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癌で余命宣告された私が時を遡って、美少女を助けたり、仲間と一緒に怪獣と戦ったりするお話 ~ RETROACTIVE 1990  作者: TA-MA41式
1990年に時間遡行した私が、初めに巻き込まれた事件と出会いのお話
26/82

1990年11月27日、火曜日 22:30~

 「お前ら、それ本気で言ってんの? 」


 バンドマンではなく、私たちが逃げ込んだBARのマスターであるイガラシ氏は、深夜0時の開店に備えて夕方から仮眠を取るのが毎日の日課になっているとのことだった。

 だから、外の騒ぎを一切知らずにいたらしい。

 二人掛かりで説明したにも関わらず半分も信じてくれない。


 (まあ、あれは自分の目で見た者じゃなきゃ、誰でも信じないとは思うけどね。)


 それよりも何よりも、現状に於いて最も致命的なことは電話が使えなかったことである。

 電話がなければ、救助を呼ぶことも、イガラシ氏に外の様子を伝えることもできない。

 警察なり消防なり、外部と連絡が取れたなら、それを証拠としてイガラシ氏を納得させられるのだが、回線がパンクしてしまっているらしく、懐かしいダイヤル電話の受話器からはビジートーンしか聴こえてこない。

 もちろん、1990年代では高価だった携帯電話などあるはずも無い。

 よって、外部との連絡は全く不可能な状態だった。


 私たちが裏口のドアを塞ぎ終わってから20分ほど経過していた。

 執念深いのか、行動パターンが単純なのか、ギガマウスたちの体当たりは未だ続いている。

 補強が上手くいったのでドアを破られる心配は無さそうだが、なかなか鳴りやまない騒音で気持ちが落ち着かない。

 今、私とアキラはカウンター席に腰掛けて、イガラシ氏がサービスだと言って出してくれた(私には懐かしい)ダルマ瓶コーラを飲みながら、私の上着のポケットの中で半分ぐらい粉々になっていた歌舞伎揚げの袋を開けて、3人で摘まんでいた。

 イガラシ氏はカウンターの中で立ちっぱなしだが、店の中に誰か人がいるときはカウンターの中で立っていた方が落ち着くということである。


 「テレビかラジオ無いんですか? こんだけの騒ぎですし、さっき報道ヘリっぽいのも飛んでたんで、ニュースやってると思うんですけど。」


 上空に報道らしきヘリが飛んでいたのを思い出した。

 これほどの大事件なのだから報道番組で中継ぐらいしているだろう。


 「ラジオ? あるけど、テレビもあるぞ。ちょっと待て。」


 そう言って、イガラシ氏がカウンターの下から取り出したのは、全体的に丸っこい形をした14インチのブラウン管テレビ。

 開店前の暇潰しにスポーツニュースなんかを観る用で、普段はカウンターの直ぐ下を定位置にしているとのことだった。


 「ここは地下なんで電波悪いんだけどさ、見るだけなら大丈夫だから。」


 テレビの背面から伸びるフィーダ線が繋がっている先は、カウンターの奥にある業務用大型冷蔵庫の上に置かれた、アナログ放送時代には一家に一台あった、V型の室内アンテナである。


 (すげー! なつかしーっ!)


 青春の匂いがする懐かしグッズが現れる度、一々感嘆しそうになるのだが、そこはグッと堪えてやり過ごした。

 この騒動を生き延びて、1990年代で暮らすならば、まだまだ色んなモノに出会うだろうが、その度に驚いて感動していては、周囲に変な奴だと思われてしまいかねない。

 早々に馴染む必要がある。


 「何チャンネルが良い? 8チャンが一番映り良いぞ。」


 ゴーストだらけのブラウン管映像を見るのは20年ぶりである。

 イガラシ氏がリモコンボタンでザッピングしていたが、どのチャンネルも映りは似たようなものだった。


 「あ! 今のチャンネルで! 」


 「ここか? 」


 私が選んだチャンネルの映りはベストとは言えないが、JR中央線多摩川橋梁をヘリで真上から捉えた高感度カメラによる中継映像が目に留まったのである。


 「な? なんだこりゃ? 」


 イガラシ氏が驚いてテレビ画面に釘付けになった。


 [現在、多摩川上空です! 今、私たちのヘリの下には巨大な真っ白い生き物が横たわっています! 全長は、約300メートル! あっ! うごっ! 動いています! ]


 テレビ電波の受信状態が悪いので、映像は乱れてまくって緑掛かっているし、ザーザーという雑音が煩いが、レポーターの声は十分に聞き取れる。

 目に悪そうな映像を我慢して観ていたら、カメラがホワイトシーサーペントの動きを捉えようと地上のアップに切り替わった。


 「随分デカいな。」


 「300メートルですから。」


 上空から見下ろしてみて、初めてホワイトシーサーペントの全体像が分かる。

 巨大なナマコのようだと思っていたが、身体の一定間隔に節が見られるので、形は芋虫のほうが近いかもしれない。


 「あれですよ! 今ドアの外にいるのはあれ! 」


 ゴーストだらけの低解像度映像にも関わらず、アキラはホワイトシーサーペントの体内を出入りするギガマウスを見つけていた。


 「内生生物。」


 アキラが口にしたのは聴き慣れない単語。


 「「何それ? 」」


 思わず、私とイガラシ氏とでハモってしまった。


 「他の生物の体内や細胞内で生息する生物のことです。内部共生体とも言うけど、動物の腸内細菌みたいなモノが分かりやすい例かな。宿主と栄養なんかを提供し合いながら共存して生活するんですよ。」


 何となく賢そうな雰囲気を醸し出しているアキラだったが、ホントに賢かったらしい。

 今どき(1990年)の小学生の理科じゃ、こんなことまで教えているのか?


 「たぶん、あの大きいのと小さいのは共生関係にあるんです。」


 「「な、なるほど、ね。」」


 アキラのおかげで、あの2種類の化物の関係が何となくだが掴めた。

 ホワイトシーサーペントの役割が不明だったが、宿主というのであれば納得できる。

 あの巨体に、いったい何匹のギガマウスが収納されているのか?


 「まるで空母だ。」


 ギガマウスは空母艦載機のようなもので、一定時間暴れまわってはホワイトシーサーペントに帰還し、補給か何かの行為を行った後、再び暴れに出掛けて行く。

 誰が考えたのか知らないが、とんでもない化物セットを作り出したものだと思う。

 これなら1セットで街1つ潰せるほどの規模で破壊が可能、都市破壊型の爆弾と同じだけの威力がある。


 (しかし、その運用が雑じゃないか? )


 2027年では遠洋の船舶を相手にして密かに用いられていたようだが、都市のど真ん中で用いたら、特定の未来を書き換えるレベルでは済まない大規模破壊を齎すことになる。

 それに、化物の存在が衆目に晒されることになるわけで、後々の運用に支障をきたすかもしれない。

 あらゆる兵器は、研究され対策を練られてしまったら威力は減退し、脅威度も下がる。

 こんな私のような軍事の素人でも分かるようなリスクを一切無視しての大雑把な運用には疑問符が付く。


 (転送可能な新しい兵器でも開発したのかな? )


 それで化物たちを使い捨てにしているというのなら分からないでもないが?

 ところで、ホワイトシーサーペントとかギガマウスとか、2027年で使われているネットロアでの名称は1990年では使用を避けることにした。

 2027年から1990年へ送られるに当たって、特に禁足事項を申し渡されたわけじゃないが、ちょっとした知識の流出が、過去にどんな影響を与えるか分からないという論理には賛成できるので、念のため気をつけておくに越したことは無いと思った。


 [人がいます! 走っています! う、後ろから蛇のような、し、白い生き物が、沢山、沢山です! 逃げて! 早く逃げて! ]


 今、テレビ画面では、日野市内の各所でギガマウスに追われ、逃げる回る人々の映像が次々に映されていた。

 何とか安全地帯に逃げ込む者もいれば、逃げ切れずギガマウスに襲われる者もいたが、圧倒的に後者の方が多い。

 街の所々にギガマウスが集ってできた小山を見かけるが、その小山の中に何があるのかは言うまでもないだろう。

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