは大学時代の留学経験ということにして話を続けることにした。


 「そんな気持ちは出国の当日、成田空港の国際線ターミナルまで来ても、まだ続いてたんだ。ところがさ、空港のゲートって不思議な力があるんだよね。まるで異世界に続くゲート、魔法の門かも知れないな。そんなゲートを潜った瞬間、自分が変わるのを感じたんだ。」


 「何が変わったんですか? 」


 「説明すんのけっこう難しいんだけどさ、ゲートの手前には日本があるわけじゃない。そこには学校があったり、両親がいたり、友だちもいるよね。食べ物や飲み物、お店や交通機関とか、当り前に安心して浸ってきた日常があるわけ。

 でも、それって考えようによっては、籠の中や柵の中にいるようなもので、限られた空間の中で限られた経験を繰り返してるだけとも言えるでしょ。

 ところがゲートの先は日本じゃないんだよね、世界ってやつ。それまで浸ってた日常の一切が消えちゃって、新しい未知の日常がスタートするんだ。

 チート持ってるわけじゃないから言葉は通じないし、今までの常識が通じないかもしれないし、危険な目に合うかもしれないし、恥ずかしかったり、辛かったり、色んな経験をすると思うんだ。

 まあ、幕末や明治時代じゃあるまいし、そういう経験なんて今どき別に珍しくはないんだけど、でも同級生とかを見ても決して多数派ってわけじゃないじゃん。

 だから、自分は誰にでもできるような経験をするわけじゃない、貴重な経験、自慢できる経験をするんだ。今までの自分に、新しい自分が積み重なるんだ。もしかして、これは冒険なんじゃないかって思えてくるのさ。

 そういうモノが、ゲートを潜った瞬間に一気に押し寄せてきてね、言葉で理解するとかじゃなくて、感覚的にスッと入ってくる感じ。

 そしたら、それまでの気弱にしてた気持ちがいっぺんに薄らいで、視界がパッと明るくなって、背筋がシュッと伸びて、国内仕様だった自分が国際仕様にアップデートされちゃうような気がして、それまでの不安や怖さなんて全然大したことじゃないように思えてくるんだわ。

 もっと簡単に言うと、ゲートの手前では子どもだった自分が、ゲートの向こうで大人になるんだって感じかなぁ。」


 ちょっと、偉そうに語り過ぎたかもしれない。

 2027年で毎日のように学生指導をしていた癖が出てしまったようである。

 でも、アキラが真剣な顔で聞いていたから良しとする。

 少しは良いことを言ったつもりだが、分かってもらえただろうか?


 「大丈夫、分かります。うん、そっか、そうなんですね。そう簡単に不安は消えないけど、頑張ってみようかって気持ちにはなります。ゲート潜ったら、自分がどうなるのか、ちょっと楽しみになりました。ありがとうございます。」


 不安を抱えて悩むのは決して悪いことじゃない。

 どんな可能性に向かおうとしたって、最初の一歩を踏み出す時には誰しも不安に駆られるモノであり、何も考えずに前だけ向いて突き進むよりは遥かに良い。

 アキラは勇気もあるし、頭も良い。

 勇気一つ、切っ掛け一つで、悩みごとは簡単に吹き飛ばせるだろう。

 いずれにせよ、普段話している学生よりも10歳近くも年下に理解してもらおうと、頑張って言葉を選んで話した甲斐もあり、なんとか通じたようでホッとした。


 「でも。」


 「ん? 」


 「アラヤシキさんの日本語、所々変ですよね? チートって何ですか? あと、ヴォイジャーって無人惑星探査機のことですか? ディーエスナインってなんですか? 」


 これは困った。

 この後何年かしたら始まる新シリーズの名前を、うっかり口走っていた。


 番組の放送が始まった時、もしアキラが観たら、たぶん観るだろうが、


 「このタイトル、なんか聞いたことある」


 なんて思いだしたら、まずいんじゃないだろうか?

一息ついてるお話はここまでということで

次回から、またドタバタ始まります。

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