表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
癌で余命宣告された私が時を遡って、美少女を助けたり、仲間と一緒に怪獣と戦ったりするお話 ~ RETROACTIVE 1990  作者: TA-MA41式
1990年に時間遡行した私が、初めに巻き込まれた事件と出会いのお話
30/82

1990年11月27日、火曜日 23:30~ 

 私とアキラが地下に潜ってから、彼是1時間ほど経過した。


 その間、色々あったが何とか生き延びている。


 イガラシ氏の死については、暗黙の了解で今は話題にしないようにしていた。


 この場でできることと言えば、外の情報を知る唯一の手段であるゴーストだらけのブラウン管テレビを只管観続けることと、時々電話の受話器を取って回線の復旧確認をすることだけだった。

 BARなので、飲料には困らないし、食料も(乾きモノや缶詰だが)ある。

 これらを、非常時だからと自分に言い聞かせながら、勝手に取り出してカウンターに広げ、アキラと一緒に摘まんだ。

 さすがに只で飲み食いするのは子どもの手前もあって憚られるので、既に店主が死亡してしまっており、誰に支払っているのか分からないのだが、おおよその代金プラスアルファとして、久々の再会になる “諭吉さん”を1枚、良く見えるように食器棚のガラスにセロハンテープで貼り付けておいた。


 [現在、東京都日野市で起きております大規模獣害事件について、一部の与党国会議員から自衛隊の出動を検討してみてはどうか? との発言がありましたが、野党や市民団体からの強い反発もあり、発言は取り消されました。

 これを受けて、本件に関して東京都知事は自衛隊に出動要請することは絶対に無いと明言いたしました。

 政府も、本件はあくまでも自然災害であるという認識で対応していきたい。あくまでも警察と消防による対応を貫く姿勢であり、地元猟友会とも協力しながら速やかな解決を目指したいとのコメントを発表しています。]


 “大規模獣害事件” だそうである。

 “あくまでも警察と消防による対応を貫く” とか、

 “地元猟友会とも協力” とか、

 さすが1990年というべきか。

 前年に “山が動いた” ため、国会が衆参捻じれてしまい、非武装中立や護憲を旗印にした左派系野党や市民団体が強い影響力を持ってしまったことにより、その必要があったとしても政府や与党が自衛隊の出動を容認することができない不自由な時代でなのである。

 この一か月半後に始まる湾岸戦争が一つの転機となって自衛隊に対する日本国民の認識も大きく変化していくのだが、この時期は平和ボケもピークに達しており、自衛隊を出動させるならば、国民に総スカンを食い、政権がひっくり返ることを覚悟しなければならないのだろう。


 「警察や消防で何とかなると思う? 」


 「絶対に無理! 」


 と、アキラも同意したが、


 「やっぱ、こういう時のための自衛隊でしょ。そう思わない? 」


 これには言葉が濁った。


 「ん、えっと、一度出動させたら、自衛隊が出て来やすくなって、戦争が起こるかもしれないし・・・ 」


 こういうところは、アキラも1990年代に生きる子どもなので、大方の世論から外れない戦後式平和教育の申し子ということである。


 (まあ、そのうちに日本国民も自衛隊も徐々に現実的な意識に目覚めていくんだけどな。)


 決して今日や明日に間に合う話ではない。

 自衛隊が出動したなら、近代兵器の力で以って害獣など忽ち駆除してしまえるだろうが、警察と消防では戦いようが無い。

 市街地での発砲許可など絶対に下りないだろうから銃火器は無し。

 唯一の飛び道具は放水だが、これに殺傷能力は無し。

 数で押し寄せられたら、一時的に食い止めても最後に押し切られてしまうのは、実際に私もアキラも目撃している。

 こんな状況で、猟友会に協力を申し出たとしても、彼らにも市街地での発砲は許可されないだろうし、罠を仕掛ける許可も取れなさそうなので、おそらくお手上げだろう。

 しかも、


 [希少動植物の保護を目的とする各種団体や学術会議から、今回の日野市に現れた大型と小型の無足類は希少な新種であり、保護の対象とすべきであるとの要望の声が多数上がっており・・・ ]


 未来から送り込まれた人工生物だと知る者はおらず、真実を告げることもできないので、生きたまま捕獲したいとか、希少な保護動物だとかいう意見は当然出てくるだろう。

 もちろん、被害の状況を見て危険生物であるとの意見も上がるだろうが、果たして駆除対象にまでなるかどうか? 


 「でも、殺っちゃいましたよね。」


 アキラが、床に転がるギガマウスの死骸を見ながら言った。


 「まあ、でも正当防衛だし。」


 そう言えば、このBARに逃げ込むまでにも数体殺していた。

 もしかしたら、この事態が解決した後に、世間から非難されたりするかもしれない。


 「たぶん、他でも殺されてるのがいると思うけどな。化物に襲われてさ、向こうはこっちを殺して食べようとしてんのに、こっちは殺しちゃいけません、乱暴しちゃいけませんじゃあ、命が幾つあっても足りないから、誰だって戦ってると思うよ。」


 「うん、そうですよね。でも・・・ 」


 私は、深く考えずに正当防衛を良しとしているが、アキラは生き物を殺すという行為に抵抗感があるのかも知れない。


 「私、けっこう動物好きだから。かわいそうに思っちゃうんですよね。」


 なるほど、その気持ち分からないでもない。

 但し、私も動物は嫌いではないが、襲い掛かってくるようなモノは絶対に好きになれない。

 だが、ホンモノの動物好きは、そういうモノもひっくるめて好きになるらしいから、アキラはそういうタイプに考え方が近いのかもしれない。


 「ところで、さっきからずっと見てて思ってたんですけど、この生き物って陸上の生き物じゃないような気がする。海の生き物だと思います。」


 いきなりの指摘だが、全くその通り。

 アキラはなかなか鋭い観察眼を持っている。

 私など、答えを知らなければ、陸生の蛇の一種としか捉えないだろう。


 「いえいえ、鋭いとかそんなんじゃなくてですね。何となく似てる生き物がいるんですよ。深海魚なんですけど。」


 「深海魚? あ、俺、深海魚って得意だぞ! 当てるから待ってな! 」


 「え、得意って? 得意なんですか? 」


 いきなり深海魚に食いついてきた私に、アキラは頭に「?」を付けて首を傾げていたが、別に嫌そうにはしてはおらず、


 「ちょっと、待てよ、今思い出すからな、待てよ、待てよ、待ってろよぉー。」


 などと、半分はこの場を和ますため、もう半分は本気で、ホントウはどうでも良いことなのに、無意味な真剣さを発揮して頭を捻りだした私を見て楽しそうにしていた。


 ところで、私が深海魚を得意とするというのは事実である。(但し子どもの頃の話)

 図鑑で深海魚のイラストを沢山見た記憶は、過去を書き換えられていてもいなくても、どちらにも共通のモノとして残っていた。

 そもそも昭和世代で“怪獣ブーム”を経験した子どもたちの殆どは、深海魚が大好きなものであり、理由は至って単純で、地球上の全生物の中で、その風貌が最も怪獣に近いからである。

 だから、アキラに言われてちょっと熱くなった。

 そして、怪獣好きな子どもたちの間で、トップクラスの人気を誇る深海魚と言ったら、


 「あ、あ、あれだ! サ、サコファリンクス! 」


 「ブッ、ブー! 違いますぅ!」


 アキラが人差し指を左右に振った。

 少し意地悪そうで、少し嬉しそうな顔をしている。


 「えー? サコファリンクス、別名フウセンウナギじゃないの? 」


 「サコファリンクスはこんな感じですぅ。」


 電話の横に置かれていたメモ用紙とボールペンを取ると、さらさらと頭でっかちで受け口気味のヒョロ長い生き物の絵を描いた。


 「けっこう絵上手いなアキラ。でも、これってマクロ・・・ 」


 「マクロファリンクスは、こんな感じ。」


 私の言葉をビシッと遮って、さらに一枚メモ用紙を取ると、さっきとは違う大きな頭の殆どが口でできているようなヒョロ長い生き物の絵を描いた。

 小学生の絵にしては其々の特徴を的確に捉えた分かりやすい絵である。

 二つの絵を並べて見た限りでは、両方とも知っている深海魚であり、子どもの人気を二分する深海魚のスターだったのだが、


 「ということで、正解はマクロファリンクス、別名フクロウナギでしたぁ! 」

 

 アキラがウインクしながらサムズアップした。


 「え、俺は逆に憶えていたのか? 」


 「そうだよ。」


 「ホントに? 」


 「うん。」


 じわじわと記憶が蘇ってきた。

 確かにサコファリンクスとマクロファリンクスは、アキラが正解である。

 そして、マクロファリンクスはギガマウスに激似である。


 (そこだよ、なんで今まで気づかなかったんだろ? 超似てんじゃん! )


 ホントウにどうでも良いことなはずなのに、ニッと笑って見せるアキラに、なんか良く分からないが負けた感を覚えた。

 かつての深海魚ファン? を自負する自分の知識の衰えがショックだったわけだが、これは怪獣オタクが人前で怪獣の名前を間違えたり、思い出せなかったときに感じる口惜しさにほぼ近い。

 で、口惜しいから、相手が小6だというのに、ついつい言い訳が口から出てしまう。


 「アキラと同い年だった頃なら絶対に間違えなかったぞ! 深海魚見てたのって10年以上前(ホントは50年以上前)なんだからな。記憶が薄れちゃってんだな。深海魚なら他にもけっこう知ってるのあるし、何なら勝負しても良いし・・・ 」


 自分で言っていながら、なんて大人気の無い、(もしかしたら頑固な年寄りに在りがちなやつかもしれないが)しかも頭の悪そうな言い訳なんだろうと呆れてしまったが、アキラは口を押えて笑いを堪えていた。


 「アラヤシキさんって、カワイイですよね。」


 「ぐっ! 」

ドタバタした話が続いたので

少し緊張感が薄くて、まったりしたお話を

何回か挟んでみることにしました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ