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癌で余命宣告された私が時を遡って、美少女を助けたり、仲間と一緒に怪獣と戦ったりするお話 ~ RETROACTIVE 1990  作者: TA-MA41式
1990年に時間遡行した私が、初めに巻き込まれた事件と出会いのお話
25/82

1990年11月27日、火曜日 22:20~

 ギガマウスの大きな頭では格子の隙間を通れはしないが、獲物を間近に引き寄せたことで興奮し、スタジャンを咥えたままで例の算盤の玉を弾くような鳴き声を発した。

 それによって、さらに数匹がアキラ目掛けて殺到し、格子戸一枚挟んで数匹のギガマウスの体当たりを受ける状況に陥ってしまっている。

 私はスタジャンを脱がそうとしたのだが、ギガマウスの体当たりで格子戸は揺れに揺れ、格子に無理矢理頭を押し込んで襟に食いつく奴もいて、揉みくちゃ状態のアキラからスタジャンを引き剥がせそうになかった。


 「こんのっ! くそったれっ! 」


 手持ちの武器が何も無くなり、素手になった私が何も考えず無我夢中で放った拳骨の一撃が格子の隙間を抜けて、スタジャンの襟を咥えていた一匹の、たぶん横っ面? にめり込んだ。

 ブヨブヨした厚手のシリコンゴムに拳が埋まるような感触の奥に、硬い頭骨の手応えがあった。

 この一撃で、ギガマウスはスタジャンの襟からから口を離して仰け反った。

 さらに裾を咥えた一匹には、たぶん脳天? に真上から拳を落とした。

 頭骨の一部が陥没したような手応えが伝わってきたが、こいつはそれでもスタジャンを離そうとしないので、同じ個所に連続して拳を落とす。

 ギガマウスは5発目の拳で、漸くスタジャンの裾を離した。


 「キャッ! 」


 反動で尻餅をついたアキラを即座に助け起こし、非常階段に向かおうとしたのだが、


 「げ、こんなとこに鍵が! 」


 非常階段に通じる、これも格子戸なのだが大きな南京錠で閉じられている。

 火災や地震の際の緊急脱出用にも拘らず、管理上の問題で普段は鍵が掛けられている非常口は多いらしいが、運悪くここもそうだった。

 この格子戸、おそらく防犯対策で後付けしたらしい2階まで覆う屋外階段室と一体になっており、上を乗り越えるわけにもいかない。

 頑丈な南京錠を抉じ開けることもできなさそうだった。


 (下にはいけるのか? )


 階上へ向かう非常階段の隣に地下階に通じる階段がある。

 おそらく地下のテナントに通じる階段だと思うが、その入り口には私の肩ぐらいの高さのキャスター付きアコーディオンフェンスがあるだけ。

 これに鍵は無く、半開きになっている。


 (下に降りてどうする? ギガマウスの大群を防げるのか? )


 考えているうちに、ガシャガシャと大きな音を立てる格子戸の向こうにはビッシリと隙間無くギガマウスが貼りついており、その重みで格子戸が傾きつつあった。


 「あっちからもっ! 」


 アキラが叫んで指さした方向。

 反対隣のビルとビルの隙間に入り込み、エアコンの室外機や停めてある自転車などの障害物を数で薙ぎ倒しながら、こちらに迫ってくるギガマウスの群れがいた。


 (失敗した! )


 自分の不手際を呪った。

 こんな自らを閉じ込めるような場所に逃げ込まなければよかった。

 体力が尽きるまで走り続けていれば、もっと他に有効な手が見つかっただろう。

 人がいるところへ行けば安全だなんて、市街地を目指したこと自体が大失敗だった。

 それで、結局ギガマウスたちと同じ方向を目指すことになってしまった。

 今更考えても全く意味の無い、様々な後悔が怒涛のように押し寄せてきた。

 私一人なら死んだって構わないが(どうせ2027年じゃ、余命半年だったのだから)、アキラまで死なせたくなかった。

 アキラを助けるために私は1990年に来たのだと自分に言い聞かせていたのに、その決意が果たせそうになくなった。

 私の判断ミスのおかげで、こんな状況に引き込んでしまったアキラに何と謝罪すれば良いのか、言葉が見つからない。


 「アラヤシキさん! 下に行きましょう! 」


 思考が止まりかけていた私の腕をアキラが強く引いた。

 残された唯一の選択肢。

 詰んでしまう直前に打てる最後の一手。

 地下に降りる階段の先にはドアが一枚。

 そこに鍵が掛かっていたら、もはや引き返すこともできず、押し寄せてくるギガマウスの餌食になってしまうだろう。

 だが、他に取るべき道は無い。

 一手進んだ先が正解かどうかなんて、進んでみなければ分からない。

 進まなければ確実に死が待っている。


 「行こう! 」


 私たちは階段を駆け降りた。

 降り際に、あまり意味は無さそうだが、アコーディオンフェンスは一応閉じておいた。

 貧弱なフェンスだが、十数秒程度の足止めにはなるだろう。

 降りた先の右手にあるのは、いかにも裏口然とした窓の無い平坦なスチール製ドア。

 丸くて真ん中に鍵穴のついた古いタイプのドアノブに手を掛けて回す。


 (鍵だ! ここも鍵が掛かっている! )


 万事休すかと思われた時、


 「お願いです! 開けて下さい! 助けて下さい! 」


 アキラが叫びながらドアを叩き始めた。

 彼女は未だ諦めていない。

 もはやヘトヘトに疲れ切っていて、その華奢な身体のどこにも体力など残っていないだろう。

 それでも、気力を振り絞って両腕を上げて、ドアを叩いている。

 ドアの向こうに最後の望みを繋ごうとしている。


 「諦めませんよ! 今日は死ぬにはいい日じゃないですから! 」


 どこかで聞いたことのあるフレーズだが、


 (カッコ良いじゃん! )


 生き延びることを諦めない。

 死ぬ寸前まで足掻く。

 2027年の私、62歳の私にはできなかったこと。

 宣告された死をそのまま受け入れ、ただ諦めて流されるようにして死を迎え入れようとしていた私。

 そんな私が、巻き戻された時間の中で再び62歳に向かって歩き始めるなら、本来生きるべきだった道を絶対に取り戻さなければならない。

 確固たる自分自身の意思で、生きることに対する執着心を持って、足掻きながら歩まなければならない。

 そのためのお手本が目の前にいた。


 (諦める前に、やれることがあるなら、それをやる! )


 私もドアを叩いた。

 アキラと一緒に声を出して、必死で叩いた。

 階段の上では、気休めにしかならないアコーディオンフェンスがギガマウスたちによって今にも押し倒されようとしていたが、もう振り返っても意味は無い。

 ドアの向こうにしか道は無い。

 ドアが閉ざされたままなら、あとは死ぬだけ。


 ガチャン!


 ドアの鍵が開く音。

 私たちの必死の思いが届いた瞬間。

 後々まで忘れられない命の繋がる音、命が繋がる一瞬だった。


 「そんなにぶっ叩かなくったって聴こえてるよ! 」


 ドアが内側に開いて、顔を出したのは眠そうな顔をした年齢40歳前後、白シャツにエンジの細タイ、顎髭を生やして、ボサボサ頭にヘアバンというバンドマン風の男性だった。


 「失礼します! 」


 「説明は後で! 」


 1秒を争う緊急時に挨拶している暇はない

 救いの神には申し訳なかったが、私たちは男を突き飛ばして中に駆け込むと、大急ぎでドアを閉めて鍵をかけた。

 それと殆ど同時に、ドアの向こうでは階段を転がり落ちてきたギガマウスたちによる大騒ぎが始まった。

 正しく間一髪である。


 「あんたら、いったいなんなんだよ? 」


 突然の侵入者に突き飛ばされたバンドマンは憮然としていた。


 「ちょっと! ドア壊れるって! いったい誰よ? 警察呼ぶよ! 」


 バンドマンはドアの向こうにいるのが何モノなのか? 今、この界隈で何が起きているのか全く分かっていないようで、ギガマウスたちの体当たりでドゴドゴと大きな音を立て続けるドアに向かって苦情を申し立てていた。

 しかも、せっかく閉めたドアを開けようとまでする。


 「開けちゃダメなんです! 」


 私よりも先にアキラが怒鳴って、バンドマンの腕を掴んでドアから引き離した。


 「なんなの? どういうこと? 説明してくれんの? 」


 キレ気味というか、既にキレていたと思うが、それでも出て行けと言わなかったのは、私たちの必死さが伝わったからだと思う。


 「説明します。説明しますけど、まずはこのドア、何かで抑えられませんか? 」


 私は振動するドアを背中で抑え、両手でバンドマンを宥めるようなポーズを取りながら、自分たちがいる現状を確認した。

 ここはどうやら飲食店の裏口のようである。

 照明は黄ばんだ蛍光灯が一本だけだが、点灯しているところを見ると停電はしてないようである。

 ここまで来る途中、甲州街道沿いの1ブロック手前の信号や店舗の電飾看板は消えていたので、一帯が停電しているのかと思っていたが違ったようだ。

 ざっと見渡したところ、僅か1.5坪ほどのスペースにビールケースが3列になって積み重なり、ウィスキーやワインの空ボトルが乱雑に詰め込まれた業務用スナック菓子の段ボール箱、割れたグラスや食器の入ったプラスチック製のごみ箱と掃除用具が置かれていたぐらいで、ドアの抑えになるようなモノは何も無い。


 「何か、重くて支えになるようなモノ無いですか? 」


 「えっと、ビールケースじゃダメか? 」


 バンドマンは未だ状況を飲み込めていないが、ギガマウスたちの体当たりで頑丈なはずのスチールドアが激しく振動し、ドア枠周りのコンクリートが軋みながら細かな欠片を落とし始めた様子を見て、これは只事ではないと思い始めたようだ。

 だが、彼が指差した空瓶しか並んでいないビールケースなど、何個あってもドアの支えにはなりそうもない。

 この裏口と奥の店舗との間には、もう1枚ドアがあったが、上半分に透明なアクリル板の嵌った薄っぺらなアルミサッシなので、ギガマウスの突進を支えられるような強度は持ち合わせていない。

 つまり、裏口を破られたらお終いということである。


 「自転車あるぞ、4台。あと、アンプとか、本棚とか。」


 バンドマンが店舗の中から手招きしたので、


 「運びます。」


 「私も運びます。」


 と、私もアキラも速やかに作業に取り掛かった。

 まずはドアに本棚を押し付け、その手前に2027年ではヴィンテージもののギターアンプを惜しみながら(私だけだが)横倒しにして2台重ねた。あとは空いてる空間を埋めるように自転車を4台突っ込んだら、元々が狭い空間なのでドアが外れても簡単に侵入できる余地は無くなった。


 これで、まずは一安心である。

ここまで読んでいただいた皆さん

ありがとうございます!


今回は何とか命拾いしたミノルとアキラでした。

どうせ事態は直ぐに動き出すのですが

次回からはちょっとだけ落ち着いて

現状の把握とキャラに突っ込んだ

お話を続けたい思います。

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